ショルティのメンデルスゾーン/交響曲第4番〈イタリア〉

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メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調 作品90「イタリア」
ゲオルク・ショルティ指揮
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1958.5 Rishon LeZion, Tel Aviv (DECCA)
Producer: John Culshaw
Engineer: Gordon Parry, James Brown
Length: 25:13 (Stereo)
TOWER RECORDS  amazon


このディスクはショルティが45歳のときに、名物プロデューサーのカルショウと組んでステレオ初期のデッカに録音した快演シリーズの1曲。テル・アヴィヴから8キロ離れたリション・レジオンという村の映画館でセッションが組まれたものだ。

sv0116b.jpgイスラエルフィルとの一連の録音は、ロッシーニ「風変わりな店」、デュカス「魔法使いの弟子」、チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」、モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、メンデルスゾーン「イタリア」、シューベルト交響曲第5番といった弦楽器を主体にしたラインナップ。

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イスラエルフィルの伝統のひとつに世界最高と謳われた弦楽セクションがあげられるが、結成当時(パレスチナ管弦楽団)はユダヤ系の選りすぐりの奏者が世界中から集められ、ベルリン、ライプツィヒ、ドレスデンなどドイツ各地のオーケストラのコンサート・マスターが在籍していた。バレンボイム(1952年イスラエルに移住)によると、中欧的な響きをもったオーケストラだったらしい。

「当時のイスラエル・フィルは、バランスのよいオーケストラではなかった。弦楽は素晴らしかった。少なくとも、壮麗さと瑞々しさを必要とする音楽ならどんな場合でも、そうだった。木管も満足できるものだった。だが、金管は水準以下だった。」 ジョン・カルショー著 『レコードはまっすぐに』より、山崎浩太郎訳、学習研究社、2005年)



sv0116c.jpgここで聴く《イタリア》は、血気盛んな壮年期のショルティの強烈な個性を刻印したもので、腕っ扱きのイスラエルフィルの弦楽器奏者がショルティの鋭敏な棒にピタリと反応し、緻密でスピード感溢れる演奏を展開。

左右の音の拡がりと細部を露骨に強調するステレオ初期のデッカの“あざとい音作り”も一役買って、聴き手の耳につよい刺激と興奮をあたえている。
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「《イタリア》のレコーディングは1980年代にシカゴ交響楽団と再録音、晩年の1993年にウィーン・フィルとライヴ録音されている。ショルティの解釈の大きな変化はないが、その男性的なメンデルスゾーン像は他の指揮者ではなかなか聴けないものである。このCDで聴ける演奏は、剛直とも言えるほど徹底して精緻なアンサンブルを前面に押し出している。弦楽器に特徴を持つと言われるイスラエル・フィルとの演奏は、そのしなやかな弦もあくまでショルティ・ペース。終楽章でのスピード感はただただ圧倒的だ。」 榊洋希氏によるライナーノートより、ユニバーサル・ミュージック、2007年)


「さわやかな音楽性が演奏のすみずみにまで行きわたり、粒立ちの良いリズムを活かした颯爽としたスタイルの中で旋律がしなやかに、優美に歌い継がれる。ショルティの名から連想され、また2年前のパリ音楽院管弦楽団とのチャイコフスキーにもまま見られた力づくの強引さは微塵もうかがえず、全てが自然に息づいている。終楽章など、相当速いテンポなのに、せわしないという感じが全くない。特筆すべきはイスラエル・フィルの弦の美しさで、このディスクを貫く一種のすがすがしさは、多分に透明で艶のある彼らの音色に起因するもののようだ。」 吉成順氏による月評より、POCL2908、『レコード芸術』通巻第504号、音楽之友社、1992年)



第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0116d.jpg「びょん!」とバネの効いたピッツィカートから弾き出される澄明爽快な第1主題の旋律線が猛スピードで突っ走るところに仰天するが、力強い前進駆動によって音楽が健康的に描き出されるのが、いかにもショルティらしい。

