ショルティ=シカゴ響のショスタコーヴィチ/交響曲第8番

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ショスタコーヴィチ/交響曲第8番ハ短調 作品65
ゲオルク・ショルティ指揮
シカゴ交響楽団
Recording:1989.2 Orchestra Hall, Chicago (DECCA)
Producer: Michael Haas
Engineer: Colin Moorfoot
Length: 62:54 (Digital Live)
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ショスタコーヴィチの交響曲第8番「戦争3部作」の2番目にあたる作品で、15曲のシンフォニーの中で最も悲劇的で暗い雰囲気を持った謎の曲だ。勝利を謳歌することなく終わって肩すかしを食らわすフィナーレが論議をよび、“雪どけ”まで黙殺された経緯もあって、頻繁に演奏されるようになったのは1980年代以降のこと。

sv0074b.jpgこの《タコはち》は、ショルティがシカゴ交響楽団の音楽監督に就いて20シーズン目のコンサート・プログラムに選ばれたもので、ショルティのショスタコーヴィチ第1弾となったライヴ録音。

徹底したリハーサルを重ね、細部まで完璧に仕上げることを常とするこのコンビにとって、演奏ミスを別テイクに差し替える必要性などないことからライヴ録音もセッション録音も基本的なコンセプトに変わりはないという。

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ここでは名人オーケストラが持てる機能性をフルに発揮、とくに中間2つの楽章はその名人芸を極限まで示したもので、精緻なリズムさばきや超絶的なアンサンブルは冠絶している。最大の聴きものがギャロップ調の行進曲で、トランペットの神様が歌うパンチの効いた〈行軍の歌〉が聴く者を魅了する。パッサカリアの肉付きのよい弦楽サウンドも聴きごたえがあり、ショルティは管弦の充実した響きによって戦争の悲劇と犠牲者への哀悼をあますところなく描き出している。

「ショルティ初のショスタコーヴィチである。シカゴのオーケストラ・ホールでライヴ録音と記されているが、バーンスタインのライヴなどと同じく聴衆のノイズなどは感じさせない。演奏はこれこそ超の文字を冠したい名演である。アンサンブルの技術が比肩するものがないほどすぐれていることは、いうまでもないが、ショルティの表現は創意と感興にみちあふれており、凄いほどの内燃性が鮮烈な表情で示されている。」 小石忠男氏による月評より、FOOL20462、『レコード芸術』通巻第469号、音楽之友社、1989年)


「ショスタコーヴィチもショルテイのオハコの1つである。同じ快感でも、こちらはマーラーと違って、その馬力がアイロニーに働きかけて哄笑を呼ぶ。ケッと笑った後に来るザラッとした苦味が、ロシアの演奏ほどネットリと絡みつかない。この8番は、シカゴ響最大の武器であるブラスセクションの呆れるほど圧倒的な集団的名人技も存分に聴けて、このコンビの典型的な魅力を堪能できる。」 『200CD 指揮者とオーケストラ』より中野和雄氏による、立風書房、1995年)



第1楽章 アダージョ
sv0074c.jpg力強い第1主題〈エピーグラフ〉(題辞)は、「ザリザリ」と低音弦がうごめく触感が生々しく、弦の重量感と筋肉質の響きはまぎれもな“シカゴ・サウンド”だ。

アンサンブルに僅かな乱れが生じているが、実演の緊迫感が生々しく伝わってくる。この楽章の中核となるのがピウ・モッソ(練習番号8)の内省的な弦の歌(副主題)。5拍子の変則的な伴奏にのって、いつ果てるとなく不安げな表情で悲劇の情景がクールに歌い込まれてゆく。  amazon

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役者を揃えたシカゴ響のブラス・セクションが持ち前の本領を発揮するのが長大な展開部だ。落雷のようなティンパニと小太鼓の苛烈な打ち込みがくわわると、いよいよ副主題のリズムにのった第2主題がドラマティックに展開する。悲鳴のような木管の第1主題(練習番号25)、精密機械のように刻む弦のエネルギッシュなスケルツォ、「スカっ」と吹き抜く4本のホルンの豪放な3連音、「ポコポコ」と打ち込むシロホンの歯切れの良い連打など、音のご醍醐味が満載!

sv0074e.jpg最大の聴きどころがアレグロのグロテスクな行進曲(練習番号29)[15:29]。トルコ行進曲のパロディーとされる〈コラール風ファンファーレ〉がカノン風に展開する場面は、破局へまっしぐらに突き進む“地獄の行進”だ! 

威圧的な全管の斉奏によって第1主題を吹き上げるクライマックス(練習番号34)もすさまじい。“弦付きブラバン”の異名をとるシカゴ響ならではカタストロフの轟音は圧巻で、《マンフレッド交響曲》(チャイコフスキー)の主題によく似たトランペットの強烈なひと節(295小節)によって、ショルティはこの曲の悲劇性を熾烈なまでに提示する。  amazon
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《トゥオネラの白鳥》(シベリウス)を思わせるイングリッシュ・ホルンによるモノローグ(練習番号35)のクールなリリシズムも印象的で、低音弦で厳かに再現する副主題(練習番号41)と、弦楽の翳りのある響きで消え果てるコーダの第2主題(練習番号44)によって、聴き手を深い悲しみの中へ誘っている。


第2楽章 アレグレット
sv0074f.jpg威圧的な軍隊行進曲調のスケルツォは、ショルティがシカゴ軍団の威力をまざまざと見せつける。

ドイツ流行歌《ロザムンデ》のパロディーから、楽員を睥睨してスコアにひそむ残忍さと滑稽さを黙々と炙り出すショルティの姿が音楽の情景にぴたりとマッチする。聴きどころは中間部(練習番号53)の器楽的スケルツォ。  amazon
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戯けた調子で駆けめぐるピッコロの冴えた妙技は、権力者にヘコヘコとおべっかを使いながら、見ていないところで尻をたたいて「あっかんべ~」をやる道化師のようで、諧謔的なメロディーを生真面目に演奏。精緻なスタッカート・リズムにのって、ぴょこぴょこと飛び跳ねる小クラリネット、屁をこくようなファゴット、華麗に舞うトランペットといった名人奏者たちの悪魔的な競演にゾクゾクしてしまう。

