フルトヴェングラーのベートーヴェン/交響曲第4番(ハイブリッド盤)

sv0065e.jpg
ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調 作品60
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1943.6.27-30 Philharmoniesaal
Recording Engineer: Dr.Friedrich Schnapp
Source: Reichs-Rundfunk-Gesellschaft
Length: 35:48 (Mono) /Olsen No.83,84
LP: SETC7501~7 (1974/12)


筆者がフルトヴェングラーに熱中する切っ掛けとなったのは、フィリップスが米オリンピックという新興レーベルを原盤とするベートーヴェン交響曲全集(SETC-7501~7)を発売した時(1974年12月)だったと記憶する。〈幻の第2番〉が発見されたというニュース(実はエーリッヒ・クライバー指揮と判明)によって、わが国のフルベン熱がピークを迎えた時期にあたる。

sv0104e.jpgこの中には“幻の第2”の他に、コンセルトヘボウ管との第1や、ローマ・イタリア放送響との第3、第5、第6、1926年録音の第5(特典盤)など本邦初出の録音が数多く含まれ、第4、第7といった大戦中の録音もここに含まれていた。

レコード雑誌にはフルベンの特集記事と《ディスコグラフィー》が掲載され、筆者はこれを食い入るように読んだのが懐かしい思い出である。(写真は FCM-51M)

この中で筆者の興味を強く引いたのがベートーヴェンの第4にまつわるミステリーで、当時のフルベンのベト4には、次のレコードが発売されていた。

NoOrchestraDateDisc
ウィーンフィル1950.1.24,25,30WF-1~9, AB-9403, AA-8261
ベルリンフィル1944SLGM-1444, MG-1444
ベルリンフィル1943.6.27-30DXM-103-UC
ベルリンフィル1943.6.27-30DXM-132-VX (③とは別の日の演奏)
ベルリンフィル1943.6.27-30FCM-51(M), PC-2 (④と同じ演奏)
ベルリンフィル1943.6.27-30SETC-7501~7 (Ph全集盤,③と同じ演奏)

sv0104b.jpg東芝EMI盤①(Olsen_317)、グラモフォン盤②(Olsen_097)に続き、英ユニコーンを原盤(ソ連盤と同じ)とする日本コロムビア盤③、米ヴォックスを原盤とする日本コロムビア盤④とフィリップス盤⑤、米オリンピックを原盤とするフィリップス全集盤⑥が相次いで発売されたことによって、第4はマニアの間で混乱をきたしていた。
(写真は SLGM-1444)


sv0104c.jpg特集記事では③⑥と④⑤は明らかに別演奏だが、②は音の隈取が甘くカッティング・レベルが低いが④⑤と同じ演奏であること、さらに、②③④⑤⑥の第3楽章と第4楽章が同じ演奏であることが指摘された。

オールセンのリストでは83、84(427もこれと同一)として記載されている。(写真は DXM-103-UC)


「演奏会録音ならではの聴衆のセキがかなり入っている③⑥をきいてのことなのだが、第1、第2楽章であれほど聞こえていたノイズも、第3、第4楽章ではまるで嘘のように消えてしまう。曲の前半で風をひいていた人々が後半で全快したのか、じつに死のごとき静寂ぶりで演奏をきいているのである。さらに探求の手探りを続けると、これはしたり、なんと②と③と④と⑤と⑥の第3、第4楽章は、全部同じ演奏のように思えるのだ。そこで想像するに、ソ連盤、ユニコーン、そしてオリンピックと続く③⑥の原盤は、前半と後半を、演奏日が違う2つの〈第4〉から合成したものではないだろうか。その際、後半は②の演奏から借りたのだろう。そうでなければ、③⑥の前半まで演奏会場の人たちは、後半どこにいってしまうのか、まったく説明がつかない。」 「小林利之氏による〈フルトヴェングラー/ベートーヴェン交響曲〉名演奏レコードの品定め」より~『レコード芸術』通巻291号、音楽之友社、1974年)