驚くべきは裏拍の弦の反応の速さで、打てば響く瞬発力と切れのあるリズムで頂点に駆け上がる弓さばきはアクロバット的な曲技といえるもので、これが聴き手の快感を誘っている。  amazon
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オンマイクの木管楽器が生々しい第2主題(110小節)は、拍節重視のショルティがイン・テンポで歌わせるが、弦の伸びやかな取り回しと呼応しながら高揚するところは南国的な開放感に溢れんばかり(提示部のリピートなし)。

sv0116e.jpg展開部の第3主題(202小節)は緻密なスタッカートで駆け走るイスラエルフィルの腕達者な弦楽奏者の独壇場。つぶ立ちを揃え、細密に音符を紡ぎ出す名人芸をとくと堪能させてくれる。

大きな聴きどころは舞曲が第1主題の呼びかけと交錯しながら頂点に達するクライマックスの総奏(274小節)。シャッキリと弾む躍動感鋼のような強靱さで突進するところは一分の隙がなく、豪腕指揮者が腕尽くでオーケストラをドライヴするさまに快哉を叫びたくなる!  amazon
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sv0116f.jpg再現部(346小節)も弓のスピードと切れ味が抜群で、みずみずしい木管のリズム打ち、コクのあるチェロの歌、濃密な木管のオブリガードなど聴きどころが満載! 

“こまねずみ”のようなスタッカートから駆け上がる頂点の鋭い立ち上がりとトランペットの強奏は、切れば血の出る鮮やかさでさばくショルティが持ち前の直情径行ぶりを発揮。
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まるで灼熱の太陽がギラギラと照りつける中、スポーツ刈りにしてTシャツと短パン姿で汗だくになってジョギングする若き作曲家の姿が浮かんでくるではないか。


第2楽章 アンダンテ・コン・モート
sv0116g.jpgピシリと整ったバスの歩行リズムにのった〈巡礼の行進〉は、引き締まった旋律線の美しさが印象的で、ショルティは曲想に陰影を付けることに興味を示さない。硬い音で筋金入りのカンタービレを聴かせるのがユニークといえる。

オンマイクのクラリネットが生々しく浮かび上がる第2主題(45小節)の“デッカ・マジック”も聴きどころだろう。ヴィオラと木管が歌う第2句の正確なピッチや、「コツコツ」とメカニックな拍を刻んで音楽を機能的に磨き上げていく匠の技は時計職人を思わせる。  amazon

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第3楽章 コン・モート・モデラート
sv0043a.jpgメヌエット風の歌謡楽章は拍節感が際立っているのがショルティらしく、内声部をえぐり出し、強弱指定にメリハリをつけたドラマティックな民舞が進行する。

付点をバネのように弾むトリオのパラフレーズは筆路明快で、誇張したフルートのトリル、筋肉の付いたフーガ、ベルにマイクを突っ込んで録ったようなホルン信号など、奏者にスポットライトを当てた鮮明な音場が鮮やかに出現するあたりは、なるほど、レコード録音のマジックといえる。
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第4楽章 サルタレッロ、プレスト
“豪腕ショルティ”が本領を剥き出しにするのがフィナーレのサルタレッロ。先制パンチをお見舞いするがごとく痛烈な和音打撃を叩き込み、タランテラのリズムにのった舞曲が弦を削るように進行する。肘を直角に曲げたカマキリのような動作によって奏者を鞭打ち、ひた押しに押してゆくショルティの棒さばきが痛快である。
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「彼の採用したテンポはとにかく速めだったが、それは肘を大型の植木鋏みたいに奇妙に角張った形で動かすばかりでなく、マラソンでもしているみたいに上半身でバランスをとりながら、音楽を進めてゆくことと関係があったのではないか。私などにはどちらが原因で、どちらが結果か、必ずしもいつも判断できなかった。が、いずれにせよ、あの姿はあんまり〈品がよくなかった〉。」 吉田秀和著『世界の指揮者』より、筑摩書房、2008年)



sv0092a.jpg最大の聴きどころが切れのある鋭いフレージングと苛烈なリズムで爆発する総奏の頂点(30小節)。メンデルスゾーンのなよやかな肌を先鋭なリズムで切り刻み、アクセントを際立たせるスタイルは武闘派ショルティの面目が躍如しており、3連リズムで急迫的に畳み掛ける決めどころで抜群の運動能力を発揮する。  amazon

