
ブラームス/交響曲第3番ヘ長調 作品90
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1949.12.18 Titania-Palast, Berlin
Archive: RIAS Berlin
Henning Smidth Olsen No.179
Length: 38:08 (Mono Live)
TOWER RECORDS
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フルトヴェングラーの
ブラームス交響曲第3番は3種の録音がレコード化されているが(すべてベルリンフィル)、中でも早くから知られた演奏が1949年のEMI盤だ。この演奏は 1954年のグラモフォン盤が出るまでは唯一の演奏で決定盤とされていた。巨匠最晩年の完熟した
グラモフォン盤(O_396)に対し、当盤は、いかにもフルベンらしい
疾風怒濤のドラマティックなスタイルで聴き手を酔わせてくれた。
| No | Orch. | Date | Location | First Issue | Olsen |
| - | BPO | 1932.3.15 | Berlin,Philharmoniesaal -Ⅳmov | Not issued | O_ 24 |
| ① | BPO | 1949.12.18 | Berlin,Titania-Palast, RIAS Berlin | HMV(EMI) | O_179 |
| ② | BPO | 1951.4.20 | Cairo or 4.25 Alexandria, Cairo Radio | Not issued | O_243 |
| ③ | BPO | 1954.4.27 | Berlin,Titania-Palast, RIAS Berlin | DG | O_396 |
| ④ | BPO | 1954.5.14 | Torino, Italian Radio | Walter Society | O_406 |
フルベンの〈ブラ3〉は上記5点の録音がリストアップされているが、O_24(第4楽章のみ)は、British Institute of Recorded Sound所蔵のドイツ放送録音カタログ(1929-39)に記録されているのみで、録音の存在は確認されていない。また、カイロ放送局に保管されている未公表録音②は、4/20(カイロ)、4/25(アレキサンドリア)昼と夜の3公演が含まれている。

3種のレコード中で注目すべき点は、当盤①のみが第1楽章の
提示部を反復していることと、終楽章で
ティンパニが随所で追加される改変が行われていることにある。
逆に、終楽章コーダ-第1楽章の主題を回想する箇所(301小節)で、③④が旋律で弾いているのに対し、当盤では記譜通り
分散和音で奏していることにお気づきの方もいらっしゃるだろう。
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[全集]
| No | Orch. | Date | Level | Source | Ⅰmov | Ⅱmov | Ⅲmov | Ⅳmov | =Total |
| ① | BPO | 1949.12.18 | EMI | WF70027 | 13:08 | 9:36 | 6:16 | 9:08 | 38:08 |
| ② | BPO | 1954.4.27 | DG | MG6003 | 10:26 | 9:37 | 6:23 | 9:24 | 35:50 |
| ③ | BPO | 1954.5.14 | Walter Society | OB7289/92 | 10:49 | 10:13 | 6:36 | 9:40 | 37:18 |
当録音も1954年盤と同様、ベルリンRIAS放送局のアーカイブを音源とするために、2009年にマスターテープ(76cm/sec)から起こされた
独audite盤が発売されたことにより、従来の音盤は存在価値が低くなったように取り沙汰されている。筆者は手持ちのディスクを聴き比べたところ、次のような音の違いを個人的には感じた。

