カラヤン=ベルリンフィルのチャイコフスキー/交響曲第4番(71年盤)

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チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調 作品36
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording:1971.9.16-21 Jusus-Christus-Kirche, Berlin
Producer: Michel Gloz (EMI)
Balance Engineer: Wolfgang Gülich
Length: 42:15 (Stereo)
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この1971年のEMI盤は、カラヤン&ベルリンフィルによる2度目の〈後期3大交響曲〉の録音で、このコンビ絶頂期の音が刻まれている。イエス・キリスト教会でわずか6日間のセッションで一気に完成させたというだけあって、7種ある《第4番》のCDの中では最も熱気があり、まるで実演のように気迫のこもった演奏として高く評価されている。

sv0087b.jpg1970年代のカラヤンは、ベルリンフィルの音楽監督として楽界の“帝王”に君臨し、全盛期をむかえていた。

「自分とベルリンフィルは、現在最高の状態にある」とカラヤンが豪語したように、シュヴァルベ、ブランディス、シュピーラー、カッポーネ、フィンケ、ツェペリッツ、コッホ、ライスター、ゴールウェイ、ザイフェルト、フォーグラーといった名人を麾下におき、“黄金の70年代”を謳歌していた。

レコードにおいても70年代は“傑作の森”ともいわれ、心身共に充実した60代のカラヤンが、自分の“楽器”と化したオーケストラを意のままに操って名録音を産み出していった。

sv0087c.jpgあたかも映画俳優のようにきめたカッコいいジャケット写真も「さぞや名演」をイメージさせるに十分な魅力あり、音盤に針を落とす以前に勝負はついていた。

映像を含めると9種あるカラヤンの《第4》の中で、筆者がとくに注目したのが④⑤⑥。④のDG盤は後年の録音に比べると直截的な表現で、オーケストラの推進力とパンチ力で堂々と押し切った完全無欠の名演奏。

続く⑤(当盤)では、華麗な金管の響きに磨き抜かれた弦の流動感が加わり、アンサンブルの妙技と形振り構わぬ熱っぽい演奏が楽しめる。

NoOrch.DateLevelⅠmovⅡmovⅢmovⅣmovTotal
Philharmonia1953.7EMI19.0210:075:538:5543:57
Wien so1954.11(L)Orfeo18:109:465:338:1841:47
Berlin po1960.2EMI19:119:025:398:5242:44
Berlin po1966.10DG17:549:575:428:0441:37
Berlin po1971.9EMI18:399:585:208:1842:15
Berlin po (DVD)1973.12Unitel18:109:265:308:0941:15
Berlin po1976.12DG18:409:015:468:1741:44
Wien po1984.9DG18:349:595:408:3042:43
Wien po (DVD)1984.9SONY18:229:155:448:2541:46


sv0087j.jpgユニテルの映像作品⑥も白熱の度合いが凄まじく、指揮者の過剰な演出が鼻につくものの、「やはりカラヤンはカッコいい」と再認識させられてしまう。第1楽章コーダのfff(403小節)で大見得をきるところなど千両役者といえるが、「ここまで力まなくても」と思わないでもない。

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同じDG盤でも⑦になると勢いは後退し、どこか手慣れた感覚と作為的な“いやらしさ”が前面に出てしまい、何度も繰り返して聴きたいとは思わない。

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このEMI録音の《第4》に関してはオリジナルテープの損傷が著しく、国内CDのHS2088やTOCE13262(岡崎リマスター)でも強奏時の音割れがみとめられる。第4楽章のシンバルと大太鼓の衝撃音がビリつく箇所にお気づきの人もいらっしゃるだろう。

sv0087d.jpg手持ちのLP(EAA-136)を比較したところ、音割れは無いものの、第4楽章は音が荒れているため、当初からマスターテープに問題があったのだろう。

CDのジャケットが冴えないのが気になるところだが、ハイブリッド盤やシングルレイヤー盤のSACDが新しいリマスターで発売されたので、あらためてじっくり聴いてみたい。

