カラヤンのショスタコーヴィチ/交響曲第10番

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ショスタコーヴィチ/交響曲第10番ホ短調 作品93
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1981.2.20,23,27 Philharmonie, Berlin (DG)
Exective Producer: Günther Breest
Recording Producer: Michel Glotz
Balance Engineer: Günter Hermanns
Length: 51:20 (Digital)
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ショスタコーヴィチの交響曲第10番は、カラヤンがレコーディングを行った唯一のショスタコーヴィチの作品で、このCDは1966年の旧盤から15年ぶりにデジタルで再録音されたカラヤン十八番の曲である。カラヤンがこの交響曲を手掛けた切っ掛けは、オイストラフから“最も美しい曲”として演奏を勧められたことによるとされるが、ベルリンフィルを率いてのソ連ツアー(1969年5月)の演目にもこの交響曲が含まれていた。

sv0015i.jpgカラヤンはすでに1966年11月にベルリンフィルのコンサートで演奏し、レコーディングまで行っていたほどだから、手の内に収めたレパートリーの1つとして用意周到に、自信をもって公演にのぞんだに相違ない。
ソ連の聴衆に、名人をそろえたベルリンフィルの高度な技能を披露するにはまさにうってつけの曲で、ショスタコーヴィチは後にオイストラフに「自分の交響曲がこんなにも美しく演奏されたのは初めてだ」と語っている。

「カラヤンは、わずかなデュナーミクの変更を除けば、楽譜に忠実にしたがっており、確信にあふれた表情で、練りに練られた音楽を展開している。ベルリン・フィルも感興を高揚させた名演で、弦群の説得力の強さはもちろん、フルートやクラリネットの独奏のみごとさも筆舌につくし難い。金管も卓越しており、熱気にみちたフォルティシモの盛り上がりの凄さ、壮大な起伏の効果は、ただすばらしいの一言につきる。構成的にも雄大で充実感が強い。」 小石忠男氏による月評、DG 28MG0241、『レコード芸術』通巻第382号より、音楽之友社、1982年)



 第1楽章 モデラート
sv0015b.jpgスターリン時代の呪縛を引きずるような導入部の暗鬱な低音弦の主題(基本動機、ライトモチーフ)は、深々と弓を入れる量感のあるバスが特徴的で、クラリネットの沈鬱なロシア民話風の第1主題(69小節)が弦に受け渡されると、これが力強く盛り上がってゆくところが第1のクライマックスだ。

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上滑りするような弦に粘り気のあるホルンをくわえ、ゴージャスな音響でドラマチックに展開するところがカラヤンらしく、弦楽器の生々しいまでの流動感、固いティンパニの打ち込み、ピッコロの冴えた高音など、デジタル録音の威力も絶大! 〈亡霊のワルツ〉(第2主題)を意味ありげに低回する幻想的なフルートと、しなるような弓使いの妖艶な弦によって、独自の感覚美をあたえながらニュアンスゆたかに歌われてゆく。

sv0015d.jpg展開部は、〈練習番号34〉から突入するクライマックスが大きな聴きどころだ。燦然と輝くトランペット、シャキリと刻む精緻な弦のリズム、獅子吼するホルン、序奏モチーフを弦が力強く上り詰める嵐のような頂点は、カラヤンが確信をもって名人オーケストラをドライヴする。力瘤の入った強いアクセントで轟然と再現部へ突入するところは「どうだ!」と、オーケストラの威力を誇示するカラヤンの鋭い見得がひしひしと伝わってくる。

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第1主題を強奏する再現部〈練習番号47〉に力ラヤンの力点が置かれているのは言うまでもない。弦の分散和音が展開するドラマチックな表現(練習番号47)、ダメを推すかのような管弦の大音響〈練習番号51〉、弦の濃厚なエスプレッシーヴォ〈練習番号53〉など、怒涛のごとく盛り上げるく過剰なまでの演出効果によって、カラヤンはショスタコのスコアから劇性と交響性をあますところなく引き出している。鎮魂歌のように歌い上げるコーダの味わい深さもカラヤンの底知れぬ音楽性を示したものといえる。


