コンヴィチュニー=チェコフィルのシューベルト 〈ザ・グレイト〉

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シューベルト/交響曲第9番ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」
フランツ・コンヴィチュニー指揮
チェコフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1962.4.27 Rudolfinum, Praha (Supraphon)
Recording Producer: Miloslav Kuba
Recording Engineer: Miloslav Kulhan
Length: 52:31 (Stereo)
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このレコードは、コンヴィチュニーがチェコフィルに客演した際にワーグナー管弦楽曲集とともにスプラフォン・レーベルにセッション録音されたもので、巨匠がベオグラードで《ミサ・ソレムニス》のリハーサル中に急逝する3ヶ月前にあたる貴重な音源だ。

sv0016b.jpg北モラヴィアのフルネク生まれのコンヴィチュニーにとって、チェコはいわば母国にあたる。ここでは客演とはいえ、チェコフィルを相手に確信をもって自己の芸風を開陳し、抜群の相性の良さを示している。

特筆すべきはスプラフォン録音のすばらしさだ。スプラフォンはプラハを拠点に発足したチェコ国営のレーベルだが、オリジナル・マスターから復刻されたCDのクオリティの高さはどうだろう。  amazon

まるでヴェールが剥ぎ取られたかのように、全盛期のチェコフィルの緻密なアンサンブルと燻し銀の響きが鮮明なステレオで蘇り、60年代当時のアナログ録音のすばらしさを伝えている。

「60年代のスプラフォンの音の評価はそう高いものではなかったが、20ビット処理したマスター・トランスファーはマスターテープの音情報が忠実に引き出されていると感じた。オリジナルのデジタル化がこれほど良い音なら、ひと頃聴いていたあの音は、日本に送られてきたマスターのコピー段階に問題があったことになる。マタチッチやコンヴィチュニーといった大家のブルックナーやシューベルト、ワーグナーなども、演奏はもちろんだが音の面でも十分存在感を示している。この時代の大家を聴く人は、現代にないものをそこに求めているわけで、19世紀的ロマンティシズムはCDの音では駄目と思っている方々にお薦めしたい。シューベルトやワーグナーのアナログ的な重厚さなど、ロマン派の香りが濃厚に漂っている。」 相澤昭八郎氏による月評より、COCO78207、 『レコード芸術』通巻530号、音楽之友社、1994年)


sv0119d.jpgここでは最盛期のチェコフィル・サウンドを心ゆくまで堪能させてくれる。トレーニング魔で知られたアンチェルによって鍛えられた鉄壁のアンサンブルが、コンヴィチュニーの質実剛健な気風とマッチして力強く展開する。

ケレン味のないゼクエンツはもとより、素朴な木管の味わいや燻し銀の金管が炸裂する決めどころの力ワザなど、古武士のような男気を感じさせるスタイルによって、実直に押し切るところがこの演奏の最大の魅力。
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「亡くなる3ヶ月前の録音となったチェコ・フィルとのシューベルトは、大河のような雄大で息の長い楽想が、やはりゆっったりとした動きのなかで確実に音となってゆくさまがうかがえる。けっして先を急ぐことなく、地道に自分の音楽を作り続けたコンヴィチュニーの芸風がそのまま体現されているようで、感慨ひとしおである。」 長木誠二氏による月評より、COCO75409、『レコード芸術』通巻512号、音楽之友社、1993年)




第1楽章 アンダンテ-アレグロ・マ・ノン・トロッポ
sv0119b.jpg鈍い響きのホルン、鄙びたオーボエ、濃密なヴィオラとチェロなど、個性的な音色でたゆたう序奏は“ローカル・カラー”満載で、ズシリと響く重みのある総奏はいかにもドイツのカペル・マイスター風。

どっしりと構えた落ち着きのある進行によって、主部へ逞しく駆け上がる力相撲がコンヴィチュニー流で、ゲシュトップで仕掛けるホルンがすさまじい勢いで炸裂するところに度肝をぬかされてしまう。  TOWER RECORDS [SACD]

主部(78小節)は、チェコフィルが自慢のアンサンブルを歯切れ良く展開する。ホルンの気持ちの良い3連音リズムにのって、要所をピシリと決めながら、溌剌としたヴィヴァーチェで進行する音楽は気風が良い。うらぶれたオーボエの第2主題(134小節)や、艶消ししたトロンボーンがユニゾンで奏でる第3主題(199小節)の味わい深さも一級品。音楽は決して華美になることはない。
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sv0119c.jpg大きな聴きどころは、ベートーヴェンの第9〈歓喜の頒歌〉を思わせるモチーフで雄々しく高揚する228小節(および再現部546小節)。 amazon