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「カラヤンはチャイコフスキーの3大交響曲を何度も録音しているが、その中でこれを最高とする人は少なくない。それは、他の録音にない“熱さ”がここにあるからだ。4番の一部では音が歪んだりもするのだが、にもかかわらずあえてこの緊迫感あふれるテイクを選んだ録音スタッフの判断は間違っていなかったと思う」 特集「1970年代の栄華」より増田良介氏による~『レコード芸術』通巻705号、音楽之友社、2009年)


「1971のEMI録音は〈ライブに近いカラヤン〉として定評がある。スタジオ録音らしき端正な仕上げというよりは、激情を剥き出しにしたカラヤンに出会えるというわけだ。なるほど、《第4》の金管の咆吼の激しさは前録音の比ではなく、常とは違うカラヤンの激情に終始圧倒される。残念なのはマスターテープの損傷が著しいとのことで、丹念にLPレコードを探すよりほかない。」 福島章恭著『交響曲CD絶対の名盤』、毎日新聞社、2005年)


「70年代はカラヤン&BPOの絶頂期であったことは明らかだ。ヴィルトゥオーゾ・オケとしても技術とアンサンブルを生かした演奏の精度と表現の秀麗さは追随を許さぬものがある。本盤では、特に金管のシャラシャラした金属質な鳴りをしている点。これは他の演奏では聴けない音色なので非常に興味深い。しかも表現が一段と熱狂的で、クライマックスではゾクゾクするような達成感が得られるのが魅力だ。」 オントモムック『クラシック不滅の1000』より齋藤弘美氏による、音楽之友社、2007年)



第1楽章 アンダンテ・ソステヌート
sv0087e.jpgホルンとファゴットによる“運命ファンファーレ”は、残響をともなったマイルドな音がたっぷりと鳴り響き、ベルリンフィルの壮麗なサウンドがのっけから全開である。

このテーマは同じ時期に書かれた《エウゲニ・オネーギン》(ポロネーズ)の華やかな宴の開始のファンファーレと瓜二つで、ここでは「運命」の主想旋律として“暗黒の運命”に対する絶望と諦めが交響曲全体を支配する。

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弱弦のアウフタクトで入る第1主題〈苦悩に満ちた現実〉(27小節)の上手いこと! シンコペートされた悩まし気な旋律を滑らかに、意味ありげに歌い出すカラヤンの手練れた歌い口に酔わされてしまう。一糸乱れぬ木管群、テヌートで応答する音量ゆたかな低音弦、上滑りするような弦のトレモロの強奏、硬いティンパニのリズム打ち、ドラマティックに吼えるホルンの吹奏など、ツボにはまったオーケストラの名人芸と音響美に身も心も酔わされてしまう。

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sv0087f.jpg優美なワルツのリズムで彩る第2主題〈幸福な夢〉(116小節)は“カラヤン節”の独壇場。

物憂げに歌うファゴットの旋律に、ワルツの対旋律を重ねるチェロのコクある弓さばきや、羽毛のような軽やかさで妖艶に揺れる弱弦の合いの手(134小節)など、麻薬のような甘い香りで聴き手の快感を巧まずして誘っている。

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「ガツン」とくる一撃で幸福の絶頂へ駆け上がる高揚感も比類がなく、なみなみと吹奏するホルンの〈歓びの主題〉(169小節)、ゴージャスに躍動する力強いコデッタ主題(177小節)、〈運命動機〉で奈落の底へ叩き付ける慟哭の一撃(201小節)など、その演出の巧さもさることながら、力瘤を入れたカラヤンの気魄に圧倒されてしまうのは筆者だけではないだろう。
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sv0087g.jpg大きな聴きどころは、ドラマティックな名旋律を弦がオスティナート的に弾き回す展開部(237小節)。上昇反復のパッセージをねっとりと練り上げるフレージングは絶妙といってよく、緩急自在に音楽が呼吸し、陶酔的に揺れながら〈運命主題〉に上り詰めるところの劇的緊張感といったら! 

