フルトヴェングラーのブラームス/交響曲第4番(48.10.24)

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ブラームス/交響曲第4番ホ短調 作品98
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1948.10.24 Titania-Palast, Berlin
Source: RIAS Berlin (EMI)
(Henning Smidth Olsen No.137
Length: 41:27 (Mono Live)
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フルトヴェングラーのブラームス交響曲第4番といえば、終楽章のリハーサル風景が筆者の目につよく焼き付いている。それはベルリンフィルがロンドン公演を行った際の本番前日のリハーサル映像で(1948年11月2日於エンプレス・ホール)、ティタニア・パラストでのコンサート(当盤)直後のものだ。

sv0055c.jpgこれは報道映画の代理店ヴィスニュース社の所蔵する実録映画の1コマで、終楽章第16変奏(展開部129小節テンポ・プリモ)から最後の部分が収録されている。

リハーサルとは思えぬ気魄にみちた演奏は何度見ても鳥肌が立つすさまじいもので、弦の嵐の中から管楽器が強烈な3連音を打ち込む第24変奏のシーンで、タコ踊りのように体をくねらせて激しく揺れ動く巨匠の指揮姿をカメラが捉えている。

「リハーサルは完璧でした。そのままコンサートにのせることが出来るほど徹底していた。フルトヴェングラーは、ひと言でいうなら、偉大なロマンティスト。常に美しい響きを追求していて、リハーサルに現れたときは、もうその音楽の世界に没頭していた。頭の中は今から演奏する音楽でいっぱいで、そういう情熱は、団員全体に感染しますよ。(元ベルリンフィル首席コントラバス奏者ライナー・ツェペリッツ)」 川口マーン恵美著『証言・フルトヴェングラーかカラヤンか』より、新潮選書、2008年)


「フルトヴェングラーの夢中になった指揮姿はとてもリハーサルとは思えない。あんな感じで練習していて、本番はどうなってしまうのだろうか、と心配なほどだが、彼はいつも燃えるようなリハーサルをしたらしい。普通の指揮者の倍近くも練習時間を取りながら、いつも時間が無くなって途中で打ち切りになってしまったらしい。そしてリハーサルの後は見るも気の毒なくらい疲れ果てていたそうだ。」 宇野功芳「フルトヴェングラーの何が偉大なのか」~『文藝別冊フルトヴェングラー』より、河出書房新社、2011年)



フルトヴェングラーのブラームス〈第4〉はオールセンによれば、次の6種(うち1点は未発表音源)と前述の第4楽章リハーサル風景の映像が残されている。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
BPO1943.12.12-15Berlin,Philharmonie, RRGMelodiyaO_ 94
BPO1948.10.22Berlin, Dahlem Gemeindehaus, SFBTahraO_134
BPO1948.10.24Berlin, Titania Palast, RIASPathe(EMI)O_137
BPO1948.11.2London, Empress Hall-rehearsalVisnewsO_138.5
BPO1949.6.10Wiesbaden, Staatstheater, HessenFW-SocietyO_169
VPO1950.8.15Salzburg, Festspielhaus, ÖRFMusic&ArtsO_216
VPO1951.10.21Frankfurt, am Mein, HessenNot IssuedO_263


これらの中では、ポルタメントをかけて激しい気魄で荒れ狂う大戦盤①と、むせるようなロマンと迸るような熱情を併せ持つテイタニア盤③が双璧ではないだろうか。即興的なテンポの動きや気魄は後退するが、音質がよく情感ゆたかでしっとり感のある④ヴィースバーデン盤を好むファンも多いだろう。

sv0055f.jpg②ダーレム盤(GCL-5004~5、FURT-1025)は③の2日前の演奏だが表現が大人しく、全体にリズムが重たい。⑤ザルツブルク盤は荒れ狂った力演だがMusic&ArtsやNova Eraの音荒れがひどく、Orfeoを聴いても音質の点で鑑賞には苦しい。
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当演奏③は、ベルリンRIAS放送局のアーカイブを音源とするが、2009年にマスターテープ(76cm/sec)から起こされたCDが独auditeより発売されたことによって従来の音盤は存在価値を失ったとされる。

TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [The Complete RIAS Recordings]

sv0055e.jpgしかし筆者はEMI系の厚みのある密度の濃い音に長らく親しんできたせいか、出力が低くドライなauditeの音に馴染めない。むしろ、仏HMV(FALP544)を復刻したグランドスラム盤(GS2044)や、1984年にリマスタ-・デジタル・テープからカッティングされた厚手重量LP(WF50011)をCD-Rに焼いたものの方が肉感のある太い音で鳴ってくれるので、筆者はこちらを好んで聴いている。

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第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
sv0055g.jpg哀切を込めた夢幻のテヌートで奏するアウフタクトのhの開始音は“神技”とよべるもので、ポルタメントをかけたオクターブ下降、もってりと厚みのある内声アルペジオ、悲しみに打ち震えるオーボエの模声など、寂寞とした風情で揺れ動く第1主題からロマンの薫りがしっとりと立ちこめてくる。

身も心も吸い寄せられてしまいそうな深遠な響きは巨匠でしか聴けないものである。

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「ブラームスの《第4番》の最初のHの音ね、フルトヴェングラーしか出せない音です。もう驚くべきものです。あの出だしで勝負がきまります。いまのブラームスの《第4番》の出だしのような息づかいも、ここだけでなくフルトヴェングラーのお家芸の1つなんですね。チェリビダッケが初めて来日してブラームスの《4番》をやったらね、驚くべきことに読響はあの最初の第1主題のH→Gの音をね、スウッと吸い込まれるように出した。あれはフルトヴェングラー流です。」( 座談会「フルトヴェングラーをめぐって」より丸山真男氏による~『フルトヴェングラー』、岩波書店、1984年


「私はかつてのフルトヴェングラーがベルリン・フィルハーモニーで残している演奏で、やはり出だしのあの3度関係で上下する主題の扱いで、最初のhの長さをたっぷりとってから前進するという、しみじみと心の奥まで届くような独特の表情のつけ方をしているのを、指摘したことがある。そうして、一度この魅力にとらえられると、ほかの人の別の扱いは、それなりに理解し、受け入れはしても、何かもの足りず、完全に満足できなくなるのだった。」 吉田秀和著『世界の指揮者』より、筑摩書房、2008年)


「最初の、ヴァイオリンだけでhを長くひっぱった出だしの音が、すでに、普通ではない。それは、主題の全体の出発点というだけでなくて、曲全体の入口に立って、これが、何ものかに対する名状しがたい憧れの音楽であることを、物語るといっていい始め方なのだ。」 吉田秀和著『フルトヴェングラー』より、河出書房新社、2011年~初出1981年)



sv0055h.jpg第2主題の律動的な〈リッターモチーフ〉(騎士的動機)は力強い。大きく弾むピッツィカート・リズムにのって、チェロが雄雄しく、急き立てるように歌いあげる緊迫感は無類のもので(57小節)、大きく高揚して歌い上げる〈和解の句〉(91小節)は巨匠の情熱が迸るかのようだ。騎士的動機の3連音で頂点に駆け上がるリズムの切れも抜群で、ティンパニの強打と鋭い和音打撃によって一刀両断に叩き切るところは巨匠の力ワザが全開である!

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sv0055i.jpg展開部(137小節)は弦の喘ぎを振り払うような筆圧の強い〈反抗の句〉や、淋しげなピッツィカート伴奏にのった木管の哀切を込めた調べ(220小節)に涙を誘われるが、聴きどころは木管と弦の対話の後に息の長いリタルダンドで移行する再現部(246小節)。

12小節に拡張した主題をスローモーションのように吹奏する場面は、“夢幻の境地”ともいえる巨匠の奥義を開陳したもので、祈りにも似た痛切な音の訴えに胸が詰まってしまう。

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sv0055r.jpgあたかも物語の続きのように途中から開始する主題再現は、うねるような波が激情の嵐となって猛烈な勢いで突進する。獅子吼するホルンや地を踏み締めるリズムで感情を高める〈騎士的動機〉も霊感を宿したフルベンの独壇場。コデッタの慰めの気分も束の間、いよいよ切分音に3連音を噛み合わせたフガート風の壮絶なクライマックスがやってくる。

