ヤンソンス=ウィーンフィルのショスタコーヴィチ交響曲第5番

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ショスタコーヴィチ/交響曲第5番ニ短調 作品47
マリス・ヤンソンス指揮
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
Recording:1997.1.7-14 Musikverein Grosser Saal,Wien
Producer: John Fraser (EMI)
Engineer: Mike Clements
Length: 46:22 (Digital Live)
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このCDは、マリス・ヤンソンスが1997年1月にウィーンフィルの定期演奏会に登場して、ショスタコの第5番を指揮したライヴ・レコーディング。1月12日のオーストリア放送協会(ÖRF)の録音がFM放送でオンエアされているが、CDではライヴ音源とは別物といってよいほど音の録り方が異なっているばかりか、演奏ミスの箇所がすべて修正されている。

sv0110b.jpg筆者はヤンソンスの指揮するショスタコの第5番が好きで、これまでレニングラードフィル、オスロフィル、ベルリンフィル、バイエルン放送響といった異なるオーケストラによる演奏を堪能してきた。

とくにウィーンフィルが同曲を演奏するのが珍しく、かつてシルヴェストリ、バーンスタイン、ショルティ、ムーティが指揮した以外で聴いた記憶がない。
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NoOrch.DateLocation1-mov2-mov3-mov4-movTotal
1.SPPO1986.10.19Tokyo13:34 4:4811:309:5839:50
2.OSLO1987.6.2-5Oslo14:01 4:4911:5310:1140:54
3.SPPO1992.8.25London14:30 5:0513:0810:1142:54
4.VPO1997.1.7-14Wien15:43 5:1714:2710:5546:22
5.BPO2002.12.19Berlin15:45 5:1214:1511:0646:18
6.BRSO2005.10.7München14:31 5:0213:0910:3843:20

sv0110c.jpgここではヤンソンスがオーケストラのまろやかな響きを生かしながら、変幻自在のステップで感興ゆたかにショスタコを料理する。

メロウな木管や弦の透明な響きの美しさは比類がなく、まったりと逍遙するウィンナ・ホルンも魅力たっぷりで、指揮者もオーケストラの響きを楽しんでいるかのようだ。
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ConductorDateSource1st mov.2nd mov.3rd mov.4th mov.Total
Silvestri1962EMI18:12 4:5414:05 10:3847:49
Bernstein1979.5.27ÖRF17:05 5:2316:03 9:5448:25
Solti1993.2DECCA15:28 5:1912:2610:1743:30
Muti1995.8.15ÖRF15:55 5:3215:2311:0247:52
Jansons1997.1EMI15:43 5:1714:2710:5546:22

sv0110d.jpg終楽章冒頭では、遅めのテンポからアッチェレランドを仕掛ける手綱さばきが絶妙で、シンフォニックな力感はもとより、聴き手を興奮させる即興的なテンポの妙や、この曲のエンターテイメント性を俊英ヤンソンスがあますところなく引き出している。

鉄の意志を感じさせる手兵バイエルン放送響との確信にみちた演奏とは違った、興趣にとんだパフォーマンスがこの盤のツボといえる。
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「ショスタコーヴィチの演奏は新時代に入った。肩の力を抜き、まるでおなじみの古典を演奏するようにしたマリス・ヤンソンスのやり方は、読みの深さで勝負するのでもなければ、演奏効果を重視するのでもない。ウィーン・フィルの性格を生かし、というかウィーン・フィルの演奏を解放して、流麗な交響曲第5番が形成されてゆく。それでも皮相的にならない自信があったのだろうが、その通りになった。今、ショスタコーヴィチの5番はこういう曲だ。」 『クラシック名曲大全・交響曲編』より堀内修氏による、音楽之友社、1998年)



第1楽章 モデラート
sv0110e.jpgモーツァルト《アダージョとフーガK546》の開始をそっくり真似たような、低音弦と高音弦がオクターヴのカノンで進行する悲劇的な第1主題は、深々と弓を入れるウィーンフィルの重厚な弦が特徴的。

ねっとりと美麗に歌いまわす第2主題(練習番号1)のコクのある弦の響き、長閑なオーボエ、深い色合いのクラリネット、ねばり気味に吹き上げるF管のホルンなど、スラヴの哀調が漂うウィーン風のショスタコだ。
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第3主題(練習番号9)の澄み切った弦の響きの美しさといったら!