第1主題がトゥッティで爆発する再現部(284小節)の宣言もすさまじい。このレコードをはじめて聴いた時、激情を剥き出しにして嵐のように荒れ狂う総奏に筆者は腰を抜かしたものである(トロンボーンの強奏をお聴きあれ!)。
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第2主題を行進曲風にアレンジしたコーダ(381小節)は抜き足差し足、絶妙のテンポで駆け走る。弦にレガートをかけて休符を均しながら、頂点に登り詰める緊迫感は無類のもので、決めどころのクライマックスが403小節のfffにやってくる。ここはストレートに直進するのが常套だが、ひと呼吸入れて決然と見得をきるやり方もあり、当盤ではカラヤンは音は切らずにfffでさらに力を籠め、激情を剥き出しにして突進する。

同じカラヤン指揮でも、④は手前402小節2拍目にアクセントを入れ、⑦はストレートに直進、①③⑧⑨は402小節2拍目の途中で音を切る、⑥は音は切らずに大きく間合いをとって見得をきる、といった違いがある。筆者なら④か⑥をやってみたいが、皆さんはどのやり方がお好みだろうか。


第2楽章 アンダンティーノ・イン・モード・ディ・カンツォーナ
sv0087h.jpg《第4》演奏の格付けを決める21小節のオーボエ独奏は、首席奏者ローター・コッホのクリスタル・トーンに魅せられてしまう。透明度の高い硬い音から、えもいわれぬ深い味わいを醸し出し、官能的ともいえるテンポ・ルバートで聴き手を酔わせてくれる。

コッホの不在時にカラヤンは、オーボエが重要な作品のレコーディングを決して行わなかったという伝説めいた話に「なるほど」と頷ける。
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sv0087i.jpg弦楽ユニゾンで「とろり」と歌い返す副次主題(41小節)や、音量をてんこ盛りした弦の16音符のフィギュレーション(65小節)などやり過ぎの感があるが、高性能のベルリンフィルが機能性と抜群の機動力を発揮するのが、中間部の農民舞曲

リズミックにテンポを上げて「これでもか」と音階を上り詰め(150小節)、その頂点のフォルテで大きく弓を返して高揚する派手な立ち振る舞いもカラヤンの面目が躍如する。
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しっとりと濡れたように奏する主題再現も涙モノで、チェロやファゴットのモノローグなど、メロディアスな美しさで俗耳を楽しませるカラヤンの巧みな話術は枚挙にいとまがない。


第3楽章 スケルツォ ピッツィカート・オスティナート
sv0087k.jpg軽微なリズムの中にすごい名人芸を聴かせるのがピッツィカート・オスティナートだ。ここでは「びょんびょん」とバネを効かせた躍動感あふれる低弦リズムや、切れ味の鋭い高弦の裏打ちを加えて生き物のように駆け走る。

トリオも名人芸のオンパレードで、楽団を整然と統率した軍隊行進曲の中を、クラリネットの即興や、風を切るようなピッコロの曲芸で魅せるあたりはまさしく“カラヤン・サーカス” TOWER RECORDS  amazon  HMVicon
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ピッツィカート・リズムに中間主題を混ぜ合わせた主題再現も間然とする所がなく、攻撃性を前面に打ち出して「どうだ!」と威圧するすさまは、演出過剰とも言えるこのコンビの自信の漲りを感じさせている。


第4楽章 フィナーレ アレグロ・コン・フォーコ
sv0087l.jpg華麗な管弦楽の醍醐味を心ゆくまで堪能させてくれるのがフィナーレ〈民衆の祭り〉の音楽だ。ここではベルリンフィルのパワーが全開で、行進テーマ(第3主題)を高らかに奏するところはオーケストラの合奏能力を最大限に発揮した名場面。
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力瘤のはいった荒々しいまでの総奏は聴き手を圧倒し、叩きつけるような和音打撃(50小節)、勢いをつけた弦の3連音、大太鼓とシンバルを容赦なくぶちかますダイナミズムの極致は、当時の録音技術の許容の限界を超えてしまったのも無理からぬものといえる。
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sv0087n.jpg第2主題〈白樺は野に立てり〉をテューバがバリバリ吹奏する60小節や、〈白樺主題〉を金管がカノン風に強奏反復しながらクライマックスで〈運命ファンファーレ〉(199小節)を炸裂させる筆勢の強さも大きな聴きどころだ。