第2楽章 「スケルツォ」アレグロ、4分の2拍子
sv0015h.jpg暴君の圧政をあらわすような荒々しいスケルツォは、カラヤン=ベルリンフィルが高度な技能をまざまざと見せつける。

マルカティシモで切り刻む歯切れがよい弦のリズムに、木管の悲鳴をあげるようなメロディーをのせて、急き立てるように走り出すところはゾクゾクするような興奮を誘っている。軽快に打ち込まれるスネア・ドラムのリズムの切れも抜群で、その超絶的な撥さばきに腰を抜かしてしまう。

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「待ってました」とばかりに16分音符をはさんだ走句を精密に疾走してゆくところ〈練習番号74〉は、凄腕の弦楽集団の独壇場だ。苛烈なブラスの打ち込みと目の覚めるような木管の斉奏をくわえ、錯綜するリズムを鮮やかにさばいてゆくカラヤンの職人ワザには驚くばかり。仮借のない打楽器群の一撃を轟かせ、爆発的な音響と凄まじい気魄で中間部に雪崩れ込むところの息をのむ緊迫感は圧巻である!

sv0015m.jpg中間部〈練習番号79〉もすさまじい。つよいアクセントを付けて絶え間ない半音階のフレーズを一糸乱れることなく整然と、流れるようなしなやかさで進行するベルリンフィルの超高性能の弦楽器は筆紙に尽くし難く、およそ名人芸の域を超越している。

これとかけ合う木管群が軋みを立てながら狂奔するところなど、まるでサーカスで綱渡りをするようなスリルに充ちた演奏を展開する。突然飛び出すファゴットの重奏〈練習番号82〉の気味の悪さったらない!

ふたたび旋律を受け取る弦が力をたくわえ、管楽器と渾然一体となって盛り上がってゆく場面も鳥肌モノで、金管の豪毅な軍隊調の行進テーマ〈練習番号85〉、打楽器群の強圧的な連打〈練習番号86〉、威嚇的なファンファーレ〈練習番号87〉など、カラヤンは自分たちの実力を誇示するように、音圧で聴き手をねじ伏せる。突如、音量を落とした弱弦の緊迫感も無類のもので、第1主題のリズムを急迫的に追い込み、一気呵成に幕を引くところは、まるでジェットコースターに乗っているようなスリリングな興奮を味わせてくれる。


第3楽章 アレグレット、4分の3拍子
sv0015g.jpg中心主題は〈DSCH動機〉。D音の連呼のあとに登場するスタッカートの4つの音(ニ、変ホ、ハ、ロ=D、Es、C、H)は、自己のイニシャルの頭文字を織り込んだ作曲者のモノグラム。第1部はこれをフォルテで滑らかに歌う弦のエスプレッシーヴォ〈練習番号104〉が聴きどころで、レガートをかけて弦がねっとりと揺れ動く〈死神のワルツ〉の妖しいまでの美しさに酔ってしまいそうになる。

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中間部〈練習番号114〉には〈エルミーラ動機〉が7回登場する。ホルンが付点2分音符で吹き出す息の長いロシア風の動機は、《大地の歌》(マーラー)の冒頭を模したものとされるが、じつは作曲者が密かに思いを寄せていたモスクワ音楽院の教え子であるエルミーラという女性の名前を音名に置き換えたものであるらしい。朗々と豊かに響くホルンに弦楽の濃厚な調べを溶け合わせ、ピッコロの冴え冴えとした和音をたなびかせる手の込んだ美感が執拗に追求されてゆく。

sv0015k.jpg大きな聴きどころは第3部〈練習番号121〉。決然と低音弦が打ち込まれると、高性能の弦楽集団が腕によりをかけて〈死神のワルツ〉を歌い出す。最強奏のユニゾンで揺れながら、激しさと勢いを増して急迫的に押し込んでゆくところはカラヤンが手の内に収めた聴かせどころで、その頂点で爆発的な和音打撃に対抗する弦が〈DSCH〉を「これでもか」と連打する。

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まるでカラヤンが自分の名前を刻印するかのような筆圧の強さは圧巻で、ホルンが強奏する〈エルミーラ動機〉〈練習番号121〉の張りのある響きや、ブラスが鉛色の和音を重ねる〈練習番号137〉の緊迫感にみちた音楽運びは、技巧の高さもさることながら演出の巧さに思わず膝を打ってしまう。