急降下爆撃機のように突撃して打ち込む骨ばったファンファーレ(85小節)は割鶏牛刀の嫌いはあるが、歯ごたえのある金属音が聴き手の耳を刺激する。

sv0043f.jpgタランテラのリズムを遮る中間部の破調の音楽(122小節)はイスラエルフィルの弦楽奏者の腕の見せどころだ。

縦割りで決めていくトスカニーニに対し、ここでは拍節をまもりつつ、切れ目なく滑らかに歌い継ぐイスラエルフィルの弦の妙技を心ゆくまで堪能させてくれる。これに対峙しながら瞬間湯沸かし器のように激しく燃え上がるタランテラの頂点(179小節)もすさまじい。
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強靭なシンコペーションとバネを効かせたリズムの切れは冠絶しており、肉体的な昂奮を煽りながらトスカニーニを凌ぐテンポで真っ向勝負をいどむショルティの力ワザにはただもう圧倒されるばかり。

ConductorOrch.DateSourceTotal
ToscaniniNBC so.1954.2.26,27BVCC380277:335:476:255:4925:34
SzellCleveland1962.10.26SRCR25457:165:207:055:2125:02
SoltiIsrael po.1958.5UCCD37827:016:196:255:2825:13
SoltiChicago so1985.4FOOL2308710:02*6:457:305:3429:51
SoltiWien po1993.2.6,7POCL14559:52*5:256:355:4127:33

竹を割ったようにスカッと締める和音終止は後腐れがなく、目の覚めるようなスピード感とオーケストラの名人芸に酔わせてくれる一枚だ。


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[ 2018/06/16 ] 音楽 メンデルスゾーン | TB(-) | CM(-)

フルトヴェングラーのベートーヴェン/交響曲第7番(1943年BPO盤)

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ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調 作品92
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1943.10.30,31,11.3 Philharmoniesaal
Recording Engineer: Dr.Friedrich Schnapp
Source: Reichs-Rundfunk-Gesellschaft (SFB)
Length: 37:34 (Mono Live) /Olsen No.89
TOWER RECORDS  amazon  HMV
icon


フルトヴェングラーのベートーヴェン第7番と言えば、ウィーンフィルとのスタジオ録音盤(1950年)と並んで土俵に上がるのがベルリンフィルの実況録音盤(1943年)だ。

sv0065p.jpgこれは西側に一大センセーションを巻き起こしたソ連のメロディアLPが初出とされるが(1971年)、演奏のすばらしさと同時に1つの謎がもたらされた。

それは終楽章の冒頭2小節が欠落していたことで、筆者も初めて買った輸入盤(Olympic OL8129)を聴いて落胆した記憶がある。


英ユニコーン社がメロディア盤(青レーベル)からダビングして発売したレコード(WFS-8)や、米オリンピックを原盤とするフィリップスの交響曲全集(SETC7501~8)、さらにはユニコーンを原盤とするエンジェル盤(WF-60047)、返還テープ(デジタルコピー)によるグラモフォン盤(F20G-29088)なども聴き漁ったところ、これらはいずれも再現部などを使って欠損部分が補完されていた。

sv0115g.jpg1992年12月に日本向けに再プレスされたメロディアの黒レーベル(M10-49727~8)では、旧番号(D027779~80)では欠落していたとされる終楽章冒頭の2小節が収録され、完全な録音になっていたのが嬉しかった。

しかし、これはメロディアが他の演奏から流用して補修を行っているらしく、ドイツに返還された1462本のオリジナル・テープ(76cm/sec)には第7番が含まれていなかったために原テープの状態は不明だ。

フルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲第7番には、次の5種の演奏と第2楽章のリハーサルがラインナップされている。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
BPO1943.10.30/31,11/3Berlin,Philharmoniesaal, RRGMelodiyaO_089
SPO1948.11.13Stockholm, Konserthuset,SRDiscpcorpO_142
VPO1950.1.18,19Wien, MusikfereinsaalHMV(EMI)O_188
LFO1948.11.13Luzern, Kunsthaus(2mov.Rehearsal)WF Society(F)O_256.4
BPO1953.4.14Berlin, Titania-Palast,SFBWF Society(G)O_333
VPO1954.8.30Salzburg, Festspielhaus,ÖRFSeven SeasO_424

sv0115c.jpg大戦中の①(当盤)は、旧ドイツ帝国放送(RRG)が最新鋭の磁気式録音機「マグネットフォン」を使用してテープ収録したもので、今日聴いても鑑賞に十分たえうる水準の録音。