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sv0055q.jpg激しいトレモロで駆け上がるコーダの頂点(394小節)は、巨匠が無我夢中になって荒れ狂う。「ここぞ」とばかりに強烈なカノンでぶつける主題強奏はすさまじく、さらに激しい加速をかけてなりふり構わず疾走していくところは「これぞフルベン!」と膝を打ちたくなる。

驚くべきは弦の音階的な分散和音がほとんど破綻していることで、ことに後半では半数以上の弦楽器奏者が雪崩のように脱落している。終止のリタルダンドも即興的で、ここまでやらずにいられなかった巨匠の燃焼ぶりを伝えてあますところがない。

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「第1楽章の最初のロ音を聴いただけで、すでにフルトヴェングラーの世界に誘われてしまう。よくもこんな音が出せるものだ。彼はブラームスが書いた楽想を徹底して描き分けるが、録音のせいもあって、リズミカルな部分がいくぶん硬く響く嫌いもある。コーダのアッチェレランドはまさに気違いじみており、音楽自体から考えて、ここまでやる必要があるのかどうか疑問だが、興奮させることは事実であり、最後のリタルダンドがいかにも効果的だ。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの名盤』より、芸術現代社、1977年)




第2楽章 アンダンテ・モデラート
sv0055j.jpg張りのある力強いホルンで開始する内省的な音楽は、一歩一歩踏みしめるような重い足取りで進行、会場のデッドな響きからオンマイクの木管楽器が生々しく聴き取れる。聴きどころは練習番号B(30小節)のヴァイオリンの美しい主題変奏で、しっとりと、麗しく高潮する音楽がすこぶる感動的だ。

慰撫するようなチェロのテーマ(第2主題)もたまらない。コクのあるフレージングで纏綿とたゆたうところはロマンの極みといってよく、浄化するような高弦のオブリガートが聴き手の心を癒してくれる。

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sv0055k.jpgクライマックスは、主題が分散和音で展開する再現部のフォルティシモで、3連音の反抗的な音型を鉄槌のようにザクザク打ち込んでゆくところは巨匠の荒業が炸裂する。弦楽5部で重厚に歌う第2主題(88小節)も聴き逃せない。

心魂込めて歌い上げる密度の濃いエスプレッシーヴォは巨匠の奥の手を見せたもので、熱き血のたぎりすら感じさせる激情の炎が聴き手の心を鷲掴みにする。おづおづと回想するコーダのねばりのあるフォルテも巨匠の情念を刻印したものといえる。     TOWER RECORDS  HMVicon



第3楽章 アレグロ・ジョコーソ
sv0055l.jpg開始のアインザッツが一瞬ずれて「ドキっ」とさせられるが、このフライングをカットして途中から始まったように修正した盤が存在することは平林直哉氏がGS2044のライナーノートで指摘している。

この“ずれ”はフルベンの名刺代わりといえるもので、①⑤でもわずかな不揃いがみとめられる。ここではベルリンフィルの古色蒼然とした“鉄血サウンド”が全開で、軋むような音を立てて硬い打撃で古武士然と突き進む。中間部で主題を変奏する燻し銀のホルンもレトロで魅力的だ。

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sv0055o.jpg再現部(199小節)は鋼のような打撃を繰り出して頂点に駆け上がるフルベンの荒武者ぶりを堪能させてくれる。ホルン信号を合図に猛り狂うコーダもすさまじく、弦の分散和音をクレッシェンドしながら突っ走るところに背筋がゾクゾクしてしまう。落雷のようなティンパニの強烈な連打にも度肝を抜かされるが、大見得を切るようにリタルダンドを決めるスリリングで豪快な終止は、巨匠のみに許された“必殺ワザ”といえる。 

 (写真はプライヴェート盤 GCL5004/5)

「第3楽章は実演における一発必中の表現だ。情熱の爆発と強い意志による統制が両々相俟って、すさまじい力の噴出となる。終結の決め方(あのテヌートの巧さ!)など、他の誰にも出来ることではない。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの名盤』より、芸術現代社、1977年)



