フルトヴェングラーのベートーヴェン/交響曲第4番(ライヴ盤)

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ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調 作品60(ライヴ盤)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1943.6.27-30 Philharmoniesaal
Recording Engineer: Dr.Friedrich Schnapp
Source: Reichs-Rundfunk-Gesellschaft
Length: 35:29 (Mono) /Olsen No.83,84
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon[ALT-158]


フルトヴェングラー指揮の〈ベト4〉の大戦中録音には、聴衆なしの放送録音とライヴ録音が存在する。後発のライヴ録音は、メロディアが第1、第2楽章のみを放送録音と差し替えたハイブリッド盤を発売し、その後、デジタルコピーによるSFBへの返還テープ(グラモフォン)や、メロディアの再プレス盤(黒レーベル)によって全楽章のライヴ録音が聴けるようになった曰くつきのもの。

sv0104i.jpgオールセンではNo.83,84の「Second performance, with audience」と記載されるものがこのライヴ盤で、ソ連ではガスト73(GOCT5289-73)で初めて全楽章のライヴ盤(33D-09083~4)が発売されたという。

メロディアのライヴ盤にはガスト73白レーベルシングルレター盤、ガスト73黄色レーベル盤、ガスト80小聖火レーベル盤などがあり、A面とB面でガスト番号が異なる異盤もあるらしい。

1992年に日本向けの再プレス盤(黒レーベル)がM10-49725~6としてピッツィカートの欠落がない〈コリオラン序曲〉との組み合わせで発売されたのがわれわれの記憶に新しい。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
BPO1943.6.27-30Berlin,Philharmoniesaal, RRGVox PL7210O_083, 84, 97, 427
BPO1943.6.27-30LBerlin,Philharmoniesaal, RRGMelodiyaO_083, 84, 427
MPO1949.3.26-29LMunchen, Private archiveNot issuedO_146
VPO1950.1.25,30Wien, Musikfereinsaal,HMVHMV(EMI)O_187
VPO1952.12.1,2Wien, Musikfereinsaal,HMVHMV(EMI)O_317
VPO1953.9.4LMunchen, Deutsches Museum,BRRCA RCL3333O_365

sv0104j.jpgフルトヴェングラーの大戦中の録音は、旧ドイツ帝国放送(RRG)が最新鋭の磁気式録音機「マグネットフォン」を使ってテープ収録したもので、無指向性の球状ワンポントマイクによって旧フィルハーモニーの直接音と間接音が“黄金のバランス”で収録されているという。

マイクの感度もすこぶる良好で、聴衆のセキやくしゃみなどの会場ノイズが明瞭に(盛大に)捉えられ、当時の会場の雰囲気が生々しく収録されている。

「ロシアの音楽ファンがフルトヴェングラーに夢中になったのは、とりわけこれらの実況録音が聴くものに与える腹の底から湧き上がってくるような感動がその理由だった。英空軍による空爆の合間に満席の会場でフルトヴェングラーとベルリン・フィルが行った演奏は、この戦禍の中にあって何者も与えることができないような慰めを聞く人たちにもたらしたのだった。ベルリン・フィルの演奏も今回が最後、という張り詰めた緊張が、コンサートに他にはない永続性を与え、それがテープにもとらえられていて聴くものに感動を呼び覚ますのである。戦後の演奏からは聴けないような切実さや悲愴感をフルトヴェングラーの戦中録音は伝えている。」 グレゴール・タシー「フルトヴェングラーとロシア」より、DLCA-7006、ドリームライフ、2005年)


sv0123a.jpgわが国では1987年に返還されたデジタル・コピーを元にしたグラモフォン盤が流通していたが、これには不自然なエコーがあり、音の劣化が激しいのが難点。

それに比べるとメロディアの再プレス盤(LP)は第1、第2楽章の鮮明な音に驚かされるが、第3楽章以降で音質が落ちる。これはガスト80小聖火(白レーベル)の盤起しのオーパス蔵盤(OPK-7017)やオープンリールをソースとするグランドスラム盤(GS-2153)も同様で、後者は鮮明だが音が痩せて終楽章に音割れがある点がマイナス。

