ローター・コッホのマルチェッロ/オーボエ協奏曲ハ短調

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マルチェッロ/オーボエ協奏曲ハ短調
ローター・コッホ(オーボエ)
ベルリン弦楽合奏団、ペーター・シュヴァルツ(Hpsi)
Recording:1974.12 Teldec Studio,Berlin
Producer: hiroshi,Isaka
Director: Prof.Hans Feldgen
Engeneer: Eberhard Sengpiel
Length: 11:54 (Stereo)
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ローター・コッホ(1935~2003)は、ベルリンフィルの首席オーボエ奏者として1957年から34年間在籍し、ベルリンフィル黄金時代の屋台骨を支えてきた名手で、筆者が最もあこがれたプレイヤーである。コッホが病気で休んだ時はカラヤンはオーボエが重要なパートの作品のレコーディングを決して行わなかった、という逸話さえ残されている。

sv0083a.jpgオーボエと言えば、ピエール・ピエルロ、ハイツ・ホリガーといったフランス系の名手が知られるが、ヘルムート・ヴィンシャーマンに代表されるドイツ系オーボエ奏者の中でもコッホは別格の存在で、カラヤンが指向する華麗なサウンドの核になっていたのがコッホのオーボエなのだ。

コッホはベルリンフィルの音を創るとともに、オーボエの音に革命をもたらしたともいわれる。

それはその独特の音色にある。短いドイツ・カットを施したリードは特別にぶ厚く、大柄な体から吹き出される音はチャルメラや葦笛のような軽いものではなく、澄んだクリスタルのような硬質な音だ。オーケストラの大音響の中にあっても常に安定した音を響かせ、瞬く間に会場の空間を満たしてしまう。

「音一発で空間をパンパンに満たす強靭な響きと、そこにえもいわれぬ陰影を添える振幅の深くて速いヴィブラートの表現力は、一時代を画した“ジャーマン・オーボエ”の典型をなすものだ。全盛期のコッホが聴かせたオーボエは、最初から最後まで太い柱の上に横たわるがごとき歌の線の、比類のない密度と安定感の高さをとっても最敬礼を捧げるに値しよう。カラヤンのもとで黄金時代を築いた立役者だが、引退が早く、古希の歳も迎えずに世を去ったのが惜しまれる。」 『200CDベルリンフィル物語』より木幡一誠氏による、学習研究社、2004)


「重厚でパワフルな響きの中から、ひときわ突き抜けるようにして飛んで来る、甘美と言うよりは強靱なオーボエの音。カラヤン時代のベルリン・フィルの演奏を聴くと、しばしばそんな場面に出会う。そのオーボエを吹いていたのが、このアルバムで演奏しているローター・コッホ。だがそうしたオーケストラ・プレイヤーとしての演奏を聴くことができても、ソリストとしての演奏を聴くことは、早逝したこともあってか、少なくとも録音上ではあまりない。その意味で協奏曲やソナタ(ルイエの作品は世界発のCD化)を集めたこの1枚は、実に貴重なものだ。」 石原立教氏による月評より、BVCC37454、『レコード芸術』通巻664号、音楽之友社、2006年)


sv0083j.jpgコッホは無類の酒好きでも知られ、「オーボエを吹いているか、ピアノを弾いているか、レコードを聴いているか、それとも酒を飲んだいるかだ」と言われるほどの左党。レコーディングの前日も本番を終えた後、仲間を誘って上機嫌で遅くまで酒盛りをやり、二日酔いでふらふらして現れたという。

そのようなコンディション下でも録音曲を難なく吹きこなし、ことにアダージョの美しさに録音室のスタッフが仕事を忘れ、息を殺して聴き惚れてしまったというエピソードが残されている。