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sv0074g.jpg圧巻は、第2主題が再現する〈第2トリオ〉(練習番号67)。弦のオスティナート・リズムとスネアドラムの乱打にのって、急速な軍隊行進曲へと変貌する場面は、このオーケストラの究極のダイナミズムを示したものだ。

急速に解体してゆくコーダ(練習番号70)では、消滅するかに見せかけて激烈なとどめで聴き手を仰天させるあたりは、凄腕集団のパンチ力と仮借のない統率力を発揮する鬼軍曹の面目躍如といえる。  amazon


第3楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
sv0074d.jpgヴィオラの分散和音による急速なペルペトゥーム・モビーレ(無窮動)は、類い希なリズム感覚を持つショルティが、オーケストラ技能の完全性を極限まで追求する。

精密機械のような〈トッカータ主題〉に低音弦の力強い和音を叩き込み、木管の悲鳴のようなオクターブ下降にトランペットを「スパっ」と打ち込む切れ味の良さは抜群! 強烈なバルトーク・ピッツィカートを重ねる〈叫びの主題〉(練習番号83)の生々しさや、トロンボーンとテューバのグロテスクでメカニックな衝撃音もたまらない。  amazon

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最大の聴きどころは、低音弦から立ち上がる中間部のギャロップ調の行進曲(練習番号97)。このエピソードは千両役者の登場といってよく、名物奏者が行進リズムにのって華麗なソロを奏でる“行軍の歌”が聴くものを惹きつける。「スッタカタッタ」と鋭い合いの手を打つ小太鼓も感興を高め、平行和音で奏する弦の柔らかな応答が心地よい。

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滑らかなグリッサンドで駆け上がり、木管楽器が「ひょ~」と間断なく受け継ぐところは名技集団による“音のサーカス”にほかならない。第2句のトランペットがパンチの効いた掛け合いを演ずるところはゾクゾクするような興奮を誘っている。

sv0074h.jpg第3部(練習番号103)では、弦のすべり落ちるようなグリッサンドにシロホンが「スコン!」と打ち込まれるところも聴きどころのひとつで、音楽的な快感はもとよりオーディオ・マニアの耳をくすぐる箇所ではないかしら? 

コーダ(練習番号110)は無窮動リズムをffで叩き出すティンパニにも注目だ! 打楽器奏者が、まるで楽器に恨みでもあるかのように「バカスカ」と鼓面を叩き込むさまは痛快で、明快な打点によって“肉体的な興奮”を喚起するショルティの鋭敏なリズム感覚にとどめを刺す!  amazon


第4楽章「パッサカリア」、ラルゴ
sv0074i.jpgパッサカリア主題は、9小節ずつ11回の低音弦で反復され、その上に対位法的な変奏の声部を築いてゆく手の込んだもので、声部の入りと主題の切れ目がずれて書かれているために変奏の変わり目がわかりにくい。

ここでは、低音主題をクールに織り込む歌い口から美感がしっとりと滲み出てくるのがショルティの上手いところで、冴えた管楽器のソロを散りばめる第5変奏(練習番号114)や、クラリネットが根太い切分音で伴奏をつける第9変奏(練習番号121)などから悲劇の重みがどっしりと伝わってくる。

半音下げた最終音から、ハ長調の明るい春の兆しを明瞭に提示しているのも楽譜を見るに敏なショルティらしい。
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第5楽章 アレグレット
sv0074o.jpgファゴットが自信なげに奏するロンド主題〈喜びの歌〉は、力弱い変奏を繰り返して旋律を外れてしまうところにずっこけてしまうが、フルートの楽しげなスタッカート楽句が飛び出すと、明るい気分が戻ってくる。

ここで、作曲者が挿入する2つのエピソードが印象的だ。チェロが滔々と歌うロシアの憂愁(第1副主題)とバス・クラリネットが奏する不気味な舞曲(第2副主題)。「ぶりぶり」と肉付きのよい半音階で低回する目まぐるしい旋律に、田舎風のヴァイオリンの対旋律が絡みつくと明るい兆しが見えてくる。 TOWER RECORDS  amazon

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聴きどころは「ガツン!」と打ち込む力強いティンパニの一撃とともに、金管が〈喜びの歌〉を吹き放つストレッタ楽段(練習番号151)。ショルティが勝利を確信したかのように力瘤を入れてブラスを掛け合わせるところは、聴き手が「待ってました」と膝を打ちたくなるところで、木管が“祝福の歌”を斉奏するところはエネルギュッシュな解放感に溢れんばかり。

sv0074p.jpgクライマックス(練習番号159)は第1楽章〈エピーグラフ〉がfffで炸裂する。悲痛な強奏を4度ぶちかまし、トランペットが悲劇の主人公を象徴した“マンフレッド・ファンファーレ”をハイCから強烈に吹きぬくところが最大の聴きどころだ! とどめは5発の和音打撃と断末魔のようなブラスの喘ぎによって、闘いの終結が告げられる。

再現部は調子外れのヴァイオリン独奏が空虚に響き、2つのエピソードもどこか悲しげ。ファゴットのロンド主題は「トホホ」と情けなく、ピッコロやヴァイオリン独奏も意気消沈して途絶えてしまう。 

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コーダ(練習番号172)は高音弦がハ長調の和音でたなびく中を、c-d-cの〈喜びの歌〉が低音弦のピッツィカートによって幕を閉じる。難解なテーマをスコアから明快に描き出し、圧倒的なパワーと技巧で曲のツボをおさえた1枚だ。


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[ 2016/08/27 ] 音楽 ショスタコーヴィチ | TB(-) | CM(-)

