アンチェル=チェコフィルのチャイコフスキー/イタリア奇想曲

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チャイコフスキー/イタリア奇想曲 作品45
カレル・アンチェル指揮
チェコフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1965.1 Rudolfinum, Praha
Level: Supraphon
Disc: COCQ84484 (2008/6)
Length: 15:12 (Stereo)
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このディスクは、スプラフォン・ヴィンテージコレクションの『カレル・アンチェルの芸術』(全10枚)と題したシリーズの中の管弦楽名曲集(Vol.1)で、 オリジナル・マスターからの復刻によって発売された1枚である。

sv0112a.jpgアンチェルといえば定番の《新世界》は別格として、このヴィンテージコレクションは地味な存在ながら、粒ぞろいの名演奏が多く、チェコフィル全盛期の“燻し銀サウンド”がスプラフォンのステレオ録音によって明瞭にとらえられている。

これらは廃盤になってしまう前に是非とも入手しておきたいものばかりである。
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sv0112b.jpgアンチェルがターリッヒとともにチェコ屈指の指揮者といわれるのは、1950年から68年の亡命までの18年間にチェコフィルの首席指揮者をつとめ、チェコフィル第2の黄金期を築いたことにほかならない。

戦後の混乱のさ中にあったチェコ・フィルを立て直すために、パート練習を徹底的に行ってアンサンブルを鍛えあげ、機能性をも兼ね備えた超一流のオーケストラに育て上げたといわれる。   TOWER RECORDS  amazon

「ロマン主義的なターリヒ時代と新ロマン主義のノイマン時代の間に新即物主義をチェコ風に当たりを和らげて持ち込み、ユニークな一時期を画したのがこのアンチェル時代で、彼の時代のチェコ・フィルの技術の向上と自国の作品多数を含むレパートリーの拡大の功績は、今日でも高く評価されている。」 「忘れえぬ巨匠たち」より佐川吉男氏による、~『レコード芸術』通巻第526号、音楽之友社、1994年)


この「管弦楽曲集」の中の選りすぐりの1曲が《イタリア奇想曲》で、アンチェルが最も尊敬していたというトスカーニを思わせる引き締まったアンサンブルと、がっしりした造形を土台に、メドレー的に登場する民族色ゆたかな名旋律を堪能させてくれる。

sv0112c.jpg何よりもすばらしいのは、くすみ掛かった木管や燻し銀のブラの独特の音色で、今では聴くことの出来ないローカル色ゆたかなチェコ・サウンドが随所に散りばめられている。

メドレー風の奇想曲を一筆書きの鮮やかさで仕上げたパッションと演奏技術の高さも比類がなく、総奏の緻密を極めたアンサンブル、精気溌剌としたリズム感覚はもとより、ぴんと張りつめた鋼のような力強いサウンドが聴きものである。
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「どの曲も好演揃いのオムニバス盤と言える。力感を打ち出すときも、旋律の抒情を際立たせるときも、アンサンブルは率直に音楽反応する一方で、オーケストラの手綱を緩めることなく、引き締まったテンポ設計を土台に颯爽と合奏を捌いていく。スラヴ系の作品を収めた当盤では、そうした知情意のバランスのよさのために、作品の民族的な色合いを適度に生かしながらも、コンパクトで気品を感じさせる演奏が可能となった。チェコ・フィルは管の音色にやや強い癖があるが、渋さの中に底光りを感じさせる弦が聴きものだ。」 相場ひろ氏による月評より、COCQ84484、『レコード芸術』通巻第695号、音楽之友社、2008年)



第1部 アンダンテ・ウン・ポーコ・ルバート
sv0112d.jpg硬い音の〈騎兵隊ファンファーレ〉、ほっこりと鳴る古めかしいホルン、艶消ししたような鈍いブラスの3連符リズムなど個性的な音色が冒頭から聴き手を惹きつける。

深い呼吸で紡ぐ瞑想的な〈舟歌風の旋律〉から、スラヴの悲哀感が漂ってくるのがいかにもチェコフィルらしい。凄まじい衝撃音をぶちかますシンバルや、厳粛に奏でるコール・アングレとファゴットの味わい深さも聴きどころ。
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sv0112e.jpgポッキシモ・ピウ・モッソ(94小節)は、オーボエの2重奏で歌われるイタリア民謡〈美しい娘さん〉。南国情緒ゆたかな名旋律はスタッカート気味に速いテンポで歌われるが、鄙びた音色がユニークだ。