このLPが発売されたとき、コッホの大ファンだった筆者は、近所のレコード屋に買いに走ったのが懐かしく思い出される。

「とりわけ、マルチェロの《オーボエ協奏曲ハ短調》が絶品である。ホリガーとは肌合いは違うが、やはり、このレコードをきくと、コッホの技術が現在最絶頂にさしかかっていることがよくわかる。その表情の多様さは驚くほどだし、柔軟な表現力は、この楽器の能力の限界をつき抜けている。第2楽章のあのメランコリックな主題のうたわせかたの美しさ、また第3楽章における完璧なテクニックなど、まさに名人芸の極致といってよかろう。コッホのような名人の演奏を集めたレコードが、これまで1枚も出ていなかったとは信じられないくらいだが、この1枚は、笛好きな人にはたいへんよろこばれるだろう。」 志鳥栄八郎氏による月評、SRA-2995、『レコード芸術』通巻299号、音楽之友社、1975年)



第1楽章 アレグロ・モデラート
sv0083c.jpgマルチェルロのオーボエ協奏曲は、バッハがチェンバロ独奏用に編曲した《コンチェルトニ短調BWV974》として知られ、現在演奏されているものはバッハから復元したものでニ短調とハ短調の版がある。

レコードでは〈ニ短調〉のホリガーやシェレンベルガーに対し、〈ハ短調〉はピエルロやコッホのごく少数派にとどまるが、2つの版ではアダージョの独奏パートの旋律線が大きく異なっており、哀愁に満ちたカンティレーナをしみじみと味わうには〈ハ短調〉で聴きたい。

ゆったりとした弦楽のユニゾンの重厚な響きがいかにもドイツ風で、なめらかなキイ・タッチで哀愁を帯びた主題を緊密に紡ぐオーボエが聴き手の心を掴んで離さない。

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(Arranged for 4 Recorders and Basso continuo in G-minor : Annette Mondrup & Christian Mondrup)

sv0083d.jpgコッホの吹き出す“ジャーマン・トーン”は芯のあるしっかりした音で、高い音は澄みわたり、低い音は透明な湖の底から響きわたるような深い味わいを湛えている。

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ごく自然に振る舞いながらも、自ら工夫を凝らした華麗な装飾をいとも鮮やかに繰り出す超絶技巧は名人奏者の中でも突出したもので、主旋律をしっかりと歌い、テンポ・ルバートをかけた独特の節回しに何度聴いても酔ってしまいそうになる。

「コッホはわたしの2倍の体格で、わたしとはタイプが違う。彼の音はふくらみがあり、率直で、感情的だが、わたしの音はもっと軽快で、知的だ。わたしたちはこの相違を誇らしく思っている。だがオーケストラの中では、2人の音が調和しなければならないし、ほかの管楽器とも調和しなければならない。われわれはソロ奏者だ。だが、2人のソロ奏者だ。(ハンスイェルク・シェレンベルガー)」 ロジャー・ヴォーン著『カラヤン帝王の光と影』より、堀内静子訳、時事通信社、1987年)


「優れたオーケストラというのはどれもはっきりとした性格を持っているもので、それぞれの色がはっときりと感じとれます。ときには1人のプレイヤーがそのオーケストラの特徴を表していることもあります。ベルリン・フィルのオーボエのコッホ、彼の音は美しいドルチェで、たっぷりとしたヴィブラートを響かせながらも、それが気にならないという、独自の魅力をもっています。(ヘルベルト・ブロムシュテット)」( オントモ・ムック『クラシックディスク・ファイル』より、音楽之友社、1995年)



第2楽章 アダージオ
sv0083i.jpg深い哀愁を帯びた叙情あふれるアダージョは、モーツァルト《K.488》とならぶ筆者の愛してやまぬ名旋律で、もの悲しいカンティレーナをコッホは滑らかなキイタッチ、クリスタル・ガラスのような透明で深い音色、突き抜けるようなハイ・トーンによって聴き手を存分に酔わせてくれる。

ここでは華美な装飾は控えめに(17、28、33小節は改変)、静穏の中にも気品を失わず1音1音を腹の底から訴えかけるように、綿々と紡いでいゆくのが大きな聴きどころ。

