フルトヴェングラー=ストックホルムのベートーヴェン/交響曲第7番

sv0111a.jpg
ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調 作品92
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ストックホルムフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1948.11.13
Location: Stockholm, Konserthuset
LP: OZ7587-BS (1984.5)
Olsen No: 142
Length: 39:01 (Mono Live)


フルトヴェングラーのベートーヴェン第7番と言えば、ベルリンフィルの実況録音盤(1943年)と ウィーンフィルとのスタジオ録音盤(1950年)が双璧とされ、他の演奏についてはあまり話題に上ることはなかったと思われる。とくにストックホルムの実況盤は、オーケストラの力量からいって一番低くランク付けされるのが常だったのではないだろうか。

フルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲第7番には、次の5種の演奏と第2楽章のリハーサルがラインナップされている。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
BPO1943.10.30/31,11/3Berlin,Philharmoniesaal, RRGMelodiyaO_089
SPO1948.11.13Stockholm, Konserthuset,SRDiscpcorpO_142
VPO1950.1.18,19Wien, MusikfereinsaalHMV(EMI)O_188
LFO1948.11.13Luzern, Kunsthaus(2mov.Rehearsal)WF Society(F)O_256.4
BPO1953.4.14Berlin, Titania-Palast,SFBWF Society(G)O_333
VPO1954.8.30Salzburg, Festspielhaus,ÖRFSeven SeasO_424

sv0111h.jpg晩年の④⑤はライヴ録音ではあるものの、①③と比べれば気魄や熱狂の点で大きく後退し、感銘度のうすいものだった。
従ってベルリンフィルなら①を、ウィーンフィルなら③を採るのが衆目の一致するところだろう。ここで我々が忘れてしまいがちな存在が、②のストックホルム盤である。

当録音には筆者手持ちのCDが見当たらず、レコード棚にかろうじてワルター協会盤(OZ-7587-BS)のLPがあるのみだった。

これまでに販売された当録音のディスクは、LPは米ディスココープ盤(RR-505)、ワルター協会盤(OZ-7558-BS、OZ-7587-BS)、CDは米ミュージック&アーツ盤(CD-793、CD-4793) 、セヴンシーズ盤(KICC-2110)、仏ダンテ盤(LYS-198)にとどまり、今では入手が困難なものばかり。

当盤は客演であることやオーケストラの質の問題にくわえ、録音が極端に悪いことも評価を落としていた理由だったと思われる。果たしてそうなのか? 筆者は何十年か振りにレコードを取り出して針を落としてみた。

「フルトヴェングラーの〈第7〉としては魅力がうすい。表現も意外にストレートだが、それよりもオーケストラのひびきや微妙な表情が指揮者のものになっていないのが大きい。録音も1943年盤に劣る。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの全名演名盤』より、KICC2110、講談社、1998年)


NoOrch.DateLevelSourceⅠmovⅡmovⅢmovⅣmov=Total
BPO1943.10.30,31,11.3DGF20G-2908812:459:498:246:3637:34
SPO1948.11.13WSOZ-7587-BS13:1110:088:237:1939:01
VPO1950.1.18,19EMITOCE-1404412:5810:178:426:5138:48
BPO1953.4.14DG415-662-213:1710:418:357:1639:49
VPO1954.8.30OrfeoC293 921 B13:359:338:217:3639:05


sv0111e.jpgフルトヴェングラーは客演でストックホルムフィルをしばしば指揮しており、1942年11月(ドン・ファン、トリスタン前奏曲と愛の死)、1943年12月(第9)、1948年11月(ベト8、レオノーレ第3、同曲リハーサル、ベト7、ドイツレクイエム)といった録音が存在することはオールセンのディスコグラフィによって明らかにされている。

amazon [CD-793]

