ジュリーニ=シカゴ響のシューベルト《グレイト》

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シューベルト/交響曲第9番ハ長調 D944「ザ・グレイト」
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
シカゴ交響楽団
Recording: 1977.4.8,9 Chicago Orchestra Hall (DG)
Recording Producer/Director: Günther Breest
Recording Engineer: Klaus Schaibe
Length: 58:35 (Stereo)
amazon  HMVicon [SHM-CD]


孤高の名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニは70年代に首席客演指揮者の任にあったシカゴ交響楽団との録音に優れた演奏が集中している。とくに「第9シリーズ」はジュリーニが巨匠として大きく飛躍した時期にあたり、《グレイト》のレコーディングはベルリンフィルの定期ツィクルスで大成功を収めたことが背景にあったとされる。

当時、ジュリーニはシューベルトの音楽に傾倒し、《グレイト》の自筆稿をウィーン楽友協会で研究して大きく心を動かされたという。ここではジュリーニが徹底したレガート奏法にこだわり、独自のカンタービレで歌う一方で、役者をそろえたブラス・セクションを開放的に鳴らし、とくにトロンボーンが歌う楽器であることを強く印象付けている。

「演奏には強い集中力があり、全曲が新鮮さにぴんと身をはねあげたような趣きであり、鮮度の落ちた魚をまな板の上で転がしているような音楽ではない。ここではシューベルトの金管楽器用法に彼が明確な新しい視点をもち、抒情家としてシューベルトの音楽的特性が、まさにその充分に鳴らされる金管の響きのうちにも明らかにされている。それと対照づけられる木管の細く柔らかい音質と表情、ことに弦の弱音の美感などは徹底的に吟味され、練りあげられたもので、歌うことの巧みさを余すところなく示している。第2楽章では驚くべき痛切な感情の切迫がきかれ、第3楽章はリズムの洗練と微妙な明暗抑揚の美しさをいっぱいつめこみ、終楽章はすばらしい生命力でひた押しに押してゆく。シカゴ交響楽団はすべての場面で完全にジュリーニの掌中にある。」大木正興氏による月評より要約、『レコード芸術』通巻第329号、音楽之友社、1978年)


「ジュリーニは84歳の引退に近づくほどに演奏のスケールが大きくなり、表現も深みを帯びていった。驚くべきことはレガート奏法への偏愛だ。シューベルトの《ザ・グレイト》の第1楽章、弾むような第1主題さえ滑らかなレガートで弾かせてしまう美学は尋常ではない。リズミックとメロディアスの対比を演奏の重要性と考えるとき、その片方を放棄してまで「歌」に賭けるとは、ドイツ系の指揮者には思いもつかないことだ。」福島章恭著 『クラシックCDの名盤・演奏家篇』、文藝春秋、2000年)


sv0162b.jpg第1楽章は、「た~りら~りた~りら~りら」と滑らかなレガートで弾くアラ・ブレーヴェの主部に驚かされる。角をさっぱり取り払った柔らかなフレージングは類例がなく、付点リズムの旋律がなだらかな連続の線を織りなしている。

変イ長調で始まるトロンボーンの旋律(200小節)や、〈歓喜の頌歌〉(228小節)を息長く朗唱するあたりは“歌の指揮者”ジュリーニの面目が躍如する。  amazon

再現部やコーダにおいても指揮者はレガート奏法を貫徹。どっしりと構えたインテンポの音楽運びは揺るぎが無く、骨格のガッシリした豪快なサウンドで聴き手を酔わせてくれる。


sv0162c.jpg第2楽章の白眉は、しっとりとレガートで歌い上げる第2主題部のカンタービレ。潤いのある弦楽の調べとコクのある対旋律が木管楽器と溶け合うように歌われてゆく。

16分音符で旋律を美しく織り上げる再現部の味わい深さも聴き逃せない。パンチの効いたブラスの応酬から総休止する〈断罪〉の場面(248小節)は肌が粟立つ凄まじさ! 
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon

スケルツォも強音がしっかり打ち込まれ、マッシヴなシカゴ・サウンドが大きくものをいう。弾むような躍動感と、張りのあるシンフォニックな響きが有無を言わせぬ迫力で迫ってくる。
フィナーレは、切れのあるリズムと重厚なサウンドでジュリー二が生気溌溂と躍動する。圧巻は展開部のトロンボーン吹奏で、カノンで第2主題を「バリバリ」と歌う場面(468小節)は聴き手に大きな快感をあたえている。
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最大のヤマ場はコーダの豪快な和音の連打(1058小節)で、それに呼応する“神様の進軍ラッパ”はシカゴ教(響)信者にはたまらないパフォーマンスだろう。エッジの効いたトロンボーンの衝撃感を克明に再現するシャイベ技師のリアリティに富んだ録音も素晴らしく、いの一番に手を伸ばしたくなる一枚だ。


