アンセルメのサン=サーンス/交響曲第3番

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サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調 作品78「オルガン付」
エルネスト・アンセルメ指揮
ピエール・スゴン(オルガン)スイス・ロマンド管弦楽団
Recording: 1962.5 Victoria Hall, Genève (DECCA)
Engineer: Kenneth Wilkinson
Disc: UCCD7065(2001/4)
Length: 34:15 (Stereo)
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アンセルメ指揮のサン=サーンス交響曲第3番は、録音の優秀さで音楽マニアの度肝を抜いたアナログ期の有名な音盤だ。スピーカーの前にタオルを掛けておくと重低音で揺れることで評判になったというが、筆者は学生時代に貧しい装置であったにもかかわらず、針で擦ったオルガンの震動音に腰を抜かした記憶がある。

sv0088b.jpgデッカ・サウンド最大の“マジック”の1つが、決して一流ではなかったスイス・ロマンド管弦楽団をヴィルトゥオーゾ・オーケストラように聴かせてしまったこととされる。

はからずも1968年の日本公演で「オーケストラが二流」、「名演奏はレコード録音のマジック」という風評が巻き起こり、わが国ではこのコンビの評価と人気が急落したという。


「残響の少ない日本のホールでは、オーケストラの本当の音を聴いてもらえないのが残念です。ロマンド管の音を味わっていただくのには、ジュネーヴのヴィクトリア・ホールで聴いてもらわなくてはなりません。」 志鳥栄八郎著 『人間フルトヴェングラー』より、音楽之友社、1979年)


sv0088c.jpgアンセルメが残念そうに語ったように、ダニエル・バートン設計の同ホールは低音が極端に抑えられ、高音は艶やかさと華やかさにあふれた独特の響きをもつために、ドイツ音楽には不向きだがフランス音楽には最適とされる。

「スイス・ロマンド」とは、「ロマンス語圏(フランス語)のスイス」という意味で、ここでは管楽器の独特の音色やニュアンス、とくに鼻にかかったような木管のイントネーションとラテン的で華麗なブラスの響きに特徴があり、今では失われてしまったフランスの古き良き香りが音盤に刻まれている。


sv0058p.jpgこの録音ではデッカ特有のオーケストラ各楽器の生々しさは後退し、距離感のあるクールな音づくりが指向されている。

これはオルガンの音でオーケストラ全体を包みこむように録る“デッカ・ツリー”のマイク・セッティングによるもので、やわらかな金属和音がオーケストラにしっとりと溶け合う第1楽章[第2部]など、合成して仕上げた不自然な響きとは次元の異なる質の高いサウンドを堪能させてくれる。

「サン=サーンスはおびただしいレコードのなかでも白眉の一枚。全体を通じて、純粋に、感覚的に、演奏しているが、そこにサン=サーンスの古典性とロマン性の融合をあざやかにとらえている。しかもまったく無理をしない手作り的な詩情には、指揮者の悠揚とした風格が自ら反映しており、スイス・ロマンド管弦楽団もふしぎなくらい色彩的なアンサンブルをくりひろげる。録音はかなり以前のものだが、いまきいても第一級の音質である。」 小石忠男氏の月評より、K20C8639、『レコード芸術』通巻第411号、音楽之友社、1984年)


「骨格的にはやや弱いが、極彩色の豊麗なオーケストラの響きに魅せられる、彫琢された美しさをもった演奏である。表面はサラッと流しているようだが、その実、細部まで神経のよくゆきとどいた表現で、ことに管楽器のバランスと、リズムの扱いの巧妙さという点では抜群だ。オルガンの明るい音色と、スイス・ロマンド管との息がぴったりと合っているのも、こころよい。2楽章形式のなかでさまざまに変化する曲想を明確な指揮で描き分けながら、作品の対位法的な性格を堅実に表現した演奏だ。」 志鳥栄八郎著『不滅の名曲はこのCDで』より、朝日新聞社、1988年)