第4楽章 アンダンテ、アレグロ、4分の2拍子
sv0015c.jpgオーボエのパニヒーダ風レチタティーヴォが抜群に上手く、木管の問いかけから明るい兆しが見え隠れする中で、これを否定する弦楽の思わせぶりな進行は、まるでベートーヴェンの第9を重ねているかのようだ。

主部は、クラリネットの「ぽっぽり!」付点の“呼びかけ”を合図に、喜悦のメロディー(第1主題)が流麗な弦にのって颯爽と進行する。木管のリズミカルな副主題や、“雪どけ”を思わせる上昇音型の〈波の動機〉を精妙にからめながら、ベルリンフィルの妙技が冴えわたる。

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聴きどころは第2主題〈ロシアの踊り〉(163小節)。「待ってました」とばかりにザリザリと音をたてながら勢いをつけ、整然と足並み揃えて進行するさまは軍隊のようで、シャープに切れ込む弦集団のメカニックな早技に腰を抜かしてしまう。低音弦に飛び出すロシア風行進曲のエピソード〈練習番号170〉も聴きのがせない。これがカノン風に力強く展開し、嘲笑のような〈波の動機〉を交錯させながらユニゾンの行進テーマでダイナミックに突進するところは、常勝将軍カラヤンが卓越した棒さばきで聴き手を魅了する。

sv0015f.jpg茶番劇のようにひゃらひゃらと〈波の動機〉が執拗に飛び出すもどかしさをものともせず、あたかも自らをロシアを征服する英雄に見立てて立ち振る舞い、勇渾な音楽に仕上げてゆくのがカラヤンの上手いところだ。

敵を完全制圧するかのように行進リズムを刻む金管の斉奏(練習番号181)は“戦場の英雄”にほかならない。スケルツォ・リズム(第2楽章)を情け容赦なくぶちかまし、管弦楽のユニゾンで絶叫する〈DSCH動機〉(練習番号184)の壮大なスケール感は、カラヤン=ベルリンフィルの実力を最高度に示した究極の“決めどころ”といえる。

余韻嫋々と奏する序奏の再現はいかにもカラヤン節だが、スネア・ドラムの行進リズムにのって、戯けた調子で歌うファゴットやクラリネットの妙技を皮切りに、ベルリンフィルがツボにはまった名人芸を繰り広げる。ホルンが第1主題の“呼びかけ”を大きく吹きのばし(練習番号196)、雄叫びをあげるように〈DSCH動機〉を吹き抜くところは解放の喜びに溢れんばかり。

すかさず〈ロシアの踊り〉で熱狂し、とどめは〈波の動機〉を粉砕するかのように全管弦楽が怒涛のごとく〈DSCH〉を絶叫、ティンパニの4音連打によって華々しい大勝利で締めている。カラヤン=ベルリンフィルの実力をあますところなく伝える極上の1枚だ。


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[ 2014/06/29 ] 音楽 ショスタコーヴィチ | TB(-) | CM(-)

ポール・パレーのスッペ《美しきガラテア》序曲

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スッペ/喜歌劇「美しきガラテア」序曲
ポール・パレー指揮 デトロイト交響楽団
Recording: 1959.11.29 (Mercury)  
Location: Cass Technical High School, Detriot
Recording Director: Wilma Cozart
Musical Supervisor: Harold Lawrence
Chief Engineer & Technical Supervisor: C.Robert Fine
Length: 6:22 (Stereo)
3track half-inch tape/Telefunken 201 microphones
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フランツ・フォン・スッペはウィーンで活躍した喜歌劇や劇音楽の作曲家として知られているが、ダルマチア出身のベルギー系貴族の末裔で、イタリア風の本名をドイツ風に改めたという変わりダネ。