同日のコンサート曲目であったベートーヴェン交響曲第8番(O_140)、序曲レオノーレ第3番(O_141)、前日の同曲リハーサル(O_139)については、EMIからいち早くレコード化されており、針音があるので音源は放送局のアセテート盤と思われた。ところが当日のメイン・プログラムであった第7番についてはEMIのカタログに見当たらず、ワルター協会で出回ったのはどういうわけだろうか。

sv0111b.jpgこのワルター協会というレーベルが怪しげで、いかにも非営利団体を連想させるネーミング。

わが国では日本コロムビアが1970~80年代に「新発見!」「まだあった!」という“殺し文句”によって、初出の音源を次々と発掘し、これをプレスしてせっせと発売を繰り返していた。リッカルド・シャイイー(指揮者)は、来日の際にこれらのレコードをめざとく買い漁っていたらしい。
(写真はRR-505)

手元にあるカタログ(1983年)をみると米国ではワルター協会レーベルは無く、ディスココープ(Inc)が自社ブランドで販売しており、フルトヴェングラー夫人によるとこれらはすべて海賊盤とされた。ワルター協会はその後、ミュージック&アーツとして主にヒストリカル系のCDを販売し、唯一の国内CDであるセヴンシーズ盤(KICC-2110)はこれを原盤とする。

sv0111f.jpg米Music&Arts(CD-793)とセブンシーズ盤(KICC-2110)を聴き比べたところ、前者は鮮明だが音が硬く痩せている、後者はマイルドだが音が太くて聴きやすいといった音質の違いがある。

ともに拍手は演奏終了後のみが収録されているため、演奏前の拍手も入った音に迫力があるLPに軍配が上がろう。Music&Arts盤は、同じ日のベト8と前日のレオノーレ第3番のリハーサルを一枚に収めた心憎いカップリングといえる。
amazon [KICC-2110]

LevelMediaDisc no.IssueRemark
米DiscocorpLPRR-505
ワルター協会LPOZ-7558-BS1979/2米ワルター協会原盤
ワルター協会LPOZ-7587-BS1984/5米ワルター協会原盤
米Music&ArtsCDCD-7931994/1
米Music&ArtsCDCD-47931999/2
セヴン・シーズCDKICC-21101990/12米Music&Arts原盤
仏ダンテCDLYS-1981999/12

「第7交響曲は拍手に始まる。プツプツ・ノイズが多く、第3楽章のトリオなどに相当ひどい音のかすれなどがあり、音楽としてきくにはかなり不便なものである。特殊な考証者用のレコードであろう。そんななかでどうやら判明するのは客演のせいかオーケストラを引きずってゆくような音楽進行であること、相変らず彼独自の演出的表情がテンポと音力の揺れのうちから盛り出ていることなどである。第2楽章の壮大な悲嘆の歌はなかなか感動的なものであった。」 大木正興氏による月評より、OZ-7558-BS、『レコード芸術』通巻第343号、音楽之友社、1979年)



第1楽章 ポコ・ソステヌート-ヴィヴァーチェ
sv0111c.jpgレコードは聴衆の拍手から開始するのが珍しく、ライヴらしい臨場感がよく伝わってくる。「ぐい」と音がひしゃげるような開始のアインザッツはまぎれもなくフルベンのものだが、ウィーン盤やベルリン盤に比べてテンポが遅く感じるのは、オーケストラが緊張のせいか、慎重なアプローチが聴いて取れる。(写真はOZ-7558-BS)

ホルンが不安定なことに加え、主部のフェルマータの悪魔的な力ワザはやや影を潜め、①③を聴いたあとでは物足りなさを残してしまう。

主部の威風堂々とした進行はいかにも巨匠風で、がっしりと響く鋼のようなリズムはすこぶる強固である。

SV0098d.jpg

sv0111d.jpgとくに展開部から響きに厚みが増してくるのが聴きどころで、クライマックスのゼクエンツの強奏(254小節)ではトランペットの強奏とともにフルベンの“荒ワザ”が「ここぞ」とばかりに炸裂! 

