クーベリック=クリーヴランド管のベートーヴェン/交響曲第8番

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ベートーヴェン/交響曲第8番へ長調 作品93
ラファエル・クーベリック指揮
クリーヴランド管弦楽団
Recording:1975.3 Severence Hall,Cleveland
Executive Producer: Dr.Rudolf Werner (DG)
Recordihg Producer: Hans Weber
Recording Engineer: Heinz Wildhagen
Length: 30:22 (Stereo)
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [DG Italy 4715212]


このベトーヴェン交響曲第8番は、1曲ごとにオーケストラを変えて収録したグラモフォンのユニークな交響曲全集の中の一枚。9つのオケの中においては、クリーヴランド管を指揮した第8がとびきりの名演だ。

sv0158d.jpg専属契約によってオーケストラのレコード会社が決まっていた当時、クリーブランド管がグラモフォンで聴けるというのが驚きだった。

さらに、この世界オーケストラ巡りの全集では、オーケストラの配置がクーベリックがバイエルン放送響を振った時と同様にヴァイオリンを左右に振り分けた対抗配置を採用しており(第2、第5のみ通常配置)、ベートヴェンの音楽がこれまでステレオで聴き慣れたものと違った風に聴こえくるのも新鮮だった。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [SACD single layer]

“セルの楽器”といわれたクリーヴランド管弦楽団は、この時すでにジョージ・セルは亡く、ロリン・マゼールが音楽監督をしていたが、この楽団のもつ精密なアンサンブルは健在で、凄腕の名手たちがクーベリックの下でヴィルトゥオジティをいかんなく発揮。しかも自発性に富んだ究極のアンサンブルを実現している。

「9曲全部異なるオーケストラを指揮してという新機軸の全集である。寄せ集めではなく、初めからそのように企画され、ひとつの理念のもとに製作された全集である。オーケストラが全て違うためにあるいは散漫になるのではないかという危惧は見事に覆えされ、クーベリックの大指揮者ぶりがクローズアップされている。何よりも天性の音楽的天分の流麗な発揚と、逞しい精神力の充実、そしてオーケストラ駆使の自在な能力、更に加えて音楽が最も良い意味でうるわしい色と香気の湿潤性をたっぷりもっていることである。それはカラヤンらが使うビニール塗料的色彩と異なり、油絵具の深い質感である。」大木正興氏による月評より、『レコード芸術』通巻第315号、音楽之友社、1976年)


「第8番はなるほどシャキッとした歯切れのよい音だ。指揮はさっそうたるもので、特に第1楽章はまさにコン・ブリオ。それはクーベリックの内にいま生きている音楽生命そのものである。第3楽章のトリオはオーケストラの見事な名人芸である。」大木正興氏による月評より、『レコード芸術』通巻第315号、音楽之友社、1976年)



sv0158a.jpg第1楽章は、のっけからメカニックなアンサンブルに腰を抜かしてしまう。左右に分かれたヴァイオリンの16音符が物の見事に「ぴしゃり」と揃い、室内楽を拡大したような驚異のアンサンブルが展開する。右チャンネルから「ビンビン」張り出すセカンド・ヴァイオリンの刻みの凄いこと! 

爆発的な躍動感とダイナミズムで仕掛ける展開部はヴァイオリンの左右の激しい駆け合い、固いティンパニの打ち込みが冠絶しており、スタッカート・リズムの切れも天下一品だ。管弦のユニゾンをピシりと打ち込むコーダも覇気に溢れんばかり。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [UCCG4968]

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第2楽章もメカニックな歯車が正確に噛み合った緻密なアンサンブルを聴かせるが、再現部の主題変奏を伸びやかに、大きく歌い上げるところにクーベリックの偉大さが透けて見えてくる。
第3楽章はキリッと引き締まったメヌエットだ。歯切れのよい信号ラッパや、トリオで奏でるマイロン・ブルーム(ホルン)やフランクリン・コーエン(クラリネット)といった名人の美しい調べを堪能させてくれる。

sv0158b.jpgフィナーレは鮮度の高いリズムの躍動と優美な歌心を併せ持つ感興に充ちた音楽だ。ここでも指揮者はリズムの切れはもとより、精密機械のようなアンサンブルでオーケストラ芸術の極限を開陳する。
TOWER RECORDS  amazon [PROC1146]

とりわけティンパニの打ち込む固く強い打点から生まれるクリスタルガラスのような硬質の響きが耳に刺激的で、インテンポで歩を進める格調の高さも特筆したい。
筆者がベト8を聴くときに真っ先に手が伸びる一枚だ。