「アンセルメは、理知的な演奏を心掛ける指揮者であり、サン=サーンスの演奏にはうってつけだ。スイス・ロマンド管の音がいい。鼻に掛かったフランス語のようなオーボエや、お洒落で軽みのある弦の歌が魅力的である。アンセルメ盤はサウンドが全体にしっとりしていて、サン=サーンスの天才性を明らかにするよりは、きわめて自然体のものとして聴かせる。」 福島章恭著『交響曲CD絶対の名盤』より、毎日新聞社、2005年)



第1楽章 [第1部] アダージョ~アレグロ・モデラート
sv0088d.jpg〈怒りの日〉に由来する第1主題が弦の16分音符の裏拍から開始するのがユニークで、同じ音が拍を跨っているために聴き手は感覚的に“ズレ”を感じるのがこの曲のツボといえる。

アンセルメは遅いテンポによって、このズレの妙味を最大限に提示する。16音符1つ1つに、これほど丹念にズレを感じさせてくれる演奏もめずらしく、老巨匠は縦の線をあわせるドイツ流の拍節感から生ずるズレの感覚を逆手に取り、これを明瞭に示して聴き手に快感をあたえている。

しかも「サラサラ」とやって小粋に聴かせているのが“音の魔術師”アンセルメの上手いところだ。  TOWER RECORDS  amazon  HMVicon

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sv0088e.jpgサン=サーンスは詩、絵画、天文学、数学と幅広い才能を持った作曲家だったが、アンセルメもまた、幾何学者の父と小学校の教師を母に持ち、“数学の神童”として才能を発揮した。ローザンヌの工業学校と大学で数学と物理を、ソルボンヌ大学で数学と哲学を学んで数学の教師をやっていたアンセルメにとって、幾何学的な音型を緻密にさばくことなど朝メシ前。  TOWER RECORDS  amazon

作品の持つ構成を重視し、デフォルメは一切なし。「音符というのは、数字ですからね・・・」とアンセルメは語る。

コール・アングレとファゴットで演奏する副主題(55小節)は、“こぶし”を入れると演歌風になる日本人には親しみやすい旋律たが、鼻に掛かかったようなコール・アングレの詩情味ゆたかな音色、高揚する弦のパッセージ、トゥッティの明るい音色が個性的だ。
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sv0088f.jpg木管がゆったりと逍遥する第2主題(102小節)やコデッタ総奏(132小節)のカラっとした華やぎのある響きも特筆モノで、そのエレガントな風情はロマンド管ならでは。

拍節感のある弦のピッツィカートを打ち込む展開部(159小節)は理路整然と音符をさばくアンセルメの独壇場。木管リズムに輪舞のような弦を絡めて洒脱軽妙な甘さと粋を散りばめているところが心憎い。
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せわしく駆動する総奏の頂点(232小節)の決め所は、パンチ力や圭角の鋭さが欲しい気もするが、皮をゆるく張ったティンパニのやわらかな打点から繰り出すどっぷりした〈怒りの日〉のテーマがユニークで、放歌高吟する〈演歌主題〉、明るい響きで風韻よく刻む弦の16分音符リズムなど、いささかも角張ったところのないラテン的な開放感に溢れている。


第1楽章 [第2部] ポコ・アダージョ
sv0088g.jpg弦楽4部がユニゾンで歌う静謐なコラールは、オルガンのA♭の和音がオーケストラ全体を包み込むような、しっとりとした響きに耳を奪われる。

弱音で奏する弦のオブリガートは敬虔な気分に溢れ、リリカルに歌い継ぐ木管の歌や静謐にたゆたう第2句の弦楽ユニゾンの美しさにため息が出てしまう。

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何よりもすばらしいのがパイプ・オルガンのやわらかな響きで、ペダルの感触やパイプに送り込まれる空気の振動すら伝わってくる生々しい音と、オルガンのストップ効果による余韻を心ゆくまで味わいたい。
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sv0088h.jpg変奏部(400小節)は、アラベスク風のフレーズを美しいカノンで織り上げるアンセルメの緻密な棒さばきがものをいう。不安な影を落とす〈循環主題〉のピッツィカート・リズムの中から再現する〈祈りの旋律〉が最高潮に達するクライマックス(439小節)が最大の聴きどころだ。