NoLevelMediaDisc no.IssueRemark
2DGCDF20G-290901989/8デジタルコピー使用(原盤427 777-2)
2DGCDUCCD-36862004/8デジタルコピー使用(原盤427 777-2)
2MelodiyaLPM10-49725~61992/12日本向け再プレス盤(黒レーベル)
2OPUS蔵CDOPK-70172006/2メロディア盤起し(ガスト80小聖火)
2DreamlifeCD/SACDDLCA-70062004/12メロディア盤起し
2DeltaCDDCCA-00232006/5メロディア盤起し(ガスト61白色小聖火+ガスト73黄色
2AltusCDALT-1582008/1LPからレーザー・ピックアップによる再生復刻
2GlandSlamCDGS-21532016/10オープンリール・テープ復刻
3PhilipsLPSETC7501~71974/12ハイブリッド盤 1,2楽章のみライヴ録音(米オリンピック原盤)
3KINGCDKKC-41072017/12ハイブリッド盤 1,2楽章のみライヴ録音(米オリンピック原盤)
3KINGCDKKC-41122018/1ハイブリッド盤 1,2楽章のみライヴ録音(米オリンピック原盤)
3EMICDTOCE-85191994/11ハイブリッド盤 1,2楽章のみライヴ録音(英ユニコーン原盤)

sv0115e.jpgしたがって音が生々しくダイナミックなドリームライフ盤(DLCA-7006)を採りたいが、低音がダブつき気味なのが難点。

LPの身元が不明ながら(恐らくメロディアの黒レーベル盤)、エルプ再生によるアルトゥス盤(ALT-158)は第3楽章以降の音の落差がさぼど気にならず、淡泊な音ながら安定感があるが、第1楽章35小節のボコボコしたノイズがいささか耳障りである。
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「LPからのレーザー・プレーヤーによる復刻。43年の放送録音とライヴの両方を収録しているので、フルトヴェングラーの解釈の違いを比較して楽しめる。放送録音のほうはダイナミックレンジが広くなり、音質もかなり改善されているが、シリシリ、ボツポツノイズは残っている。演奏自体はやはり聴衆の入ったライヴのほうが燃焼度が高く素晴らしい。特に両端楽章の緩急は絶妙で、リズムのノリもいい。オケと会場全の興奮ぶりが伝わってくる。放送録音の緩徐楽章の美しさと終楽章の弦の爽やかさも捨て難い。」 横原千史氏による月評より、ALT-158、『レコード芸術』通巻700号、音楽之友社、2009年)



第1楽章 アダージォ-アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0123b.jpgフルトヴェングラーはベートーヴェンの交響曲の奇数番号を好んで指揮していたが、偶数番号の〈第4番〉も愛好し、演奏会でよく取り上げていた。当夜のプログラムはオール・ベートーヴェン・プロで、〈第4〉〈コリオラン序曲〉〈第5〉の順に演奏。   amazon [UCCD-3686]

ここでは導入部の謎めいた静寂の中から空気を切り裂くような8分音符(35小節)と、大地を揺るがすように叩き込むフォルティシモの和音が凄まじく、激震のようなダイナミズムは放送録音のさらに上をいく壮絶さ!
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「フルトヴェングラーの何種類かある第4のなかで、もっとも劇的で濃厚な表現であり、第1楽章の導入部から主部へ移る箇所は、ほかのどの演奏にもないドラマティックな呼吸で進行している。いささかやり過ぎの感もあるが、フルトヴェングラーの手にかかると真実味がある。」 小石忠男氏による月評より、WF60047、『レコード芸術』通巻366号、音楽之友社、1981年)


「ここではオーケストラがベルリン・フィルで表現の密度という点と、ライヴの生々しさという観点から、聴きどころがけっこう多い。この43年盤では第1楽章に主部に入る直前で極度のリタルダンドを与え、ここでの神秘性とその先への期待感を一挙に凝縮して高め、爆発するように主部に突入していく。この部分でこれほどドラマティックに演出されるのも珍しいだろう。」 草野次郎氏による月評より、TOCE3731、『レコード芸術』通巻599号、音楽之友社、2000年)



sv0104n.jpgこのライヴ盤には導入部19小節目の2拍目[1:48]に「ガタン」という会場の大きなノイズがあり、これを取り除くために11小節2拍目から22小節2拍目までを放送録音盤に差し替えたハイブリッド盤が存在することが指摘されている。 桧山浩介氏による「ライナーノート」、POCG-2349、1991年)