《美しきガラテア》序曲は、《軽騎兵》《詩人と農夫》に劣らぬ名曲で、〈酒の歌〉の総奏で始まる瀟洒な行進曲、甘美な独奏ヴァイオリンの調べ、定番のワルツといった多くの素材をポプリ調に盛り合わせ、次から次へと軽快な調子で曲想をめまぐるしく転換して聴き手をわくわくさせてくれる一曲だ。

sv0014b.jpgこのオペレッタはギリシア神話『ピュグマリオンとガラティア』が題材で、彫刻家ピグマリオンが自分の理想像として創った美しいガラテアの彫像に恋をするという話。ところが、女神に生命が与えられたガラテアは、物欲の強い多情な蓮っ葉女。宝飾品を身につけたまま石像に戻されると、これらをせっせと貢いだミノスが身の破滅を嘆いておひらきとなる。

スッペ:喜歌劇「美しきガラテア(全曲)」

ここで聴くポール・パレーがデトロイト響を指揮した『スッペ序曲集』は“高音質録音”で知られるマーキュリーの中でも極めつけの1枚で、これを初めて聴いた時の衝撃ったらない。テレフンケン201マイクロフォンとハーフインチ・3トラック・テープに収録したというマーキュリー録音のパワフルで、目の覚めるようなサウンドに度肝を抜かされた。

sv0014c.jpgまるで目の前で本物のオーケストラが鳴っているかのような音場のゆたかな広がりと、驚異的なダイナミックレンジはおよそデジタル録音の比ではなく、その迫力は時代を超越したものといえる。シャッキリと響く弦の歯切れの良さも冠絶しており、パレーの冴えたリズム感覚と、馬車馬のように突進する活力がこの上ない刺激となって、筆者はこれを聴く度に痺れるような快感と興奮をおぼえずにはいられない。

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「スッペのオペレッタには、パレーの洒落たセンスの良さも手伝って、いきいきとした躍動感が伝わってくる。この録音時、73歳の年齢にもかかわらず、これほどのシャープな指揮が出来るとはすごいものである。《美しきガラテア》での冒頭のギャロップ風のリズムの新鮮さや旋律線の明快さなどは、まさにこの指揮者の得意とする音楽のようだ。」 草野次郎氏による月評より、PHCP10244、『レコード芸術』通巻536号、音楽之友社、1995年)


「やはり50年代末は一味違う。いささか効率の悪い大排気量の車をフルパワーで引っ張りまわすがごとく、汗をかきかき速く大きく正確にと、とにかく一生懸命なスタイルなのである。そうした人間臭さとともに、時代を映すもの、つまりオーケストラの高度成長期の証みたいなものが感じられて実に面白い。」 石原立教氏による月評より、PHCP20403、『レコード芸術』通巻590号、音楽之友社、1999年)



アレグロ・スピリトーゾ・コン・ブリオ、ト長調、8分の6拍子
sv0014g.jpg〈酒の歌〉のモチーフを使ったリズミカルな行進曲は豪快とか言いようがなく、のっけから元気溌剌としたパレーの棒さばきに魅せられてしまう。豪華絢爛な大管弦楽は迷いのない明快そのものといった表現で、ぎらぎらした原色の輝きがある。鋼のようなリズム打ちと強烈な金管をぶちこむ思い切りの良さには胸がすく思いがする。

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アンダンテ、イ長調、12分の8拍子
静寂の中からホルンがライト・モチーフの断片を呼びかけ、木管がこれにやさしく応えるところのポエジーな情景の美しさはいかばかりであろう。フルートがホルンに絡みつくように舞う装飾的な合いの手が繊美な彩りを添えている。ソロ・ヴァイオリンの甘く、切ない愛の調べは胸がしめつけられそうで、弱音で奏でる弦の精妙な歌い口に哀しくなってしまう。

アレグロ・アニマート、ト短調、8分の6拍子
sv0014d.jpgファゴット、ホルンの呼び交わしのあとに「ビシッ!」とくる鮮烈な打ち込みに仰天させられると、ピッツィカートのリズムにのった木管のスタッカート旋律が小気味よいテンポで走り出す。たっぷり流れるような弦の旋律があらわれて、フルートとクラリネットによるひとくさりの名人芸を楽しませてくれるが、圧巻は満を持して立ち上がる総奏だ!

