ジュリーニ=シカゴ響のプロコフィエフ古典交響曲

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プロコフィエフ/交響曲第1番ニ長調 作品25「古典」
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
シカゴ交響楽団
Recording: 1976.4.6 Medinah Temple, Chicago (DG)
Recording Producer/Director: Günther Breest
Recording Engineer: Klaus Schaibe
Length : 14:02 (Stereo)
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孤高の名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニは、1970年代に首席客演指揮者の任にあったシカゴ交響楽団を指揮して、EMIとグラモフォン(DG)に一連のレコーディング(全19曲)を行っている。《古典交響曲》は、1976年からDGが収録した中の1曲で、最初のシーズンにマーラー《第9番》や 《展覧会の絵》とともにブレスート&シャイベのクルーによって回教寺院でセッションが組まれたものだ。

sv0080e.jpgこの《古典交響曲》は、「ハイドンがもし20世紀に生きていたなら作曲したであろう」という発想で書かれたユニークなシンフォニーだ。

2管編成による古典スタイルを踏襲しながらもシャープなリズム、跳躍的な旋律線、大胆な和声の感覚、唐突な転調といったトリッキーな仕掛けを巧妙に配した才人プロコフィエフらしい小粋な作品。
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sv0080a.jpgジュリーニは、そのような仕掛けを楽しむだけの通俗趣味とは一線を画し、スコアの鋭い読みと厳しい眼差しによって、本格的な交響曲作品としての構成感を明確に打ち出している。

名人オーケストラの機能性と重量感を十全に生かして各声部を抉り出し、擬古典的な形式にひそむ作曲者の鋭利な感覚と叙情性を融合させて名作を仕上げている。
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「《古典交響曲》はシンプルなテクスチュアをむしろ艶やかに、質感もヴォリューム・アップして壮麗に響かせる。“古典的な”同作品のつくりとの“アンバランス感”が楽しい。生彩に満ちた演奏だ。」 斎藤弘美氏による月評より、UCCG3970、『レコード芸術』通巻第662号、音楽之友社、2005年)


「ムソルグスキーとほぼ同じような表現だが、この方はかなり成功している。今まで聴こえなかったような対旋律が浮き上がるなど、楽曲を解剖しているような趣もあるが、そうした緻密さや繊細さが良い方に作用する部分が多いのである。」 宇野功芳氏による月評より、MG1064、『レコード芸術』通巻第372号、音楽之友社、1977年)



第1楽章 アレグロ ニ長調
sv0080d.jpg「ぐい」と力強く名人オーケストラを引っ張るジュリーニの鋭気あふれる棒さばきが印象的で、のっけから呻りをあげる迫力あるオーケストラ・サウンドに度肝を抜かされる。

第1主題は、ちょこまかと小賢しく戯けるというよりは、大股でのっしのっしと悠然と歩むスタイルから、今や巨匠に脱皮したジュリーニの確固たる自信と風格が漂っている。
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スコアでは2分音符=100が指定されているが、ジュリーニは88前後といったテンポで、同じシカゴ響と録音したショルティ盤、レヴァイン盤と比べても第1楽章は特にテンポがゆるやかだが、懐の深いリズム感覚が息づいているため聴き手にダルな印象を与えない。

Cond.Orch.DateEngineerⅠ.Ⅱ.Ⅲ.Ⅳ.Total
GiuliniCSO1976.4K.Schaibe4:403:471:304:2314:20
SoltiCSO1982.5J.Lock3:484:091:304:0413:31
LevineCSO1992.6,7G.Zielinsky3:484:241:314:1213:55

sv0080f.jpgフルートがたゆたう推移モチーフ(19小節)はしっとりと情感をこめる一方で、スタッカートで跳躍する弦の第2主題(46小節)は緻密なフレージングとほどよきリズム感によって、ぴんとハネあげたような鮮度の高さで聴き手を魅了する。

小結尾(74小節)でピッツィカートと低音部のリズム打ちがくわわると音楽に凄みが増してくるあたりは、シカゴ響(教)信者にはたまらないだろう。
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sv0080g.jpg大きな聴きどころはニ短調に転じる展開部(87小節)。フォルティシモの旋律線に変形した第2主題(115小節)を「ここぞ」とばかりに弾きぬく弦楽器の強靱なフレージングと、これを打ち返す力強い低音弦に腰を抜かしてしまう。