明瞭に吹き出すコルネットに、弦の装飾や煌びやかなグロッケンシュピールがくわわる緻密なアンサンブルも聴き応え充分で、ヴァイオリンの第2楽句が格調高く歌い出されてゆく。
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チェコフィルの引き締まったアンサンブルが本領を発揮するのは民謡主題の総奏(練習番号B)。木管のメロディーに、ブラスの硬い打撃と弦の32音符が対峙するところの緊密さは、全盛期のチェコフィルの実力の高さを示している。決然と打ち込むシンバルの一撃(173小節)を合図に畳み掛ける3連打撃のスリムな響きと切れ味の鋭さは抜群で、つよい緊迫感が漲っている。


第2部 アレグロ・モデラート
sv0112f.jpgイタリアのカーニバルを思わせる陽気な〈導入旋律〉(180小節)は、チェコフィルが持てる合奏能力をあますところなく開陳する。

速いテンポでキビキビとさばくスピッカートのリズムが気持ちよく、歯切れの良い弦のフレージングとコルネットの打ち込みや、冴えた木管のカノンなど、緊密な管弦楽が小気味よく展開する。

《イタリア奇想曲》のメインテーマ〈第2部主題〉(練習番号D)は安直に弾き流さず、引き締まった旋律線によって格調高く歌い出されてゆく。
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フォルテの3連音符で大きく高揚するアンチェルのツボを押さえた歌わせぶりも心憎く、艶をしっとりと乗せて揺れながら、コルネットに旋律を受け渡すところの絶妙のフレージングに酔ってしまいそうになる。ホルン重奏と弦の対話(240小節)や深くコクのある〈舟歌主題〉にも耳をそば立てたい。


第3部 プレスト
sv0112g.jpgサルタレッロのリズムにのった〈タランテラ舞曲〉(291小節)が、馬車馬のようにテンポを速めて走り出すところが即興的で、キレのあるコルネットのリズム打ちと管弦の絶妙の掛け合いがゾクゾクするような興奮を誘っている。

弦のリズミックな楽想(356小節)やバグパイプ風のドローンを伴ったオーボエの重奏(練習番号H)を一分のブレもなくさばくチェコフィルの合奏能力の高さには舌を巻く。
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「ガシッ!」と総奏の打撃を打ち込むところ(練習番号K)はアンチェルの気魄が漲っており、聴き手に媚びぬ厳しいスタイルで実直に突き進む。

目の覚めるような3連打撃の切れ味のよさや、「これでもか」とビシビシ打ち込む明確で直裁的な和音打撃の連続は、ナチスに職を追われて山で樵(きこり)をしていたことを想起させる寡黙な仕事師さながらで、聴き手の興奮と快感を誘ってやまない。


第4部 アレグロ・モデラート
sv0112h.jpgイタリア民謡〈美しい娘さん〉が大総奏となるアレグロ・モデラート(455小節)は、チェコフィルがその鍛えられたアンサンブル能力と機能性を最大限に発揮する。

民謡主題を大らかに朗唱しながら、管のリズムをきっぱりと打ち込む思い切りの良さは圧巻で、プレストに向かって大きくリタルダンドするところは、激しい情熱とぴんと張つめたような緊張感をはらんでいる。
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「アンチェル時代のチェコ・フィルはその前後のクーベリックやノイマンとは明らかに異なる独自の雰囲気とカラーがある。あえて言えば峻厳にして明晰。同じオケの素材を使いながらもアンチェルの描き出す音楽には、“無難さ”をよしとしない厳しさが漲っている。」 斎藤弘美氏による月評より、『レコード芸術』通巻第666号、音楽之友社、2006年)



第5部 プレスト
sv0112i.jpg緻密な〈タランテラ主題〉の再現(499小節)から突入するピウ・プレスト(549小節)は力強い鋼のようなオーケストラ・サウンドが全開だ!