ここには会場のセキなどのノイズも無指向性球状マイロフォンによって生々しく収録されており、当時の緊迫した時代の演奏会という歴史ドキュメントといえるものだ。

音楽の完成度からいえば③のスタジオ録音盤に一歩譲るが5種の中では最もテンポが速く、より攻撃的で破壊的な当盤を採る音楽ファンは多いのではないだろうか。

NoOrch.DateLevelSourceⅠmovⅡmovⅢmovⅣmov=Total
BPO1943.10.30,31,11.3DGF20G-2908812:459:498:246:3637:34
SPO1948.11.13WSOZ-7587-BS13:1110:088:237:1939:01
VPO1950.1.18,19EMITOCE-1404412:5810:178:426:5138:48
BPO1953.4.14DG415-662-213:1710:418:357:1639:49
VPO1954.8.30OrfeoC293 921 B13:359:338:217:3639:05

「第2次大戦中のライヴ録音なので音質はよくないが、演奏は冒頭から凄絶な劇性を備えている。しかも全体が暗い陰影におおわれ、意志的で毅然としている。表情も彫りが深いが、終曲の浮揚的なリズムと壮大な劇性も比類がなく、いまもこれを凌ぐ演奏はない。」「名曲名盤300NEW①」より小石忠男氏による、『レコード芸術』通巻551号、音楽之友社、1996年)


「ベルリン・フィルとの1943年の録音はずばぬけて印象が強く、創造的な感覚がみなぎっている(とくに万華鏡のような色彩感あふれる第3楽章)。だが組み立てが緻密で、スピード感が興奮を誘う。とくに第4楽章はサイクロンさながらに、行く手にあるものすべてをなぎ倒す勢いだ。意外なことに、43年盤と50年盤では、ベルリン盤のほうがおとなしめで、ウイーン・フィルとのスタジオ録音よりも抑制が効いでいる。むろんここぞというときは力強いが、全体の質感が軽い。」 ジョン・アードイン著『フルトヴェングラー・グレート・レコーディングス』より、藤井留美訳、音楽之友社、2000年)


「フルトヴェングラーの残した録音の中でもとりわけ大戦中のBPOとのライヴは、単に巨匠の愛好家にとってかけがえのない記録であるというに止まらず、すべての音楽愛好家、いやすべての心ある人々にとって不滅の至宝といって過言でない。メロディア発売を契機にして今ではすっかり馴染みとなったこれらの録音も、最近はもっぱら初期LP盤の復刻を競い合う雰囲気があるが、その中でもこの“オーパス蔵”(OPK-7002)は出色の一枚だ。とくに私は〈第7〉を好んで聴く。この終楽章には人間の良心の発露が刻み込まれている。」「フルトヴェングラー没後50年周記念」より桧山浩介氏による愛聴盤ベスト3、学習研究社、2005年)



第1楽章 ポコ・ソステヌート-ヴィヴァーチェ
sv0115e.jpg鉈で叩きつけるような冒頭の強烈なアタックが特徴的で、「ぐしゃ」と音が潰れてしまうような音圧の凄まじさはフルベンでしか絶対に聴けないものだ。

巨匠は序奏の霧中を手探りで歩を進めてゆくが、16分音符に力を込めて駆け上がる低音弦の爆発的な力感や、切れの鋭いフォルテ・ピアノも当ベルリン盤の特徴だろう。
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sv0115f.jpg主部のダメを押すように「ぐい」と引き抜くフェルマータ(88小節)の力ワザは巨匠の代名詞といえるもので、「ドカドカ」と硬いティンパニを叩き込んで勇ましく突き進んでゆくのがフルベン流。

演奏の基本コンセプトに変わりはないが、小結尾手前のピアニシモ(162小節)で大きくポルタメントをかけて秀麗に歌わせているところや、付点や前打音を切り詰めた前のめりの前進駆動がウィーンフィル盤とは違った味わいがあろう。
TOWER RECORDS  amazon [UCCG3688]

