ショルティのメンデルスゾーン/交響曲第4番〈イタリア〉

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メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調 作品90「イタリア」
ゲオルク・ショルティ指揮
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1958.5 Rishon LeZion, Tel Aviv (DECCA)
Producer: John Culshaw
Engineer: Gordon Parry, James Brown
Length: 25:13 (Stereo)
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このディスクはショルティが45歳のときに、名物プロデューサーのカルショウと組んでステレオ初期のデッカに録音した快演シリーズの1曲。テル・アヴィヴから8キロ離れたリション・レジオンという村の映画館でセッションが組まれたものだ。

sv0116b.jpgイスラエルフィルとの一連の録音は、ロッシーニ「風変わりな店」、デュカス「魔法使いの弟子」、チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」、モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、メンデルスゾーン「イタリア」、シューベルト交響曲第5番といった弦楽器を主体にしたラインナップ。

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イスラエルフィルの伝統のひとつに世界最高と謳われた弦楽セクションがあげられるが、結成当時(パレスチナ管弦楽団)はユダヤ系の選りすぐりの奏者が世界中から集められ、ベルリン、ライプツィヒ、ドレスデンなどドイツ各地のオーケストラのコンサート・マスターが在籍していた。バレンボイム(1952年イスラエルに移住)によると、中欧的な響きをもったオーケストラだったらしい。

「当時のイスラエル・フィルは、バランスのよいオーケストラではなかった。弦楽は素晴らしかった。少なくとも、壮麗さと瑞々しさを必要とする音楽ならどんな場合でも、そうだった。木管も満足できるものだった。だが、金管は水準以下だった。」 ジョン・カルショー著 『レコードはまっすぐに』より、山崎浩太郎訳、学習研究社、2005年)



sv0116c.jpgここで聴く《イタリア》は、血気盛んな壮年期のショルティの強烈な個性を刻印したもので、腕っ扱きのイスラエルフィルの弦楽器奏者がショルティの鋭敏な棒にピタリと反応し、緻密でスピード感溢れる演奏を展開。

左右の音の拡がりと細部を露骨に強調するステレオ初期のデッカの“あざとい音作り”も一役買って、聴き手の耳につよい刺激と興奮をあたえている。
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「《イタリア》のレコーディングは1980年代にシカゴ交響楽団と再録音、晩年の1993年にウィーン・フィルとライヴ録音されている。ショルティの解釈の大きな変化はないが、その男性的なメンデルスゾーン像は他の指揮者ではなかなか聴けないものである。このCDで聴ける演奏は、剛直とも言えるほど徹底して精緻なアンサンブルを前面に押し出している。弦楽器に特徴を持つと言われるイスラエル・フィルとの演奏は、そのしなやかな弦もあくまでショルティ・ペース。終楽章でのスピード感はただただ圧倒的だ。」 榊洋希氏によるライナーノートより、ユニバーサル・ミュージック、2007年)


「さわやかな音楽性が演奏のすみずみにまで行きわたり、粒立ちの良いリズムを活かした颯爽としたスタイルの中で旋律がしなやかに、優美に歌い継がれる。ショルティの名から連想され、また2年前のパリ音楽院管弦楽団とのチャイコフスキーにもまま見られた力づくの強引さは微塵もうかがえず、全てが自然に息づいている。終楽章など、相当速いテンポなのに、せわしないという感じが全くない。特筆すべきはイスラエル・フィルの弦の美しさで、このディスクを貫く一種のすがすがしさは、多分に透明で艶のある彼らの音色に起因するもののようだ。」 吉成順氏による月評より、POCL2908、『レコード芸術』通巻第504号、音楽之友社、1992年)



第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0116d.jpg「びょん!」とバネの効いたピッツィカートから弾き出される澄明爽快な第1主題の旋律線が猛スピードで突っ走るところに仰天するが、力強い前進駆動によって音楽が健康的に描き出されるのが、いかにもショルティらしい。

驚くべきは裏拍の弦の反応の速さで、打てば響く瞬発力と切れのあるリズムで頂点に駆け上がる弓さばきはアクロバット的な曲技といえるもので、これが聴き手の快感を誘っている。  amazon
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オンマイクの木管楽器が生々しい第2主題(110小節)は、拍節重視のショルティがイン・テンポで歌わせるが、弦の伸びやかな取り回しと呼応しながら高揚するところは南国的な開放感に溢れんばかり(提示部のリピートなし)。

sv0116e.jpg展開部の第3主題(202小節)は緻密なスタッカートで駆け走るイスラエルフィルの腕達者な弦楽奏者の独壇場。つぶ立ちを揃え、細密に音符を紡ぎ出す名人芸をとくと堪能させてくれる。

大きな聴きどころは舞曲が第1主題の呼びかけと交錯しながら頂点に達するクライマックスの総奏(274小節)。シャッキリと弾む躍動感鋼のような強靱さで突進するところは一分の隙がなく、豪腕指揮者が腕尽くでオーケストラをドライヴするさまに快哉を叫びたくなる!  amazon
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sv0116f.jpg再現部(346小節)も弓のスピードと切れ味が抜群で、みずみずしい木管のリズム打ち、コクのあるチェロの歌、濃密な木管のオブリガードなど聴きどころが満載! 