3オクターブあげた第1ヴァイオリンとヴィオラがディヴィジョンで旋律を奏でるところは、光沢を帯びたような“シルキー・ハイ”のアンサンブルを堪能させてくれる。
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第2楽章 [第1部] アレグロ・モデラート~プレスト
sv0058l.jpg〈怒りの日〉のスケルツォはアンセルメが力瘤を廃して爽やかに駆け巡る。硬いティンパニの打点と木管のリズムの目をきっちりそろえ、理性的で落ち着いた音楽運びが印象的だ。

中間部(第3主題)はサラサラと精妙に刻む弦、4手の連弾ピアノ、軽妙洒脱な木管の掛け合いが聴きどころで、オーケストラの機能性や名人芸を味わうには物足りないかも知れないが、理性的で精確な演奏をやってのけている。
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詩的情緒あふれるニュアンスがうつろう第4主題の味わい深さも格別で、アンセルメは馬鹿陽気になって羽目を外したりせず、しっとりと情感を込めて歌われる。荘重なトロンボーンと気高い弦のカノンで織り上げるブリッジ部のモットー主題も聴きどころで、来るマエストーソの“勝利の予感”を格調高く歌い上げている。


第2楽章 [第2部] マエストーソ~アレグロ
sv0058a.jpg大地を揺るがす重低音とはまさにこのことだ。「ギュイ~ン」とヴィクトリア・ホールに鳴り響く力強いオンガンのC-dur(ハ長調)の金属和音は、音楽マニアの耳を恍惚とさせる“極上のサウンド”で、学生時代に安物のステレオで再生してもオルガンの金属音が絶大な伸びで目前に迫ってきたのが忘れられない。

とくに、383小節の和音を引き延ばして鳴りきる桁外れのオルガン音に耳が痺れたのは筆者だけではないはずだ。
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最高の聴きどころは、〈怒りの日〉が勝利の勝ち鬨となる総奏(392小節)。
弦のアタックにオルガンが「ぎゅんぎゅん」力強く鳴りわたる音場は悪魔的といってよく、レースを編むように繊細な分散和音を散りばめるピアノ伴奏、意気揚々とぶちこむシンバル、明るい響きを放つファンファーレの開放感も抜群、理性的な78歳の老巨匠はここ一番の“決めどころ”で力相撲を展開する。

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sv0058o.jpg主部(400小節)はマーチ風の第1主題をアンセルメがクールにフガート展開。田園牧歌的な第2主題は個性的な音を発するオーボエやコール・アングレ、繊細なニュアンスで歌いまわすの弦のメロディーが聴きものだが、圧巻は〈怒りの日〉の4音を引用して絶叫する展開部(519小節)。

カラッと明るい音で放歌高吟するブラスのラテン的な響きが祝典的な気分を大きく高めている。
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コーダ(610小節)はトロンボーンとトランペットが華やかな打ち合いを演ずるところに心躍るが、アンセルメはストリンジェンドでわずかにテンポを速めるだけで決して熱くなりすぎない。
sv0058m.jpgピウ・アレグロではこの楽団自慢の極彩色の管弦楽が「ここぞ」とばかりに炸裂、オルガンの重低音が波打つ和声進行の中を、燦然と打ち込むトランペットの腰の強い響きが全曲を華麗にむすんでいる。

ロマンド管の華麗な音とツボを押さえたオルガンの鳴りっぷりを満喫できるアンセルメ会心の一枚だ。


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[ 2017/04/15 ] 音楽 サン=サーンス | TB(-) | CM(-)