筋肉質の弦楽シンコペーションで「ぐい」と弾きぬき、対声部の低音弦が抜群の分離感で迫ってくるところは迫力満点で、いかにもグラモフォンらしいリアリティにとんだ録音といえる。
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sv0090g.jpgすかさず、第1主題をモルト・ペザンテに拡大したトランペットが、「待ってました」とばかりに強いアクセントを入れて華麗に打ち込む場面(130小節)は圧巻で、音楽のツボをしっかり押さえる神様(ハーセスだろう)が抜群の存在感をアピール。

強音を杭のように打ち込んで再現部に決然と回帰するあたりは、まるでベートーヴェンのシンフォニーを聴いているかのような構成感を指揮者が明確に打ち出している。
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ハ長調の再現部(142小節)は、悠然とした音楽の中にも精密にさばくシカゴ響の名人芸が聴きどころ。特筆すべきは、各パートにちりばめられた楽想を透かし彫りにするアンサンブルの可視化を実現しているところで、冴えた高音域からバスの「ざらり」とした触感にいたるまで、きめ細かく彫琢されているのが驚きだ。力強く駆け上がる迷いのないフィニッシュも、覇気にとんだジュリーニの絶好調ぶりがうかがえよう。


第2楽章 ラルゲット イ長調
sv0113b.jpg「す~」と澄み切った高弦がたなびく詩的でクールな味わいは、《ロメオとジュリエット》のバレエ音楽を彷彿とさせる格調の高さが印象的だ。弦にしっとりと艶をのせ、清らかな気品の中も、仄かなアイロニーをただよわせるあたりはジュリーニが抜群のセンスを発揮する。

中間部は、ピッツィカートとスタッカートによる16分音符の音型を指揮者がよく弾み、よく歌う。ffで盛大に立ち上がる管弦楽は、ここでも強靭なシカゴ・サウンドが大きくものをいう。
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第3楽章 ガヴォット ノン・トロッポ・アレグロ ニ長調
sv0113c.jpg弓をたっぷり使い、厳正にリズムを刻んで剛毅な音楽を形成してゆくところは、遊び心やユーモアの風情は微塵もなく、指揮者もオーケストラも真摯にスコアに向かっている感がある。

しゃちほこ張っていささか堅苦しい向きもあるが、中間部でサクサクと入れる弦のスタッカートの刻みが気持ちよく、再現部ではゆるやかなテンポとまったりしたフルートの歌によって、清楚な気分が品よく流れているのがジュリーニらしい。
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第4楽章 フィナーレ モルト・ヴィヴァーチェ ニ長調
sv0113d.jpg終曲はハイドンの精神を模したパロディー音楽。ここでジュリーニは名人オーケストラのメカニックな技能をあますところなく開陳する。

シカゴ響の《古典交響曲》のレコーディングはこの時が初めてだったためか、楽員たちの慎重なアプローチを感じさせるところもあったが、フィナーレでは「ここぞ」とばかりに凄腕奏者たちが大胆に踏み込んで、絶妙のアンサンブルを繰り広げるところに快哉を叫びたくなる。
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sv0113e.jpg第1主題は溌剌とした躍動感と推進力で悠然と突き進むところがジュリーニらしく、「ぴしゃり」と打ち込む和音の痛烈な打撃がすさまじい。

フルートが3オクターヴの急速な分散和音を交互に吹くパッセージは高音の伴奏音型の処理がじつに美しく、イ長調に転調する第2主題(副主題)を木管が軋むような音をたてて斉奏する場面(50小節)は、楽想のシャープな切れと澄み切った美しさを堪能させてくれる。
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ゆるやかなコデッタ主題(75小節)から一気呵成に駆け上がるフィニッシュの力感と鮮度の高さも抜群である!

sv0113f.jpgコデッタ主題を巧緻なフガートで織り上げる展開部(90小節)は、第1主題と第2主題のパーツが複雑に噛み合う分離感がすばらしく、副次的なパートまでが明瞭に聴こえるところは、ヴィオラ奏者として腕を鳴らしたジュリーニの面目が躍如している。

