
ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調 作品67「運命」
宇野功芳(指揮)
大阪フィルハーモニー交響楽団
Recording: 2005.4.10 The Symphony Hall
Excective Producer: Hiroshi Hirai (Pony Canyon)
Recording Director: Tomoyoshi Ezaki
Blance Engineer: Tomoyoshi Ezaki
Length: 37:09 (Digital Live Recording)
TOWER RECORDS
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名物評論家の宇野功芳氏がザ・シンフォニーホールで大阪フィルを指揮したコンサート
《すごすぎる世界》の後半プログラムは、ベートーヴェンの交響曲第5番《運命》。氏が敬愛してやまない朝比奈隆が長く務めた大フィルを振る当コンサートは、関西の音楽愛好家のみならず、関東や東海地方から駆けつけた熱心なファンも多く、わが国の音楽界の珍事といえる。
「天国の先生には叱られそうだが、思うぞんぶん個性を羽ばたかせ、楽譜忠実主義の今の音楽界に一石を投じたい」と氏はその意気込みを語る。
「指揮者がオーケストラを振って可能な表現には、当然ながら限界があり、メンゲルベルク、ストコフスキーといったあたりが、そうした極限での録音を残している両横綱。表現が極端になる場合には、パート譜に全て書き込んでおき、練習で徹底させ、本番では打ち合わせどおりに振るという段取りになるのだが、宇野氏は、そうした通常の方法論の臨界を超えたところで遊ぼうとする。氏の目指すのが即興的なデフォルメにあるのは以前と変わらない。」(
金子建志氏の月評より、『レコード芸術』通巻第663号、音楽之友社、2005年)
第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ
冒頭のアインザッツは雑然としたもので、8分音符が乱れる即興性はフルベンの演奏を強く意識してのことだろうか。
クラリネットが吹奏する
第2主題のテンポルバート(67小節)は、まるで異次元に放り込まれたような気分に陥ってしまう。
聴衆の度肝を抜く
ピウ・フォルテのティンパニの強打(展開部175小節)や、
ものものしい総奏の大減速(再現部の開始)はコーホー節が炸裂! 余韻嫋嫋としたオーボエのカデンツァにも酔ってしまいそうになる。
極めつけはティンパニの最強打(396小節)で爆発するコーダで、両腕を上下にバタバタと激しく振る功芳氏は阿修羅のごとく燃え上がる。大見得をきった
〈運命動機〉の壮大な総奏(480小節)の離れワザは、然しもの巨匠(フルベン)もこれを聴けば、〈功芳氏が“振ると面食らう”〉に相違ない。
第2楽章 アンダンテ・コン・モート
朝比奈を髣髴させるコクのある弦の響きに魅了されるが、威風堂々としたファンファーレとティンパニの強いリズム(148小節)が勇壮な気分を高めている。
ヴァイオリンとヴィオラを弱めて低音弦のメロディーをたっぷり響かせる第2変奏の総奏(114小節)も聴きどころだろう。弦がグシャ~と潰れるような
フォルティシモの終止和音がいかにもフルベン流だ。
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第3楽章 アレグロ(スケルツォ)大地を踏みしめるような巨匠風のスタイルが印象的で、弓を深く入れた
トリオの低音弦が大きな聴きどころ。弓の動きを明瞭に捉えた録音が生々しく、ティンパニがもの凄い迫力でクレッシェンドするところ(190小節)に鳥肌が立ってくる。ブリッジではクレッシェンドしながら減速し、ティンパニの打点を明確に打ち出しているのがユニークといえる。