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[ 2021/09/30 ] 音楽 シューベルト | TB(-) | CM(-)

ショルティ=パリ音楽院管のチャイコフスキー/交響曲第5番

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チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調 作品64
サー・ゲオルク・ショルティ指揮
パリ音楽院管弦楽団
Recording: 1956.5.22-26 La salle de la Mutualité, Paris
Producer:John Culshaw (DECCA)
Engineer:Kenneth Wilkinson
Length: 44:09 (Stereo)
Disc: UCCD-3783 (2007/03)


このディスクはショルティが44歳のときに、ステレオ初期のデッカに録音したもので、ハンガリーの新鋭指揮者がフランスのオーケストラでロシア音楽を演奏するという奇抜な取り合わせ。首席奏者たちがリハーサルをサボって代理の奏者を寄こしたり、アルジェリア軍務の兵役に就いたとして雲隠れしたりで、険悪ムードの中でのレコーディングたったという。

sv0161c.jpgこの音盤は、筆者が学生時代に米デッカのステレオ・トレジャリーシリーズ(FFrr)で聴いた愛聴盤で、ステレオとは名ばかりのEMIのボやけた音に馴染んだ筆者の耳には腰の強いデッカの音は刺激的だった。

フランスの楽団ならではのラテン的な色彩感のある管弦楽、とりわけ開放的に吹き鳴らす金管のドギツイ音に腰を抜かした記憶がある。デッカという名称はギリシア語の10(ダーカ)に由来するらしいが、このレコードは名物プロデューサーのカルショウが仕組んだ“テン(天)の配剤”ではないだろうか。

「第5番においては引き締まったアプーローチで駆け抜けていこうとする指揮者に対して、第2楽章で顕著なように、ヴィブラートをかけてふくよかに歌い込んでいくホルンをはじめ、終楽章で明るく放歌高吟するトランペットなど、どう考えても、当時のパリ管弦楽団が備えていた個性的な響きが全面に浮かび上がった演奏が収録されている。」満津岡信育氏による月評より、『レコード芸術』通巻第680号、音楽之友社、2007年)


「リズムの面で独特なものがある演奏。両端楽章の速い部分での曖昧さを許さない切れ味鋭いリズム感に、快感を感じる聴き手もいるに違いない。しかし、その点と速めのテンポ設定のために、テンポ感が不安定となり、落ちつきがないとも言える。第2楽章主要主題のホルンなど、木管楽器奏者たちが、周りとの調和をものともせず、独自のピッチで吹いているのも面白い。」安田和信氏による月評より、『レコード芸術』通巻第579号、音楽之友社、1998年)



sv0161b.jpg第1楽章は、ショルティがタイトなリズムでフレーズを締め上げるように弾かせているのがユニークだ。猛烈なクレッシェンドで第2主題部に飛び込む音楽はこびは乱暴だが、モルト・カンタービレの名旋律(170小節)を艶やかに歌う弦楽器奏者たちの美学に酔ってしまいそうなる。

拍の頭をきっちり合わせる力強いアタック、猛スピードで煽るクレッシェンド、瞬間湯沸かし器の如く爆発する総奏が聴き手の快感をそそっている。


第2楽章でホルンを吹くのは首席奏者のリュシアン・テーヴェとも代理のミシェル・ベルジェスともいわれるが、ここに聴く独奏は当時のパリ音楽院管が備えていたフレンチ・スタイルのレトロな味わいがあり、独特のヴィブラートや美しい音色が愛好家にはたまらないご馳走だろう。
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前進駆動あるのみの指揮者に対し、「ここぞ」とばかりにヴィブラートをかけて歌い出す奏者の美学が真っ向対立する再現部の名場面(112小節)が聴きどころで、音楽はギクシャクして空中分解寸前だ。金管が切れ味するどく放歌高吟する〈運命動機〉(99小節および158小節)は肌が粟立つすさまじさ!


sv0161a.jpg第3楽章のワルツは、フランス式バソンの奏でるメロディの物憂げな味わいや、中間部の小刻みの走句の名人芸に耳をそばだてたい。
フィナーレでは、ショルティがアクセルを踏み込んでひた押しに押してゆく強力ぶりを発揮。筋金入りのフレージングによる直情的な旋律の歌わせ方、執拗に強調するアクセント、バネの効いたリズムの行進でロシアの憂鬱を吹き飛ばす。

切って捨てるような金管の強調は耳が痛くなるほどだが、無謀ともいえるテンポ設定によってオーケストラを腕づくでドライヴするさまが痛快で、指揮者の怒りがそのまま音楽に投影された軋むような切迫感がまことに面白い。爆演マニア垂涎の一枚だ。


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[ 2021/08/31 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)