朝比奈のショスタコーヴィチ/交響曲第5番

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ショスタコーヴィチ/交響曲第5番ニ短調 作品47
朝比奈隆 指揮
大阪フィルハールモニー交響楽団
Recording: 1981.2.16 Festival Hall, Osaka (Victor)
Recording Director: Naohiko Kumoshita
Recording Engineer: Fumio Hattori
Length: 47:32 (Stereo Live)
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タワーレコードが復刻したショスタコーヴィチ《第5番》マーラー《第8番》の交響曲を組み合わせたアルバムは、3大Bのスペシャリストの朝比奈にとっては珍しい演目で、とくにショスタコはこの曲の邦人初のレコーディングとされ、朝比奈特有のコクのある骨の太い“大フィル・サウンド”が完成した時期のものだ。

sv0021f.jpg朝比奈によるとショスタコ作品は大フィルの前身である関響時代から交響曲第1番と第5番を好んで取り上げていたというが、大フィルと第1回定期演奏会(1960年5月)で演奏した以外は、北ドイツ放響とのライヴ録音(同年1月)が知られていた程度で、第172回定期演奏会をライヴ収録した当盤は録音条件が整った貴重な録音といえる。

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京大オケ時代に亡命ロシア人のエマヌエル・メッテルに師事した朝比奈(以下オッッサン)にとって、ロシア音楽は音楽人生のいわば原点といってよく、メッテル仕込みの豪快な気風はショスタコーヴィチの作品においてもいかんなく発揮されている。

本番一発録りのテイクであるが故に、合奏の綻びや危うさも随所にみられるが、討ち死を覚悟で真剣勝負に打って出る猛々しさと、荒々しい“大フィルサウンド”が聴き手を圧倒する。

「骨太の音楽にあらわれた朝比奈の存在感に圧倒される。彼が手兵の大フィルとともに手がけた記念碑的なライヴ録音で、現場の熱気まで感じさせるところがいい。じつに生真面目で真っ向勝負の、信念に貫かれた演奏で、今は亡き名指揮者の資質をじかに伝えてくれる。とくに深く感じ入ったのはショスタコーヴィチのきりっと引き締まった迫真の音楽である。巌として迷いのない歩み、常に緊張を失わない弦楽器の響き、やや遅めのテンポで醸し出す雄大なスケール。諧謔味には欠けるとしても、これだけの凄みをみせる演奏はめったにない。」 白石美雪氏による月評より、NCS561/2、『レコード芸術』通巻第678号、音楽之友社、2007年)



第1楽章 モデラート
sv0064a.jpg「ぐい」と強い筆圧で弾ききる低音弦のカノン進行は力強く、「出だし千両」が口癖のオッサンらしい気魄に充ちた緊迫感が、のっけから聴き手を圧倒する。

1音1音を厳粛に紡ぐオッサンの生真面目な足取りは確かな手応えを感じさせてくれるもので、高弦がたなびく澄みきった響きからは、崇高な気分すら漂ってくるではないか。

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もってりと吹き出されるフルートとクラリネット、滔々と副主題を歌い上げるヴィオラのコクのあるフレージングも特筆モノで、弓をたっぷりと使い、息を大きく吹き込むことを重んじる“朝比奈節”が苦悩に充ちた楽想をあますところなく描き出す。死者を弔うかのような鎮魂の気分の中に、一本筋が通っているのがいかにもオッサンらしい。

sv0064b.jpg音楽が動き出すのは、第2主題を拡大して示威的な行進曲となる展開部(練習番号17)。不気味なピアノのリズムにのって、ブラスが鈍い響きで打ち込むマーチは威勢がよく、リズムは重く美感を欠くが、オーケストラを力づくで引き回して高揚するところは音楽が勇ましい。

その頂点(練習番号27)で小太鼓をガンガン叩き込んで突き進む壮大なファンファーレ(ポコ・ソステヌート)は、オッサンが岩だらけの山道を素手でよじのぼるような骨っ節の強さがある。

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圧巻は序奏と上下を逆転した弦楽カノンに、ブラスが副主題をぶつける強大な二重カノン(練習番号32)。マシンガン銃のような小太鼓の生々しい衝撃感には仰天するが、赤穂浪士の討ち入りのごとく敵陣の中へ正面きって突進する猛々しさは比類がなく、「ぶぁ~と思い切って吹け!」と楽員を鼓舞するように、野性的な“大フィル・サウンド”を全開させて強行突破するオッサンの力業をとくと堪能させてくれる。

sv0064c.jpg第1主題を総奏で歌い上げる再現部(練習番号36)もオッサンの荒武者のような気魄に揺るぎがない。メッテル師仕込みの強烈な打撃を叩き込み、オーケストラが軋むような音を立てて絶叫する強烈なユニゾンは、ゴツゴツとした原石剥き出しの武骨さで聴き手をねじ伏せる。その威厳にみちた足取りと尚武の気風はオッサンの面目が躍如している。

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苦悩と闘争のあとに、ひとときの安らぎを感じさせるフルートとホルンのカノン進行(練習番号39)も聴き逃せない。夜のしじまの中で秘めやかに漂い、儚く消えてゆく独奏ヴァイオリンの澄みきった抒情美(コーダ)は、木訥剛毅なオッサンが曲尾でみせる“奥の手”といってよく、聴き手には嬉しい不意打ちだろう。



第2楽章 アレグレット
sv0064e.jpgリズムは野暮ったいが、低音弦を「ズンズン」打ち込んで勇ましく突き進むところは浪花の親方そのものだ。

祝典的なファンファーレにひと呼吸のパウゼを入れるのも田舎臭く、打楽器を「ドカドカ」とぶっきら棒に叩き込むところは、まるでヤクザの親分が組員を引き連れて殴り込みをかけるような武骨さで、軽妙なユーモラスや諧謔味にはほど遠い。
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ここでは管楽器の独奏やアンサンブルの調子が今ひとつ上がらず、キメの粗さやリズムの甘さ、ピッチの不正確さなど、かつて「関響はひどい、あれでは管狂だ」と揶揄されたこのコンビの“泣きどころ”も随所に露呈する。

sv0064d.jpgとくにマルチ的な録り方と響きの不足のせいか、演奏が丸裸にされたように聴えてくるのは奏者にはいささか気の毒だろう。そのようなコンディションの下で、コンサートマスター(稲庭達か)の独奏ヴァイオリンの腕の確かさがひときわ光る。