ロストロポーヴィチのサン=サーンス/チェロ協奏曲第1番

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サン=サーンス/チェロ協奏曲第1番イ短調 作品33
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ独奏)
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1977.4.29-5.1 Abbey Road Studios, London
Producer: David Mottley (EMI)
Balance Engineer: Neville Boyling
Length: 19:08 (Stereo)
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ロストロポーヴィチはアゼルバイジャン(旧ソ連)出身のチェリスト、指揮者で、チェロは7歳より始め、すでに10歳でサン=サーンスの協奏曲を弾きこなしたという。同曲のレコーディングはストリャロフ盤(MK)、サージェント盤(EMI)に続く3度目となるが、ここではイタリアの名指揮者ジュリーニとの初協演が大評判になったと記憶する。

sv0082k.jpgサン=サーンスのチェロ協奏曲は、フルニエに代表される軽妙で洒落たセンスやリリシズムが求められる名曲だが、本来チェロという楽器がもつグラマラスな要素は軽視され、一般には品の良い演奏が好まれていた。

ヴィルトゥオーゾ的な“がっつり系”の演奏を好む筆者としては、そのようなおとなしく生ぬるい演奏がいつも物足りなく感じていた。
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そこに50歳のロストロポーヴィチが満を持して録音したのが当盤で、何よりもジューシイで肉汁のしたたるビフテキのようなチェロの音がたまらない魅力。荒削りだが迫力満点のデュ・プレ盤(EMI、Teldec)、骨太で雄大なシュタルケル盤(マーキュリー)とならんで筆者の指が伸びる愛聴盤にくわわった。

sv0082l.jpgここでは、豪快なボウイングで技巧パッセージを易々と弾き上げるロストロ(以下スラヴァと書く)のヴィルトゥオジティもさることながら、巧緻な棒さばきでしっとりと抒情味ゆたかに寄り添うジュリーニの伴奏が聴きものだ。

クライマックスでは独奏の決めどころの重音パッセージに激しいトゥッティをぶつけて燃え上がる指揮者の熱い心意気も嬉しい不意打ちといえる。
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残響をたっぷり取り込んだまろやかな音場も心地よく、どぎつい音でギンギンと鳴るDG録音とは対照的に、丸みを帯びたやわらかなEMIトーンが味わいをより深めている。

sv0082m.jpg黒のコートを羽織ってスラヴァに向き合うジュリーニのジャケット写真も見栄えがよく(奥さんのマルチェッラの演出だろうか)、マフィア親分のように“渋く”決めたいでたちにぐぐっときて、思わずジャケ買いしてしまう女性ファンもさぞかし多いことだろう。

当セッションとは別に収録された映像(1977年11月ヘンリー・ウッドホール)も見ごたえがあり、CDと併せてDVDも是非とも鑑賞したい。

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「ジュリーニが指揮者として起用されたことはロストロポーヴィチの意向が入っていたかどうかつまびらかではないが、結果からみて適任であったといえる。ジュリーニはこのところすぐれた協奏曲の録音を立て続けに行っている。彼自身非常に立派な音楽を持っているが、同時に独奏者を立てるのがうまいからだろう。ここでも、こまかいところにまで神経を配りながら、急所をピシッと押えた巧者な伴奏指揮に助けられて、この曲のラテン的な特性をものの見事に表出している。さすがロストロポーヴィチは、軽やかな、そしてラテン的で流動感のある表現で精妙にひきあげている。この表現力の幅の広さにはまったく脱帽の外はない。」 志鳥栄八郎氏による月評より、『レコード芸術』通巻第332号、音楽之友社、1978年)



第1部 アレグロ・ノン・トロッポ(1~207小節)
sv0082d.jpg奔流のごとく勢いよく流れる3連音の第1主題からしていかにもスラヴァ風で、ガッガッと弦を削るような低音の弓さばきも豪快。
たっぷりと太い音で奏でる第2主題(54小節)の安定感のあるフレージングも特筆モノで、ほどよきテンポ・ルバートでたゆたう心地よさがたまらない魅力である。

独奏の上行句で高揚するコデッタ(小結尾)は、アニマートのダブル・ストッピングをぐいと引き抜くスラヴァの独壇場。
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sv0082e.jpg大股の歩みで総奏の頂点へと上り詰める“力ワザ”に膝を打ちたくなってしまう。リズミックな舞曲風の総奏(アレグロ・モルト)を間断なく打ち込むジュリーニの颯爽とした棒さばきも印象的で、長いアームスから繰り出される緩やかな振幅運動がじつにさわやかだ。