第4楽章 アレグロ・エネルジコ・エ・パッショナート
sv0055m.jpg8音の〈シャコンヌ主題〉は荘厳でドラマチックだ。巨匠が仕掛けてくるのはヴィブラートとポルタメントでラプソディックに歌う第4変奏からで、骨太墨絵を描くような第5変奏濃厚な弦のうねりや、身をよじるようなテンポ・ルバートで揺さぶる第6変奏のデフォルメはフルベンの面目が躍如する。

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声部を増しながら内的な昂奮を高め、第11変奏で頂上に達する疾風怒濤の棒さばきも巨匠の手の内に収めたものといえる。神韻縹渺と奏でるフルート独奏(第12変奏)や、トロンボーンとホルンが吹奏するサラバンド風の〈慰めの動機〉(第14変奏)に漂う崇高な気分はいかばかりだろう。 

TOWER RECORDS  amazon [Salzburg Box]

sv0055p.jpg劇的なドラマは第16変奏のテンポ・プリモ(展開部)にやってくる。原調にもどった〈シャコンヌ主題〉を弦の熾烈な下降音型が切り裂くように落下して管弦の嵐が吹き荒れる。弦のスタッカートは3連符となり、これが急上昇してトロンボーンの一撃と対峙するところは聴き手も思わず力が籠もる! 

圧巻は打楽器の後打ちで3連音を叩き込む第24~25変奏(再現部)で、トレモロの嵐が吹き荒ぶ中、巨匠はタコのように全身をくねらせながら苛烈な打撃を「これでもか」と叩き込む。リハーサル映像がとらえたこの凄絶なシーンに筆者は身も心も釘付けになって、戦慄を覚えずにはいられない。

(写真は米Music&Arts CD-258)

「このパッサカリアを誰よりも速いテンポで演奏している。彼は、この楽章の暗くドイツ的なバッハ風性質を強調することなく、《エロイカ》の終楽章のようにがむしゃらに推進させている。彼の疾駆するテンポは戦闘的に燃え上がる。ティンパニはすさまじい音で鳴りわたり、テクスチュアを圧倒している。トロンボーンは荘厳に吟唱せず、激しく朗唱し、弦はひと筋の炎のようにはいってくる。」 ピーター・ピリー著『レコードのフルトヴェングラー』より、横山一雄訳、音楽之友社、1983年)


「第4楽章は第1変奏のものものしい表現にすべてが尽くされている。フルトヴェングラーの演奏に接すると他の指揮者は生ぬるくてとても聴けない。ここはこのようにやるべき音楽なのだ。こうでなくてはならないのだ。第16変奏以降の推進力もすばらしい。しかし、第3変奏のヴァイオリンに極端なヴィブラートをつけたり、コーダの加速など、ブラームスとしてはやりすぎの部分もあり、ぼく自身、手ばなしでフルトヴェングラーの演奏を謳歌するものではない。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの名盤』より、芸術現代社、1977年)


sv0055d.jpg緊迫したストレッタから大仰なリタルダンドで突入するコーダ(ピウ・アレグロ)は、弦の下降音型を伴奏に管楽器が〈パッサカリア主題〉(第31変奏)を絶叫する。固いリズムをガツン、ガツンと打ち込みながら、抉るようなフレージングでさばく結尾の音楽は、テンパニの最強打による劇的なカデンツで締め括られる。

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sv0055n.jpg60余年を経た今なお、聴き手を酔わせてくれる至高の《ブラ4》で、巨匠が全身全霊を傾けた入魂の1枚だ。

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[ 2015/10/24 ] 音楽 ブラームス | TB(-) | CM(-)

バーンスタインのショスタコーヴィチ/交響曲第7番《レニングラード》

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ショスタコーヴィチ/交響曲第7番ハ長調 作品60
レナード・バーンスタイン指揮
シカゴ交響楽団
Recording: 1988.6.23 Orchestra Hall, Chicago (DG)
Excective Producer: Hanno Rinke
Recording Director: Hans Weber
Recording Engineer: Karl August Neegler
Length: 84:48 (Digital Live)
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ショスタコーヴィチの交響曲第7番は戦争を主題とする標題音楽的な作品で、戦争3部作の一角を成すシンフォニーだ。1941年ナチス・ドイツによるレニングラード包囲戦を体験し、自らも消防手の資格で音楽院の屋上監視員の任務についた作曲者は、この曲をプラウダ紙上で「ファシズムに対する戦いと、我々の来るべき勝利をわが故郷のレニングラードに捧げる」と語ったことから《レニングラード交響曲》とよばれた。

