ベイヌムのブラームス/交響曲第1番ハ短調(旧盤)

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ブラームス/交響曲第1番ハ短調 作品68
エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
Recording: 1951.9.17 Concertgebouw ,Amsterdam
Recording Producer: John Culshaw (DECCA)
Engineer: Kenneth Wilkinson
Length: 41:17 (Mono)
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このブラ1はベイヌムの名を天下に轟かせた名盤中の名盤として知られたもので、フルトヴェングラー指揮ベリルンフィルのブラ1“東の横綱”とすれば、このベイヌム指揮コンセルトヘボウ管は、さしずめ“西の横綱”に位置する「剛」の演奏の代表格的存在だった。わが国では1954年に発売され、名曲喫茶ではワルターやトスカニーニよりもこのベイヌム盤が多くリスエストされていたという。

「このブラームスの『第1』はベイヌムのレコード中の最高傑作といっても過言ではあるまい。ぼくの学生時代は名曲喫茶が全盛で、中野の”らんぶる”という店によく行ったものだが、行くとかならずといってよいほどベイヌムのブラームスの1番がかかっていた。早大の哲学科の学生がいつもスピーカーの前に陣どって、このレコードをリスエストしていたのである。その店にはワルター=ニューヨークフィルの同じ曲もあったのだが、ぼくもベイヌムの方に軍配を挙げた一人である。」 宇野功芳『わが魂のクラシック』より、平林直哉編、青弓社、2003年)


sv0053b.jpg筆者が学生の頃に聴いたベイヌムの旧盤は、London(キングレコード)のMZ5015MX9027の廉価盤だったと記憶するが、その骨の太い男性的なスタイルと小細工なしに一直線に押してゆく演奏解釈はブラ1のイメージにぴたりとフィットするもので、ベイヌムの逞しい牽引力と燃焼度の高さもさることながら、この当時、コンセルトヘボウ管に備わっていた鉄壁のアンサンブルに驚嘆し、以来、この盤の虜になってしまった。


録音のすばらしさも特筆される。カルショウとウィルキンソンのコンビによるFFrr(Full Frequency Range Recording)と銘打ったハイファイ・サウンドは、モノーラルながらくっきりと楽器が浮き立つような解像度と分離感に優れ、伝説的な名録音と謳われた。カルショウによると、コンセルトヘボウの客席をすべて取り払い、平土間にオーケストラを並べて録ったのが秘訣とされる。 「山崎浩太郎が選ぶデッカ名録音ベスト7」より『レコード芸術』通巻671号、音楽之友社、2006年)

sv0053c.jpgいまCD(UCCD-35419)で聴くと、LPのまろみを帯びた太い音のイメージとは大きく異なり、高音域を強調し過ぎのためか、骨と皮だけの痩せたギスギスした音になってしまったのが残念で、筆者はLP(MX9027)をCD-Rに起こして聴いている。日本のレコード会社はリマスター段階で音を必要以上にいじくる傾向にあり、購入してがっかりさせられることが多い。


「ベイヌム最高傑作といっても過言ではあるまい。1951年のコンセルトヘボウの技術とアンサンブルは言語に絶するほど優れており、ベイヌムのリズムの良さと相俟って、きわめて若々しく新鮮な外面を持つ。しかし内部に荒れ狂っている精神力は激しいダイナミックやテンポの動きを生み、ロマン的な情緒は心からのカンタービレとなる。」 宇野功芳氏による月評より、MX9027、『レコード芸術』通巻第332号、音楽之友社、1978年)


「再録音よりすべての意味で若々しく、この指揮者の芸術性が生地のまま示されている。それだけにみずみずしく、運動性が強い。全体としては新古典主義的な解釈で、第3楽章は早めのテンポを採り、終楽章は端然とした構築性と流動感を兼ね備えている。アルプス風のホルンの旋律も魅力的である。」 小石忠男氏による月評より、K28Y1039、『レコード芸術』通巻第460号、音楽之友社、1989年)



第1楽章 ウン・ポコ・ソステヌート~アレグロ
sv0053d.jpg早いテンポで勇ましく押してゆく序奏は筆勢の強いスタイルで、強靭ともいえる弦の張力ォルテの和音を弾き切る力瘤によって、のっぴきならぬ緊迫感が前面に立ちはだかる。