audite盤は開始のレヴェルが低くドライな音だが、柔らかくほぐされたゆとりのあるフォルテ音が魅力で、濁った音の従来盤に比べれば透明度があるように感じられる。
一方、Abbey Road Studioで原テープからリマスターしたEMI録音集(CZ9078782)も滑らか且つクリアな音で期待以上に改善されている。ハイブリッド盤(WPCS12897)ではSACD/CD層共にさらにクリアで生々しく、52年の〈ブラ2〉を思えば成功した例ではないだろうか。
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これらに比べるとTOCE14156(従来盤)は、全体にどんよりして低音がダブつく一方で高音が荒れているため、〈ブラ3〉に関してはaudite盤か、リマスター盤を採るべきだろう。WF70027(LP)も厚みのある力強い音が捨て難く、筆者はこれをCD-R化して愛聴している。
「第1楽章で、フルトヴェングラーは、きわめて重要な部分を繰り返すことによって、作曲家の意図に重みと深みを加える。フィナーレでは、情熱があまりに激烈すぎると評することさえ、可能なほどだ。しかし、演奏の熱烈さに、ぼくらは文句なく押し流されてしまう。」(
ダニエル・ギリス編『フルトヴェングラー頌』~マイケル・マーガスのディスコグラフィより、仙北谷晃一訳、音楽之友社、1969年)
「これはブラームスを聴くよりはフルトヴェングラーの名人芸を味わうべき演奏だと思う。彼は音楽を完全に自己の個性の中に同化してしまっている。テンポの極端な流動感、ドラマティックな設定、スコアにないティンパニの追加など、さながらフルトヴェングラー作曲の交響曲を聴く想いがするほどだ。ことにおどろくべきは、フレーズとフレーズの有機的な移り変わりで、その密接な血の通わせ方は際立って見事であり、これだけ自由自在な表現なのにもかかわらず、作り物の感じが皆無で、音楽が瞬間瞬間に生まれ、湧き起こってくる。まさにフルトヴェングラー芸術の真髄ではなかろうか。」(
宇野功芳著 『フルトヴェングラーの名盤』より、TOCE8511、芸術現代社、1977年)
第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ ヘ長調
開始の
モットー(基本動機)の鋭さではトリノ盤とDG盤に一歩譲るが、2小節目を大きくクレッシェンドして
第1主題を叩き込む荒々しい、スケールの大きな音楽がいかにも巨匠風。
10小節の頂点から
前のめりで下降するテンポの激しい揺れがこの盤の特徴で、流動的な間奏主題や入念なリタルダンドを配するアルペジオも緩急自在といえる。
(写真はWF70027)深沈と奏でる
第2主題は会場のノイズが耳にうるさい。とくに繰り返しでは観客がゴホゴホと執拗に咳き込むのが騒々しく、風邪でもひいていたのだろうか。当盤では小結尾のモットーから激しくテンポが動いてアンサンブルが荒れてくるが、大きく弦を膨らませて情熱的に、
決然と提示部を反復するのがフルベンらしい。巨匠が発奮するのは展開部(77小節)からで、体のくねりが弦のうねりとなって、すさまじい勢いで加速する。

熱気を帯びた前進(全身)駆動こそがフルベンを聴く醍醐味であり、
沸々と熱情が湧き上がってくる演奏に聴き手は心を掴まれてしまう。
展開部終わりの
ものものしいリタルダンドはいったい何事かと思わせるが、強烈なクレッシェンドで
〈モットー〉が爆発する再現部(120小節)もすさまじい。第2主題の濃密なクラリネット、コクのある転回主題 小結尾のつよいピッツィカート・リズムなど、いずれをとってもフルベンの個性が生々しく刻印されている。
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[TOCE14156]
最大の聴きどころがコーダの加速で、187小節の律動から激情をぶちまけるように荒れ狂い、
我を忘れて我武者羅に突っ走る“熱いフルベン節”に快哉を叫びたくなる。当盤はいささかやりすぎの感があるが、間断なく弦の大波に呑み込まれるように視界が開かれるところは巨匠ならではの
“必殺ワザ”といえる。モットーの一節にやるせない情感をこめて力強く締める終止が英雄的で、まさに
“闘う男のドラマ”といえる。
第2楽章 アンダンテ ハ長調
ここではしっとりと奏でるクラリネットや詠嘆調のオーボエなど、室内楽的な木管のアンサンブルを堪能させてくれる。
第2主題の謎めいた問いかけや、
コデッタ主題(センプリーチェ)の慰撫するような情け深さ、さらには、弦がすすり泣くように木管と淋しげな対話を重ねるところにも耳をそば立てたい。
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[WPCS-23226]