“こまねずみ”のようなスタッカートから駆け上がる頂点の鋭い立ち上がりとトランペットの強奏は、切れば血の出る鮮やかさでさばくショルティが持ち前の直情径行ぶりを発揮。
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まるで灼熱の太陽がギラギラと照りつける中、スポーツ刈りにしてTシャツと短パン姿で汗だくになってジョギングする若き作曲家の姿が浮かんでくるではないか。


第2楽章 アンダンテ・コン・モート
sv0116g.jpgピシリと整ったバスの歩行リズムにのった〈巡礼の行進〉は、引き締まった旋律線の美しさが印象的で、ショルティは曲想に陰影を付けることに興味を示さない。硬い音で筋金入りのカンタービレを聴かせるのがユニークといえる。

オンマイクのクラリネットが生々しく浮かび上がる第2主題(45小節)の“デッカ・マジック”も聴きどころだろう。ヴィオラと木管が歌う第2句の正確なピッチや、「コツコツ」とメカニックな拍を刻んで音楽を機能的に磨き上げていく匠の技は時計職人を思わせる。  amazon

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第3楽章 コン・モート・モデラート
sv0043a.jpgメヌエット風の歌謡楽章は拍節感が際立っているのがショルティらしく、内声部をえぐり出し、強弱指定にメリハリをつけたドラマティックな民舞が進行する。

付点をバネのように弾むトリオのパラフレーズは筆路明快で、誇張したフルートのトリル、筋肉の付いたフーガ、ベルにマイクを突っ込んで録ったようなホルン信号など、奏者にスポットライトを当てた鮮明な音場が鮮やかに出現するあたりは、なるほど、レコード録音のマジックといえる。
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第4楽章 サルタレッロ、プレスト
“豪腕ショルティ”が本領を剥き出しにするのがフィナーレのサルタレッロ。先制パンチをお見舞いするがごとく痛烈な和音打撃を叩き込み、タランテラのリズムにのった舞曲が弦を削るように進行する。肘を直角に曲げたカマキリのような動作によって奏者を鞭打ち、ひた押しに押してゆくショルティの棒さばきが痛快である。
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「彼の採用したテンポはとにかく速めだったが、それは肘を大型の植木鋏みたいに奇妙に角張った形で動かすばかりでなく、マラソンでもしているみたいに上半身でバランスをとりながら、音楽を進めてゆくことと関係があったのではないか。私などにはどちらが原因で、どちらが結果か、必ずしもいつも判断できなかった。が、いずれにせよ、あの姿はあんまり〈品がよくなかった〉。」 吉田秀和著『世界の指揮者』より、筑摩書房、2008年)



sv0092a.jpg最大の聴きどころが切れのある鋭いフレージングと苛烈なリズムで爆発する総奏の頂点(30小節)。メンデルスゾーンのなよやかな肌を先鋭なリズムで切り刻み、アクセントを際立たせるスタイルは武闘派ショルティの面目が躍如しており、3連リズムで急迫的に畳み掛ける決めどころで抜群の運動能力を発揮する。  amazon

急降下爆撃機のように突撃して打ち込む骨ばったファンファーレ(85小節)は割鶏牛刀の嫌いはあるが、歯ごたえのある金属音が聴き手の耳を刺激する。

sv0043f.jpgタランテラのリズムを遮る中間部の破調の音楽(122小節)はイスラエルフィルの弦楽奏者の腕の見せどころだ。

縦割りで決めていくトスカニーニに対し、ここでは拍節をまもりつつ、切れ目なく滑らかに歌い継ぐイスラエルフィルの弦の妙技を心ゆくまで堪能させてくれる。これに対峙しながら瞬間湯沸かし器のように激しく燃え上がるタランテラの頂点(179小節)もすさまじい。
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強靭なシンコペーションとバネを効かせたリズムの切れは冠絶しており、肉体的な昂奮を煽りながらトスカニーニを凌ぐテンポで真っ向勝負をいどむショルティの力ワザにはただもう圧倒されるばかり。

ConductorOrch.DateSourceTotal
ToscaniniNBC so.1954.2.26,27BVCC380277:335:476:255:4925:34
SzellCleveland1962.10.26SRCR25457:165:207:055:2125:02
SoltiIsrael po.1958.5UCCD37827:016:196:255:2825:13
SoltiChicago so1985.4FOOL2308710:02*6:457:305:3429:51
SoltiWien po1993.2.6,7POCL14559:52*5:256:355:4127:33

竹を割ったようにスカッと締める和音終止は後腐れがなく、目の覚めるようなスピード感とオーケストラの名人芸に酔わせてくれる一枚だ。


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[ 2018/06/16 ] 音楽 メンデルスゾーン | TB(-) | CM(-)