「ここぞ」という局面で赤子の手をひねるようにゴージャスな音楽に仕立ててしまうカラヤンの手慣れた棒さばきに快哉を叫びたくなる。鉈を打ち下ろすような和音打撃の衝撃のすさまじさったらない。

コーダ行進テーマのホルン信号を皮切りに、錯綜たるオーケストレーションをスペクタキュラーに展開。3つの主題を織り交ぜながら疾風怒濤の勢いで突っ走る。

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〈白樺ファンファーレ〉を連呼しながらツボにはまったように熱狂し、まさに豪華絢爛、まるでジェットコースターに乗っているようなめくるめくスピード感で全曲を締めている。ライヴのような気魄でカラヤンが完全燃焼した納得の一枚だ。


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[ 2017/03/25 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)

スタインバーグ=ボストン響のホルスト/組曲「惑星」

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ホルスト/組曲「惑星」作品32
ウィリアム・スタインバーグ指揮
ボストン交響楽団&ニュー・イングランド音楽院合唱団
Recording: 1970.9,10 Boston Symphony Hall (DG)
Recordig Producer: Reiner Brock
Balance Engineer: Günter Hermanns
Recording Engineer: Joachim Niss
Length: 45:58 (Stereo)
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このDG盤は、スタインバーグが1969年から72年まで音楽監督を兼任していたボストン交響楽団(BSO)との初レコーディングにあたる。ドイツ生まれのスタインバーグはオーソドックスな手堅いスタイルの指揮者で知られるが、ライナー、ミュンシュ、セル、オーマンディ、バーンスタインといった米国の指揮者の中では地味な存在で、セールス的にはぱっとしなかった。

sv0086c.jpg久しぶりに再発売されたCDを聴いてみると、これが恐ろしや、気魄のこもったすさまじい演奏で、筆者は腰をぬかして驚いた。《惑星》はファンタジーや神秘性を求めるあまり、とかく生ぬるい演奏に終始してしまいがちだが、これを物足りなく感じている者にとっては大変聴き応えのある演奏で、“隠れ名盤”といえるのではないか。

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特筆すべきは、バンバンと張りのある音で突進するスタインバーグの力強いスタイルで、〈火星〉〈木星〉〈天王星〉ではハッタリのないドイツ風の重厚なサウンドで押し切る思い切りの良さは、数ある《惑星》の中で冠絶している。
〈金星〉〈水星〉の緻密なアンサンブルも秀逸で練り絹のようなストリングスの美感はもとより、ボストン響の持つカラフルな管楽器のサウンドを堪能させてくれる。

sv0086b.jpg録音の素晴らしさも見逃せない。いかにもグラモフォンらしいエッジの効いた音場は、聴き手に肉体的体験と興奮すらあたえてくれるリアリティに富んだもので、今聴いても古さを感じさせない。

この録音を手掛けたのは1959年以来、30年間にわたり一貫してカラヤンのレコーディングを行ってきたギュンター・ヘルマンスで、音楽の骨格とボディをしっかりとバランス良くとらえている。名録音として定評のある小澤盤(PHILIPS)と聴き比べてみるのも一興だろう。
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ConductorRecdateLevelMarVenMerJupSatUraNepTotal
Steinberg1970.9DG6:377:253:598:017:455:246:4745:58
Ozawa1979.12Philips6:457:554:088:028:455:418:1249:28

「大編成のオーケストラを巧みにコントロールし、曲の効果を最大限に引き出している。全体的にはやや一本調子ではあるが、原色豊かな胸のすくような豪快な演奏である。」 草野次郎氏による月評、UCCG5240、『レコード芸術』通巻第742号、音楽之友社、2012年)



火星「戦争をもたらすもの」 アレグロ
sv0086d.jpg弦のコル・レーニョ、ティンパニのオスティナート・リズム、ゴングのトレモロが抜群の躍動感と分離感で迫ってくるところに、のっけから度肝を抜かされる。

戦争の予感どころか、指揮官が甲冑に身を包んだ楽員をけしかけ、殴り込みをかけるように敵陣のただ中に突進させる気魄に圧倒されてしまう。「これでもか」とがっつりと吹き上げるブラスの第1主題と、きっぱりと歯切れ良く打ち込むトランペットの合いの手も気合い十分。
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sv0086e.jpgfffで立ち上がるパンチの効いた総奏(40小節)は圧巻で、胸底に響くように吹き抜く〈神の激怒の主題〉(第2主題)は敵陣を正面突破する堂々たるアプローチ