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この音盤はバーンスタインが37年ぶりにシカゴ響を振って話題を呼んだ演奏会のライヴ録音で、名人オケを自在に操り、客演とは思えぬ息のあった演奏をやってのけている。筋肉質の響きで力強く歌い上げる〈人間の主題〉はもとより、〈戦争の主題〉で炸裂するパワフルなオーケストラ・サウンドが最大の魅力で、名人オケがその威力をフルに発揮する。

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何よりも素晴らしいのが楽想にきめ細かく刷り込まれた情感ゆたかさで、ヒューマンに歌いあげる音楽はレニーのための大交響曲《レニーグランド交響曲》といえる。シカゴ響の名物奏者のパフォーマンスも冠絶しており、ことに木管の美しさは比類がなく、各パートを的確に捉えた解像度の高い録音はライヴ録音とはとても思えない。

「この演奏に、ショスタコーヴィチの音楽の二重言語的性格を炙り出す批評性を求めることは難しい。バーンスタインは、むしろ作曲者がぎりぎりの場所で抱いていた“人間への希望”に賭けることを選ぶ。80分を超える長さに膨れ上がったこの演奏は、シカゴ響の強力無比な合奏を武器に、スターリニズムもヴォルコフの『証言』も蹴散らし、瓦礫と轟音の中からヒューマニズムをつかみとる。終結部の音響の洪水にただ絶句。」 矢澤孝樹氏による月評より、UCCG4101~2、『レコード芸術』通巻第664号、音楽之友社、2006年)


「ショスタコーヴィチの《いのちの曲》の最もすばらしい演奏! 第1楽章で遠くから聴こえてくる行進曲主題が執拗にくりかえされ、クライマックスに達したときは、作曲者も指揮者もわれわれ聴衆も腸捻転寸前だ。そのあとの満ち足りた幸せのハーモニーの癒しも心にしみる。第2楽章の内容の豊かさや心のショック、第3楽章の熾烈な憧れの歌。それは〈第5〉の同じ楽章をはるかに上回る感動作で、どこまでが作曲家でどこまでが指揮者の表現なのか分からないほどだ。」 『新盤・クラシックCDの名盤』より宇野功芳氏による、文藝春秋、2008年)



第1楽章 アレグレット-「戦争」
sv0054c.jpg第1主題〈人間の主題〉は筋肉の付いた弦のサウンドと、鋼のような金管、マッシヴな打楽器の応答は聴き応え充分。要所で叩き込む打撃はパンチが効き、豪壮な中にもゆとりと風格を感じさせてくれる。

第2主題〈平和な生活の主題〉[練習番号6]はレニーの人情味あふれる歌い口が魅力的で、弦の繊細で澄みきった響き、オーボエの長閑な風情、生々しい低音弦やバス・クラリネットの音のご馳走も満載だ。心に沁みるようなピッコロの冴えた響きと独奏ヴァイオリンの美感も特筆されよう。

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sv0054d.jpg展開部[練習番号19]に相当する長大なエピソードはボレロまがいの〈戦争の主題〉。ナチス軍の侵入マーチが小太鼓の連打と弦のコル・レーニョにのって聴こえてくるが、軽快なフットワークで陽気に奏するのがレニー流。第3変奏など、とぼけたオーボエとそれを模倣する間の抜けたファゴットが兵隊ヤクザの珍道中のようで、まるで戦争が茶番劇のように伝わってくる。

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「一言でいえば、人間愛に溢れたショスタコーヴィチである。たとえば第1楽章で、表向きには“ナチスの脅威が押し寄せてくる”と説明されている有名なマーチ(裏的には、“スターリン時代の恐怖政治”とも言われているが)すら、まるで幸福の国からやって来た“平和の使者”たちがダンスしながら行進している、といった趣なのだ。」 福島章恭著『交響曲CD絶対の名盤』より、毎日新聞社、2005年)


sv0054f.jpg聴きどころは、第1、第2ヴァイオリンが平行3和音でメロディーを奏する第6変奏[練習番号33]だ。《ボレロ》でいうと7度目のA主題が弦に出てくる箇所に相当するが、シカゴの弦は柔らかく、まるで羽毛のような軽やかなフレージングで上質の響きを紡ぎ出している。弦楽4部のアンサンブルに拡大する第7変奏は、フレーズを「ぐい」と押し込む重量級の弦楽ユニゾンに満腹してしまう。