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とくに中間部のクリスタルのような透明度の高い響きによって、嫋々とルバートをかけて歌いまわしてゆくところの味わい深さは格の違いを感じさせてくれよう。
独奏に「ボロロ~ン」と心地よく絡む通奏低音の伴奏も勘所を押さえたもので、ゆったりと奏するコクのある弦楽合奏の調べが通奏低音に溶け合うように、聴き手を深い悲しみの底へ誘うところは涙モノである。


第3楽章 アレグロ
sv0083f.jpgリトルネロ形式の活気溢れる終楽章はアクロバット的な妙技のオンパレードだ。コッホは難曲をいとも容易く料理し、鮮やかに吹き抜ける。

とくに提示部の繰り返しでは、神業的なテクニックを「ここぞ」とばかりに披露。緻密な装飾の綾を変幻自在に絡めながら「これでもか」と繰り出す即興的な名人芸に腰を抜かしてしまう。

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sv0062d.jpg「カチカチ」とマイクが拾うメカニックなキイ・タッチの生々しさも特筆モノで、高い音域でも決して音痩せず、硬く引き締まったコッホの音は、この楽器の演奏史上、唯一無二のものといえる。

薄いリードによる甘美な音色でニュアンスゆたかにたゆたうピエルロや、スリムな響きと超絶技で速攻勝負を仕掛けるシェレンベルガーに対し、コッホは楷書風の剛直ともいえる骨の太い音で聴き手を魅了する。

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SolistVer.LevelSourceTotal
Pierlotc mollEratoRECD28283:134:423:4111:36
Kochc mollRCABVCC374543:295:043:2111:54
Schellenbergerd mollDENONCOCO704653:024:212:309:53

sv0083g.jpgベルリンを本拠とする3つのオーケストラ・メンバーから構成されるベルリン弦楽合奏団の整然としたアンサンブルとほどよく調和しながらも、突き抜けるような高音の硬い響きで難所を鮮やかに決めるコッホのワザの切れは冠絶している。

決して華美な印象を聴き手に与えず、全編にわたって重厚さと品格を備えているのがコッホたるゆえんだろう。

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「コッホの演奏や音楽を特徴づけているのは、その骨太な響きであることも確かだが、ことに歌う場面において、オーボエ特有のナヨナヨしたナルシズムに陥らぬ点、そして音楽のどんな局面においても、克明さと端整さを失わぬ点にある。しかし、それは、単に生真面目で禁欲的なだけの演奏にはならず、一定の節度を保ちながらも、感興豊かな音楽を繰り広げるという好ましい結果を残す。もちろん純粋に技術的な部分でも、圧倒的な技巧の冴えを聴かせる。ゴールウェイやライスターらと同期だけに、つくづくその早逝が惜しまれる。」 石原立教氏による月評より、BVCC37454、『レコード芸術』通巻664号、音楽之友社、2006年)


コッホにはエピソードがつづく。1979年の中国ツアーでは北京空港のタラップの損壊事故で滑走路に転落。複雑骨折でスイスに移送されたが復帰するまでに時間がかかり、アルコール依存症も手伝って56歳で引退(後任はアルブレヒト・マイヤー)、68歳で早逝したのは残念なことにほかならない。

ローター・コッホ全盛期の“クリスタル・トーン”を堪能させてくれる貴重なアルバムだ。


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[ 2017/01/21 ] 音楽 A.マルチェッロ | TB(-) | CM(-)

ロストロポーヴィチのサン=サーンス/チェロ協奏曲第1番

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サン=サーンス/チェロ協奏曲第1番イ短調 作品33
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ独奏)
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1977.4.29-5.1 Abbey Road Studios, London
Producer: David Mottley (EMI)
Balance Engineer: Neville Boyling
Length: 19:08 (Stereo)
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ロストロポーヴィチはアゼルバイジャン(旧ソ連)出身のチェリスト、指揮者で、チェロは7歳より始め、すでに10歳でサン=サーンスの協奏曲を弾きこなしたという。同曲のレコーディングはストリャロフ盤(MK)、サージェント盤(EMI)に続く3度目となるが、ここではイタリアの名指揮者ジュリーニとの初協演が大評判になったと記憶する。

sv0082k.jpgサン=サーンスのチェロ協奏曲は、フルニエに代表される軽妙で洒落たセンスやリリシズムが求められる名曲だが、本来チェロという楽器がもつグラマラスな要素は軽視され、一般には品の良い演奏が好まれていた。