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「提示部の終わりに近い162小節で、たいていの指揮者はピアニッシモの指定にとらわれて音楽を殺してしまうが、フルトヴェングラーはさすがに生き生きと歌わせている。凡庸な指揮者と一流指揮者の違いであるが、オーケストラがポルタメントを掛けてしまうのが残念だ。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの全名演名盤』より、講談社、1998年)


sv0115h.jpg聴きどころは展開部のクライマックス(254小節)で、聴き手を鼓舞するようなリズミックで爆発的なゼクエンツの強奏は闘争の精神が漲っている。大見得を切るような再現部(277小節)の突入や、強烈なフェルマータ(300小節)にも腰を抜かしてしまう。

最大の聴きモノがコーダで不気味な音を轟かすバッソ・オスティナート。のたうつような低音弦を土台にした巨大なスケール感とすさまじいクレッシェンドをお聴きあれ! 

頂点に向かって爆進するダイナミズムは、まさにフルベンを聴く醍醐味に尽きるといえる。

「この演奏の凄絶さについては実に筆紙に尽くしがたい。何度聴いても実に圧倒的、熱狂的、驚異的なベートーヴェンである。ぐしゃりと叩き潰されるようなアタック、猛烈な駆動力がもたらす迫力の前進、絞り出される一途で切実な心の歌、怒濤のように膨れ上がるクレッシェンド、猛り狂うアッチェレランドなども爆発的に噴き出すパッションが聴き手の心を激烈に揺さぶるのである。」 松沢憲氏による月評より、GS-2046、『レコード芸術』通巻第717号より、音楽之友社、2010年)



第2楽章 「不滅のアレグレット」
sv0115i.jpg不滅のアレグレット戦没者のレクイエムだ。瞑想的な木管の長い和音(何と10秒)が象徴的で、まるで十字架を背負ったような重い足取りと悲痛な気分に会場が充たされている。  amazon [TOCE8520]

コクのある対旋律(27小節)、ドラマチックに盛り上がる第2変奏(51小節)、ポルタメントをかけた第3変奏(総奏)など深い悲しみが刻印されているのが当盤のツボで、弦楽器がすすり泣いているような感情移入が深い感動を呼ぶ。

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「1943年にベルリン・フィルを指揮したベートーヴェンの第7の演奏を聴いて、まさにフルトヴェングラーの楽曲解釈の真髄に触れる思いであった。フルトヴェングラーは緩慢で、しかも伸び縮みのある自由なテンポで悠々と楽曲を展開している。特に第2楽章でオーケストラの各声部や楽曲の各フレーズがそれぞれ自己の感情を訴え、思う存分に歌いあげ、時にはアナルヒーすら感じさせる。しかも驚嘆すべきは、いかに感情の訴えが強烈であり、いかに各部分が勝手気ままな動きを見せようとも、その背後には部分を支配する厳然とした全体が存在し、きわめてスケールの大きな抑揚と起伏のうちに音楽が実現している。」 芦津丈夫「芸術家フルトヴェングラー」より、岩波書店、1984年)


sv0115j.jpg中間部のリタルダンドは巨匠の常套手段だが、「天からの声」と巨匠が描写するクラリネットやホルンの密度の濃い歌と平穏な安らぎの気分が聴き手の心を慰めてくれる。

沈鬱な弱音で密やかに綴るフガート楽想(183小節)も感動的で、会場に生々しく響きわたる聴衆のセキまでが、まるで音楽の一部になっているように感じられる。これは、第2次大戦下のベルリンの緊迫した雰囲気が塗り込められた歴史ドキュメントにほかならない。  amazon [TOCE3733]

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「第2楽章はフルトヴェングラーの独壇場であろう。しみじみとした音色と歌わせ方、深い呼吸を保つたフレージングとクレッシェンドなど、ことによるとウィーン盤を凌ぐかもしれない。弱音効果も効いている。主題につけられた複前打音を、拍の頭で長く奏するのも賛成だ。反対に拍の前で短く奏するのはワルターで、このやり方だとテーマの重々しい味が失われてしまう。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの全名演名盤』より、同上)