聴きどころは、切分された3連音でうねうねと太い縄を編むように揺れ動く展開部のコクのある重奏で、
身をよじるような流動感と濃密なサウンドはフルベンでしか絶対に聴けないものである。
弦が弓を深く入れて
艶光りするように高揚するコーダもすこぶる感動的で、くすみがかった木管がしっとりと弦楽に溶け込む
渋味の有るサウンドは巨匠の極意といえる。
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[MYTHOS]
1954年5月3日、ベルリンフィルのパリ公演(オペラ座)でフルトヴェングラーの指揮する〈ブラ3〉を聴いた吉田秀和は、次のように書き記している。
「フルトヴェングラーをはじめてパリできいた時、そのプログラムにブラームスの《交響曲第3番》が含まれていた。これがまた、私にはおもしろかった。その一つは、ブラームスのオーケストラ曲の響きというものを、ここではじめて納得した点にある。それは室内楽と管弦楽の混ざりあったようなもので、同じ時代に生きながらも、ブラームスはヴァーグナーとはちがって、金管の使い方などが古風で、それだけに、木管が非常に重視されていた。その木管の音色が、ブラームスではずいぶん地味な艶消しをしたようなものであることは、誰もが気づいているわけではない。ブラームスをきいた時、私は、本当に「そうか、これがブラームスの音色なのか」と思ったのは事実である。実にしっとりした、くすんだよい音だった。」(
吉田秀和著『フルトヴェングラー』より、河出書房新社、2011年)
第3楽章 ポコ・アレグレット ハ短調
3種の中で最もテンポが速いのが当演奏で、悲しみの旋律が
急き立てるような切迫感を伴っている。暗い翳りを帯びた間奏主題と虚空に向かって泣き叫ぶ木管主題が悲痛さをさらに深めている。
中間部もテンポが早く、〈慰めの句〉で大きく飛翔するコクのある弦楽サウンドや、再現部でオクターブ重ねて纏綿と奏する強靱なフレージング、コーダの張り詰めた緊迫感など、
巨匠の手の内に収めた奥義が満載だ!
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[Memories]
クライマックスで奏する
燻し銀のホルンがレトロな気分を高めているが、これがヘタウマ的で少々荒っぽく、3種の中で採るならトリノ盤だろう。

第4楽章 アレグロ ヘ短調
おどろおどろしい開始と陰鬱なコラールが呪われた運命を予告すると、巨匠は強烈なトロンボーンをぶつけて荒れ狂う。
切り刻むような弦の律動と落雷のようなティンパニを打ち込んで戦闘的に燃え上がるところは
「これぞ、フルベン!」と膝を打ちたくなる。第2主題もリズムが活きづき、
闊歩するように雄々しく奏するのがフルベン流。
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[SACD]

楽譜にないティンパニの連打を45小節と86小節に追加しているのもじつに効果的で、
無我夢中になって疾走する〈攻撃の句〉は、弦のアンサンブルが破綻寸前で踏みとどまっているのがすごい! 展開部の主題でテンポを極端に落とすのもこの盤の特徴で、
〈警告のコラール〉で弦の嵐の中をあらん限りの力を込めて吹奏する
巨匠の“力ワザ”は冠絶している。

音が割れんばかりに全音符で強奏する決めどころの息をのむ緊迫感は圧巻で、なりふり構わず加速をかけて
〈闘争〉の再現部へ乱入する荒ワザにも鳥肌が立ってくる。
186小節、227小節にもティンパニを追加して攻撃性を強めているが、3連符で第2主題の伴奏刻みを担うヴァイオリンとヴィオラがコル・レーニョのように弓を弦にぶつけて弾いているのが驚きだ。
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[LP]
コーダは、ヴィオラが淋しげに奏する変奏の中から音価を拡大したコラールが光明となって、分散和音の主題(第1楽章)の中に溶解してゆく安息感が心地よく、これを旋律で奏する“賢者の諦念”のような一風格ある54年盤に対し、希望の陽光が降り注いでいるのが感動的である。
巨匠が全身全霊を傾けて、
闘う男のドラマを具現した必聴の1枚だ。
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[ 2019/10/30 ]
音楽
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