「ガシガシ」と鈍い響きをたてて突き進むところは古武士そのもので、筋金入りの楔を打ち込みながら次第にテンポを速めてプレスティシモ(597小節)に突入するところはセッション録音とは思えぬ指揮者の気魄が伝わってくる。
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sv0112j.jpg「ガツン」とくるパンチの効いたコーダは歯ごたえ抜群で、手綱をしっかりと引き締め、厳しく統制されたアンサンブルによって覇気に富んだラストスパートで聴き手を圧倒! 

決然と打ち込む終止打撃の緊密さは、小品といえども手抜きしない楽員の志の高さすら感じさせてくれる。

アンチェル=チェコフィルの絶頂期をつよく印象づける一曲だ。  TOWER RECORDS


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[ 2018/04/14 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)

フルトヴェングラー=ストックホルムのベートーヴェン/交響曲第7番

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ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調 作品92
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ストックホルムフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1948.11.13
Location: Stockholm, Konserthuset
LP: OZ7587-BS (1984.5)
Olsen No: 142
Length: 39:01 (Mono Live)


フルトヴェングラーのベートーヴェン第7番と言えば、ベルリンフィルの実況録音盤(1943年)と ウィーンフィルとのスタジオ録音盤(1950年)が双璧とされ、他の演奏についてはあまり話題に上ることはなかったと思われる。とくにストックホルムの実況盤は、オーケストラの力量からいって一番低くランク付けされるのが常だったのではないだろうか。

フルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲第7番には、次の5種の演奏と第2楽章のリハーサルがラインナップされている。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
BPO1943.10.30/31,11/3Berlin,Philharmoniesaal, RRGMelodiyaO_089
SPO1948.11.13Stockholm, Konserthuset,SRDiscpcorpO_142
VPO1950.1.18,19Wien, MusikfereinsaalHMV(EMI)O_188
LFO1948.11.13Luzern, Kunsthaus(2mov.Rehearsal)WF Society(F)O_256.4
BPO1953.4.14Berlin, Titania-Palast,SFBWF Society(G)O_333
VPO1954.8.30Salzburg, Festspielhaus,ÖRFSeven SeasO_424

sv0111h.jpg晩年の④⑤はライヴ録音ではあるものの、①③と比べれば気魄や熱狂の点で大きく後退し、感銘度のうすいものだった。
従ってベルリンフィルなら①を、ウィーンフィルなら③を採るのが衆目の一致するところだろう。ここで我々が忘れてしまいがちな存在が、②のストックホルム盤である。

当録音には筆者手持ちのCDが見当たらず、レコード棚にかろうじてワルター協会盤(OZ-7587-BS)のLPがあるのみだった。

これまでに販売された当録音のディスクは、LPは米ディスココープ盤(RR-505)、ワルター協会盤(OZ-7558-BS、OZ-7587-BS)、CDは米ミュージック&アーツ盤(CD-793、CD-4793) 、セヴンシーズ盤(KICC-2110)、仏ダンテ盤(LYS-198)にとどまり、今では入手が困難なものばかり。

当盤は客演であることやオーケストラの質の問題にくわえ、録音が極端に悪いことも評価を落としていた理由だったと思われる。果たしてそうなのか? 筆者は何十年か振りにレコードを取り出して針を落としてみた。

「フルトヴェングラーの〈第7〉としては魅力がうすい。表現も意外にストレートだが、それよりもオーケストラのひびきや微妙な表情が指揮者のものになっていないのが大きい。録音も1943年盤に劣る。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの全名演名盤』より、KICC2110、講談社、1998年)


NoOrch.DateLevelSourceⅠmovⅡmovⅢmovⅣmov=Total
BPO1943.10.30,31,11.3DGF20G-2908812:459:498:246:3637:34
SPO1948.11.13WSOZ-7587-BS13:1110:088:237:1939:01
VPO1950.1.18,19EMITOCE-1404412:5810:178:426:5138:48
BPO1953.4.14DG415-662-213:1710:418:357:1639:49
VPO1954.8.30OrfeoC293 921 B13:359:338:217:3639:05


sv0111e.jpgフルトヴェングラーは客演でストックホルムフィルをしばしば指揮しており、1942年11月(ドン・ファン、トリスタン前奏曲と愛の死)、1943年12月(第9)、1948年11月(ベト8、レオノーレ第3、同曲リハーサル、ベト7、ドイツレクイエム)といった録音が存在することはオールセンのディスコグラフィによって明らかにされている。

amazon [CD-793]