ヴィルトゥオーゾ的な“がっつり系”の演奏を好む筆者としては、そのようなおとなしく生ぬるい演奏がいつも物足りなく感じていた。
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そこに50歳のロストロポーヴィチが満を持して録音したのが当盤で、何よりもジューシイで肉汁のしたたるビフテキのようなチェロの音がたまらない魅力。荒削りだが迫力満点のデュ・プレ盤(EMI、Teldec)、骨太で雄大なシュタルケル盤(マーキュリー)とならんで筆者の指が伸びる愛聴盤にくわわった。

sv0082l.jpgここでは、豪快なボウイングで技巧パッセージを易々と弾き上げるロストロ(以下スラヴァと書く)のヴィルトゥオジティもさることながら、巧緻な棒さばきでしっとりと抒情味ゆたかに寄り添うジュリーニの伴奏が聴きものだ。

クライマックスでは独奏の決めどころの重音パッセージに激しいトゥッティをぶつけて燃え上がる指揮者の熱い心意気も嬉しい不意打ちといえる。
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残響をたっぷり取り込んだまろやかな音場も心地よく、どぎつい音でギンギンと鳴るDG録音とは対照的に、丸みを帯びたやわらかなEMIトーンが味わいをより深めている。

sv0082m.jpg黒のコートを羽織ってスラヴァに向き合うジュリーニのジャケット写真も見栄えがよく(奥さんのマルチェッラの演出だろうか)、マフィア親分のように“渋く”決めたいでたちにぐぐっときて、思わずジャケ買いしてしまう女性ファンもさぞかし多いことだろう。

当セッションとは別に収録された映像(1977年11月ヘンリー・ウッドホール)も見ごたえがあり、CDと併せてDVDも是非とも鑑賞したい。

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「ジュリーニが指揮者として起用されたことはロストロポーヴィチの意向が入っていたかどうかつまびらかではないが、結果からみて適任であったといえる。ジュリーニはこのところすぐれた協奏曲の録音を立て続けに行っている。彼自身非常に立派な音楽を持っているが、同時に独奏者を立てるのがうまいからだろう。ここでも、こまかいところにまで神経を配りながら、急所をピシッと押えた巧者な伴奏指揮に助けられて、この曲のラテン的な特性をものの見事に表出している。さすがロストロポーヴィチは、軽やかな、そしてラテン的で流動感のある表現で精妙にひきあげている。この表現力の幅の広さにはまったく脱帽の外はない。」 志鳥栄八郎氏による月評より、『レコード芸術』通巻第332号、音楽之友社、1978年)



第1部 アレグロ・ノン・トロッポ(1~207小節)
sv0082d.jpg奔流のごとく勢いよく流れる3連音の第1主題からしていかにもスラヴァ風で、ガッガッと弦を削るような低音の弓さばきも豪快。
たっぷりと太い音で奏でる第2主題(54小節)の安定感のあるフレージングも特筆モノで、ほどよきテンポ・ルバートでたゆたう心地よさがたまらない魅力である。

独奏の上行句で高揚するコデッタ(小結尾)は、アニマートのダブル・ストッピングをぐいと引き抜くスラヴァの独壇場。
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sv0082e.jpg大股の歩みで総奏の頂点へと上り詰める“力ワザ”に膝を打ちたくなってしまう。リズミックな舞曲風の総奏(アレグロ・モルト)を間断なく打ち込むジュリーニの颯爽とした棒さばきも印象的で、長いアームスから繰り出される緩やかな振幅運動がじつにさわやかだ。

