アンチェルのスメタナ/歌劇〈売られた花嫁〉序曲

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スメタナ/歌劇「売られた花嫁」序曲
カレル・アンチェル指揮
チェコフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1958.9 Rudolfinum, Praha
Level: Supraphon
Disc: COCQ84484 (2008/6/18)
Length: 6:22 (Stereo)
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このディスクは、スプラフォン・ヴィンテージコレクションの〈カレル・アンチェルの芸術〉(全10枚)と題したシリーズの1枚で、オリジナル・マスターからの復刻によって再発売されたものである。これらはチェコフィル全盛期“燻し銀サウンド”を堪能させてくれるお宝CDで、廃盤になってしまう前に是非とも揃えておきたい名盤ばかりである。

sv0019b.jpgアンチェルがターリッヒと共にチェコ屈指の指揮者といわれるのは、1950年から1968年の亡命までの18年間、チェコフィルの首席指揮者をつとめ、チェコフィル第2の黄金期を築いたことにほかならない。戦後の混乱のさ中にあったチェコフィルを立て直すために楽員を入れ替え、徹底したパート練習によってアンサンブルを鍛えあげ、ローカルな楽団を機能性をも兼ね備えた超一流のオーケストラへと育て上げたとされる。
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「アンチェル時代のチェコ・フィルはその前後のクーベリックやノイマンとは明らかに異なる独自の雰囲気とカラーがある。あえて言えば峻厳にして明晰。同じオケの素材を使いながらもアンチェルの描き出す音楽には、“無難さ”をよしとしない厳しさが漲っている。」 斎藤弘美氏による月評、『レコード芸術』通巻第666号、音楽之友社、2006年)


チェコフィルがはじめてわが国へやって来たのは1959年のことで、この時アンチェルは、同行のスロヴァークとともに指揮をした。はからずも、時期を同じくして来日していたカラヤン=ウィーンフィルに勝るとも劣らぬ演奏を披露して聴衆を魅了したといわれる。家族を収容所で虐殺されたユダヤ系のアンチェルは、同じ1908年生まれで、ナチ党員であったカラヤンをつよく意識し、激しい対抗意識を燃やしていたという。

sv0019c.jpgスラヴ系作曲家の作品を集めた管弦楽曲集の中で、とくに極めつけの演奏が《売られた花嫁》序曲。いわゆる“お国もの”を一筆書きの鮮やかさで仕上げたパッションと演奏技術の高さは冠絶しており、緻密なアンサンブルから繰り出される生き生きとしたリズム感覚、溌剌とした歌い口、畳みかけるような白熱したコーダの高揚感がすばらしく、とくに弦パートの覇気に溢れた表現と技巧の高さは比類がない。

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「どの曲も好演揃いのオムニバス盤と言える。力感を打ち出すときも、旋律の抒情を際立たせるときも、アンサンブルは率直に音楽反応する一方で、オーケストラの手綱を緩めることなく、引き締まったテンポ設計を土台に颯爽と合奏を捌いていく。スラヴ系の作品を収めた当盤では、そうした知情意のバランスのよさのために、作品の民族的な色合いを適度に生かしながらも、コンパクトで気品を感じさせる演奏が可能となった。チェコ・フィルは管の音色にやや強い癖があるが、渋さの中に底光りを感じさせる弦が聴きものだ。」 相場ひろ氏による月評、『レコード芸術』通巻第695号より、音楽之友社、2008年)


《売られた花嫁》は、ボヘミアの小さな農村を舞台とする喜劇風オペラ。主人公のマジェンカはイェニークという恋人がいるにもかかわらず、両親の借金を理由に地主のドラ息子と結婚させらられそうになる。狡猾な結婚仲介人ケツァールが両親の借金を帳消する代償として、地主の息子以外とは結婚しないとマジェンタに誓約させるが、じつは恋人のイェニークは地主のもうひとりの生き別れになった息子であることが判明、欲深の仲介人にいっぱい食わせて二人はめでたく結ばれる。