ティンパニの痛烈な打撃で「がつんがつん」と締め括るコーダの荒々しいまでの気魄も圧巻で、「とにかく力いっぱい大きな音で弾け!」と檄を飛ばすオッサンの心意気を感じさせる力強いフィニッシュといえる。
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第3楽章 ラルゴ
sv0021a.jpgオッサンは極太の毛筆に墨をたっぷりつけて、抒情的な楽想を壮大に歌いぬく。「これでもか」と弦に圧力をかけ、クレッシェンドでぐいぐい盛り上げていく頂点のラルガメンテ(58小節)は、マーラー音楽のような重厚さで音楽の肝を鷲掴みするのがユニークだ。

第2主題のフルートとハープ(練習番号79)、第3主題のパニヒーダ(練習番号84)を切々と紡ぐ木管とグロッケンシュピールなどマルチ・マイクで捉えた音場もじつに明瞭。

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「真ん中の2つの楽章は大変面白く、まあ全体に傑作といっていいですな。私はこの曲をハンブルクの北ドイツ放送交響楽団でやったことがあるんですが、第3楽章をやっていると楽員同士コソコソといっているんです。〈これ、マーラーじゃないか〉と・・・・」 『朝比奈隆 音楽談義』より、芸術現代社、1978年)


sv0021c.jpg中間部の音楽は真実味に溢れ、「ここぞ」とばかりに低音弦をごりごり打ち返して激高する頂点(練習番号89)の決めどころは、このコンビらしい豪快なサウンドを堪能させてくれる。

最大のクライマックスは、チェロが「ぐい」と最強奏で弾きぬくデクラマシオン(練習番号90)。オッサンは身をよじるように精魂を込めて〈パニヒーダ〉を歌いぬく。

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ひたむきに己が心情を音に託し、音を抉るような勁烈な力は確信に充ちたもので、内部に強い緊張感と威厳を秘めた迷いのない音楽が感動的だ。「楽譜を理解するだけでは十分ではない、音楽は魂で掴み取るものなんじゃ」といってはばからぬオッサンの声が聞こえてきそうだ。



第4楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
sv0021b.jpgどっしりと立ち上がる行進テーマはオーソドックスなドイツ風のスタイルを継承したもので、堅固な構築物のように威風堂々と突き進む。オッサンが東ドイツの楽団に客演した際に、「アーベントロートそっくりだ」と言われたことに「なるほど」と頷けよう。

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めくるめくテンポの変転や機動力を生かした名人芸に背を向けた腰の重いマーチはモッサリしたスタイルだが、革命歌調のファンファーレ(練習番号108)を凱歌のように「がっつり」と吹き上げる総奏(練習番号110)は、“浪花のど根性”というべき野性味に溢れ、野武士を思わせる指揮者の芸風にぴたりマッチする。
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sv0004c.jpg聴きどころは、トランペットのオスティナートの後に銅鑼をくわえた強烈な打撃で再現する第1主題の総奏(練習番号111)。猛獣の大咆吼のごとく発射された大音響は凄まじいばかりの破壊力で、牙を剥き出しにした大フィルのパワーに腰を抜かしてしまう。

「よよ」と泣き崩れるように浪花の浪漫をこってりと織り上げる2つの〈エピソード〉(練習番号113,119)や、行進曲が帰ってくる再現部(練習番号121)の緊迫感も無類のものだ。

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ホルンが回想する革命歌がずっこけるなど大きな綻びも飛び出すが、複数のテイクを繋ぎ録りした音盤に演奏芸術の本質を云々する批評家が、演奏技術の精度によって朝比奈=大フィルを論ずるのはけしからんことで、適度に荒れた雑味の中にこそ本物の旨味と音楽の醍醐味が仕込まれている朝比奈芸術の本質を見誤ってはならない。

sv0021e.jpg喨々と吹き上げるロシア民謡風の主題(練習番号129)は、戦時中に白系ロシア人が多く属していた満州のオーケストラを指揮した経験を思わせるスケール感があり、シコを踏むように闊歩するコーダの威勢も絶大! 

とどめはこのコンビの代名詞たる「ずしりと響く重低音と金管の豪快な咆哮」をぶちかまして、オッサンは最後の博打に打って出る。
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ピッチの不正確さや合奏のキメの粗さもなんのその、息も絶え絶えに絞り上げる全管弦楽の猛烈な怒号と、あらん限りの力を込めて叩き込む打楽器の大連打は、ライヴならではの壮絶なフィナーレを伝えてあますところがなく、浪花の親分が討ち死に覚悟の一発録りで大勝負を挑んだ渾身の一枚だ。


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[ 2016/03/19 ] 音楽 ショスタコーヴィチ | TB(-) | CM(-)

バーンスタインのショスタコーヴィチ/交響曲第7番《レニングラード》

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ショスタコーヴィチ/交響曲第7番ハ長調 作品60
レナード・バーンスタイン指揮
シカゴ交響楽団
Recording: 1988.6.23 Orchestra Hall, Chicago (DG)
Excective Producer: Hanno Rinke
Recording Director: Hans Weber
Recording Engineer: Karl August Neegler
Length: 84:48 (Digital Live)
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ショスタコーヴィチの交響曲第7番は戦争を主題とする標題音楽的な作品で、戦争3部作の一角を成すシンフォニーだ。1941年ナチス・ドイツによるレニングラード包囲戦を体験し、自らも消防手の資格で音楽院の屋上監視員の任務についた作曲者は、この曲をプラウダ紙上で「ファシズムに対する戦いと、我々の来るべき勝利をわが故郷のレニングラードに捧げる」と語ったことから《レニングラード交響曲》とよばれた。