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[ 2021/05/31 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)

黛 敏郎=東京交響楽団の交響詩《立山》

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黛 敏郎/交響詩《立山》
黛 敏郎 指揮 東京交響楽団
Recording: 1973.9.15 世田谷区民会館, 東京 (RCA)
Producer: 井阪 紘
Engineer: 依田 平三
Disc: TWCL1025 (2004/12)
RCA Precious Selection 1000-No.24
Length: 29:31 (Stereo)


懐かしい音盤が四半世紀ぶりにタワーレコード企画のCDで蘇った。交響詩《立山》は、1973年に製作した松山善三監督の同名の映画音楽のための富山県の委嘱作品で、親しみやすい主題を中心に3部から構成された交響詩。

ジャケット帯には1980年の発売と記されているが、それは再発盤(RVC2324)のことで、筆者は学生時代にレコードを友人から借りて聴いており、正しくは1974年が初出盤(JZR2538)。録音データが無いのも不親切だ。

sv0157c.jpg立山は飛騨山脈(北アルプス)にある日本三名山の1つで、大汝山、雄山、富士ノ折立の3つの峰を総称して「立山」とよぶ。立山は古来“信仰の山”として知られ、立山曼荼羅という山岳景観を背景に展開する地獄極楽図が絵解きとして語られる。

ここでは開山縁起、浄土、地獄、布橋大灌頂、禅定案内の世界が暗示され、山麓の岩峅寺や芦峅寺の衆徒たちの布教によって多くの参拝者を集めてきた。

「私の音楽と映画は、この巨大なパノラマを3部に分け、第1部「大地」でその大自然の持った大きさと四季の変化に富む美しさを、第2部「祈り」でその神秘に閉ざされた歴史を、そして第3部「道」では、古代から現代につながり未来に発展しようとしている山と人との関り合いを、進行形のかたちで捉えようとした。」(黛俊郎)


「交響詩《立山》は日本版《アルプス交響曲》だ。映画に即したBGM風の楽曲づくりではなく純音楽として成立させているところに妙味がある。後期ロマン派風のタッチから当時の現代的な手法まで駆使した非常に表現力の多彩な音楽で、特に第2部の〈地獄幻想〉や能楽の〈善知鳥〉を織り交ぜた部分の鬼気迫るような描写力は見事だろう。ヴィヴィッドな音響もすばらしい。」齋藤弘美氏による月評より、『レコード芸術』通巻653号、音楽之友社、2005年)



sv0157b.jpg第1部「大地」は、導入の壮大なメインテーマ〈立山の主題〉があれわれ、立山の四季を中心に大自然の景観が雄大に謳われる。第2モチーフというべき五色ヶ原の〈生命の息吹の主題〉や〈山の花の主題〉の美しいメロディーも聴きどころだ。

なまめかしい低音弦、トロンボーン、シンバル、銅鑼といった楽器の効果音が聴き手の耳を刺激する。うら悲しいオーボエ、チェロ、トランペットの独奏が次々と旋律を受け継ぐところが感動を誘い、自然の織りなす山肌の彩りの鮮やかさが管弦楽によってあますところなく表現されている。

第2部「祈り」ではメロディーが一切使用されない。低音弦の不気味なピッツィカート、軋みを立てるコルレーニョ、ひっかくようなスル・ポンティチェロ、情け容赦なくぶちかますシンバルによって不協和音が絡み合い、能「善知鳥」(うとう)の世界や立山曼荼羅の地獄の情景が生々しい録音によって描き出されてゆく。霊験あらたかな修験者の敬虔な祈りをあらわす錫杖がきこえてくるという演出も凝っている。

sv0157d.jpg第3部「道」の重々しい行進曲調テーマは、〈生命の息吹〉の変奏主題。ホルンのテーマと弦の分散和音、ブラスの打ち込みによって重苦しさが増してくる。「タタタタン、タタタタン」というリズムが加わると、俄然、軍国主義的な行進曲になってくるのが如何にも黛らしく、立山参拝が軍事作戦を遂行するような気分にとって代わられる。

クライマックスの総仕上げは〈生命の息吹〉が行進曲で接続し、〈立山〉のメインテーマが力強く再現する。どこかハリウッド映画を想わせるティンパニの連打によって壮大に締め括られるユニークな一曲だ。


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[ 2021/04/30 ] 音楽 黛 敏郎 | TB(-) | CM(-)