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工業都市のオーケストラらしいパワフルなブラスの咆哮、これをガッチリ受け止めるダイナミックな弦の躍動感は比類がなく、思い込んだら馬車馬のように一直線に突っ走り、ビシバシ決めるパレー=デトロイト響の力ワザには驚くばかり。リズム打ちは苛烈を極め、畳みかけるように追い込むパレーの棒さばきが聴き手の興奮を誘っている。生々しいまでのマーキュリー・サウンドは今聴いても一級品の歯ごたえと輝きがある。

ピウ・モデラート、ト長調、4分の3拍子
sv0014e.jpg大きな聴きどころは嵐のような総奏が終息したあとにやってくるピウ・モデラートのワルツ。いかにもコミック・オペラにふさわしい逸楽的で瀟洒なメロディーをフランス人指揮者のパレーが「サラサラ」と粋なセンスでこざっぱりと歌わせる。ウィーン風のワルツのようなねばりを入れず、優雅さの中にも一本筋の通った力強さを秘め、前へ前へとぐいぐい突き進むところがいかにもパレー風だ。

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アレグロ、ト長調、4分の2拍子
すかさずアウフタクトから切り返す小刻みの走句が小気味よく、これがとどまることなくひた走る疾走感がゾクゾクするような興奮を誘っている。切分音リズムを鮮やかにさばくデトロイト響の華麗にして超絶的な弦のワザに鳥肌が立ってくる。飛び跳ねるような躍動感をともなってクレッシェンドしてゆく場面は、思わず指揮をして暴れたい衝動に駆られてしまうのは筆者だけではないだろう。

テンポ・プリモ、ト長調、4分の3拍子
sv0014f.jpgフォルティシモの3拍子に切り替わるテンポ・プリモの総奏の豪放さは、もはや次元を超えたものといってよく、鋼のようなリズム打ちはさらに厳しく鍛えられ一分の隙もない。

トロンボーンを「バリッ」と打ち込み、ほとんど体育会系のノリで、パンチの効いた骨張ったワルツに仕上げてしまうところには唖然とするしかない。

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ポコ・ピウ・モッソ、ト長調、4分の3拍子
sv0014h.jpgポコ・ピウ・モッソの畳みかけるように追い込む手口はいかにもこの時代の巨匠風で、「これでもか」と熱いビートを打ち込みながら怒涛の勢いで突き進むさまは、まさしく突撃隊。とどめのの2発の打撃を間断なくぶち込むところは、あまりの激烈ぶりにため息が出てしまう。

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パレー=デトロイト響の実力とマーキュリー録音の凄さを克明に刻み込んだ途轍もないディスクである。


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[ 2014/06/19 ] 音楽 スッペ | TB(-) | CM(-)

小澤征爾=ボストン響の幻想交響曲

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ベルリオーズ/幻想交響曲 作品14
小澤征爾 指揮
ボストン交響楽団
Recording: 1973.2.9 Symphony Hall, Boston (DG)
Recording Producer: Thomas Morley
Recording Engineer: Hans-Peter Schweikman
Length: 46:53 (Stereo)
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筆者が小澤征爾指揮のボストン交響楽団をはじめて聴いたのは1978年の公演で、同楽団の来日は1960年ミュンシュ指揮以来のことだった。

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小澤征爾は、この時42歳。メジャー・オーケストラの音楽監督として押しも押されぬスター指揮者となり、このコンビのいわばお披露目公演でもあった。この時の演目が《幻想交響曲》(3月7日大阪フェスティバルホール)だったのが懐かしい思い出である。

sv0013s.jpg学生時代に、音楽好きの友人たちと指揮の真似をやったのが決まって小澤征爾だった。“長髪”と“白のタートルにネックレス”というのが、当時の小澤の定番スタイルで、颯爽とした若武者のイメージが印象的だった。

小澤のヘアスタイルが“聖子ちゃんカット”に変わったのは、80年代にフィリップスに録音したマーラー交響曲や、サイトウキネン・オーケストラを振りはじめた頃からである。

筆者が小澤征爾のレコードに手がよくのびるのは、70年代にドイツ・グラモフォンに録音された一連の演奏だ。日本人指揮者がイエロー・レーベルに登場したのも驚きであったが、1973年にBSO音楽監督就任とともに最初に録音されたのが《幻想交響曲》で、ベルリオーズの作品は、ミュンシュの衣鉢を継いだ小澤の十八番という印象がつよい。

sv0013z.jpgミュンシュがブザンソン指揮者コンクールの審査員であった縁もあって、タングルウッドに招かれて指導を受けた小澤征爾はミュンシュを敬愛し、トロント響常任就任にはミュンシュの推薦があったとも伝えられている。