同日のコンサート曲目であったベートーヴェン交響曲第8番(O_140)、序曲レオノーレ第3番(O_141)、前日の同曲リハーサル(O_139)については、EMIからいち早くレコード化されており、針音があるので音源は放送局のアセテート盤と思われた。ところが当日のメイン・プログラムであった第7番についてはEMIのカタログに見当たらず、ワルター協会で出回ったのはどういうわけだろうか。

sv0111b.jpgこのワルター協会というレーベルが怪しげで、いかにも非営利団体を連想させるネーミング。

わが国では日本コロムビアが1970~80年代に「新発見!」「まだあった!」という“殺し文句”によって、初出の音源を次々と発掘し、これをプレスしてせっせと発売を繰り返していた。リッカルド・シャイイー(指揮者)は、来日の際にこれらのレコードをめざとく買い漁っていたらしい。
(写真はRR-505)

手元にあるカタログ(1983年)をみると米国ではワルター協会レーベルは無く、ディスココープ(Inc)が自社ブランドで販売しており、フルトヴェングラー夫人によるとこれらはすべて海賊盤とされた。ワルター協会はその後、ミュージック&アーツとして主にヒストリカル系のCDを販売し、唯一の国内CDであるセヴンシーズ盤(KICC-2110)はこれを原盤とする。

sv0111f.jpg米Music&Arts(CD-793)とセブンシーズ盤(KICC-2110)を聴き比べたところ、前者は鮮明だが音が硬く痩せている、後者はマイルドだが音が太くて聴きやすいといった音質の違いがある。

ともに拍手は演奏終了後のみが収録されているため、演奏前の拍手も入った音に迫力があるLPに軍配が上がろう。Music&Arts盤は、同じ日のベト8と前日のレオノーレ第3番のリハーサルを一枚に収めた心憎いカップリングといえる。
amazon [KICC-2110]

LevelMediaDisc no.IssueRemark
米DiscocorpLPRR-505
ワルター協会LPOZ-7558-BS1979/2米ワルター協会原盤
ワルター協会LPOZ-7587-BS1984/5米ワルター協会原盤
米Music&ArtsCDCD-7931994/1
米Music&ArtsCDCD-47931999/2
セヴン・シーズCDKICC-21101990/12米Music&Arts原盤
仏ダンテCDLYS-1981999/12

「第7交響曲は拍手に始まる。プツプツ・ノイズが多く、第3楽章のトリオなどに相当ひどい音のかすれなどがあり、音楽としてきくにはかなり不便なものである。特殊な考証者用のレコードであろう。そんななかでどうやら判明するのは客演のせいかオーケストラを引きずってゆくような音楽進行であること、相変らず彼独自の演出的表情がテンポと音力の揺れのうちから盛り出ていることなどである。第2楽章の壮大な悲嘆の歌はなかなか感動的なものであった。」 大木正興氏による月評より、OZ-7558-BS、『レコード芸術』通巻第343号、音楽之友社、1979年)



第1楽章 ポコ・ソステヌート-ヴィヴァーチェ
sv0111c.jpgレコードは聴衆の拍手から開始するのが珍しく、ライヴらしい臨場感がよく伝わってくる。「ぐい」と音がひしゃげるような開始のアインザッツはまぎれもなくフルベンのものだが、ウィーン盤やベルリン盤に比べてテンポが遅く感じるのは、オーケストラが緊張のせいか、慎重なアプローチが聴いて取れる。(写真はOZ-7558-BS)

ホルンが不安定なことに加え、主部のフェルマータの悪魔的な力ワザはやや影を潜め、①③を聴いたあとでは物足りなさを残してしまう。

主部の威風堂々とした進行はいかにも巨匠風で、がっしりと響く鋼のようなリズムはすこぶる強固である。

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sv0111d.jpgとくに展開部から響きに厚みが増してくるのが聴きどころで、クライマックスのゼクエンツの強奏(254小節)ではトランペットの強奏とともにフルベンの“荒ワザ”が「ここぞ」とばかりに炸裂! 