哀しみに打ち震えるオーボエや、コクのあるチェロによってロマン的な気分が薫り立ち、どっしりと構えた主部は、「ぐい」と弾きぬく筆圧の強いフレージング直裁的な推進力で聴き手を圧倒する。

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sv0053e.jpg〈運命動機〉の律動(159小節)から速いテンポでザクザク押し込んでゆく逞しい弓はこびは冠絶しており、アインザッツの切れも抜群! 張りある切分音やリズミカルなスタッカートで展開部に押し進むベイヌムの気っ風のよい棒さばきがある種の快感を誘っている。

音量を増して高揚するコラール〈元気を出せ、わが弱い心〉(232小節)を筋金入りのフレージングによって雄渾に、輝かしく奏するところもベイヌムの個性が際立っており、ムチのようにしなる弦とシャッキリと打ち込む和音打撃が痛快である。

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この楽団の個性的なサウンドが持ち味を発揮する第2主題部も聴きのがせない。艶光したような光沢のある弦楽器、葦笛のような愛嬌のあるオーボエ、くすみがかった燻し銀のホルン、といった名門楽団のメロウなサウンドがしっとりと明滅しながら浮かび上がってくるところは、メンゲルベルク時代のロマンティックな響きが残り香のように漂っている。

sv0053f.jpg最大の聴きどころは、フルトヴェングラーもかくやと思わせる疾風怒濤の勢いで荒れ狂う総奏の頂点(321小節)。嵐のような弦の16音符で激高し、強烈な打楽器と金管を叩き込んで迷いなく再現部に突進する直球勝負の闘争劇は聴き手の昂奮をかき立てる名場面だ。

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一気呵成に畳み掛けるコーダ(459小節)もすさまじい。鋼のようなシンコペーションから強靭なリズムでクレッシェンドを重ねる決めどころの力ワザは圧巻で、活力のある運動性と鮮明なテクスチュアに熱くなるのは筆者だけではないだろう。早いテンポのエンディングもパンツのゴムのような弛みがなく、端正な造形でキリリと引き締めている。


第2楽章 アンダンテ・ソステヌート
sv0053h.jpg低音を土台に淀みのない流れにのせる賛歌は、いたずらに感傷にひたることなく、平穏な気分の中にもピンと張り詰めた緊張感と意思的な力が秘められている。

中間部で歌われるオーボエやクラリネットのコロラチュラ主題の味わい深さも格別で、分厚い音でなみなみと注ぎ込むユニゾン主題恰幅のある進行は男のロマンといえる。
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筆路明快に歌い出される主題再現(67小節)は楽想をねじ曲げたりナヨナヨしたりせず、瑞々しい線で率直に歌い上げていくところがじつに感動的である。  

sv0053i.jpgこれに彩りを添える独奏ヴァイオリンがたまらない。メンゲルベルク時代を彷彿とさせる甘美なトーンは一度聴けば病みつきになりそうな蠱惑的な響きで、独奏を受け持つのは当時のコンサート・マスターで、かつてベルリンフィルやシュターツカペレ・ドレスデンのコンサート・マスターもつとめたヤン・ダーメン(1948~1957在任?)だろうか。

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「オーボエをはじめ、さまざまな楽器が実にみずみずしく潤いがあるのはベイヌムである。ほんとうにこのころのコンセルトヘボウはよい響きがしていた。」 「究極のオーケストラ名曲解剖(10)」より平林直哉氏による~『レコード芸術』通巻658号、音楽之友社、2005年)



第3楽章 ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラッチオーソ
sv0053p.jpgインテルメッツォはコンセルトヘボウの木管セクションの馥郁たる香りに魅了させられる。ここでは、低音弦のオブリガートなどの細部が明瞭に聴き取れるのが驚きで、チェロが第2主題の伴奏音型をコツコツと刻む崩しのない実直なスタイルが印象的だ。  TOWER RECORDS

中間主題は無用に高ぶることはしないが、トランペットの強奏や強いピッツィカートによってメリハリをつけるあたりはフルトヴェングラーに通じるところがあろう。再現部の開始でオーボエが信号のような3連音を発しているのもユニークだ。