展開部(テンポ・プリモ)は主題の断片の綾を繊細に織り込む管弦楽が冴え渡る。
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独奏チェロのスタッカート・リズムやアルペジオは決して出しゃばらず、ロンドンフィルの清澄な管弦の響きに溶け合うように協調して奏でているのも聴きどころだろう。しっとりと濡れたように奏でる第2主題の再現もコクがあり、瞑想的に低回するブリッジの息の長いフレージングにも心を掴まれてしまう。


第2部 アレグレット・コン・モート (208~392小節)
sv0082f.jpg弱音器を付けた弦楽スタッカートで軽やかに奏するメヌエット風の舞曲は、物悲しさを秘めたエレジーのようで、繊細な弦楽にしっとりと対位旋律を付けて静かにたゆたう独奏チェロの味わい深さに耳をそば立てたい。

聴きどころは短調に転じて独奏が歌うエスプレッシーヴォ主題(270小節)で、果肉を含んだ蜜のような甘い香りで聴き手の耳を惹きつける。
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ひと筆書きで緻密に仕上げるカデンツァのアルペジオ、管弦のテーマをしっかりと支える密度の濃いトリル、絶妙のルバートによって大きく歌いまわしで高揚する主題再現など、いずれを取ってもスラヴァの個性が生々しく刻印されており、ジュリーニの歌心あふれる伴奏にのって、独奏者は水を得た魚のようにみずみずしく歌いあげている。太い音で問いかける結尾の一節の意味深さといったら!


第3部 テンポ・プリモ (372~654小節)
sv0082g.jpgオーボエによって第1部の主題が回想されると、管弦楽のトゥッティを原調で力強く再現してジュリーニは独奏と対峙する。アン・プ・モワン・ヴィット(すこし緩やかに)で独奏チェロで歌われる“名旋律”は、第1部の主題後半から発展させたものだ。

ここではスラヴァがヴィブラートをたっぷり効かせ、思いのたけをぶちまけるように、ツボにはまった歌い口で聴き手を魅了する。
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楽器をかかえて身をよじるように弾き上げるスラヴァのコクのあるフレージングと、情熱を秘めてぐいぐい弾き回すドラマチックな歌い口がじつに感動的で、木管の物悲しいエコーが哀愁をそそっている。

sv0082h.jpgスラヴァの熱い音楽に応えるように、ジュリーニが激しい気魄でオーケストラの強奏をぶつけてくるのもスリリングで、急速な独奏パッセージ(練習番号L)から、いよいよ大家が目覚めたように“超絶ワザ”を披露する。

急速な16分音符で弾き飛ばす技巧パッセージは闊達自在としか言いようが無く、均質な目の紡ぎ方など究極の弓さばきといえる。
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決めどころのカデンツァ(471小節)の音階を駆け上がる力強さは比類が無く、大見得を切るようなダブル・ストッピングで「ぐいぐい」弾き抜く圧力のある弓さばきは、まぎれもなく大家のものだ。激しい総奏の嵐でこれを迎え撃つジュリーニもいつになく燃え上がるのが最大の聴きどころといえる。

sv0082j.jpgヘ長調で現れるレチタティーヴォ風の第2主題(練習番号O)は敬虔な“祈りの音楽”だ。

ユダヤ人を遠祖に持つ作曲者への共感が湧き上がるように、ゆったりと上昇する旋律から崇高な気分が立ち込めてくるところがこの盤の最も美味しいところで、スラヴァは聴き手の魂を鷲掴みするように内面を掘り下げながら、絶妙のフラジョレットを決めている。
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sv0082i.jpgコーダ(練習番号P)は大きくうねり回す第1部の主題、リズミカルに駆け抜けるコデッタ主題をスケール感溢れるオーケストラが展開。