ヴィヴァーチェシモ 2分の2拍子 序奏、提示部
sv0019d.jpgスラヴ舞曲風の軽快な小股にひた走る賑やかな導入主題からして、「ぴしゃり」と揃った緻密なアンサンブルに魅せられてしまう。激しい勢いで飛び出す躍動的な第1主題は、特異なアクセントを効かせたスフォルツァンドと、4拍目に弦を「ガッ」と噛みつくようなモチーフが途方もない緊迫感を生み出している。

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第2ヴァイオリンが小刻みに第1主題の走句を延々と駆け続け、第1ヴァイオリンが、ヴィオラとチェロが、そしてチェロとコントラバスが順にフォルティシモで喰らいつく激しい音楽に興奮してゾクゾクしてしまう。特に低音弦がツボを押さえたように「ザリザリッ」と刻み込むところは痛快そのもので、胸のすく思いがする。

sv0019h.jpgメリハリの効いたアクセントと、冷徹ともいえる精緻なリズム感覚によって、猛烈な勢いで突入する全管弦楽のクライマックス(第2主題)は陽気なボヘミア舞曲。シンコペーションを「ぐい」と弾きぬき、アクセントに力を籠めて突き進む。162小節のリズム主題の苛烈なまでのスフォルツァンドの打ち込みと、その強弱感覚の見事さは比類がない。「シャキシャキ」と弾むようなスタイルとその独特の感覚は、彼らが手の内に収めた妙諦としか言いようがない。

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展開部(170~220小節)
木管による序奏主題と第1主題の走句が短く再現すると、木管による可愛らしい中間主題があらわれる。第2ヴァイオリンの刻みにのって、ひなびたオーボエの歌う哀愁たっぷりのメロディーがたまらない。これを受け取る弦の穏やかで優美な歌い口も魅力たっぷりだ。

再現部(221~318小節)
sv0019f.jpgティンパニの目の覚めるようなタタキ込みを合図に、いよいよ鍛え抜かれたチェコフィルの超絶的なアンサンブルがその本領を発揮する。フガート的にまろやかな木管が順に第1主題を紡ぎ、これに弦の後打ちが複雑に絡んでゆくところの弓さばきは“絶妙の極み”というほかはなく、弦楽奏者の腕は冴えに冴えている。鋭利な刃物で「すぱっ」と切るがごとく弦の歯切れの良さは抜群だ!

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まろやかなクラリネット、翳りのあるファゴット、ほっこりと響くホルン、ヴィオラとチェロの木質感のある刻みなど、チェコフィルならではの艶を消したような鈍い光沢を帯びた古めかしいサウンドもたまらない。流れるような弦の応答モチーフが出てくると(273小節)、「ここぞ」とばかり猛烈なクレッシェンドをかけ、爆発するように第2主題の舞曲の総奏へと雪崩れ込むところが大きな聴きどころで、興奮して思わず指揮したい衝動にかられてしまうのは筆者だけではないだろう。

終結部(319~466小節)
sv0019g.jpgコーダの苛烈極まるリズム主題の打ち込みもすさまじい。「これでもか」と弦の楔を打ち込んでくる熱気漲るアクセントと「ぴしり」と整ったアンサンブルの切れがとてつもない興奮を呼んでいる。トランペットの合いの手の打ち込みも気合い充分。第2主題を木管がしみじみと回想したあとに、中低弦のさざ波を伴奏に、いよいよヴァイオリン群が「待ってました」とばかりに勢いをつけて走り出す。

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ばりばり弾き飛ばして高音域へと駆け上り、激情的ともいえる表現によって一気呵成に畳み込む。引き締まったアンサンブルに鞭を入れ、韋駄天のように目まぐるしく駆け抜ける俊敏極まる表現はアンチェルの独壇場で、弦楽パートの覇気に富んだパッションが、聴き手に興奮と痛快な余韻を与えている。アンチェル=チェコフィルの最盛期をつよく印象づける一枚だ。


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[ 2014/08/13 ] 音楽 スメタナ | TB(-) | CM(-)