大見得を切るような再現部(277小節)の突入や、大きくリダルダンドして長いフェルマータ(300小節)を打ち込むところにも、フルベンにしか許されぬ奥義がまざまざと刻印されている。(写真はOZ-7587-BS)

大波のごとく対旋律をたっぷりと膨らませながら、激震のようにクレッシェンドするダイナミックなコーダ(391小節)も聴き応え充分だ。不気味な音を轟かすバッソ・オスティナートを土台に、強固なリズムさばきで造形をガッチリと決める巨匠の棒さばきは確信に充ちたもので、激しい気魄の①③に対し、当盤では造形の安定感と堂々たる風格を感じさせてくれるではないか。


第2楽章 「不滅のアレグレット」
sv0111g.jpg瞑想的な木管の長い和音(9秒)で始まる〈不滅のアレグレット〉は悲痛な心情の告白だ。激情をぶちまけるドラマチックな①③の第2変奏に対し、当盤はコクには乏しいが虚静恬淡とした味わい深さがあり、59小節から突如フォルテで高揚するのがユニークだ。

しっとりと歌い上げる第3変奏(総奏)のオクターヴで奏でる弦の美しさも特筆されよう。
amazon  HMVicon [LYS198]

中間部は巨匠が「天からの声」と描写するクラリネットの密度の濃い音色や、スタッカート下降の硬い響きと「ゾクッ」とさせるティンパニの強打、静謐な弱音で綴る再現部の弦楽フガート、心臓の鼓動音のような終止のピッィカートと息の長い和音に心を惹きつけらるのは筆者だけではないだろう。


第3楽章 プレスト
SV0111i.jpgプレストのテンポはタイム上は43年盤に等しい速度だが、オーボエのテーマが走らないので、ゾクゾクするような興奮には至らない。トリオの減速は巨匠の常套手段で、当盤ではとくにトリオ後半を入念に歌わせているのが特徴だ。

トリオの総奏では全管弦楽のフォルティシモを突き抜けるように、高いイ音のトランペットが炸裂! 重厚な重みと力で押し切っている。スケルツォの三現で音楽は俄然活気づき、目の覚めるようなティンパニの強打(556小節)でフルベンの面目が躍如する。きっぱりと打ち込む終止の打撃も強烈だ。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon

「第1楽章の息をためてテンポをゆっくりとったフルトヴェングラーの意図は、かなり慎重であり、オーケストラも指揮者の意図にこたえるべく神経質になっているような気配があるが、第2楽章において、ペースはすっかり定まり、フルトヴェングラー独得のフレージングの絶妙さがくりひろげられる。第3楽章(スケルツォ)で、多くの指揮者と異り、はげしい躍動感をもった主部にたいしてトリオを極端にゆったりしたテンポをとる表現にも、メニューヒンのいう、指揮者とオーケストラの信頼感がみなぎっている。」 岡俊雄氏による「ライナーノート」より、日本コロムビア、1984年)



第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ 「舞踏の聖化」
sv0065p.jpg硬いティンパニの打撃とともに走り出すバッカスの乱舞は、〈喜悦のテーマ〉(25小節)で強いリズムをガンガン叩き込んで勇ましく行軍する。

リズミックな付点主題(51小節)や落雷のようなティンパニの連打で荒れ狂うコデッタ(104小節)の白熱もまぎれもなくフルベン流。低音弦を豪快に打ち返す主題展開の荒々しい棒さばきや、再現部へ突入する手前で足音のビートが聴こえてくるところからもフルベンの熱気が伝わってくる。
(写真は米Olympic OL8129 Swedish National Orchestra表記)

sv0098z.jpg

sv0098l.jpg最大のクライマックスは、再現部の終止(319小節)から怒濤のごとく突進するコーダ。フォルティシモで猛り狂う爆発的な総奏と、疾風怒濤の勢いで突進してゆくバッカスの狂乱はベルリンフィルの43年盤に比肩する熱狂ぶり。

手に汗握る前進駆動とすさまじい勢いで駆け巡る怒濤の興奮に「これぞフルベン!」と膝を打ちたくなる(拍手入り)。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [全集]


演奏全般にわたって「プチプチ」と針音が入っているのは音源がアセテート盤によるものだからだろうか。トリオ(第3楽章)の音のかすれに注意を要するが、終楽章ではチリチリ音は消え、鑑賞には十分たえうる水準にある。ウィーン盤、ベルリン盤に次いで、フルベンの至芸を今に伝える珍重されてしかるべき一枚だ。


人気ブログランキングへ この記事を面白いと思った方はクリックをお願いします

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
にほんブログ村

このエントリーをはてなブックマークに追加


[ 2018/03/31 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)