第4楽章 アダージオ-ピウ・アンダンテ(序奏)
sv0053o.jpg剛毅に立ち上がる序奏の気魄に度肝をぬかされるが、生々しいピッツィカートや不気味な上昇音型から身もだえするように奏する動機がものものしく、いかにも巨匠風。

鋭く打ち込むティンパニの雷鳴とともに、たっぷりと湧き上がる崇高なアルペン・ホルンはブラームスの神髄を究めたもので、序奏の見事さにおいてはフルトヴェングラーと双璧だろう。   TOWER RECORDS
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sv0053q.jpg主部の〈歓喜の主題〉は極太の筆に墨をたっぷりと含ませて書き上げる書家のごとく、肉感のある中音域を響かせて早いテンポで突き進む。

腹に響く強いピッツィカート・リズム、切れのあるフレージング、金管の鋭いアタック、鼓舞するような決めどころの高揚感など、いずれをとってもベイヌムの覇気が漲っており、質実剛健の気風に心を掴まれてしまう。

フレーズが脈々と流れる第2主題部もコクがあり、第2句〈慰めの動機〉(132小節)を奏するオーボエの2重奏など、あまりにも切なくて胸が苦しくなってしまう。

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sv0053r.jpg再現部(185小節)も悠然とした太い流れに揺るぎはない。がっしりと力強い打撃と鋭いリズムによって突進するところは指揮者の決然とした思いが込められている。

圧巻は頂点(279小節)で爆発する鋼のような力強い管弦楽で、燻し銀の金管が「ここぞ」とばかりに炸裂! アルプスの最高峰を極めたスケールの大きな音楽が力強く流れてゆく。  TOWER RECORDS


コーダ(367小節)はベイヌムが鉄壁のアンサンブルを武器に、強靱なシンコペーションでピウ・アレグロへ直進する。驚くべきはコラール句の強奏(407小節)をまったくリタルダンドせずに一気に突っ走るところで、剛胆な力感と畳み掛けるようなクライマックス効果がとてつもない迫力を生んでいる。

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sv0053j.jpg「リタルダンドが来るのではないかと予想したオーケストラとの間にずれを生じている」とライナーノート(宇野功芳氏)に記されているが、筆者にはオーケストラが確信をもって突っ切っているようにしか聴こえない。

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楽員はベイヌムと何度もこの曲を演奏して手の内を熟知していただろうからこのような事は考えにくい。ベイヌム=コンセルトヘボウ管全盛期の実力をあますところなく刻んだ忘れえぬ一枚だ。


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[ 2015/09/26 ] 音楽 ブラームス | TB(-) | CM(-)

クライバーのJシュトラウスⅡ/ポルカ《雷鳴と電光》

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ヨハン・シュトラウス/ポルカ《雷鳴と電光》作品324
カルロス・クライバー指揮
バイエルン国立管弦楽団
Recording: 1986.5.19, Tokyo, Showa Woman's Univ.
Location: Hitomi Memorial hall
CD: Memories ME1005 (2005/2/11)
Length: 3:16 (Stereo)
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海外演奏家の来日公演において、カルロス・クライバー&バイエルン国立管弦楽団の1986年公演ほど強い印象を残した演奏はなかった。クライバーは1970年代は専らオペラが中心、80年代に入ると指揮する機会は激減し、たまに客演でオーケストラ・コンサートを振る程度であったから、1つのオーケストラで11日間、計8回のコンサートをわが国で精力的に演奏したのは音楽ファンには夢のような出来だった。

sv0052k.jpgプログラムは2種。〈A〉は3公演で「魔弾の射手」序曲(ウェーバー)、交響曲第3番(シューベルト)、交響曲第2番(ブラームス)、〈B〉は5公演で交響曲第4番と第7番(ベートーヴェン)。ことに後者はクライバーのオハコ中のオハコで、公演を重ねるごとに音楽に磨きがかかってきたと関係者は語っている。