楽想が錯綜する中から第1主題がフルートに帰ってくると、再現部(129小節)だ。
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sv0113a.jpg快調なテンポでひた走る音楽は振幅をともなった“ジュリーニ・リズム”の独壇場で、ほどよき躍動感と切れのある瞬発力によって音楽が爽やかに息づいている。

変形した木管の第2主題(178小節)を明朗に歌い、道化的な主題(209小節)から轟音を立てて駆け上る爆風のような上行フォルティシモによって、名曲を途轍もない迫力で締め括っている。
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名人オーケストラの高度な技能とゆたかなサウンドで格調高く仕上げた出色の一枚だ。


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[ 2018/04/28 ] 音楽 プロコフィエフ | TB(-) | CM(-)

カラヤンのプロコフィエフ/交響曲第5番

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プロコフィエフ/交響曲第5番変ロ長調 作品100
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1968.9.18-24 Jesus-Christus-Kirche, Berlin
Executive Producer: Otto Gerdes (DG)
Recordihg Producer: Hans Weber
Tonmeister: Günter Hermanns
Length: 43:29 (Stereo)
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カラヤン=ベルリンフィルのプロコフィエフ交響曲第5番を筆者が聴いたのは、1980年ルツェルン音楽祭のコンサート(於クンストハウス)がFM放送された時のことだった。これは“世界初のPCM録音”という触れ込みでスイス放送協会が収録して話題になった演奏だったが、冷凍付けしたような固く味気のない音にがっかりした記憶がある。

しかし演奏はべルリンフィルの高度な技能を存分に見せた文句の付けようのない演奏で、アクロバット・サーカスのようなオーケストラの名人芸に腰を抜かしたのが思い出される。演奏会記録によると、カラヤンはこの曲を生涯で24回演奏し、このルツェルンでの演奏が最後のものになった。

sv0015h.jpgレコーディングはすでに1968年に行われていたが、これはカラヤンがソ連の演奏家との関係を深めていた時期にあたり、ロストロポーヴィチと共演したドヴォルザークのチェロ協奏曲とも録音データが重なっている。

この翌年にカラヤンはベルリンフィルを率いてモスクワ公演を行っていることから、当盤はショスタコーヴィチとならんで、ソ連のマーケットを視野に入れたカラヤンのしたたかな商業戦略の一環であったにちがいない。

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sv0015k.jpgこの時期、カラヤンは、ベルリンフィルの音楽監督になって13年。飛ぶ鳥を落とすがごとく勢いで楽界に君臨し、その地位を揺るぎないものにしていた。「帝王」の名にふさわしい名人奏者を取り揃え、その全盛期を謳歌していた。自らの理想とする音楽を創り上げるための手駒となる“最強の布陣”が完成した時期にあった。

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プロコフィエフの第5は後にデジタルによる再録音が行われなかったために話題にのぼることは少ないが、その完成度の高さから録り直す必要がなかったのだろう。ヴィルトゥオーゾ・オーケストラならではの技能をあますところなく開陳し、カラヤンの手の内に収めたレパートリーの1つとして自信をもって世に出されたレコードであったはずだ。

sv0067d.jpg妖艶ともいえる弦のフレージング、これに溶け合う木管楽器のカラフルな色合い、ドイツ色の濃いブラスの剛毅な響きが渾然一体となった劇的なドラマが繰り広げられている。

しっとりと歌い上げる緩除楽章の抒情的な表現や、フィナーレで見せる名人たちの統率されたパフォーマンスの見事さは冠絶しており、磨き抜かれたサウンド超絶的な技能で聴き手を魅了するところはカラヤンの面目が躍如している。


「第5番はカラヤン風の表現で、両端楽章ではときにウェットでロマン的とさえいえる表情がつくられている。つまりプロコフィエフのもつ乾いたモダニズムとは縁遠い表現で、そこにカラヤンの個性が歴然と浮かび上がってくるのである。」 小石忠男氏による月評より、『レコード芸術』通巻425号、音楽之友社、1988年)