「第2楽章冒頭のため息の動機にはフェルマータが掛けられ、主題のテンポとは切り離された意味を感じさせる。中低弦で始まったテーマにやがてセカンド・ヴァイオリンが加わり、第1ヴァイオリンが最後に登場するが、このあたりからがフルトヴェングラーの本領発揮だ。音色は泣いているかのようであり、歌とハーモニーはホールいっぱいに充満し、ふくれ上がる。特別な仕掛けは何もないのに、こんなにもカンタービレが、人間の心があふれ出る演奏をした指揮者は、あとにも先にもフルトヴェングラーしか居ない。」 宇野功芳氏による「ライナーノート」より、OPK7002、2003年



第3楽章 プレスト
sv0115k.jpgプレストのテンポの速さは尋常ではない。ウイーンフィル盤もめっぽう速いが当盤はさらに凄まじいスピードで、猛烈の一言に尽きる。開始とスケルツォの1回目は小手調べだが、スケルツォ再現のオーボエのテーマ(125小節)から巨匠がアクセルを踏み込んで活気づくのが最大の聴きどころ。

弦からリレー的に下降音型で入っていくところ(342小節)のアッチェレランドがゾクゾクするような興奮を誘い、続くトリル跳躍の息詰まる加速に酔ってしまいそうになる。
amazon [DLCA7007]

sv0115l.jpgトリオ爆発的な総奏(467小節)もスケール感絶大で(トランペットが凄い)、スケルツォの三現ではさらにヒート・アップして荒れ狂うところはフルベンらしさが全開。

まるで何かに取り憑かれたように疾駆する形振り構わぬパッションの爆発に快哉を叫びたくなる。畳みかけるようなフィニッシュの切迫感も即興的で、これはウィーンフィル以上だ!  HMVicon [DCCA0023]

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「スケルツォは最初から一気呵成のスピードだが、テンポが速いために、スタッカートはほとんどレガートに聴こえ、トリオに向けて(コーダに向けて)さらに1段階、2段階と加速がかかる。その突撃のすごさといったらない。反対にスロー・テンポのトリオは圧倒的なスケール感を持ち、大きなリタルダンドに酔い痴れつつ主部に戻る。楽章終結の鮮やかな転身ぶりも印象的だ。」 宇野功芳氏による「ライナーノート」より、OPK7002、同上)



第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ 「舞踏の聖化」
sv0115m.jpg5種の中でダントツの速さで荒れ狂うのが当ベルリン盤だ。開始はウィーンフィルより遅めだが、巨匠の熱がこもるのが小結尾の総奏(104小節)から。ティンパニの凄まじい連打とともに加速をかける荒ワザは 「これぞフルベン!」 と膝を打ちたくなる。

見得を切るように低音弦が「ゴリゴリ」と打ち返す主題の模倣(131小節)、強烈な打撃で宣言する再現部(220小節)、ホルンが獅子吼する〈喜悦のテーマ〉 (24、235小節)、激辛の付点リズムで躍動する第2主題部(263小節)など、自家薬籠中の必殺ワザを惜しげもなく繰り出す巨匠の棒さばきは確信に満ちたものだ。
TOWER RECORDS  HMVicon [TKC322]

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sv0115n.jpg最大の聴きどころは再現部の終止(319小節)からで、進軍ラッパを轟かせ、フォルティシモで猛り狂う爆発的な総奏から楽員が一丸となってコーダへ爆進するところは、血湧き肉躍るフルベンのパッションをいかんなく発揮した名場面。

「1943年の実況録音盤は断然他を圧している」(ピーター・ピリー)、「ことに追い込んでゆくアツチェレランドとクレッシェンドのものすごさは、実演だけあってウイーン盤をさらに上まわる」(宇野功芳)
HMVicon [GS2046]

sv0115o.jpg 「弦の音にしぶきのような精気が走る」(前田昭雄)、「終結部に向けて圧倒的に高まっていく怒濤の興奮!」(松沢憲)、「再現部後半以降の手に汗握る前進駆動、これ以上のものはない」(横原千史)、「何度聴いても再生装置の前で打ちのめさせられる」(渡辺政徳)
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon[ KKC4112]