熾烈なアクセントを付けて叩き込むオスティナート・リズムはすさまじく、迷いなくぶち込むトランペットの切れ味も抜群! 分厚い弦をぐいくぐい押し込み、その頂点(66小節)で痛烈な一撃をくわえるあたりも音楽は気魄に充ち満ちている。
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PSOもBSOもスタインバーグが音楽監督に就任したときは楽団の士気が低下していたといわれる。指揮者が強権をふるっていた時代に、スタインバーグは楽員たちを礼節と尊敬を持って遇し、楽員と一蓮托生のポリシーによって楽団にヤル気と音楽をする喜びを与えてアンサンブルの質を一変させた、という話に「なるほど」と頷ける。

sv0086f.jpg中間部(68小節)は決戦を喚起するテューバの勇壮なイヴォケーション(第3主題)と、胸のすくようなトランペットのファンファーレが気分を大きく高めている。

前のめりにぐいぐい押し込むオーケストラ・ドライヴが痛快で、“向かうところ敵なし”の感があろう。低音弦が大河のごとくうねる〈死の舞踏〉(96小節)の緊迫感も無類のものだ。
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sv0086k.jpgクライマックスで立ち上がる爆発的な総奏(110小節)はこの世のものと思えぬすさまじさで、鋼のようなボストン・ブラスが「ここぞ」とばかりに炸裂する。

これをしっかり支える弦の底力も並々ならぬもので、リズミカルだがこざっぱりと腰の軽い小澤盤に比べるとオーケストラのボディが強固で、しっかりと鳴りきる“ジャーマン・サウンド”が痛快である。まさに〈戦争をもたらすもの〉にふさわしい力業といえる。  TOWER RECORDS


金星「平和をもたらす者」 アダージョ
sv0086j.jpg〈愛と美の女神〉はボストン響のソリストたちの独壇場。小澤盤は名手チャールス・カヴァロフスキー(1972~1997年在籍)の独奏ホルンが評判をよんだが、これはその上をいく美しさ。

チェロの分散和音はしっとりと潤いがあり、ロマンティックの極みといえる。最高の聴きどころがアンダンテの第2主題(30小節)。独奏ヴァイオリンの艶のあるカンティレーナや、光沢を帯びたようなアニマートのストリングスは息をのむ美しさ。
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sv0086m.jpg小澤のように繊細にやり過ぎると響きがうすくなってしまうが、その点、スタインバーグはコクのある響きを失わず、ウェットにたゆたうフレージングからメロウな味わいを巧まずして引き出している。

民謡調の第3主題を奏でる名人たちの独奏や、ハープとチェレスタのつぶ立ちが見えるように聴こえてくるのも美味しい耳のご馳走だろう。
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水星「翼のある使者」 ヴィヴァーチェ
sv0086h.jpg剽軽奇抜なスケルツォ楽想は、キメが整った楷書風の小澤に比べて流動感あふれる音の拡がりがあり、スコアが音にされた面白さがある。
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8分の6拍子に3拍子のハープ(10小節)を重ねたり、第1主題のモールス信号風のオスティナート・リズムや、2拍子のリズムを組み合わせた奇妙な感覚を生々しく表現。仕掛けや演出で聴かせるのではなく、オーケストラのために書かれた作品として実直に再現している。

3小節単位のオスティナート旋律を様々な楽器の組み合わせによって11回半繰り返す第2主題も聴きどころで、ソロ奏者たちが生き生きと歌い継ぐところはラヴェルの《ボレロ》を思わせるではないか。ここ一番で決めるトランペットとホルンも存在感を示しており、コントラ・ファゴットとコントラバスを噛み合わせた結尾の豊かな響きも特筆モノだ。


木星「快楽をもたらす者」 アレグロ・ジョコーソ
sv0086l.jpg〈快楽の音楽〉は骨の太い男の音楽だ。がっちりと立ち上がる総奏は力感が満点で、マイルドで力弱い小澤盤とはおよそ対照的。トランペットの強烈なファンファーレや64小節の痛烈な一撃もすさまじく、男気に充ちた勇壮な第2舞曲、どっしりと構えた重厚な第3舞曲がいかにもドイツのカペルマイスター風。