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この音盤はバーンスタインが37年ぶりにシカゴ響を振って話題を呼んだ演奏会のライヴ録音で、名人オケを自在に操り、客演とは思えぬ息のあった演奏をやってのけている。筋肉質の響きで力強く歌い上げる〈人間の主題〉はもとより、〈戦争の主題〉で炸裂するパワフルなオーケストラ・サウンドが最大の魅力で、名人オケがその威力をフルに発揮する。

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何よりも素晴らしいのが楽想にきめ細かく刷り込まれた情感ゆたかさで、ヒューマンに歌いあげる音楽はレニーのための大交響曲《レニーグランド交響曲》といえる。シカゴ響の名物奏者のパフォーマンスも冠絶しており、ことに木管の美しさは比類がなく、各パートを的確に捉えた解像度の高い録音はライヴ録音とはとても思えない。

「この演奏に、ショスタコーヴィチの音楽の二重言語的性格を炙り出す批評性を求めることは難しい。バーンスタインは、むしろ作曲者がぎりぎりの場所で抱いていた“人間への希望”に賭けることを選ぶ。80分を超える長さに膨れ上がったこの演奏は、シカゴ響の強力無比な合奏を武器に、スターリニズムもヴォルコフの『証言』も蹴散らし、瓦礫と轟音の中からヒューマニズムをつかみとる。終結部の音響の洪水にただ絶句。」 矢澤孝樹氏による月評より、UCCG4101~2、『レコード芸術』通巻第664号、音楽之友社、2006年)


「ショスタコーヴィチの《いのちの曲》の最もすばらしい演奏! 第1楽章で遠くから聴こえてくる行進曲主題が執拗にくりかえされ、クライマックスに達したときは、作曲者も指揮者もわれわれ聴衆も腸捻転寸前だ。そのあとの満ち足りた幸せのハーモニーの癒しも心にしみる。第2楽章の内容の豊かさや心のショック、第3楽章の熾烈な憧れの歌。それは〈第5〉の同じ楽章をはるかに上回る感動作で、どこまでが作曲家でどこまでが指揮者の表現なのか分からないほどだ。」 『新盤・クラシックCDの名盤』より宇野功芳氏による、文藝春秋、2008年)



第1楽章 アレグレット-「戦争」
sv0054c.jpg第1主題〈人間の主題〉は筋肉の付いた弦のサウンドと、鋼のような金管、マッシヴな打楽器の応答は聴き応え充分。要所で叩き込む打撃はパンチが効き、豪壮な中にもゆとりと風格を感じさせてくれる。

第2主題〈平和な生活の主題〉[練習番号6]はレニーの人情味あふれる歌い口が魅力的で、弦の繊細で澄みきった響き、オーボエの長閑な風情、生々しい低音弦やバス・クラリネットの音のご馳走も満載だ。心に沁みるようなピッコロの冴えた響きと独奏ヴァイオリンの美感も特筆されよう。

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sv0054d.jpg展開部[練習番号19]に相当する長大なエピソードはボレロまがいの〈戦争の主題〉。ナチス軍の侵入マーチが小太鼓の連打と弦のコル・レーニョにのって聴こえてくるが、軽快なフットワークで陽気に奏するのがレニー流。第3変奏など、とぼけたオーボエとそれを模倣する間の抜けたファゴットが兵隊ヤクザの珍道中のようで、まるで戦争が茶番劇のように伝わってくる。

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「一言でいえば、人間愛に溢れたショスタコーヴィチである。たとえば第1楽章で、表向きには“ナチスの脅威が押し寄せてくる”と説明されている有名なマーチ(裏的には、“スターリン時代の恐怖政治”とも言われているが)すら、まるで幸福の国からやって来た“平和の使者”たちがダンスしながら行進している、といった趣なのだ。」 福島章恭著『交響曲CD絶対の名盤』より、毎日新聞社、2005年)


sv0054f.jpg聴きどころは、第1、第2ヴァイオリンが平行3和音でメロディーを奏する第6変奏[練習番号33]だ。《ボレロ》でいうと7度目のA主題が弦に出てくる箇所に相当するが、シカゴの弦は柔らかく、まるで羽毛のような軽やかなフレージングで上質の響きを紡ぎ出している。弦楽4部のアンサンブルに拡大する第7変奏は、フレーズを「ぐい」と押し込む重量級の弦楽ユニゾンに満腹してしまう。

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シロホンと弦がシャッキリとリズムを打ち、それにホルンが喰らいつく第8変奏[練習番号37]、弦と木管のグロテスクな対旋律がのたうつ第9変奏[練習番号39]は、シカゴの名人奏者の面々が牙を剥いて吠え掛かる。木管と弦の旋律をかき消すようにブラスが爆発する第10変奏もすさまじい。

タンブリンをくわえた打楽器群が炸裂するところはシカゴ教(響)信者にはたまらない魅力だろう。鋼のようなブラスのテーマ打ち、爆音を轟かせる管弦楽、鉄槌のように打ち込む和音打撃が渾然一体となった第11変奏のダイナミズムは究極のオーケストラ・サウンドといえる。

「テーマの反復と増大を、バーンスタインくらい赤い血潮とともに表出した指揮者はいない。主題は同じなのに楽器の数はしだいに増え、音彩はますますすごくなり(第8変奏)フォルティッシモに達しておどろくべき雄弁な色の旋律とともに奏されるところは、聴いて腸が捻れそうだ(第9変奏)。作曲者も腸捻転寸前だったのではあるまいか。このあたりのバーンスタインの棒はショスタコーヴィチの気持ちを代弁してあますところがない。」 『宇野功芳のクラシック名曲名盤総集編・改訂新版』より、講談社、2007年)



sv0054g.jpgオーケストラが頂点に達した瞬間、〈レジスタンスの主題〉を連呼して〈侵入のマーチ〉を制圧してしまう場面[練習番号45]は、シカゴ・ブラスのパワーが聴き手の度肝を抜く。ここではバンダとして配置された別働隊(第2金管群)が〈侵入のテーマ〉の変形を凄絶に打ち合うが、レニーの力点は〈人間の主題〉を絶叫する再現部の壮大なカタストロフ[練習番号52]にあることは言うまでもない。