sv0110f.jpg音楽が動き出すのはピアノがくわわった重々しい行進曲となる展開部(練習番号17)。第2主題をユニゾンの低音域で吹き流すグロテスクなホルンにトランペットをフガート的に重ねると、ヤンソンスはピッツィカートに弾みを付けて颯爽と駆け抜ける。

獅子吼するホルンとシャッキリと快調に弾む弦のカノン進行の躍動感が、ゾクゾクするような興奮を誘っている。「ぷかぷか」と逍遥するウィンナ・ホルンの味わいも格別のものだ。
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sv0110g.jpg大きな聴きどころは、ポコ・ソステヌート(練習番号27)の壮大なファンファーレ。第2主題を変奏した示威的な行進曲は歯切れが良く、トランペットの吹き流しを大きくクレッシェンドする大芝居は、まさにヤンソンスの独壇場。

弦と木管の第2主題にブラスの第3主題を重ねる強大な二重カノン(練習番号32)は野性味溢れるウィンナ・ブラスをとくと堪能させてくれる。
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第1主題の第2楽句が管弦楽の強大なユニゾンで出現する再現部(練習番号36)も聴き逃せない。大きなねばりを入れてウィンナ・ホルンが炸裂するクライマックスは耳の快感としかいいようがない。
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老舗の楽団の持ち味をうまく生かしながら、その頂点で銅鑼の一発とティンパニの連打をぶち込むところ(253小節)は指揮者の豪放な力感が漲っている。


第2楽章 アレグレット
sv0110h.jpg悲鳴を上げるような小クラリネット(Es管)や、ファゴットの諧謔的な調べから、ヤンソンスは第1主題のニヒリスティクな曲想を興趣ゆたかに描き出す。

シャッキリと捌く第2主題のリズムの切れも抜群で、重腰のオーケストラを巧みに操るヤンソンスの棒さばきが冴えを見せている。
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祝典的なファンファーレを決然と打ち込む第3主題は、野太い4本のウィンナ・ホルンがすこぶる魅力的で、陽気なメロディーを勇壮に吹き抜いて感興を高めている。
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sv0110i.jpgトリオは独奏ヴァイオリン(CDはひょっとしてキュッヒルに交代?)がねばり腰のフレージングからスラヴの哀感が見え隠れするところがユニークで、典雅なフルートをはじめとする木管アンサンブルがまろやかな響きを発するところは、ウィーンの古き良き香りが満面に漂っている。
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コーダのへ音とホ音のティンパニの打ち込み(240小節)も要チェックで、皮の質感をたっぷり感じさせてくれる打点が心地よい。


第3楽章 ラルゴ
sv0110j.jpg第1主題は、抒情的な旋律をしっとりと濡れたように奏でるウィーンフィルの美しい弦楽器の独壇場。ヤンソンスはこの楽団の蠱惑的な響きに「これでもか」と艶をのせ、美麗に歌いぬいている。

第2主題を奏するフルート、クラリネット、フルートの柔らかく澄み切った響きも特筆モノで、ここでは沈痛な告白や苦悩といった表情よりも、むせるように香るロマンティックな情感が込められている。
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sv0110k.jpg聴きどころはオーボエが奏でる第3主題(練習番号36)のエレジー(悲歌)。「大地の歌」(マーラー)とロシア正教〈パニヒーダ〉の悲嘆にくれる旋律をウィンナ・オーボエが哀感たっぷりと歌う。

チェロがこってりと濃厚な表情をくわえてコクあるサウンドを聴かせる中間部も個性的で、第1主題第2楽句をシロホンを加えたユニゾンの強奏で「ズ~ン」と打ち返す低音弦の厚ぼったい響きも特筆されよう。
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この楽章の頂点はチェロのデクラマシオン(練習番号90)。第3主題を「ぐい」と最強奏で弾きぬく緊迫した場面を、柔らかなアクセントで心地よく歌わせる。

ぴんと緊張の糸が張りつめたような、鋭利にえぐり出すムラヴィンスキーの硬派なスタイルとは異なり、ねばりを入れて、まろやかに歌い流すところはこの楽団の美感を強く打ち出している。コーダのすすり泣くような弦の精妙な歌い口も絶妙でヤンソンスの手が込んでいる。