主題変奏をたっぷりと、太い線で弾きまわす絶妙のフレージングと、恰幅のよいゆたかな低音を聴かせるところはスラヴァの面目が躍如しており、シャッキリと打ち込む爽快な和音打撃が全曲を結んでいる。ロストロポーヴッチの練達の名人芸を堪能させてくれる1枚だ。

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[ 2017/01/01 ] 音楽 サン=サーンス | TB(-) | CM(-)

バレンボイムのサン=サーンス/交響曲第3番

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サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調 作品78「オルガン付」
ダニエル・バレンボイム指揮
ガストン・リテーズ(オルガン) シカゴ交響楽団
Recording: 1975.5 Medinah Temple, Chicago (DG)
Recording Producer/Director: Günther Breest
Recording Engineer: Klaus Schaibe
Length: 34:15 (Stereo)
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バレンボイムがシカゴ響を指揮したサン=サーンス交響曲第3番は、客演指揮者をつとめていた1974-75年シーズンの定期演奏会に取り上げられたプログラムで、LP時代からの筆者の愛聴盤である。ホルガー・マッティースの個性的なジャケット・デザインや、英語とドイツ語表記による力強いゴチック書体のタイトルも印象的だった。

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学生時代に同曲を聴き比べしていたとき「すごいレコードがあるぞ!」と友人の間で大評判になった記憶があるが、俊英バレンボイムがキレのあるリズム感覚によって、ダイナミックでアグレッシヴな演奏を展開している。機能的なシカゴ響のヴィルトゥオジティはもとより、爆発的なオーケストラ・パワーも冠絶しており、シカゴ教(響)信者ならずともパワフルなサウンドに魅せられてしまうだろう。

sv0040d.jpg特筆すべきはクラウス・シャイベがエンジニアをつとめた録音の見事さだ。フランスの名手リテーズを迎えてシャルトルの大聖堂で収録したオルガンパートがメディナ寺院の残響にほどよく溶け合い、その分離の良さと解像度の高さはとても合成したものとは思えない。

終章でオルガンの金属音が「ギュイ~ン」と鳴りきる音の伸びに腰を抜かしたものである。同じDGでも、ノートルダム大聖堂のオルガンを合成したカラヤン盤の固いグロデスクな響きとはおよそ対照的だ。

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「たいへん豪勢な演奏で音の魅力もたいしたものだが、バレンボイムの指揮はこれがたいそうな張り切りぶりで、持ちまえの才気と最近の上げ潮の気運とが手を結んで一段と彼を調子づかせているように思われる。なにしろここには生気がなまなましく鼓動していて、外観は常識的な音響紳士サン=サーンスをはるかに乗りこえて、バレンボイム固有の濃厚な血の色が見えるようでさえある。それはやや毒々しさを感じさせるところさえあるほどだが、私はそれでもなお彼の音楽性が本当に彼自身のものとして走りはじめていることに心打たれた。」 大木正興氏による月評より~『レコード芸術』通巻第309号、音楽之友社、1976年)


「演奏は作品への激しい感興を率直に表しているのが実に興味深い。いかにもバレンボイムらしい捨て身の戦術といった感じもするが、作品の劇性を一種の気負いをもってえぐり出している。それだけに格調にやや乏しいが、きいておもしろい演奏という意味では一、二を争うものといえるかもしれない。」 小石忠男氏による月評より~『レコード芸術』通巻第411号、音楽之友社、1984年)


「ドイツ型のピラミッド風の響きのバランスのまま、スコアを勢いよく鳴らし、速めのテンポを設定しながら、要所で金管を猛然と突出させるスタイルで成功しているのが、バレンボイム指揮シカゴ響であろう。楽曲のクライマックスへ至るアッチェレランドなど、まさに手に汗握る出来になっている。」( 「究極のオーケストラ超名曲徹底解剖4」より満津岡信育氏による~『レコード芸術』通巻第684号、音楽之友社、2007年)