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主題の断片をドラマチックに打ち叫ぶ〈死者のレクイエム〉では、指揮者が声涙共に下る大熱弁をふるうが、〈侵入のテーマ〉を切り裂くように打ち放つ断末魔のトランペットとホルンの斉奏を「ここぞ」とばかりに打ち込むところは“名物奏者”の最高度のパフォーマンスを堪能させてくれる。

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コーダで再現する〈人間の主題〉[練習番号66]は感動的だ。しみじみと郷愁をこめて歌い上げる弦楽の懐かしい調べや、亡き友を偲ぶかのように大きくルバートをかけて歌い上げる〈平和な生活の主題〉[練習番号68]など、ヒューマンな情感を宿した音楽はレニーの真骨頂といえる。


第2楽章 モデラート(ポコ・アレグレット)「回想」
sv0054h.jpg悲哀と皮肉をない交ぜにした弦の主楽想と、オーボエが意味深げに語りかける副楽想[練習番号76]が表情ゆたかに歌われる。後者は旋律から微妙に外れていったり、ファゴットの合いの手の嘲笑が聴こえてきたりで、旋律がツボにはまらないのがおもしろい。

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聴きどころはトリオ。3連音のオスティナート・リズムにのって、甲高い小クラリネット(Es管)のグロテスクな叫び声や、戯けたようなブラスの付点主題が跳梁する。シロホンとピアノのリズムをシャッキリと立ち上げてリズミカルに躍動する音楽はレニーの独壇場!頂点はブラスの爆発的なファンファーレ[練習番号91]で、弦がリズミカルに応答してゆく快調な足取りは、腰で拍子を取って、アメリカン・ポップスのようなノリで快活に踊り出すバーンスタインの生気が迸る。
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sv0054n.jpg悪魔的な弦のワルツ[練習番号93]も聴き逃せない。分厚いブラスの打ち込みとシロホンのトレモロに弦の和音を引き伸ばす音場の生々しさも特筆モノで、弦を指板に「バチン!」と強く叩きつけるピッツィカート[練習番号95]に腰を抜してしまう。

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心の震えのようなフルートの刻みにのって、バス・クラリネットが小ぶしを利かせてねっとりと歌い出す副楽想も個性的で、溜息まじりに呟きながら、ネチネチとやるせない気分で奏する表情のゆたかさといったら!


第3楽章 アダージョ「祖国の広野」
sv0054j.jpg固い音でガッシリと響くコラールの吹奏と、バッハの無伴奏ソナタを思わせる弦の静謐なレチタティーヴォ〈古いロシア風の旋律〉(ラルゴ主題)がすこぶる感動的だ。聴き手の心にしっとりと染みわたる弦の澄み切った響きとシルクのような肌触り、ヴィオラとチェロの和音が「ぐい」と重ね合わされるシカゴ響ならではの強靱でコクのある弦楽アンサンブルを堪能させてくれる。

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フルートがホ長調で歌う第2主題(副楽想、練習番号112)も聴きどころだ。ロシアの自然が香るような素朴で可愛らしい旋律は詩的情緒が溢れんばかりで、春を想わせる清らかな調べは一点の濁りもなく、そこはかとない生の歓びが静かにこみあげてくる。クラリネットと2番フルートの伴奏がくわわると、痛切な憧れと侘びしさを込めてたゆたう調べが聴き手の涙を誘っている。
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sv0054k.jpg中間部[練習番号121]は暴れ馬にのって、ロシアの大地を疾走するようなダイナミックな音楽が展開する。ミュートを付けたホルン、トランペット、急迫的な小太鼓の連打が加わると、戦闘モードで“弦付きブラバン”が期待に違わぬ力量を発揮。

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圧巻は別働隊のバンダが「待ってました」とばかりに強烈なコラールを発する〈練習番号130〉で、トランペットがラルゴ主題を“スペイン風”に変奏したファンファーレを華麗に打ち込むあたりは役者の“格の違い”を感じされてくれる。


第4楽章 アレグロ・ノン・トロッポ「勝利」
sv0054l.jpg主部は〈闘いのテーマ〉。戦闘が動き出すのはシロホンと進軍ラッパが鳴りわたる〈練習番号165(4:14)〉からで、壮絶な戦いのシーンをバンダを加えた屈強のブラス軍団が「やってやるぜ」とばかりにドスの効いた吹奏で爆発する。

獅子奮迅の勢いで突進する騎兵隊[練習番号171~173]や、決死の覚悟で白兵戦を敢行する突撃隊[練習番号175]など、疾風怒濤の勢いで敵を撃破すると、勝利を謳う“革命歌風のメロディー”が聞こえてくる[練習番号175]、といった白々しい情景をバーンスタインが自然に立ち振る舞いながらも、ライヴらしい熱演を展開。

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指板を叩きつけるピッツィカート[練習番号177]や、慟哭の表情を濃厚なルバートで演出するサラバンド風の〈哀悼のエピソード〉[練習番号179]もレニーの個性が生々しく擦り込まれたものといえる。

「バーンスタインはここで大胆にテンポを落とし、白兵戦の修羅場で再突撃を促して全軍を鼓舞するかのようなファンファーレのイメージを鮮烈に刻印する。ドラマティックな山場での全力投球の力業はバーンスタインの最も得意とするところだが、ここは最も篏まった例の一つだ。」 金子建志『クラシック人生の100枚』より、音楽之友社、2003年)


sv0054m.jpgクライマックスは〈勝利のテーマ〉[練習番号202]を朗々と発するホルンの斉奏からで、名人オケが究極のヴィルトゥオジティをいかんなく発揮する。