米オリンピックを原盤とするフィリップス盤(SETC1-7)は無修正だが、東芝EMI盤(TOCE-8519)では木管が入る10小節4拍目から別の録音になり、同じく木管が入る21小節4拍目からライヴ録音に復帰するという修正が入っているので注意されたい。  amazon [TOCE-8519]


sv0104p.jpg爆発とその余波で飛び込むリズミックな主部は、放送録音盤よりもさらにスピード感があり、荒々しい分散和音で突っ走る疾走感がたまらない魅力といえる。

大きくリタルダンドをかける第2主題、重厚な2分音符のユニゾン主題、推移主題から発展するガッツリとしたカノンはフルベンの面目が躍如する。コデッタへ突入する和音打撃(161小節)や「ぐしゃ」と音が潰れるフォルテの総奏(169小節)も凄まじい(提示部の反復なし)。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [KKC4107]

sv0115o.jpg展開部エピソードのアッチャッカトゥーラ(短前打音)をアッポッジャトゥーラ(長前打音)で演奏(223~227小節)、ティンパニのトレモロを追加(241~245小節、249~253小節)しているのは放送録音と同様。

しかし第2主題の短打音(116~120小節)については放送録音盤とは異なり、楽譜通り装飾を付けて演奏している(390~393小節も同様)。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [KKC4112]

展開部の終わり(281小節)のpppの部分で、極端にテンポを落とすのも個性的で、主題再現のクライマツクスに向かう緊迫感と、猛烈なクレッシェンドて爆発する再現部の解放感は冠絶している。当演奏の不満をひとつ挙げれば、推移主題~コーダ迄があまりにも重厚過ぎて音楽の流れがぎこちなく感じることである。


第2楽章 アダージョ
sv0123c.jpg放送録音盤に比べると旋律が清澄に歌われており、音楽が淀みなく流れているのがライヴ盤の特徴だ。ポルタメントをかけたロマンティックなカンタービレを皮切りに、大波で揺れ動く32分音符の律動や爆発的な和音打撃など、巨匠は音楽に劇的なドラマ性を刻印する。

とくに悲劇的な主題再現(50小節)の頂点が迫真で、オーケストラが全身全霊で演奏する密度の濃さがこの盤の大きな聴きどころといえる。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [OPK-7017]

尚、再現部の2つの主題変奏で装飾音符の扱いが異なっており、42小節を長打音で、65、67小節は省略しているのはフルート奏者の即興によるものだろうか。ピーター・ピリーは当ライヴ録音はホルンの吹き損いを度外視しても「ヴォックス(オールセン84)よりも辛うじていい」と評している。
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「第2楽章の遅いテンポと粘つたリズムも、フルトヴェングラー以外の何者でもあるまい。血が通った、有機的な表現で、盛り上がりのスケール雄大な凄まじさなど見事だが、部分的にはかなりもたれ、ついてゆけない人も多いことだろう。」 宇野功芳著『新版フルトヴェングラーの名盤』より、芸術現代社、1977年)



第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0123d.jpg当ライヴ盤では弦のアインザッツがズレて出たように聴こえるが、返還されたデジタルコピー・テープによるグラモフォン盤(F20G-29090)は、放送録音盤でもやったように、アインザッツがバッチリそろったように修正したと思われる。

音の状態は良くないが、スケルツォの荒武者ぶり重量級の総奏が、ゆったりと奏する翳りをおびたトリオとの見事なコントラストを成している。
amazon [DLCA-7006]


第4楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
sv0115l.jpg整然と造形を決めた放送録音盤に対し、当盤のツボは“熱狂”にある。弦のフレージングひとつをとってもメリハリ感がつよく、適度に荒れた筆圧のつよいフルベン節を堪能させてくれる。  HMVicon [DCCA-0023]