ミュンシュの代名詞ともいえる《幻想交響曲》について小澤は、「あれはベルリオーズが作ったのじゃなくて、ミュンシュが自分で指揮するために作った曲じゃないかとさえ感じますね」と語っている。
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ConductorDateLevel1mov.2mov.3mov.4mov.5mov.Total
Munch (BSO)1954.11.14,15RCA13:176:0813:524:298:3946:25
Munch (BSO)1960.5.5(L)Altus13:016:0412:373:498:3944:10
Munch (BSO)1962.4.7RCA13:576:2514:594:249:1448:59
Prêtre (BSO)1969RCA13:356:2116:364:459:2950:46
Ozawa (BSO)1973.2.19DG13:026:1714:254:009:0946:53

「これは小澤がボストン交響楽団の音楽監督に就任して間もなく行われた初録音である。このオーケストラはミュンシュ時代にベルリオーズの演奏で定評があったが、小澤は当然のことながら、ミュンシュとは異なる自己の個性を、ここで明確に主張している。そこにはミュンシュの豪快さよりも清潔な、鋭い感覚による発想があり、音楽がすこしも粘らずにさらさらと流れている。デリケートで既成概念にとらわれない、ただ音楽的と形容したい演奏である。」 小石忠男氏による月評より、20MG0189、『レコード芸術』通巻第375号、音楽之友社、1981年)



第1楽章 「夢、情熱」 ラルゴ
sv0013h.jpg序奏部は絹地を織り上げるような弱弦の美しい響きと、たっぷり弾むピッツィカートやアクセントの効いた低音弦が魅力的で、みずみずしく駆けるスタッカートの緻密な走句、サラサラと軽やかに歌うストリングス、キメ細やかにたなびく木管のオブリガートなど、ボストン響ならではの音の妙味が満載である。

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シャッキリと打ち込まれる和音打撃で突入する主部(提示部)は、音楽がさっぱりと清々しい。〈恋人の主題〉(固定楽想)をサクサクと心地よいリズムにのせて、快適なテンポで歌い出すが、芸術家の苦悩や錯乱した狂気性には拘泥せず、リズミカルなタッチで颯爽と走り抜けるところは小澤の音楽は若々しい。

sv0013i.jpg展開部は、オーボエのメロディ(テンポ・プリモ)にのって、弦楽がカノン風に固定楽想を漸強弱しながら繰り返す精緻な音楽運びも小澤の独壇場といってよく、口をとがらせて、各セクションに細かくキュー出しを行う姿が目に浮かんでくる。

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固定楽想がマーチ風に力強く再現するクライマックスは、カラッと鳴り響く明るいボストン・サウンドは華やぎに充ちている。サラサラとした弦の伴奏にのってトランペットが放歌高吟するところは解放的だが劇性には乏しく、遅いテンポで恋人への思いのたけを濃厚にぶちまけるミュンシュに比べるとあっさりとしている。


第2楽章 「舞踏会」(ヴァルス)アレグロ・ノン・トロッポ
sv0013j.jpg小澤のワルツは折り目正しく端正である。1小節ずつ縦割りで整然と決めていくようなフレージングで、旋律よりも裏打ちのリズムの方がみずみずしく感じられるのがユニークだ。ドイツ風のワルツとなるエスプレッシーヴォの再現も、型にはめたような歌わせぶりで、弓をいっぱいに使わず、軽く弾き流すフレージングはこの楽団の伝統なのだろう。

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「ボストン響の音は、フランス音楽を中心にやっていたから、どうしても軽めで美しかったんです。ミュンシュやモントゥーの影響が大きかった。僕が音楽監督になって、3年か4年して、音が変わったんです。弦楽器を“イン・ストリングス”というドイツ的な弾き方に変えました。弓を深く入れるんです。それに抵抗していたシルヴァスタイン(コンサート・マスター)は音が汚くなるから、そういう弾き方が嫌いで抵抗が強かったけど、結局辞めていきました。」 村上春樹×小澤征爾『小澤征爾さんと、音楽について話をする』より抜粋、新潮社、2011年)