第4楽章 アレグロ
ここでもドカドカと叩き込む強いティンパニが耳につき、聴く人によっては下品な趣があろう。実際、指揮台の功芳氏はティンパニ奏者を目の敵にしたように、執拗に強打をけしかけるのが目についた。
サプライズは展開部C(106小節)の大減速で、コントラ・フォゴットにトロンボーンを重ねて
苦渋に充ちた闘争の気分を演出するところは功芳氏の慧眼があろう。
速いテンポで畳み掛ける終止は3つの和音(438小節)をフルベン流に減速し、最後の和音をクレッシェンドしながらティンパニを叩き分けるという離れワザを披露して全曲を締めている。
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当コンサートの模様はFM番組でも紹介され、「《運命》のフィナーレの激しい気丈は本物の感動を与えてくれ、説得力のあるコーダは音楽を超越して人生を、さらには勇気と希望をもわれわれに与えてくれた」という感激のお便りのほか、「もうちょいエグいやり方があっても良かった」というキワモノ嗜好の音楽ファンの声も。そうした功芳氏の
“際どい遊び”に見事に応えた大フィルの機能性について賛辞が寄せられた。「すごすぎる世界」を堪能させてくれる一枚だ。
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[ 2023/08/31 ]
音楽
ベートーヴェン |
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モーツァルト/交響曲第40番ト短調 K550
宇野功芳(指揮)
大阪フィルハーモニー交響楽団
Recording: 2005.4.10 The Symphony Hall
Excective Producer: Hiroshi Hirai (Pony Canyon)
Recording Director: Tomoyoshi Ezaki
Blance Engineer: Tomoyoshi Ezaki
Length: 27:14 (Digital Live Recording)
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この音盤は、名物評論家として知られる宇野功芳氏がザ・シンフォニーホールで大フィルを指揮したコンサート
《すごすぎる世界》のライヴ録音。その題目からB級イベントを連想させるが、大阪の会場は満席で
“怖いモノ見たさ”の心境からか、関東や東海地方から新幹線で駆けつけた熱心な音楽ファンも多かったという。
今回のコンサートでは客演コンサート・ミストレスとして佐藤慶子氏を招聘。佐藤氏は新星日響のコンサート・ミストレス時代に功芳氏の指揮で演奏しており、いわば気心の知れた間柄。功芳氏はコンサートの前に朝比奈隆先生の墓参りをして、助けてくださるように祈ったという。《第40番》の演奏に先立って、冒頭の部分が一般的なテンポで試奏された。
第1楽章 アレグロ・モルト
当演奏の第1のテーマは
「ポルタメント」。ポルタメントとは弦楽器で言えば次の音に移る瞬間に指盤の上をすべらせて滑らかに音程を変える奏法のことで、すでに廃れてしまったレトロなスタイルだ。
功芳氏は敬愛する
ワルター=ウィーンフィルがこの曲で見せたポルタメントを再現せんと、3小節目と7小節目(22,26小節も同様)で上行ポルタメントを敢行。
しかし優美さにはほど遠く、「ぐにゃ~」と気持ちの悪いグリッサンドのように、いささか品の悪いものになってしまった。
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「《40番》の最初のポルタメントのかけ方は、すでにSAKURAでもやったので、コツがわかっているからね、ポルタメントというのは、上がるときは速く上がるし、下る時はゆっくり下る、その基本をちゃんとやれば出来るんですよ。」(
宇野功芳著『モーツァルト奇跡の音楽を聴く』より、ブックマン社、2006年)

9小節以降は驚きの連続だ。
気味の悪いリタルダンド(10小節)から突如テンポを早め、怒りを込めたような総奏(16小節目)へのギアチェンジに仰天してしまう。
のっぺりと奏する第2主題も気色悪く、アウフタクト(77小節)から緩急をつけたテンポの変化と漸強弱が頻出、えぐ味を効かせた奇策の数々は枚挙にいとまがない。こってりと粘りを入れた展開部のスフォルツァンド・パッセージ(152小節)の大減速に思わずのけぞってしまう。
第2のテーマは
「ルフトパウゼ」。ルフトパウゼとは息継ぎの間のことで、再現部(211小節)で功芳氏は
ワルター流のルフトパウゼを踏襲するも、休止が長すぎてポッカリ穴が開き、“ゲネラルパウゼ”になってしまった。
コーダで過剰なポルタメント(285小節)を「これでもか」と繰り返すあたりは悪戯が過ぎようか。
「再現部にはルフトパウゼというのが出てくるんだよ。楽譜に指定はないんだけど、一瞬ぱっと止まるわけ。始めて聴く人はびっくりすると思いますよ。その間がいいんだ。突然、空中に投げ出されような感じでね。」(
『宇野功芳の白熱のCD談義ウィーンフィルハーモニー』より、ブックマン社、2006年)
第2楽章 アンダンテ聴きどころは
「天使がすすり泣く」と功芳氏が著す第2主題(37小節)で、ほとんど聴こえないようなピアニシモで奏するところはワルターの演奏を強く意識したものといえる。長いパウゼから
「深淵を覗き込む」(ワルター)ような展開部のおどろおどろしい低音弦の進行や、リタルダンドから沈思黙考する再現部の長い休符(85小節)も功芳氏の面目が躍如している。

第3楽章 メヌエット~アレグレット前半の“怪演”とは対照的に秘策は影を潜め、インテンポの落ち着きのある音楽運びで、オーケストラが音量ゆたかに鳴りきっているのが心地よい。「かたちが決まっているからやりようがない。結局、第1楽章と第2楽章が勝負なんですよ。」と功芳氏は語っている。
第4楽 アレグロ・アッサイ
「ワルターが第2主題でテンポを落とす呼吸の良さがこたえられない」と功芳氏が熱く語るように、これを強く意識した
詠嘆の調べ(71小節)を奏でてゆくのが聴きどころ。
上行音階を7度繰り返すコーダでは「ここぞ」とばかりに加速をかけ、爽やかな風のごとく走り去る。
「すごすぎる世界」を堪能させてくれる一枚だ。
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[ 2023/07/31 ]
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