「フィナーレはまるでフルトヴェングラーのために書かれた音楽のようだ。飽くなきアッチェレランドの波がつぎつぎと押し寄せ、その怒涛は荒れ狂って、コーダではついに狂気の進軍となる。今までのデイスクは録音の彫りか浅いため、もう1つフルトヴェングラーの真価が伝わって来なかったが、このオーパス蔵盤で初めて不満が解消された。それだけに当夜、旧フィルハーモニーホールの客席につめかけた人々の感動は想像もつかない。」 宇野功芳氏による「ライナーノート」より、OPK7002、同上)


sv0104p.jpg同じ熱狂でも整然としたウィーンフィル盤に対し、当盤では第1と第2ヴァイオリンの掛け合いが繋がって聴こえるサーカスの曲芸のようなフレージングが鳥肌モノで、ドイツ崩壊への道をまっしぐらに突き進む極限状況の興奮が聴衆を呑み込んでしまっている。

フルトヴェングラーが戦下のベルリンで燃え上がった空前絶後の一枚だ。
TOWER RECORDS amazon HMVicon [KKC4107]


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LevelMediaDisc no.IssueRemark
英UnicornLPWFS-81972/3メロディア盤(GOST5289~61)のダビング
米OlympicLPOL-8129 修正ナシ(米Olympicはエヴェレスト系レーベル)
fantanaLPFCM-521973/12英ユニコーン原盤
PhilipsLPPC-31974米オリンピック原盤
PhilipsLPSETC7501~71974/12米オリンピック原盤
AngelLPWF-700061975/5英ユニコーン原盤
AngelLPWF-600471981/1英ユニコーン原盤
PaletteCDPAL-10241987/3米パンテオン原盤(SCD1365)
DGCDF20G290881989/8デジタルコピー使用(原盤 427 775-2)
MelodiyaLPM10 49727~81992/12日本向け再プレス盤
EMICDTOCE-85201994/11英ユニコーン原盤(2DJ-4732)
EMICDTOCE-37332000/6英ユニコーン原盤(WFS-8HS)
OPUS蔵CDOPK-70022003/11メロディア盤起し(青レーベル33D-027779~80)
DGCDUCCG-36882004/8デジタルコピー使用
DreamlifeCD/SACDDCLA-70072004/12メロディア盤起し
DeltaCDDCCA-00232006/5メロディア盤起し(ガスト68桃色) 修正ナシ
OtakenCDTKC-3222009/6メロディア盤起し(M10 49727~8 テストプレス盤)
GlandSlamCDGS-20462010/4メロディア盤起し(33D-027779~80) 修正ナシ
KINGCDKKC-41072017/12米オリンピック原盤
KINGCDKKC-41122018/01米オリンピック原盤

音盤について

sv0115d.jpgベト7に関しては、ソ連が接収した録音テープのコピーがドイツ各地の放送局では存在が確認されていないため、音源はメロディアLP(ピンク、青、黄、黒レーベル)、メロディアCD(MEL CD 1000713)およびDGのデジタル・コピーに限られ、当初レコードの主流だったユニコーン系(WFS-8、WF-70006、WF-60047のエンジェル盤、各種EMI盤、おそらく米オリンピック盤やフィリップス盤も)は、その役目を終えたものといえるだろう。

sv0115b.jpg筆者手持ちのLPを聴き比べてみると、音の歪みが激しい劣悪な音質のOlympic盤(OL-8129)、メリハリ感はあるが音が硬いUnicorn盤(WFS-8)に比べれば、DG盤の方がはるかに聴きやすい(冒頭はステレオ的な拡がりがある)。メロディアの再プレス盤(M10-49727~8)は音は硬いがクオリティは高く、ことに終楽章はヴェールの取れた鮮明な音が特筆される。

もっとも素晴らしいのがメロディアの青レーベル(33D-027779~80)から盤起しされたオーパス蔵盤(OPK-7002)で、これまでユニコーン系やデジタルテープ系で聴き慣れた硬い痩せた音に比べると、低音域の自然な膨らみと厚みのある響きを堪能させてくれる。針音もまったく気にならない。これを聴くと、劣化したマスターテープから作られたCDよりも、劣化する以前のマスターテープから作られたLPから復刻したCDの方が音が良い、といわれることに「なるほど」と頷ける。


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[ 2018/05/25 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)