第3楽章 「野の風景」アダージョ
sv0013k.jpgコールアングレと舞台裏のオーボエが、哀愁たっぷりと遠近感をつけて呼び交わす〈牛追い歌〉と、元気よく鳥の啼く声と掛け合う生き生きとした弦のフレージングが印象的。ヴィオラとチェロが速いテンポで晴朗に歌い上げる牧歌(69小節)は、ピッツィカートのリズムにのせて、陽気に弾き回すところがいかにも小澤らしい。

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第4楽章 「断頭台への行進」アレグロ・ノン・トロッポ
小澤=BSOが究極のヴィルトゥオジティを開陳するのは「断頭台への行進」だ。音を丸めた重々しいゲシュトップとペダルトーン、ティンパニ群の不気味な連打の音響効果は抜群で、弾け飛ぶような凄まじい勢いで立ち上がるティンパニは、ミュンシュ時代からの名物奏者エヴァレット・ファースの超絶技に腰を抜かしてしまう。

sv0013l.jpg決然と突っ込む低音弦、荒々しいブラスの咆哮、低音域で「ぶりぶり」呻りを発する悪魔的なファゴットなど、生々しいボストン・サウンドが全開である。

精気溌剌と躍動する行進曲は芸術家が楽しげに刑場へ向かうかのようで、音楽は解放感に充ち溢れ、リズミックな快感を誘っている。苛烈な打楽器群が容赦なく叩き込まれる衝撃感も抜群で、ブラスの強烈な打ち込みもすさまじい。

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圧巻は第1主題が力強く再現してシンバルを連打する場面。小澤は135小節から早くも加速をかけて一気呵勢に畳み込み、付点パッセージが続くコーダを獅子奮迅の勢いで突進する。快速の手をいささかも緩めぬ棒さばきは気っぷがよく、若武者小澤の才気爆発といえる。

sv0013n.jpg“死の打撃”の場面は、「情けは無用!」とばかりに、間髪を入れずギヨタンの刃を落とす無慈悲なミュンシュに対し、恋人への思いを込めて、十分に回想してから刃を落とす大岡越前守的な小澤の采配が心憎く、劇的効果も抜群。血のしたたる生首が跳ねるさまをピッツィカートでリアルに演出するあたりも芸が細かく、スピード感溢れるエネルギッシュな演奏に快哉を叫びたくなる。

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第5楽章 「サバトの夜の夢」 ラルゲット アレグロ ロンターノ
sv0013m.jpg聴きどころは“弔いの鐘”が鳴るロンターノ(102小節)。3オクターブのユニゾンでC、C、G音を打ち込む明るいメタル音は、この楽団の伝統と思われるが(実演ではもっとキンキン鳴っていた)、テューブラ・ベルを乱暴に叩きつけるミュンシュに比べれば小澤はソフトタッチで、〈怒りの日〉をマイルドに吹くテューバとほどよく溶け合っている。

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ボストン響自慢のブラスが炸裂するのが〈魔女のロンド〉から。ロンドが弦楽全体に拡大する大フーガと、これにブラスが〈怒りの日〉を重ねるクライマックスの大総奏は、指揮者のパッションとオーケストラの瀟洒なサウンドが融合した“極彩色の饗宴”で、鮮烈な刃を叩きつけるかのように鋼のブラスが底知れぬ威力を発揮する。

sv0013t.jpg「ニヤリ」と“悪魔の笑み”を浮かべるや、“後は野となれ山となれ”で指揮棒を風車のように振り回して完全燃焼するミュンシュに対し、小澤は用意周到に切れの鋭いリズムを配して気魄と熱気で勝負をかける。

ツボにはまったように打ち込まれる先鋭な和音打撃とシンバルの強烈な止め打ちは痛快の極みで、若き小澤の“才気の迸り”を伝えてあますところない。

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SHM-CDでオリジナル・ジャケットが復刻されたのも喜ばしく、LPを聴き込んだ愛好家にはさぞかし歓迎されることだろう。


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[ 2014/06/08 ] 音楽 ベルリオーズ | TB(-) | CM(-)