その頂点[練習番号207]で、ブラバンが〈人間の主題〉のファンファーレを高らかに吹き放ち、勝利を力強く宣言する場面が最大の聴きどころで、トランペットがツボを押さえるたように「ハイC」を即興的に引き伸ばして決めるところにゾクゾクしてしまう。壮大なスケール感をもって「大勝利」を確信させてくれる必聴の一枚だ。

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[ 2015/10/10 ] 音楽 ショスタコーヴィチ | TB(-) | CM(-)

カラヤンのショスタコーヴィチ/交響曲第10番

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ショスタコーヴィチ/交響曲第10番ホ短調 作品93
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1981.2.20,23,27 Philharmonie, Berlin (DG)
Exective Producer: Günther Breest
Recording Producer: Michel Glotz
Balance Engineer: Günter Hermanns
Length: 51:20 (Digital)
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ショスタコーヴィチの交響曲第10番は、カラヤンがレコーディングを行った唯一のショスタコーヴィチの作品で、このCDは1966年の旧盤から15年ぶりにデジタルで再録音されたカラヤン十八番の曲である。カラヤンがこの交響曲を手掛けた切っ掛けは、オイストラフから“最も美しい曲”として演奏を勧められたことによるとされるが、ベルリンフィルを率いてのソ連ツアー(1969年5月)の演目にもこの交響曲が含まれていた。

sv0015i.jpgカラヤンはすでに1966年11月にベルリンフィルのコンサートで演奏し、レコーディングまで行っていたほどだから、手の内に収めたレパートリーの1つとして用意周到に、自信をもって公演にのぞんだに相違ない。
ソ連の聴衆に、名人をそろえたベルリンフィルの高度な技能を披露するにはまさにうってつけの曲で、ショスタコーヴィチは後にオイストラフに「自分の交響曲がこんなにも美しく演奏されたのは初めてだ」と語っている。

「カラヤンは、わずかなデュナーミクの変更を除けば、楽譜に忠実にしたがっており、確信にあふれた表情で、練りに練られた音楽を展開している。ベルリン・フィルも感興を高揚させた名演で、弦群の説得力の強さはもちろん、フルートやクラリネットの独奏のみごとさも筆舌につくし難い。金管も卓越しており、熱気にみちたフォルティシモの盛り上がりの凄さ、壮大な起伏の効果は、ただすばらしいの一言につきる。構成的にも雄大で充実感が強い。」 小石忠男氏による月評、DG 28MG0241、『レコード芸術』通巻第382号より、音楽之友社、1982年)



 第1楽章 モデラート
sv0015b.jpgスターリン時代の呪縛を引きずるような導入部の暗鬱な低音弦の主題(基本動機、ライトモチーフ)は、深々と弓を入れる量感のあるバスが特徴的で、クラリネットの沈鬱なロシア民話風の第1主題(69小節)が弦に受け渡されると、これが力強く盛り上がってゆくところが第1のクライマックスだ。

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上滑りするような弦に粘り気のあるホルンをくわえ、ゴージャスな音響でドラマチックに展開するところがカラヤンらしく、弦楽器の生々しいまでの流動感、固いティンパニの打ち込み、ピッコロの冴えた高音など、デジタル録音の威力も絶大! 〈亡霊のワルツ〉(第2主題)を意味ありげに低回する幻想的なフルートと、しなるような弓使いの妖艶な弦によって、独自の感覚美をあたえながらニュアンスゆたかに歌われてゆく。

sv0015d.jpg展開部は、〈練習番号34〉から突入するクライマックスが大きな聴きどころだ。燦然と輝くトランペット、シャキリと刻む精緻な弦のリズム、獅子吼するホルン、序奏モチーフを弦が力強く上り詰める嵐のような頂点は、カラヤンが確信をもって名人オーケストラをドライヴする。力瘤の入った強いアクセントで轟然と再現部へ突入するところは「どうだ!」と、オーケストラの威力を誇示するカラヤンの鋭い見得がひしひしと伝わってくる。

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第1主題を強奏する再現部〈練習番号47〉に力ラヤンの力点が置かれているのは言うまでもない。弦の分散和音が展開するドラマチックな表現(練習番号47)、ダメを推すかのような管弦の大音響〈練習番号51〉、弦の濃厚なエスプレッシーヴォ〈練習番号53〉など、怒涛のごとく盛り上げるく過剰なまでの演出効果によって、カラヤンはショスタコのスコアから劇性と交響性をあますところなく引き出している。鎮魂歌のように歌い上げるコーダの味わい深さもカラヤンの底知れぬ音楽性を示したものといえる。


第2楽章 「スケルツォ」アレグロ、4分の2拍子
sv0015h.jpg暴君の圧政をあらわすような荒々しいスケルツォは、カラヤン=ベルリンフィルが高度な技能をまざまざと見せつける。

マルカティシモで切り刻む歯切れがよい弦のリズムに、木管の悲鳴をあげるようなメロディーをのせて、急き立てるように走り出すところはゾクゾクするような興奮を誘っている。軽快に打ち込まれるスネア・ドラムのリズムの切れも抜群で、その超絶的な撥さばきに腰を抜かしてしまう。

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「待ってました」とばかりに16分音符をはさんだ走句を精密に疾走してゆくところ〈練習番号74〉は、凄腕の弦楽集団の独壇場だ。苛烈なブラスの打ち込みと目の覚めるような木管の斉奏をくわえ、錯綜するリズムを鮮やかにさばいてゆくカラヤンの職人ワザには驚くばかり。仮借のない打楽器群の一撃を轟かせ、爆発的な音響と凄まじい気魄で中間部に雪崩れ込むところの息をのむ緊迫感は圧巻である!

sv0015m.jpg中間部〈練習番号79〉もすさまじい。つよいアクセントを付けて絶え間ない半音階のフレーズを一糸乱れることなく整然と、流れるようなしなやかさで進行するベルリンフィルの超高性能の弦楽器は筆紙に尽くし難く、およそ名人芸の域を超越している。

これとかけ合う木管群が軋みを立てながら狂奔するところなど、まるでサーカスで綱渡りをするようなスリルに充ちた演奏を展開する。突然飛び出すファゴットの重奏〈練習番号82〉の気味の悪さったらない!