逞しい生命力と揺るぎのない構成感で歌い上げる重量級の音楽が腹にズシリと響いて、有無を言わせぬ説得力で迫ってくる。悠然と歩を進めながらも強靱なリズム反復による躍動感によって、がっちりと呈示部を締め括るドイツ気質の巨匠の腕力がこの上なく頼もしい。(リピートなし)

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sv0119e.jpg展開部(254小節)は、第1主題と第2主題を混ぜ合わせて3連音を噛み合わせるゼクエンツを、巨匠はじっくりと腰を据えて料理する。

第3主題に弦の3連音リズムを配する304小節から力を増して、その最頂点(練習番号H)で「ここぞ」とばかりにブラスを「バリバリ」とぶちかます力ワザは圧巻! ベートーヴェン的な堅固なたたずまいと一点一画もゆるがせにしない階書風の音楽作りはコンヴィチュニーの真骨頂。
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sv0119f.jpg巨匠が仕掛けるのは漸増を重ねて高揚する626小節からで、目の覚めるトランペットの一撃で聴き手の興奮を呼び起こす。

642小節から迷いなく打ち込む“進軍ラッパ”を皮切りに、頂点に向かって突進するなりふりかまわぬ没入ぶりは実演を思わせる熱っぽさ。  amazon

音価を2倍に引き延ばして〈導入主題〉をたっぷりと歌い上げる決めどころ(662小節)は、勝利を確信したように力強い開放感にあふれんばかりで、リテヌートで応唱する弦の熱い歌一気呵成に畳み込むブラスのとどめ打ちの鮮烈さに快哉を叫びたくなる。


第2楽章 アンダンテ・コン・モート
sv0016d.jpg5部のリート形式の緩除楽章はコンヴィチュニーの飾り気のない素朴な芸風が印象的だ。実直なリズムにのって木訥に歌う第1旋律、田舎の風情でたゆたう第2旋律、がっつりと打撃を打ち込んで力強く躍動する第3旋律など、音楽は質実剛健の気風が漲っている。

息の長いレガートと安定感のあるフレージングによって、たっぷり歌い上げる第2主題も愚直なまでに素朴である。

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sv0016f.jpg静寂の中をホルンのg音が降りてくる「天の使いの対話」(148小節)や、チェロにオーボエの合いの手を絡めるモノローグ(253小節)の名場面では、古めかしい音色と侘びた風情によってとめどもない懐かしさがこみ上げてくるのは、このコンビならではの味わい深さといえる。

トランペットとホルンを「これでもか」と強奏させて、豪快に総休止で断ち切る“断罪的な決めどころ”(251小節)は、まさにドイツの頑固親爺らしい毅然とした風を備えている。  amazon


第3楽章 スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0016e.jpgスケルツォは、バスを土台にした分厚い弦楽アンサンブルによって堅実に突き進む。金管の音を丸めた渋いサウンドと、「ズン」とした重みのあるスタイルはまぎれもなくコンヴィチュニー流。

第2旋律のレントラーも田舎臭さまる出しで、くすみがかった木管の音色が柔らかく弦楽器に溶け込むところが最大の魅力といえる。トリオは実直を絵に書いたようなドイツ風舞曲で、どっしりと構えた安定感のある音楽は石造りのような蒼古なたたずまいを見せている。
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第4楽章 フィナーレ、アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0119h.jpg目の覚めるような開始の鮮烈な総奏に仰天するが、清新溌剌と楽想の変転をさばく巨匠の手際のよさは抜群で、歌謡風の第2主題など堅苦しいと見る向きもあるが、同じ音型のリズムを実直に反復することを辞さない昔気質の頑固な職人を思わせる。   amazon

そこには、いささかのケレンも踏み外しもなく、実直の一本槍で整然たる構成感を打ち出している。


sv0016i.jpg展開部(386小節)では「歓喜の主題」(ベートーヴェン)風の主題やトロンボーンが奏でる第2主題を、シコを踏むような生真面目さで歩を進めるがコンヴィチュニーらしく、大交響曲にふさわしい重厚なサウンド威風堂々たる巨匠風の足取りには揺るぎがない。

何一つ細工するでもなく、不動の姿勢で基本リズムを刻み続ける頑固さによって音楽におのずと威厳が備わり、ヒロイックな気分が立ち現れてくるのがこの演奏のすごいところだ。

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第1主題の断片に第3主題が応えながら、頂点に向けてひた走るコーダ(974小節)の緊迫感も無類のもので、踏み込むような第2主題の4連打(fz)にブラスの3連音をきっぱり打ち込んで、勇渾な気分でひた押しに押してゆくクライマックスは圧巻である! 

クレッシェンドで決める終止和音は巨匠の強固な意志を伝えてあますところがなく、チェコフィル全盛期の燻し銀サウンドと鉄壁のアンサンブルを堪能させてくれる出色の一枚だ。


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[ 2018/07/28 ] 音楽 シューベルト | TB(-) | CM(-)