かくして筆者はこれを“合成盤”、“全快盤”、“ミステリー盤”などとネーミングをしたわけだが、ここでは“ハイブリッド盤”としておこう。上記②~⑥を以下の3種類に大別し、筆者手持ちの音盤を中心に整理してみた。


放送録音盤(first performance, without audience)
NoLevelMediaDisc no.IssueRemark
1cfontanaLPFCM-51(M) 1973/10米ターナバウト原盤(TV-4344)
1bDGCDPOCG-23491991/6旧DDRテープ(原盤431 881-2)
1bDGCDUCCG-36872004/8旧DDRテープ(原盤431 881-2)
1aOPUS蔵CDOPK-70022003/11メロディア盤起し(ガスト56青色大聖火)
1bGlandSlamCDGS20202007/6東独エテルナ盤起し(820 312)
1bOtakenCDTKC-3442012/12白レーベル見本盤起し(MG6013)
1cDeltaCDDCCA-00022004/10米ヴォックス盤起し(PL-7210)
1aDeltaCDDCCA-00062005/1メロディア盤起し(ガスト56青色大聖火)
1aAltusCDALT-1582008/1LPからレーザー・ピックアップによる再生復刻

sv0104q.jpg1943年6月27~30に旧フィルハーモニーで放送用(聴衆なし)にマグネットフォンで録音されたもので、複数のコピーテープが作成された。

1本はソ連軍が戦利品として接収したテープを元にしたメロディア盤、もう1本はドイツの放送局に保管されていたテープを音源とするグラモフォン盤と東独エテルナ盤、さらに米ヴォックス社が購入したテープを使った日本コロムビア盤の3系統に分かれる。(写真は Turnabout TV4344)

sv104r.jpgこのヴォックス系のテープは米ターナバウト盤(TV4344)→フィリップス盤(FCM-51M, PC-2)としても発売された。 参考:末廣輝男氏による「ライナーノート」、OPK-7002、2003年)

メロディアLPの初発売は当初1966年秋とされていた。これはダニエル・ギリスによるハイ・フィデリティ誌への投稿(1966年11月)が元になっていたが、世に知られたサーモンピンクのレーベル再プレス盤(ハイブリッド盤)で、それ以前のメロディア盤が存在していた。

sv0104k.jpg旧ソ連のメロディア盤にはレコード番号(A面とB面で番号が異なる)とは別にガスト(全ソ国家規格)5289という番号が付与され、ハイフン以下の2ケタがプレス年代を表している。

産業5ヵ年ないし7ヵ年計画によって、GOCT5289-56なら1956~60年、GOCT5289-61なら1961~67年、GOCT5289-68なら1968~72年を意味する。


sv0104g.jpg第4の放送録音盤(33D-09083~4)はガスト56が初出とされ、同じガスト番号でも異レーベルが存在する。ガスト56空色大聖火(トーチ)盤、ガスト56黄色アッコード盤(レニングラードプレス)、ガスト61桃色大聖火盤で、プレス時期や工場によって音質が異なるらしい。

新鮮なテープを使ってカッティングされた第1世代のガスト56は、第5に比べて第4のプレスが少なく、VSG盤(教育用の異レーベル)と同様に市場に出まわることがなく希少価値があるという。 浅岡弘和氏による「ライナーノート」、DCCA-004/5、2004年)

sv0104h.jpgこのメロディア盤には、第1楽章(402小節)[9:42]に「ブツ」という小さな音飛びが指摘されているが音の鮮度が最も高い。

これに対してグラモフォン系(オタケン盤、グランドスラム盤を含む)は、音飛びはないがピントの甘いモヤモヤ感にくわえ、第3楽章の冒頭を後続の同じ箇所を使って修復しているために途中から始まったように聴こえるのが難点だ。