展開部(テンポ・プリモ)は主題の断片の綾を繊細に織り込む管弦楽が冴え渡る。
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独奏チェロのスタッカート・リズムやアルペジオは決して出しゃばらず、ロンドンフィルの清澄な管弦の響きに溶け合うように協調して奏でているのも聴きどころだろう。しっとりと濡れたように奏でる第2主題の再現もコクがあり、瞑想的に低回するブリッジの息の長いフレージングにも心を掴まれてしまう。


第2部 アレグレット・コン・モート (208~392小節)
sv0082f.jpg弱音器を付けた弦楽スタッカートで軽やかに奏するメヌエット風の舞曲は、物悲しさを秘めたエレジーのようで、繊細な弦楽にしっとりと対位旋律を付けて静かにたゆたう独奏チェロの味わい深さに耳をそば立てたい。

聴きどころは短調に転じて独奏が歌うエスプレッシーヴォ主題(270小節)で、果肉を含んだ蜜のような甘い香りで聴き手の耳を惹きつける。
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ひと筆書きで緻密に仕上げるカデンツァのアルペジオ、管弦のテーマをしっかりと支える密度の濃いトリル、絶妙のルバートによって大きく歌いまわしで高揚する主題再現など、いずれを取ってもスラヴァの個性が生々しく刻印されており、ジュリーニの歌心あふれる伴奏にのって、独奏者は水を得た魚のようにみずみずしく歌いあげている。太い音で問いかける結尾の一節の意味深さといったら!


第3部 テンポ・プリモ (372~654小節)
sv0082g.jpgオーボエによって第1部の主題が回想されると、管弦楽のトゥッティを原調で力強く再現してジュリーニは独奏と対峙する。アン・プ・モワン・ヴィット(すこし緩やかに)で独奏チェロで歌われる“名旋律”は、第1部の主題後半から発展させたものだ。

ここではスラヴァがヴィブラートをたっぷり効かせ、思いのたけをぶちまけるように、ツボにはまった歌い口で聴き手を魅了する。
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楽器をかかえて身をよじるように弾き上げるスラヴァのコクのあるフレージングと、情熱を秘めてぐいぐい弾き回すドラマチックな歌い口がじつに感動的で、木管の物悲しいエコーが哀愁をそそっている。

sv0082h.jpgスラヴァの熱い音楽に応えるように、ジュリーニが激しい気魄でオーケストラの強奏をぶつけてくるのもスリリングで、急速な独奏パッセージ(練習番号L)から、いよいよ大家が目覚めたように“超絶ワザ”を披露する。

急速な16分音符で弾き飛ばす技巧パッセージは闊達自在としか言いようが無く、均質な目の紡ぎ方など究極の弓さばきといえる。
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決めどころのカデンツァ(471小節)の音階を駆け上がる力強さは比類が無く、大見得を切るようなダブル・ストッピングで「ぐいぐい」弾き抜く圧力のある弓さばきは、まぎれもなく大家のものだ。激しい総奏の嵐でこれを迎え撃つジュリーニもいつになく燃え上がるのが最大の聴きどころといえる。

sv0082j.jpgヘ長調で現れるレチタティーヴォ風の第2主題(練習番号O)は敬虔な“祈りの音楽”だ。

ユダヤ人を遠祖に持つ作曲者への共感が湧き上がるように、ゆったりと上昇する旋律から崇高な気分が立ち込めてくるところがこの盤の最も美味しいところで、スラヴァは聴き手の魂を鷲掴みするように内面を掘り下げながら、絶妙のフラジョレットを決めている。
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sv0082i.jpgコーダ(練習番号P)は大きくうねり回す第1部の主題、リズミカルに駆け抜けるコデッタ主題をスケール感溢れるオーケストラが展開。

主題変奏をたっぷりと、太い線で弾きまわす絶妙のフレージングと、恰幅のよいゆたかな低音を聴かせるところはスラヴァの面目が躍如しており、シャッキリと打ち込む爽快な和音打撃が全曲を結んでいる。ロストロポーヴッチの練達の名人芸を堪能させてくれる1枚だ。

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[ 2017/01/01 ] 音楽 サン=サーンス | TB(-) | CM(-)