「作曲から24年も後にカラヤンとベルリン・フィルとによって収録されたこの演奏は、オーケストラの最も好ましい時代にあった時のものであり、カラヤンも、いわば聴かせ上手という以上にこの作品の真価を強く印象づけるような自信に満ちたアプローチをみせている。そのスケールの大きい表現には、高度の造形性と深い内容が溢れている。」 『クラシック名盤大全・交響曲編』より藤田由之氏による、音楽之友社、1998年)



第1楽章 アンダンテ
sv0067b.jpg交響曲第5番は社会主義リアリズムの理念に則りながらも親しみやすい旋律と、伝統を踏まえた見通しのよい構成をもったプロコフィエフの最高傑作だ。

ロシア民謡風主題のメロウな歌わせぶりや、なみなみと盛りつける豊かな弦楽サウンド、大きく呼び交わす管弦のゴジャースな響きから、聴き手は早くもカラヤンの術中にはまってしまう。スネアドラムの切れのあるリズム打ちや、低音弦がのたうつ副主題の威力もすさまじい。

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第2主題(練習番号6)も聴きのがせない。ラプソディックな主題が木管によって清楚に導かれると、高性能の弦楽器が滑るように歌い出す。妖艶ともいえるレガートをかけたフレージングの妙味は抜群で、テヌートを効かせて音階をぐいぐい上りつめて高揚するところや、トランペットが燦然と歌い継ぐ頂点の華やかさは“カラヤン美学”の極地といえる。スタッカートで跳躍する小結尾句(コデッタ主題~練習番号9)の意味ありげな進行も手管を感じさせるもので、展開部への期待感を高めている。

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sv0067c.jpg展開部(練習番号10)は4つの楽想を縦横に交錯させて、管弦の綾を緻密に織り上げるベルリンの高度なアンサンブルを堪能させてくれる。聴きどころは和音打撃の狭間を縫うように、5連音でなめらかに上昇する弦楽ユニゾンで、その華麗な弓さばきにゾクゾクしてしまう。

間断なく副主題を伸びやかに歌い回し、第2主題を高らかに奏でるところ(練習番号14、15)は思わず指揮をしたい衝動にかられてしまう。強大なフォルティシモで吹奏する再現部のコラール(練習番号17)の剛毅な響きと緊張感も無類のものだ。

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圧巻はコーダ(練習番号23)で、重苦しく奏する第1主題からオーケストラの威圧的な響きが有無を言わせぬ迫力で迫ってくる。「どうだ!」と云わんばかりに銅鑼をぶち込んで、壮麗壮大な音響の渦の中に聴き手を引き込むところは“カラヤン劇場”にほかならない。轟音をたてる音像を克明に刻んだ録音もすばらしく、オーケストラのパワーを誇示するような刺激的なサウンドに圧倒されてしまうのは筆者だけではないたろう。


第2楽章「スケルツォ」アレグロ・マルカート
sv0015a.jpgオスティナートの伴奏にのって、皮肉たっぷりに半音階で跳躍する主題はベルリンフィルの超絶的なアンサンブルに腰を抜かしてしまう。艶めかしく揺れ動く弦のフレージングの卓抜さは冠絶しており、木管に応えて裏拍から「すぅ~」と入ってくる弓使いの巧いこと! 

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ミュートを付けて面妖に奏でる副主題や、皮肉たっぷりのファゴットの表情付けなど、カラヤンの話術の巧みさは枚挙にいとまがない。固い音でゴツゴツと刻むスネアドラムのリズム打ちも気持ちよく、ウッドブロックが木魚のようにきこえる歯ごたえ感のある音作りは、なるほど、グラモフォンらしいリアリティにとんだものだ。

sv0015b.jpgトリオ(練習番号36)は表情たっぷりの木管や、ヴィオラが滔々と歌い回すメロディアスな音楽の心地良さが俗耳をたっぷりと楽しませてくれる。

躍り上がるような楽想にピアノとハープが美音を絡めて快感をそそる一方で、パンチの効いた総奏目の覚めるようなリズムで畳みかけるところはカラヤンが役者が一枚も二枚も上手で、ここ一番の“決めどころ”を強調して聴き手の耳を刺激する。

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sv0067h.jpgベルリンフィルがアンサンブルの極限を開陳するのがスケルツォの再現(練習番号48)。金管のスタッカート・リズムと木管の装飾が次第にテンポを速め、これが拡大してゆくところが最大の聴きどころだ! 