ふたたび旋律を受け取る弦が力をたくわえ、管楽器と渾然一体となって盛り上がってゆく場面も鳥肌モノで、金管の豪毅な軍隊調の行進テーマ〈練習番号85〉、打楽器群の強圧的な連打〈練習番号86〉、威嚇的なファンファーレ〈練習番号87〉など、カラヤンは自分たちの実力を誇示するように、音圧で聴き手をねじ伏せる。突如、音量を落とした弱弦の緊迫感も無類のもので、第1主題のリズムを急迫的に追い込み、一気呵成に幕を引くところは、まるでジェットコースターに乗っているようなスリリングな興奮を味わせてくれる。


第3楽章 アレグレット、4分の3拍子
sv0015g.jpg中心主題は〈DSCH動機〉。D音の連呼のあとに登場するスタッカートの4つの音(ニ、変ホ、ハ、ロ=D、Es、C、H)は、自己のイニシャルの頭文字を織り込んだ作曲者のモノグラム。第1部はこれをフォルテで滑らかに歌う弦のエスプレッシーヴォ〈練習番号104〉が聴きどころで、レガートをかけて弦がねっとりと揺れ動く〈死神のワルツ〉の妖しいまでの美しさに酔ってしまいそうになる。

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中間部〈練習番号114〉には〈エルミーラ動機〉が7回登場する。ホルンが付点2分音符で吹き出す息の長いロシア風の動機は、《大地の歌》(マーラー)の冒頭を模したものとされるが、じつは作曲者が密かに思いを寄せていたモスクワ音楽院の教え子であるエルミーラという女性の名前を音名に置き換えたものであるらしい。朗々と豊かに響くホルンに弦楽の濃厚な調べを溶け合わせ、ピッコロの冴え冴えとした和音をたなびかせる手の込んだ美感が執拗に追求されてゆく。

sv0015k.jpg大きな聴きどころは第3部〈練習番号121〉。決然と低音弦が打ち込まれると、高性能の弦楽集団が腕によりをかけて〈死神のワルツ〉を歌い出す。最強奏のユニゾンで揺れながら、激しさと勢いを増して急迫的に押し込んでゆくところはカラヤンが手の内に収めた聴かせどころで、その頂点で爆発的な和音打撃に対抗する弦が〈DSCH〉を「これでもか」と連打する。

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まるでカラヤンが自分の名前を刻印するかのような筆圧の強さは圧巻で、ホルンが強奏する〈エルミーラ動機〉〈練習番号121〉の張りのある響きや、ブラスが鉛色の和音を重ねる〈練習番号137〉の緊迫感にみちた音楽運びは、技巧の高さもさることながら演出の巧さに思わず膝を打ってしまう。


第4楽章 アンダンテ、アレグロ、4分の2拍子
sv0015c.jpgオーボエのパニヒーダ風レチタティーヴォが抜群に上手く、木管の問いかけから明るい兆しが見え隠れする中で、これを否定する弦楽の思わせぶりな進行は、まるでベートーヴェンの第9を重ねているかのようだ。

主部は、クラリネットの「ぽっぽり!」付点の“呼びかけ”を合図に、喜悦のメロディー(第1主題)が流麗な弦にのって颯爽と進行する。木管のリズミカルな副主題や、“雪どけ”を思わせる上昇音型の〈波の動機〉を精妙にからめながら、ベルリンフィルの妙技が冴えわたる。

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聴きどころは第2主題〈ロシアの踊り〉(163小節)。「待ってました」とばかりにザリザリと音をたてながら勢いをつけ、整然と足並み揃えて進行するさまは軍隊のようで、シャープに切れ込む弦集団のメカニックな早技に腰を抜かしてしまう。低音弦に飛び出すロシア風行進曲のエピソード〈練習番号170〉も聴きのがせない。これがカノン風に力強く展開し、嘲笑のような〈波の動機〉を交錯させながらユニゾンの行進テーマでダイナミックに突進するところは、常勝将軍カラヤンが卓越した棒さばきで聴き手を魅了する。

sv0015f.jpg茶番劇のようにひゃらひゃらと〈波の動機〉が執拗に飛び出すもどかしさをものともせず、あたかも自らをロシアを征服する英雄に見立てて立ち振る舞い、勇渾な音楽に仕上げてゆくのがカラヤンの上手いところだ。

敵を完全制圧するかのように行進リズムを刻む金管の斉奏(練習番号181)は“戦場の英雄”にほかならない。スケルツォ・リズム(第2楽章)を情け容赦なくぶちかまし、管弦楽のユニゾンで絶叫する〈DSCH動機〉(練習番号184)の壮大なスケール感は、カラヤン=ベルリンフィルの実力を最高度に示した究極の“決めどころ”といえる。

余韻嫋々と奏する序奏の再現はいかにもカラヤン節だが、スネア・ドラムの行進リズムにのって、戯けた調子で歌うファゴットやクラリネットの妙技を皮切りに、ベルリンフィルがツボにはまった名人芸を繰り広げる。ホルンが第1主題の“呼びかけ”を大きく吹きのばし(練習番号196)、雄叫びをあげるように〈DSCH動機〉を吹き抜くところは解放の喜びに溢れんばかり。

すかさず〈ロシアの踊り〉で熱狂し、とどめは〈波の動機〉を粉砕するかのように全管弦楽が怒涛のごとく〈DSCH〉を絶叫、ティンパニの4音連打によって華々しい大勝利で締めている。カラヤン=ベルリンフィルの実力をあますところなく伝える極上の1枚だ。


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[ 2014/06/29 ] 音楽 ショスタコーヴィチ | TB(-) | CM(-)