大見得を切るような再現部(277小節)の突入や、大きくリダルダンドして長いフェルマータ(300小節)を打ち込むところにも、フルベンにしか許されぬ奥義がまざまざと刻印されている。(写真はOZ-7587-BS)

大波のごとく対旋律をたっぷりと膨らませながら、激震のようにクレッシェンドするダイナミックなコーダ(391小節)も聴き応え充分だ。不気味な音を轟かすバッソ・オスティナートを土台に、強固なリズムさばきで造形をガッチリと決める巨匠の棒さばきは確信に充ちたもので、激しい気魄の①③に対し、当盤では造形の安定感と堂々たる風格を感じさせてくれるではないか。


第2楽章 「不滅のアレグレット」
sv0111g.jpg瞑想的な木管の長い和音(9秒)で始まる〈不滅のアレグレット〉は悲痛な心情の告白だ。激情をぶちまけるドラマチックな①③の第2変奏に対し、当盤はコクには乏しいが虚静恬淡とした味わい深さがあり、59小節から突如フォルテで高揚するのがユニークだ。

しっとりと歌い上げる第3変奏(総奏)のオクターヴで奏でる弦の美しさも特筆されよう。
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中間部は巨匠が「天からの声」と描写するクラリネットの密度の濃い音色や、スタッカート下降の硬い響きと「ゾクッ」とさせるティンパニの強打、静謐な弱音で綴る再現部の弦楽フガート、心臓の鼓動音のような終止のピッィカートと息の長い和音に心を惹きつけらるのは筆者だけではないだろう。


第3楽章 プレスト
SV0111i.jpgプレストのテンポはタイム上は43年盤に等しい速度だが、オーボエのテーマが走らないので、ゾクゾクするような興奮には至らない。トリオの減速は巨匠の常套手段で、当盤ではとくにトリオ後半を入念に歌わせているのが特徴だ。

トリオの総奏では全管弦楽のフォルティシモを突き抜けるように、高いイ音のトランペットが炸裂! 重厚な重みと力で押し切っている。スケルツォの三現で音楽は俄然活気づき、目の覚めるようなティンパニの強打(556小節)でフルベンの面目が躍如する。きっぱりと打ち込む終止の打撃も強烈だ。
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「第1楽章の息をためてテンポをゆっくりとったフルトヴェングラーの意図は、かなり慎重であり、オーケストラも指揮者の意図にこたえるべく神経質になっているような気配があるが、第2楽章において、ペースはすっかり定まり、フルトヴェングラー独得のフレージングの絶妙さがくりひろげられる。第3楽章(スケルツォ)で、多くの指揮者と異り、はげしい躍動感をもった主部にたいしてトリオを極端にゆったりしたテンポをとる表現にも、メニューヒンのいう、指揮者とオーケストラの信頼感がみなぎっている。」 岡俊雄氏による「ライナーノート」より、日本コロムビア、1984年)



第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ 「舞踏の聖化」
sv0065p.jpg硬いティンパニの打撃とともに走り出すバッカスの乱舞は、〈喜悦のテーマ〉(25小節)で強いリズムをガンガン叩き込んで勇ましく行軍する。

リズミックな付点主題(51小節)や落雷のようなティンパニの連打で荒れ狂うコデッタ(104小節)の白熱もまぎれもなくフルベン流。低音弦を豪快に打ち返す主題展開の荒々しい棒さばきや、再現部へ突入する手前で足音のビートが聴こえてくるところからもフルベンの熱気が伝わってくる。
(写真は米Olympic OL8129 Swedish National Orchestra表記)

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sv0098l.jpg最大のクライマックスは、再現部の終止(319小節)から怒濤のごとく突進するコーダ。フォルティシモで猛り狂う爆発的な総奏と、疾風怒濤の勢いで突進してゆくバッカスの狂乱はベルリンフィルの43年盤に比肩する熱狂ぶり。

手に汗握る前進駆動とすさまじい勢いで駆け巡る怒濤の興奮に「これぞフルベン!」と膝を打ちたくなる(拍手入り)。
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演奏全般にわたって「プチプチ」と針音が入っているのは音源がアセテート盤によるものだからだろうか。トリオ(第3楽章)の音のかすれに注意を要するが、終楽章ではチリチリ音は消え、鑑賞には十分たえうる水準にある。ウィーン盤、ベルリン盤に次いで、フルベンの至芸を今に伝える珍重されてしかるべき一枚だ。


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[ 2018/03/31 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)