コデッタの狂乱ともいえるリズムの切れも冠絶しており、展開部の走句のすごい加速や、力を籠めたクライマックスの気魄にのけぞってしまう。コーダはまさに疾風迅雷。怒濤の勢いで嵐のように荒れ狂う巨匠の形振り構わぬ演奏に「これぞフルベン!」快哉を叫びたくなる。

sv0123f.jpg尚、当録音の最後の和音の残響がそっけなく途切れたり、フェードアウトする盤(DLCA7006、OPK7017、GS2153)には興醒めで、グラモフォン盤(F20G-29090)にいたってはボワーンと歪んだ気持ちの悪いエコーがある。

残響が自然に残るのはメロディアの黒レーベル盤(M10-49725~6)とアルトゥス盤(ALT158)で、両社は音の消え方がよく似ている。

TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [GS-2153 ]

sv0123g.jpg「やはり聴衆の入ったライヴのほうが燃焼度が高く素晴らしい。特に両端楽章の緩急は絶妙で、リズムのノリもいい。オケと会場全の興奮ぶりが伝わってくる」(横原千史)[ALT158]
「終楽章のいきいきとしたリズムとトゥッティの気迫はコーダまで一気に聴かせる」(横原千史)[UCCG3686]
「終楽章での疾風迅雷といった急速度の中での息づまるクレッシェンドなど、迫力抜群、いつ聴きはじめてもこれしかない」(小林利之)[OP7002]
amazon [MELCD1001112]

当コンサートはフルヴェングラーにとって重要な意味をもつものだった。前日の6月26日にフルトヴェングラーは4人の子持ちの戦争未亡人で、25歳年下のエリーザベト・アッカーマン(旧姓アルベルト)と結婚式を挙げた。

フルトヴェングラーは彼女の子供たちを実の子供のように可愛がり、その後11年にわたって幸せな結婚生活を送ることが出来た。フルトヴェングラーが大戦下のベルリンで刻印した貴重な一枚だ。


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[ 2018/09/29 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)

ヒラリー・ハーンのチャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲

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チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
ワシーリ・ペトレンコ指揮ロイヤル・リヴァプールフィル
Recording: 2008.11 Philharmonic Hall,Liverpool
Producer: Andreas K.Meyer
Recording Engineer: Richard King, Andrew Halifax
Length: 36:26 (Digital)
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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このCDは2010年5月のハーン来日公演にあわせて発売されたもので、サロネン指揮スウェーデン放送響の公演(5月29日兵庫県立芸術文化センター)で筆者はハーンの生演奏を聴くことが出来た。CDは指揮者とオーケストラは異なるが、実演と寸分違わぬスタイルによるハーンの質の高い演奏を堪能させてくれる。

sv0029g.jpgすでに三十路を越えてオトナの雰囲気を漂わせたヒラリー・ハーン(1979年生まれ、ボルティモア出身)は、これ見よがしな派手な技巧や「これぞロシア」といった濃厚なフレージングとは一線を画し、まるで一篇の叙事詩のように、自然体で作品を清冽に物語ってゆくところがこの盤の最大の聴きどころ。

ハーンは「文学作品の登場人物のように、多感であると同時に思慮深く、激しいと同時に傷つきやすく、ロマンティックでありながらその物腰は古風な人物」と作品のイメージを語る。
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「濃厚なロマンや情熱を求める聴きてには、怜悧に抑制がききすぎているかもしれないが、清澄な響きで明敏に彫りなされた表現はいかにも新鮮で、品格美しい。自分が読み取った表現をいかにもしなやかに繊細に歌った演奏は、この協奏曲にこれまでになくデリケートな冴えた陰影をもたらしている。チャイコフスキー臭を巧みに消し去って、その音楽の美しさをこのように美しく彫琢し、たおやかに明らかにした演奏も稀であり、ハーンならではのすぐれてユニークな名演というべきだろう。」 歌崎和彦氏による月評より、UCCG1500、『レコード芸術』通巻第718号、音楽之友社、2010年)



第1楽章 アレグロ・モデラート ニ長調
sv0029a.jpgこの曲のキモはメランコリックな第2主題(69小節)で、ハーンの繊細かつキメ細やかなフレージングが印象的だ。「これぞロシア」といった脂っこい歌い口とは異なり、クールなリリシズムを湛えて清冽に歌い込んでゆくのがハーンのスタイル。