第1楽章[第1部]アダージョ~アレグロ・モデラート
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sv0040f.jpg短い序奏のあとに〈怒りの日〉に由来する主題を弦の16分音符の刻みで、しかも裏拍から開始するのが特徴的で、同じ音が拍を跨っているためにズレを感じるのがこの曲の奇抜なところ。バレンボイムは音のつぶ建ちを緻密に揃えることよりも、音を強く押し出す前進駆動に力をそそぐ。

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コール・アングレとファゴットで奏する副主題(55小節)は“こぶし”を入れると演歌調になる日本人には親しみやすい旋律たが、しっとりとリリカルな味わいを湛えた木管セクションと、〈演歌主題〉をユニゾンで大きく歌い返す弦の“ジャーマン・サウンド”が聴きどころ。勢いをつけて「ぐい」と弾き切る肉厚のフレージングはすこぶる豪快で、ジューシ-な味わいと抉るような切れ味の鋭さは天下一品である!
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sv0040j.jpgコデッタの総奏(132小節)もすさまじい。木管楽器が導く牧歌風の第2主題をシカゴ・ブラスがパンチを効かせて吹奏する。切り裂くような力強い弦楽の分散和音にのって、トロンボーンとトランペットが「待ってました」とばかりに派手な打ち合いを演ずる場面は圧巻で、“弦付きブラバン”の異名を欲しいままにする凄腕集団の歯ごたえのある音にのけぞってしまうのは筆者だけではないだろう。

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展開部(159小節)は鋭いリズムを配するバレンボイムの棒が冴えわたる。休符をはさんだ8分音符の楔をビシビシと打ち込むところは、いささかの攻撃の手を緩めぬバレンボイムの鋭気が伝わってくるようで、管楽器の精密なリズム打ちに弦の副主題を妖艶に滑り込ませるフレージングも絶妙。木管楽器と対話を繰り返すパッセージを歯切れ良く捌くと、再現部のクライマックスだ!

sv0040k.jpg鋭いリズムでせわしく駆動する総奏の頂点(232小節)は、バレンボイムが持ち前の荒武者ぶりをいかんなく発揮する。弦のユニゾンで力強く歌い上げるフォルテの第1主題にティンパニと金管を“がっつり”と打ち込むところはこの曲の最大のツボといってよく、切れば血の出る鮮やかさで名人オケをけしかけるバレンボイムの荒ワザが炸裂する。

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歯切れの良い木管のスタッカート・リズムや、爆風のようなブラスも悪魔的で、オーケストラのダイナミズムと指揮者のたぎるようなパッションが融合した壮絶な音楽が展開。トランペットの強烈なアタックにも仰天するが、「オレ様にまかせとけや」と言わんばかりに野太いホルンが〈演歌主題〉を朗々と吹き放つところは、役者をそろえたブラス・セクションの最高度のパフォーマンスに酔わせてくれる。

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頂点で爆発する総奏の一撃(266小節)のすさまじさも言語に絶するもので、いささか毒が効きすぎる嫌いがあるが、これほど聴き手の昂奮をかき立てる演奏も類例がなく、手に汗握る展開に思わずCDを指揮したい衝動にかられてしまうのも無理からぬところだ。


[第2部] ポコ・アダージョ
sv0040g.jpgたっぷりと響くオルガンのA♭和音と、管楽器が柔らかく奏でる〈祈りの旋律〉のハーモニーの美しさが聴きどころで、オブリガートを重ねる弦のぶ厚い響きはいかにもドイツ風。弦楽のユニゾンで奏でる第2フレーズは聴き手の魂を揺さぶるように、バレンボイムが内なる情熱を注ぎ込んで密度の濃い音楽を創っている。ここでは清らかな敬虔さよりもドラマティックな活力が漲っているのがユニークといえる。

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アラベスク風の変奏主題(403小節)はオルガンの重低音がオーケストラにたっぷりと溶け合い、ヴィオラとチェロがくわわると音楽はさらに深みを増してくる。不安げなピッツィカートの〈循環主題〉が弦楽全体に拡大する中から再現する〈祈りの旋律〉(439小節)が最大の聴かせどころで、コクのある響きでうねうねと情緒たっぷりに歌い回すところはバレンボイムの独壇場。宗教的な気分は言ってみれば添え物程度だが、オーケストラの静謐にして力強い響きと、オルガンの豊饒な余韻に耳を傾けたい。
 