ストリンジェンドからみるみる加速をかけて突進する様は荒武者のようで、グロッケンシュピールの金属音も耳に刺激的である。
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sv0086n.jpg《惑星》のツボといえる中間部の〈わが祖国に誓って〉(193小節)は、安っぽいノスタルジーや民謡的な味わいとは一線を画し、気分はすこぶる厳粛である。

几帳面な歌わせぶりだがどこか高揚感に乏しい小澤盤に比べると、古典音楽のように造形を崩さぬ堅固な音楽運びから宗教的な崇高さが漂ってくるのが感動的で、分厚いサウンドによる高揚感も抜群である。
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再現部の総奏は、甲冑を身に纏ったような鋼のブラスは鮮烈で、パウゼから見得を切るように突進する第2舞曲やグロッケンシュピールとタンバリンを容赦なく叩き込む第3舞曲など、指揮者が小細工なしの強力ぶりを発揮するところに快哉を叫びたくなってしまう。放歌高吟するトランペットの目の醒めるようなハイトーンは肌が粟立つすさまじさ!


土星「老いをもたらす者」 アダージオ
sv0086r.jpg老いの疲れとわびしさを描くという意味では、さっぱりとした小澤盤も、たくましいスタインバーグ盤も健康的過ぎて場違いの感があるが、冒頭のコントラバスや中間部のシンコペートされた鐘の音の生々しい響きを楽しめる。

再現部は、弦楽セクションがイン・ストリングスでたっぷりと歌い上げたスケール感は絶大である。
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天王星「魔術師」 アレグロ
sv0086q.jpgここではスタインバーグが鮮やかな色彩効果を発揮しつつ、壮大な魔術を展開してゆくところが最大の聴きどころで、持ち前の武骨一辺倒で突進しながらもエグ味を効かせ、切れば血の出る熱っぽさで畳み込む。

シンバルやティンパニの骨力のある衝撃感も抜群で、ア・テンポの大総奏(193小節)ではパンチを効かせてグロテスクなまでに凄絶である。それに比して小澤盤はノリはよいがどこか上品すぎて生ぬるく、魔術というよりネタバレの手品を見ている感がある。
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sv0086i.jpg兎にも角にもオーケストラ全体が鳴りに鳴りきり、その威力は レヴァン=シカゴ響盤と双璧といえる。その頂点(221小節)で「ギュイ~ン!」と地響きを立てるように轟くオルガンのグリッサンドが強烈で、レントの深い呼吸のアインザッツと匂い立つような弦の音色にも耳をそばだてたい。

「バカスカ」と叩き込むティンパニの“とどめ打ち”も痛快きわまりなく、必殺仕掛人のような大芝居で聴き手の興奮を誘っている。  TOWER RECORDS  amazon  HMVicon


海王星「神秘主義者」 アンダンテ
sv0086o.jpg神秘の惑星のキモは中間部の〈天上の音楽〉で、ハープ、チェレスタ、弦が分散和音とアルペジオを重ね、その頂点で女声コーラスのヴォカリーズが遠くから聴こえてくる。

女声コーラスの上手い下手を論ずるのは野暮というものだが、スタインバーグ盤は模糊とした神秘感よりも、スコアに書かれた音をリアルに再現し、透明な響きを実現している。

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sv0086p.jpg音の純度からいえばDG盤のクリアな響きが魅力的だが、忘却の彼方に消えゆく神韻縹渺とした趣きは小澤盤も互角といえる。最後の小節は「響きがはるか遠くに消え失せるまで繰り返す」とスコアに指定されるが、ヴォカリーズの消え方がスタインバーグ盤の方が自然で、小澤盤はそっけなく途切れてしまう。
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ファンタジーや神秘的な気分よりも、オーケストラをガンガン鳴らして壮大な管弦楽の醍醐味を堪能させてくれる一枚だ。


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[ 2017/03/08 ] 音楽 ホルスト | TB(-) | CM(-)