ギスギスしたところのない滑らかなフレージングが耳に心地よく、決めどころの高音の冴えたリテヌートやG線をたっぷり響かせた絶妙のルバートもハーンの“必殺ワザ”といえる。
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ハーンの小悪魔的な技巧を存分に見せてくれるのがピウ・モッソのコデッタ(107小節)。快速に弾きとばす小刻みの走句、ブリッジ部(111小節)の大きなリタルダンド、連続トリル(119小節)の切れ味のするどさなど、1864年製の名刀ヴィヨーム(J.B.Vuillaume)の冴えた響きが特筆されよう。

sv0029b.jpg大な聴きどころはモルト・ソステヌート(162小節)の第1主題変奏と、技巧的なカデンツァ(2111小節後)。緻密に彫琢しながらも瑞々しさを失わず、ヴィルトゥオーゾ的な難技巧のパッセージを当たり前のように弾いてしまうところはまさにクール・ビューティ。

ヤクザな崩しを入れたひと昔の大家とは趣を異にしたダブルストッピングなど、まるでバッハの音楽のような厳粛な気分を漂わせているのがハーン流。フレージングの入念な取り回しと品格の高さがあますところなく示されている。
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全曲の白眉はニ長調で歌う再現部の第2主題で、繰り返しの16音符(259小節)をリテヌートし、オクターヴあがった頂点ですすり泣くように繊細な美音を聴かせるあたりはロマンティシズムの極地といえる。コーダのオーケストラとの掛け合いは迫力の点では物足りなさがあるが、ほどよいテンポで節度のある終止を決めている。



第2楽章 カンツォネッタ(小さな歌) アンダンテ ト長調
sv0122c.jpg聴きどころは中間部で歌われる憧憬をたたえた第2主題(40小節)。ここではハーンがやわらかなヴィブラートをかけて甘い香りをまき散らす。柔らかな肉の付いた色気のある音色がたまらない。

スタイルはあくまで端正で、スラヴの音楽があたかもブルッフの協奏曲のように、ロマンティックなバラードに聴こえてくるではないか。木管のオブリガードを生々しく捉えた録音も秀逸である。
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第3楽章 フィナーレ アレグロ・ヴィヴァーチシモ ニ長調
sv0122a.jpgここでハーンはトレパークの第1主題を3度反復する部分について、レオポルド・アウアーのカットが習慣化していた69~80小節、259~270節、476~487小節を復活し、オリジナルの楽譜のどおりに演奏する。これが冗長さをまったく感じさせない、こなれたものになっているのが驚きだ。

「オリジナル版の方がより長いドラマティックな流れがあたえられ、バランスのとれた生命力が感じられるのです」とハーンは語る。
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sv0122b.jpg大きな聴きどころはポコ・メノ・モッソの第2主題(145小節)。ここではジプシー調の旋律にこってりとねばりを入れ、緩急自在にルバートをかけて濃厚な味わいを醸し出す。
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一転して農民舞曲(テンポ・プリモ)では速いテンポで弾き飛ばし、歯切れの良い和音を打ち込むところや、スタッカートの3連音から16音符で第1主題へ駆け込むポコ・ア・ポコ・ストリンジェンド(450節)の洗練された弓さばきは「こんなものは屁の河童!」と言わんばかり。

アウアー門下の老大家たちにこれを聴かせたら「こんな小娘にしてやられるとは・・・」と地団駄踏んで悔しがるに相違ない。
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sv0122d.jpgモルト・モノ・メッソの第3主題(196小節)も聴きのがせない。哀愁を帯びた名旋律をハーンは大きくルバートをかけ、艶をのせて連綿と歌い込んでゆくところが感動的だ(ここでもオイストラフが省略する423~430小節を演奏)。
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オーケストラとダブルストッピングで対峙するコーダ(566小節)の掛け合いはハーンのシャープなフレージングが痛快で、鋭利な刃が「スッ」と軽やかに舞う研ぎ澄まされたフィニッシュは洗練の極みといえる。
名曲をスタイリッシュな弓さばきで仕上げたユニークな一枚だ。


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[ 2018/09/15 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)