第2楽章[第1部]アレグロ・モデラート~プレスト
sv0040p.jpgスケルツォは才気煥発なバレンボイムがやりたい放題に爆発する。「フランスのエスプリなんぞクソ食らえ、バレンボイム様のお通りだ!」といわんばかりに楽員をけしかけ、一気呵成に畳み込み掛けるところが痛快で、名人オケのシャープなパフォーマンスを堪能させてくれる。

小結尾(練習番号C)の爆発的な勢いも凄絶としか言いようがなく、「どこを切っても、すぐ、血がふき出してくるような、生気溌剌たる演奏」(吉田秀和)というのは、こういう演奏を指すのだろう。

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余談ながら、角川映画 『戦国自衛隊』(千葉真一主演)の戦闘シーンで、この第1主題がほぼそっくり真似て使われたのをご存知だろうか。

sv0040i.jpg中間部(プレスト)もバレンボイムが電光石火の速ワザで直進する。アルペジオでめまぐるしく駆けめぐるピアノ連弾や、弦と木管のアンサンブルが精緻に絡み合うところは変幻自在といってよく、鮮明なテクスチュアと速いテンポによる快活な運動性によってギラギラとした原色の輝きを発しているところがすごい。

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ギャロップ調で活き活きと歌う第4主題や、確信をもって勝利へ突き進むマエストーソの力強いフーガ主題からも大胆不敵なバレンボイムの姿が浮かびあがってくるではないか。


[第2部]マエストーソ~アレグロ
sv0040o.jpgシャルトル大聖堂のオルガンのC-dur(ハ長調)の和音が大音量で鳴り響く開始は圧巻で、削るような低音弦にオルガンの金属音が重ね合わされる音場の見事さは筆紙に尽くし難い。

連弾ピアノのつぶ建ちの良さ、シンバルの衝撃音、ブラスの強烈な打ち込み、“ギュンギュン”呻りをあげるオルガンの威力はオーディオ・マニア垂涎の名録音といえる。

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「オーケストラはシカゴのメディナ・テンプルで、オルガンのパートはフランスのシャルトル大聖堂でそれぞれ録音されミックスされたもの。両者ともまことに鮮明なサウンドだが、大伽藍の壮大重厚な響きというよりは、むしろ明晰な光りきらめく音たちが織りなされ積みあげられ、壮麗に響きわたっている。バレンボイムの音楽は若々しく鋭く、アダージョの部分にさえも緊張感があふれ、終曲のクライマックスでは鮮烈な躍動と熱狂的な昂揚がすばらしい。」 レコード芸術別冊 『交響曲のすべて』より、音楽之友社、1980年)


sv0040n.jpg緊密なフガートで開始する主部(アレグロ)は音楽が攻撃的だ。切り裂くような弦の合いの手(419小節)や、牧歌調の第2主題(429小節)を軍隊行進曲のように切迫したリズムでさばくところなど、バレンボイムが勢いにまかせて大胆野放図に振りきるところに快哉を叫びたくなる。

圧巻は〈怒りの日〉を引用した総奏(519小節)で、主題の4音を絶叫する生気溌剌とした足取りと、強く張りのあるシンフォニックな響きからまるで実演のような熱気が伝わってくる。  amazon  TOWER RECORDS  HMVicon

コーダ(610小節)はこのコンビが空前絶後の迫力で聴き手を圧倒する。ストリンジェンドから煽るように突入して爆発するピウ・アレグロ(640小節)の解放感は比類がなく、オーケストラの巨大で骨の太い音金属パイプの重低音が噛み合った録音は、オーディオ・マニアならずともその聴き応えのあるサウンドに恍惚となってしまうに相違ない。若きバレンボイムの卓越した才能をいかんなく発揮した必聴の一枚だ。

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[ 2015/04/12 ] 音楽 サン=サーンス | TB(-) | CM(-)