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シロホンと弦がシャッキリとリズムを打ち、それにホルンが喰らいつく第8変奏[練習番号37]、弦と木管のグロテスクな対旋律がのたうつ第9変奏[練習番号39]は、シカゴの名人奏者の面々が牙を剥いて吠え掛かる。木管と弦の旋律をかき消すようにブラスが爆発する第10変奏もすさまじい。

タンブリンをくわえた打楽器群が炸裂するところはシカゴ教(響)信者にはたまらない魅力だろう。鋼のようなブラスのテーマ打ち、爆音を轟かせる管弦楽、鉄槌のように打ち込む和音打撃が渾然一体となった第11変奏のダイナミズムは究極のオーケストラ・サウンドといえる。

「テーマの反復と増大を、バーンスタインくらい赤い血潮とともに表出した指揮者はいない。主題は同じなのに楽器の数はしだいに増え、音彩はますますすごくなり(第8変奏)フォルティッシモに達しておどろくべき雄弁な色の旋律とともに奏されるところは、聴いて腸が捻れそうだ(第9変奏)。作曲者も腸捻転寸前だったのではあるまいか。このあたりのバーンスタインの棒はショスタコーヴィチの気持ちを代弁してあますところがない。」 『宇野功芳のクラシック名曲名盤総集編・改訂新版』より、講談社、2007年)



sv0054g.jpgオーケストラが頂点に達した瞬間、〈レジスタンスの主題〉を連呼して〈侵入のマーチ〉を制圧してしまう場面[練習番号45]は、シカゴ・ブラスのパワーが聴き手の度肝を抜く。ここではバンダとして配置された別働隊(第2金管群)が〈侵入のテーマ〉の変形を凄絶に打ち合うが、レニーの力点は〈人間の主題〉を絶叫する再現部の壮大なカタストロフ[練習番号52]にあることは言うまでもない。

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主題の断片をドラマチックに打ち叫ぶ〈死者のレクイエム〉では、指揮者が声涙共に下る大熱弁をふるうが、〈侵入のテーマ〉を切り裂くように打ち放つ断末魔のトランペットとホルンの斉奏を「ここぞ」とばかりに打ち込むところは“名物奏者”の最高度のパフォーマンスを堪能させてくれる。

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コーダで再現する〈人間の主題〉[練習番号66]は感動的だ。しみじみと郷愁をこめて歌い上げる弦楽の懐かしい調べや、亡き友を偲ぶかのように大きくルバートをかけて歌い上げる〈平和な生活の主題〉[練習番号68]など、ヒューマンな情感を宿した音楽はレニーの真骨頂といえる。


第2楽章 モデラート(ポコ・アレグレット)「回想」
sv0054h.jpg悲哀と皮肉をない交ぜにした弦の主楽想と、オーボエが意味深げに語りかける副楽想[練習番号76]が表情ゆたかに歌われる。後者は旋律から微妙に外れていったり、ファゴットの合いの手の嘲笑が聴こえてきたりで、旋律がツボにはまらないのがおもしろい。

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聴きどころはトリオ。3連音のオスティナート・リズムにのって、甲高い小クラリネット(Es管)のグロテスクな叫び声や、戯けたようなブラスの付点主題が跳梁する。シロホンとピアノのリズムをシャッキリと立ち上げてリズミカルに躍動する音楽はレニーの独壇場!頂点はブラスの爆発的なファンファーレ[練習番号91]で、弦がリズミカルに応答してゆく快調な足取りは、腰で拍子を取って、アメリカン・ポップスのようなノリで快活に踊り出すバーンスタインの生気が迸る。
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sv0054n.jpg悪魔的な弦のワルツ[練習番号93]も聴き逃せない。分厚いブラスの打ち込みとシロホンのトレモロに弦の和音を引き伸ばす音場の生々しさも特筆モノで、弦を指板に「バチン!」と強く叩きつけるピッツィカート[練習番号95]に腰を抜してしまう。

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心の震えのようなフルートの刻みにのって、バス・クラリネットが小ぶしを利かせてねっとりと歌い出す副楽想も個性的で、溜息まじりに呟きながら、ネチネチとやるせない気分で奏する表情のゆたかさといったら!