ヴォックス系については上記音飛びや第3楽章の修正はないが、混濁感が強く、強音で音が潰れて聴きづらい部分があるのは否めない。

この放送録音盤は、演奏スタイルがライヴ盤と非常によく似ているため、コンサートの前後に聴衆のいない会場で録音されたものとされる。音の状態は混濁感のつよいライヴ盤より良好で、響きがクリアな点で筆者は放送録音盤の方を好んで聴いている。


実況録音盤(Second performance, with audience)
NoLevelMediaDisc no.IssueRemark
2DGCDF20G-290901989/8デジタルコピー使用(原盤427 777-2)
2DGCDUCCG-36862004/8デジタルコピー使用(原盤427 777-2)
2MelodiyaLPM10-49725~61992/12日本向け再プレス盤(黒レーベル)
2OPUS蔵CDOPK-70172006/2メロディア盤起し(ガスト80小聖火)
2DreamlifeCD/SACDDLCA-70062004/12メロディア盤起し
2DeltaCDDCCA-00232006/5メロディア盤起し(ガスト61白色小聖火+ガスト73黄色
2AltusCDALT-1582008/1LPからレーザー・ピックアップによる再生復刻
2GlandSlamCDGS21532016/10オープンリール・テープ復刻

sv0104i.jpgメロディアの全楽章ライヴ盤(レコード番号は放送録音盤と同じ)は、ガスト73で初めて世に出たとされる。ガスト73白レーベルシングルレター盤、ガスト73黄色レーベル盤、ガスト80小聖火レーベル盤などで、A面とB面とでガスト番号が異なる異盤もあるらしい。

1992年に日本向けに再プレスされた黒レーベルのライヴ盤は、M10-49725~6として欠落のない〈コリオラン序曲〉との組み合わせで発売されたのがわれわれの記憶に新しい。

sv0104j.jpg1987年に返還されたデジタル・コピーを元にしたグラモフォン盤が最も流通していると思われるが、不自然なエコーがあり、音の劣化が激しいのが難点。

それに比べるとメロディアの再プレス盤(LP)は第1、第2楽章の鮮明な音に驚かされるが、第3楽章以降で音質がガクッと落ちる。これはガスト80の盤起しのオーパス蔵盤(OPK-7017)でも感じることで、メロディアに共通した問題なのかもしれない。


ハイブリッド盤(version withⅠⅡ-2nd and ⅢⅣ-1st performance)
NoLevelMediaDisc no.IssueRemark
3ColumbiaLPDXM-103-UC1970/9英ユニコーン原盤(UNIC-103)
3PhilipsLPSETC7501~71974/12米オリンピック原盤(OL-8120,7LP)
3AngelLPWF-700031975/5英ユニコーン原盤
3AngelLPWF-600441981/1英ユニコーン原盤
3EMICDC28E-57471989/5英ユニコーン原盤(UNI-103-CD)
3EMICDTOCE-85191994/11英ユニコーン原盤(2DJ-4731)
3EMICDTOCE-37312000/6英ユニコーン原盤(UNI-103-HS)
3KINGCDKKC-41072017/12米オリンピック原盤(OL-8120,7LP)
3KINGCDKKC-41122018/1米オリンピック原盤(OL-8120,7LP)

sv0104l.jpgメロディアの放送録音盤は前述のガスト56が初出とされるが、その後、ある時期にプレスが打ち切られ、第1、第2楽章がライヴ録音に差し替えられたため、同じレコード番号で異なる音盤が存在する。

ガスト61白色小聖火盤、ガスト61桃色ダブルレター盤、ガスト68黄色ダブルレター盤などがハイブリッド盤とされる。差し替えられた経緯は詳らかではないが、これが英ユニコーン盤によって、ミステリーとして広く知られることになった。

sv0104m.jpgユニコーンの音源は、発売当時はソ連から送られたテープを使ったと思われていたが、1968年、米フルトヴェングラー協会長H.イリング氏が、ソ連のコレクターからスポーツシャツと交換して2セット7枚組のメロディアLP(第5、第4、第9、ブラ4、ハイドン主題、グレイト、フランク)を入手。