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チケットはすでに5ヶ月前に2時間で完売。指定されたホテルの部屋が取れなかったり、手配ミスでスタンド付きの指揮台を東京文化会館から非公式に持ち出したり、といった予期せぬトラブルにも見舞われたが、公演最終日の5月19日をむかえ、昭和女子大学人見記念講堂にはNHKのカメラが入り、“伝説の名演奏”の舞台が整えられていた。

sv0052l.jpg公演のさなか、クライバーは同じく来日中のポリーニの演奏会に足を運び、小澤征爾夫妻を交えての会食を楽しんだが、数日後にマゼールからも会食のオファーが来たという。
この時、ベルリンフィル次期音楽監督のポストを虎視眈々と狙うマゼールは、最大のライバルと目されたカルロスに近寄って、さぐりを入れたらしい。

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「貴殿はヤル気あるのですか?」「とんでもない!そんなことに縛られるのはまっぴらごめんだ!」 これをきいたマゼールは上機嫌でレストランを後にしたという。
「くくく・・・これでベルリンフィルの次の指揮者はコノ俺かも。」


【ムック】カルロス・クライバー: 孤高不滅の指揮者 文藝別冊
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sv0052i.jpgこのとき、8回すべてのコンサートでアンコールとして演奏されたのが《こうもり》序曲ポルカ《雷鳴と電光》。ともにニューイヤーコンサートでも演奏したカルロス極めつけの演目だが、あの気難し屋がアンコールを2曲続けて演奏したのもめずらしい。

カルロスの本領はポルカにあるといわれるように、《雷鳴と電光》で水を得た魚のように指揮台で繰り広げるパフォーマンスの数々と、ツボにはまった即興的な演奏は、空前絶後とよぶにふさわしい後世に語り継がれる名演奏となった。

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「今でもバイエルン国立管のメンバーが口をそろえて礼賛し、思い出を語り合うのが最終日、5月19日の昭和女子人見記念講堂の演奏会。短期間のうちに5回の同一プログラムをこなした結果、オーケストラにクライバーの解釈が徹底され、まるで楽員全てがクライバーの魔術にはまったような感覚にとらわれたという。それは客席にも伝わってきた。終演後の客席の沸き方も凄かった。それを受けて演奏されたアンコールのJ・シュトラウスの《こうもり》序曲、《雷鳴と電光》を含め、クライバーのもっとも素晴らしい演奏会のひとつだと断言できる。」 「衝撃の来日公演~その記録と記憶」より岡本稔氏による~『レコード芸術』通巻第663号、音楽之友社、2006年)



sv0052f.jpg筆者はクライバーの実演に接したことがないのでえらそうなことは書けないが、コンサートのもようはテレビでも放送(1986年8月30日)されたから、演奏会に行かずともクライバーの一挙手一投足が目に焼きついている音楽ファンは多いはずだ。FM音声とミックスしたビデオテープを後生大事にとっておき、リニアPCM音声でDVD-R化したものを筆者はお宝のように鑑賞し、クライバーの指揮を真似して暴れてきた。

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はからずも、教育テレビ 『ETV50クラシック・アーカイブ~和洋名演名舞台~』という番組の第2部 「世紀の名演奏」(2009年1月9日)で最新の技術で修復したベートーヴェンの交響曲第7番の映像が、また、BS放送の『カルロス・クライバー特集』(2011年4月2日)でコンサートの〈完全版〉が最新の映像でオンエアされ、あらためて“伝説の名演”を目の当たりにしたのが記憶にあたらしい。NHK-FMのステレオ音声と同期を取った映像の商品化が是非とも望まれるところだ。

sv0052b.jpgこのコンサートは、コレクターズ・レーベルとして隠れ人気のある伊メモリーズ(MEMORIES)の輸入CD(ME1005)でも聴くことが出来る。1986年5月の録音としかクレジットされていないために音源は詳らかではないが、日本公演のものに違いない。ライヴにしては厚みのある高音質であることから、NHK-FMのエアチェックをソースとしているのかしら。

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ヨハン・シュトラウスが生涯に作曲した479曲のうち、ポルカは約100曲とされるが、中でも異彩を放つのが《雷鳴と電光》。大空を一瞬のうちに走る不気味な稲妻と耳を聾する雷鳴をたくみに描写した2拍子の早いテンポのポルカ・シュネルで書かれている。「もう1曲やるよ~ん」と客席に合図をしてカルロスが腕を回すや序奏の太鼓の轟音が轟き、客席の照明が落ちていく。