第4楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
sv0110l.jpgゆったりと遅めのテンポで行進リズムを叩き込むティンパニは芝居気たっぷりだ。fffの和音打撃を急迫的に追い込んで、凄まじい勢いで弦を駆り立てるアッチェレランドの手口に思わずCDを指揮したい衝動にかられてしまう。

「ドカスカ」叩き込む豪放なティンパニと、アクセントをつけたホルンのねばっこい吹き出しが感興を大きく高めている。
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補助主題(練習番号98)を颯爽と駆け抜ける弦の軽快な足取りも心地よく、「スカッ」と吹き抜くホルンの思い切りの良さ(練習番号99)や、トロンボーンとテューバの分厚い第1主題の打ち込み(練習番号100)も気合い充分。

sv0110m.jpg変幻自在のアゴーギクを多用したヤンソンスの快刀乱麻の棒さばきに胸がすく思いがする。ホルンのオクターヴのト音がぷかぷかと浮かび上がるところも興をそそっている。

ヤンソンスは、スコアの指定より1小節早い7小節目の打撃から一気に加速するが(ムラヴィンスキーと同じ)、ウィーンフィルを振った場合は、冒頭のわざとらしいゆったりしたテンポ(4分音符=86)によって急加速との対比がより鮮明になっている。
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ヤンソンスの演奏の第4楽章冒頭を聴き比べた。①③はサンクト・ペテルブルクフィル(旧レニングラードフィル)の86年来日公演(東京)と92年プロムス(ロンドン)実況録音。②はオスロフィルCD、④はウィーフィルCD、⑤はベルリンフィル実況録音、⑥はバイエルン放送響の実況録音。数字は練習番号で、横軸を秒単位で示し、最上段のムラヴィンスキー(M)84年盤と比較。演奏時間は①②③が速く、ムラヴィンスキーとほぼ同じ。④⑤は指揮者の円熟というよりは、名門オケの客演のため慎重に構えた結果とも想像できる。ストレートにとばすレニングラードフィルに対し、ウィーンフィルとの演奏はオーケストラがこの曲に慣れていないせいもあるのか、反応の鈍さが感じられる。逆にベルリンフィルはシャープに反応していることや、バイエルン放送響では確信をもってオーケストラをドライヴしているのが特筆される。

この楽章は、ピウ・モッソ(練習番号108)に向かって次第に加速するように速度表示がメトロノーム記号で指定されているが、4分音符=132となる練習番号104では、反応の鈍いオーケストラを指揮者が引きずり回すように強引にドライヴしているのがスリリングで、即興的にテンポを伸縮しながらローカル的な味わいを出している。

sv0110n.jpgこの曲のクライマックスは、弦と木管のさざ波の中を、トランペットが革命歌調のメロディー(副主題)を吹き流す練習番号108。

トランペットの高音域がちょっと苦しいが、ブラスが一斉に3連呼をぶちかまして副主題を斉奏する場面や、トランペットの強烈なオスティナートからシンバルと銅鑼を叩き込み、ティンパニを豪打するところは力動感たっぷりで、野性的なウィンナ・サウンドに心ゆくまで酔わせてくれる。
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sv0110o.jpg小太鼓の行進リズムが帰ってくる再現部(練習番号121)はリズミカルにかけ合うみずみずしい対旋律が印象的で、これを陽気なウィンナ・オーボエがたくみにリードする。

大砲のような大太鼓を叩き込み、4本のホルンが勇壮に〈ロシア風主題〉を吹き抜く場面は圧巻で、大きくねばりを入れてコーダへ突入!
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コーダ(練習番号131)は中庸のテンポ(4分音符=130前後か)を取るヤンソンスの足取りが快適で、弦と木管のシャッキリと歯切れの良い8分音符の連打に、ブラスがねばっこく凱歌を吹き放つ。

sv0110p.jpg重心の低い響きとしっかりとした音楽の骨格は揺るぎがなく、鼓面をひっぱたくように打ち込むティンパニの大連打と、渾身の力を込めたとどめの一撃が全曲をエネルギッシュに締め括っている。
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ムラヴィンスキーのもとで妙諦を会得したヤンソンスの “勝負曲”といえる必聴の一枚だ。


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[ 2018/03/17 ] 音楽 ショスタコーヴィチ | TB(-) | CM(-)