その1セットを英協会のP.ミンチン氏に贈り、これをダビングして英ハンター社がユニコーン・レーベルで発売したことが1983年になって明らかにされた。 桧山浩介氏による~『レコード芸術』通巻510号、1993年)

sv0104o.jpgこのユニコーン社のダビング(GOCT5289-61桃色レーベルと推測される)を経てわが国では、日本コロムビア盤(DXM-103-UC)や東芝EMI盤のユニコーン・シリーズ(WF-70003)の1枚として発売されたが、TOCE-3731を最後に発売が途絶えている。  amazon

現在ではすでに役目を終えた音盤といえるが、筆者の手元にはフィリップス全集盤(SETC1-7)のLPがあり、懐かしさも手伝って、久し振りに針を落として聴き比べてみた。

ライヴ盤には第1楽章19小節目の2拍目[1:48]に「ガタン」という会場の大きなノイズがあり、ハイブリッド盤ではこれを取り除くために11小節2拍目から22小節2拍目までを放送録音盤に差し替えた盤と、無修正の盤が存在することが指摘されている 桧山浩介氏による「ライナーノート」、POCG-2349、1991年)

sv0104n.jpg東芝EMI盤(TOCE-8519)では木管が入る10小節4拍目から別の録音になり、同じく木管が入る21小節4拍目からライヴ録音に復帰するのが聴いて取れる。

東芝盤の第1、2楽章は強音の潰れや響きの濁りが甚だしいが、第3楽章から響きがクリアで滑らかになるために、別録音による音の違いは歴然としている。
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「フルトヴェングラーの何種類かある第4のなかで、もっとも劇的で濃厚な表現であり、第1楽章の導入部から主部へ移る箇所は、ほかのどの演奏にもないドラマティックな呼吸で進行している。いささかやり過ぎの感もあるが、フルトヴェングラーの手にかかると真実味がある。もちろんこれ以外にも随所で激しく大胆な表情がつくられ、私の趣味ではついていけないところもあるが、大指揮者の演奏記録としては重要なものに違いない。」 小石忠男氏による月評より、WF60047、『レコード芸術』通巻366号、音楽之友社、1981年)


「第4番は43年のユニコーン盤を無視するわけにはゆかない。ここではオーケストラがベルリン・フィルで表現の密度という点と、ライヴの生々しさという観点から、聴きどころがけっこう多い。この43年盤では第1楽章に主部に入る直前で極度のリタルダンドを与え、ここでの神秘性とその先への期待感を一挙に凝縮して高め、爆発するように主部に突入していく。この部分でこれほどドラマティックに演出されるのも珍しいだろう。」 草野次郎氏による月評より、TOCE3731、『レコード芸術』通巻599号、音楽之友社、2000年)



sv0104a.jpg一方、米オリンピックを原盤とするフィリップス盤(SETC1-7)は、第1、第2楽章(ライヴ録音)が劣化したデジタル・コピーのグラモフォン盤よりはるかに良好で、これは捨てたものではない。第1楽章の会場ノイズと第3楽章の冒頭が無修正なのも好ましい。

第3、第4楽章(放送録音)の不自然な響きが気になる箇所があるものの、グラモフォン、ヴォックス、東芝盤よりも全楽章を通じて安定した音を聴かせてくれる。

sv0104p.jpgひょっとすると、これは音源を異にするのでは、という思いが、あたかもタイムカプセルのように40数年振りに盤の溝を擦りながら、あれこれと頭の中を駆け巡った。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon

SFB(自由ベルリン放送)の発表によると、モスクワから返還されたRGG(帝国放送)のオリジナルテープの中には、第1楽章の欠落した第4のテープと、第2楽章のみのテープが含まれているという。

sv0115o.jpgこれが放送録音なのかライヴ録音なのかは明らかではないが、フルベンのベートーヴェン〈第4〉にはまだまだ解明されていない謎が残されているようである。

筆者がフルベンにのめり込む切っ掛けとなった思い出の深い1枚だ。
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[ 2017/12/09 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)