ポルカ・シュネル
sv0052h.jpg主部は大太鼓と小太鼓が連動して遠雷を描き出し、激しく音階を上下するチェロが突風を、ピッコロの叫びが雷の来襲を告げる荒々しい音楽だ。指揮棒を前に差し出して左右に大きく舞うようなカルロスの取り回しがユニークで、軽く前方に差し出した指揮棒でシンバルの強打を導く姿もかっこいい。“ヤル気のない”演技とは裏腹に、切れのあるリズムを打ち込んでダイナミックな嵐の総奏に突進するところにのっけからゾクゾクしてしまう。

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強烈なパーカッションを2発打ち込んだあとに、管楽器に向かって大きく伸び上がって指揮棒を「ちょい」と差し出すパフォーマンスが千両役者のようで、対照的に、指揮台のバーに片手を置いて、力瘤を拒絶したアクションからアナーキズムが漂っているところもカルロスたるゆえんだろう。不健康そうなカルロスの顔をクローズアップするショットが、嵐の不気味な楽想にフィットしているのがおもしろい。


トリオ
第1トリオは稲妻と雷鳴がけたたましく交錯しながら音楽が迫力を増してくる。ジューシーでコクのあるチェロの歌のあとに、ダイナミックに打ち下ろされるシンバルと大太鼓の衝撃音に思わずのけぞってしまう。
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指でつまむようにして、軽やかにちょこちょこと動かすタクトによって、雷(いかずち)の一撃が振り下されるところは魔術としかいいようがなく、腰を落として急降下するようにオーケストラを静止させるところなど、まるでジェットコースターに乗っているようで酔ってしまいそうになる。

「カルロスが要所で何度もアクセルを踏み直すように加速してアドレナリンを刺激する」 金子健志氏による~『レコード芸術』通巻第702号より、音楽之友社、2009年)


sv0052g.jpg第2トリオもすさまじい。雷鳴をあらわす大太鼓のクレッシェンド・デクレッシェンドにシンバルのクラッシュと金管が呻りをあげるところは迫力満点。弦のフレーズは泳ぐようなタクトによって、ゆったりとした流れをつくりつつ、要所で左手をくるくる回してオーケストラを煽って畳み込むニューイヤーコンサートでお馴染みのパフォーマンスも飛び出して、スリリングな興奮を高めている。

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ポルカ・シュネル(繰り返し)、シュルス(終止)
sv0052j.jpgシュネルの再現は、左手を手刀のように、ジャンプして打撃を叩き込むカルロスのパフォーマンスが飛び出して、音楽が俄然、熱気を帯びてくる。

快刀乱麻を断つがごとく「スパスパ」と歯切れ良く料理するシュルスは、まるで活劇を観ているような痛快さがあり、ポルカにラテンの感覚を持ち込んで指揮台で跳梁跋扈するクライバーの姿は、別世界に迷い込んだいたずら小僧が悪さをして愉しんでいる趣がある。

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両手を大きく広げて快活に演ずる動(明)の部分と、指揮台後方のバーを掴んで半身の体勢で「真剣に指揮をすることを拒むようなヤル気のなさ」を示す静(暗)の部分が奇妙なコントラストをつくり、両者が矛盾するかたちで音楽がコーダに向かって収斂する。

sv0052c.jpg最後のフェルマータの和音が鳴りはじまるや、曲が終わりきらぬうちに万雷の拍手喝采の嵐が湧き起こってくるところもライヴならで、会場に居合わせた聴衆の興奮と熱狂がディスクからも伝わってくる。   TOWER RECORDS

「に~~」と笑むカルロスの気味の悪い笑顔も印象的で、空前絶後の「ポルカ」は、まるで地上に降りてきた悪魔の悪戯のように思えてしまう。是非ともコレクションにくわえておきたいお宝の1枚だ。


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[ 2015/09/12 ] 音楽 J.シュトラウスⅡ | TB(-) | CM(-)