急迫的に追い込みながら弦の急速な降下音型が精密に絡みつくところはアクロバット的で、ロンド・ブルレスケ風に熱狂しながら楽想を目まぐるしく展開するオーケストラ・ドライブは、ショー的な華やかさとスリリングな即興を満喫させてくれる。

1960年代のカラヤン=ベルリンフィルは、メンバーの名技性に寄りかかった、綱渡りのようなスリルに充ちた演奏に熱中していて、その即興演奏が面白くてたまらぬとった風情であった。それは楽員一人一人が個性を発揮するのではなく、その名技性が楽団という統一体への奉仕の形をとり、ひいてはカラヤンという統率者への奉仕にほかならないのである、と柴田南雄は記している。 『演奏スタイル昔と今 私のレコード談話室』1979年、朝日新聞社)



第3楽章 アダージオ
sv0015n.jpg抒情的なアダージョ主題を、カラヤンは磨き抜かれたフレージングによって、なめらかな旋律線に快いポエジーを与えながら、透明度の高い演奏を実現している。特筆すべきは弱弦の澄み切った響きで、ノクターン(夜想曲)のように稟とした空気の中で旋律の感覚美を巧まずして織り上げてゆく。

ホルン、テューバ、コントラバスの三全音をこってり響かせるロシア風の副主題や、トリルを強調した挽歌風の第2主題の彫りの深い濃密な表現は、手練手管の限りを尽くしたカラヤン美学の極地といえる。

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sv0015g.jpg最大のクライマックスは不協和音を伴った付点音符の連続打撃からで、トロンボーンの3連リズム、一糸乱れぬ木管と弦の急速降下音、シンバルや銅鑼が加わったオーケストラの大音響(練習番号71)はカラヤンの得意とするところで、オーケストラを軍隊のように統率し、プロコフィエフの音楽を赤子の手をひねるかのように、自己の欲求を満たす華麗でゴージャスなもに仕立てている。

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繊美な最弱音ですすり泣くように奏でる主題再現も心に沁みる美しさで、高音部の美音でぬめるように進行する音楽は官能的ですらある。
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第4楽章 アレグロ・ジオコーソ
sv0015c.jpg第1楽章の主題を4声のチェロでこってりと回想したあとに、ヴィオラの刻みで開始する上行アクセントの付きの軽快な主題は、快適なテンポで颯爽と展開する。

上滑りする弦のメロディーに小刻みの走句を精妙に絡めるところや、オーボエがスタッカートで忙しく奏する道化的な副主題、フルートの奏でる民芸調の第2主題、低音弦に出るコラール風の荘重なフーガ(練習番号93)など、楽想の隅々にまで低回された精巧なヴィルトゥオジティをカラヤンはあますところなく披露する。

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ベルリンフィルそのが卓越した技能を最高度に発揮するのが長大なコーダ(練習番号107)で、弦の小刻みの走句にブラスが吹奏する第1主題フーガ主題が凱歌となって錯綜する。スネアドラムの急迫的なリズム打ちの中から弦が跳躍し、木管が「ひょっ!」と絶叫する手に汗握る展開は“カラヤン・サーカス”にほかならない。

クライマックスはトランペットの高音が主題をストレートに打ち込む練習番号111で、ウッドブロックとスネアドラムのリズムが躍動し、せめぎ合うところが最高の聴きどころだ。

sv0067f.jpg錯綜するリズムを鮮やかに捌き、名人たちの曲芸によって聴き手の興奮を巧みに誘うところはこの曲のツボを心得たカラヤンの独壇場。

突如、音量を絞って室内楽的な弦楽オスティナートをトップ奏者が精密機械のように演奏するさまは、オートメーション化された精巧な工業製品を思わせるが、最後の3小節でトランペットが全音符で打ち込むと、滑り込むような総奏によって一気呵成に幕を引くところは、まるでジェットコースターに乗ったようなスリリングな刺激と興奮をあたえてくれる。

全盛期のカラヤン=ベルリンフィルの名人芸を余すところなく刻んだ究極の1枚だ。


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[ 2016/05/07 ] 音楽 プロコフィエフ | TB(-) | CM(-)