第3楽章 アダージョ「祖国の広野」
sv0054j.jpg固い音でガッシリと響くコラールの吹奏と、バッハの無伴奏ソナタを思わせる弦の静謐なレチタティーヴォ〈古いロシア風の旋律〉(ラルゴ主題)がすこぶる感動的だ。聴き手の心にしっとりと染みわたる弦の澄み切った響きとシルクのような肌触り、ヴィオラとチェロの和音が「ぐい」と重ね合わされるシカゴ響ならではの強靱でコクのある弦楽アンサンブルを堪能させてくれる。

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フルートがホ長調で歌う第2主題(副楽想、練習番号112)も聴きどころだ。ロシアの自然が香るような素朴で可愛らしい旋律は詩的情緒が溢れんばかりで、春を想わせる清らかな調べは一点の濁りもなく、そこはかとない生の歓びが静かにこみあげてくる。クラリネットと2番フルートの伴奏がくわわると、痛切な憧れと侘びしさを込めてたゆたう調べが聴き手の涙を誘っている。
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sv0054k.jpg中間部[練習番号121]は暴れ馬にのって、ロシアの大地を疾走するようなダイナミックな音楽が展開する。ミュートを付けたホルン、トランペット、急迫的な小太鼓の連打が加わると、戦闘モードで“弦付きブラバン”が期待に違わぬ力量を発揮。

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圧巻は別働隊のバンダが「待ってました」とばかりに強烈なコラールを発する〈練習番号130〉で、トランペットがラルゴ主題を“スペイン風”に変奏したファンファーレを華麗に打ち込むあたりは役者の“格の違い”を感じされてくれる。


第4楽章 アレグロ・ノン・トロッポ「勝利」
sv0054l.jpg主部は〈闘いのテーマ〉。戦闘が動き出すのはシロホンと進軍ラッパが鳴りわたる〈練習番号165(4:14)〉からで、壮絶な戦いのシーンをバンダを加えた屈強のブラス軍団が「やってやるぜ」とばかりにドスの効いた吹奏で爆発する。

獅子奮迅の勢いで突進する騎兵隊[練習番号171~173]や、決死の覚悟で白兵戦を敢行する突撃隊[練習番号175]など、疾風怒濤の勢いで敵を撃破すると、勝利を謳う“革命歌風のメロディー”が聞こえてくる[練習番号175]、といった白々しい情景をバーンスタインが自然に立ち振る舞いながらも、ライヴらしい熱演を展開。

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指板を叩きつけるピッツィカート[練習番号177]や、慟哭の表情を濃厚なルバートで演出するサラバンド風の〈哀悼のエピソード〉[練習番号179]もレニーの個性が生々しく擦り込まれたものといえる。

「バーンスタインはここで大胆にテンポを落とし、白兵戦の修羅場で再突撃を促して全軍を鼓舞するかのようなファンファーレのイメージを鮮烈に刻印する。ドラマティックな山場での全力投球の力業はバーンスタインの最も得意とするところだが、ここは最も篏まった例の一つだ。」 金子建志『クラシック人生の100枚』より、音楽之友社、2003年)


sv0054m.jpgクライマックスは〈勝利のテーマ〉[練習番号202]を朗々と発するホルンの斉奏からで、名人オケが究極のヴィルトゥオジティをいかんなく発揮する。

その頂点[練習番号207]で、ブラバンが〈人間の主題〉のファンファーレを高らかに吹き放ち、勝利を力強く宣言する場面が最大の聴きどころで、トランペットがツボを押さえるたように「ハイC」を即興的に引き伸ばして決めるところにゾクゾクしてしまう。壮大なスケール感をもって「大勝利」を確信させてくれる必聴の一枚だ。

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[ 2015/10/10 ] 音楽 ショスタコーヴィチ | TB(-) | CM(-)