レヴァイン=ウィーンフィルのチャイコフスキー《白鳥の湖》

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チャイコフスキー/バレエ組曲「白鳥の湖」作品20a
ジェイムズ・レヴァイン指揮
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1992.11 Musikverein, Grosser Saal, Wien
Recording Producer: Werner Mayer (DG)
Balance Engineer: Gregor Zielinsky
Length: 30:36 (Digital)
amazon [UCCG-70058]


ウィーンフィルの演奏する《白鳥の湖》は、レコード史上、カラヤンのデッカ盤以来、じつに27年ぶりのことで、指揮はメトロポリタン歌劇場の音楽監督として36年のキャリアを積むジェイムズ・レヴァイン。レヴァインは1980~90年代にかけてウィーンフィルの楽壇にしばしば登場し、その親密な関係によってDGへのレコーディングが実現した。

sv0125b.jpgこの演奏の大きな特徴として、最後の〈情景〉が拡張されていることで、第28曲アレグロ・アジタート[オデットの嘆き]から第29曲アンダンテ[王子の登場]のみならず(組曲版はここで終わる)、アレグロ・アジタート以降の最後までを通しで演奏している。

オペラ指揮者レヴァインが、劇音楽としてのストーリー性に拘ってセッションにのぞんだであろうことは明らかだ。キュッヒル、バルトロメイといった名門楽団の現代最高の名手が独奏を受けもっているのもこの盤のウリだろう。
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「組曲版にはたくさんのCDがリリースされているが、レヴァイン指揮ウィーン・フィルを推薦しておこう。レヴァィンの解釈には少々疑問点もなくはないが、弦を中心としたオーケストラの響きがすばらしい。対向配置も効果的だ。第6曲冒頭の第1ヴァイオリンと第2ヴアイオリンが左右交代で駆け抜ける様は、舞台上の動きを彷彿させる。また、嬉しいことにこの演奏はフィナーレの最後までが余分に録音されており、これを凌駕する演奏が全曲盤には残念ながら見当たらない。」「究極のオーケストラ超名曲徹底解剖 [3]」より川崎高伸氏による、~『レコード芸術』通巻672号、音楽之友社、2006年)


「いつも前向きで元気いっいぱいの、体育会系のチャイコフスキーである。メランコリーや、メルヘンや、ファンタジーなどという、下手にやれば湿っぽくナヨナヨしてしまいそうな要素にはあまりかまわず、音の動きや生理に伴う快感を前面に押し出し、徹頭徹尾カラッと明るく、そして健康的なダイナミズムを爆発させる。ただオーケストラがウィーン・フィルなので、彼らのソロや抒情的な表現が、レヴァインの持ち味との相互補完的役割を果たしている。」石原立教氏による月評より、POCG50036、『レコード芸術』通巻第566号、音楽之友社、1997年)



 情景(No.10)モデラート
sv0125c.jpg煌めくハープのアルペジオのつぶ立ちの良さと弦の明瞭なトレモロは、いかにもデジタル録音らしい切れのある音場で、漸強弱を克明につけながら、オーボエが悲嘆の色をしっとりとのせている。

伝家の宝刀を抜くようなウィンナ・ホルンが炸裂する主題総奏(19小節)の分厚い響きは聴き応え充分で、ウィーンフィルならではの音の醍醐味があろう。
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聴きどころは、弦が歌い返す〈応答のモチーフ〉(26小節)。しっとりとコクのあるフレージングによって、艶をのせて纏綿と奏でる絶妙の節回しは、オペラ指揮者レヴァインの独壇場。3連音の反復を柔らかくさばき、悪魔を暗示するトロンボーンの対位を丸めて溶け込ませるが、トランペットの決めどころや、トゥッティの強奏がいささか大味で、「これでも喰らえ!」といわんばかりに、楽天的なノリでオケを爆発的にけしかけてしまうあたりがレヴァインらしい。


ワルツ(No.2)テンポ・ディ・ヴァルス
sv0125d.jpg村娘たちの踊るワルツは、颯爽とした早めのテンポとリズミカルなステップが小気味よく、ヴィブラートをたっぷりかけた、ねばっこい弦の歌わせぶりもユニークだ。

67小節の総奏では、わずかにルフト・パウゼを入れる小ワザが即興的で、生き生きと躍動するレヴァインの棒さばきが快感を誘っている。
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トリオは味は控えめだが、上品なコルネットのソロを彩る弦のグリッサンド気味のオブリガートや、ニュアンスゆたかに揺れるスルGの旋律など、スラヴの哀感とウィーンの典雅な風情がそこかしこに流れてゆく(クープレCの取り返し207小節5:04でフルートの変な音が聞こえる)。ガシガシと無造作にシンバルを叩き込むクライマックスの総奏はかなり乱雑で、騒々しいだけで終わってしまうのがレヴァイン流。



4羽の白鳥たちの踊り(No.13d)アレグロ・モデラート
sv0125e.jpgファゴットとピッツィカートの精密な伴奏にのって、鄙びたオーボエの2重奏が軽妙洒脱に歌うところは、まるで指揮者がパンチ・パーマをかけた天ぷら職になったようで、サクサクと淡泊な味付けでパ・ド・カトルを料理する。
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重奏の旋律もスッキリと力みがなく、伴奏も弓を添える程度である。大きく見得を切る終止和音がいささか芝居じみているが、「一丁あがり」的な達成感が心地よい。



オデットと王子のパ・ダクシオン(No.13e)アンダンテ
sv0125f.jpg緩急をつけたハープの目の覚めるようなカデンツァから、甘美な主題が導き出されるとロマンの香りがしっとりと漂ってくる。ここで、独奏ヴァイオリンを受けもつのはライナー・キュッヒル

ビンダー、ヒンク、ホーネックといったコンサート・マスター(当時)の中でも別格の存在で、若干20歳でコンサート・マスターに抜擢されたのは、アルノルト・ロゼーとワルター・バリリの18歳に次ぐ記録という。
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稟と引き締まったクールで清楚なフレージングは気品があり、ヤクザな崩しを入れることなく、艶をのせて生真面目に歌い込んでゆくところは名手ならではの味わいがある。キュッヒルが名人芸を最高度に発揮するのがピウ・モッソで、速いリズムにのった切れのある弓さばきによって、装飾的な変奏主題を闊達自在に舞うところは清新な生命力に満ち溢れている。

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sv0125g.jpgチェロ独奏は、名人フランツ・バルトロメイ。バルトロメイ家は、ウィーンを代表する音楽一家で、祖父はグスタフ・マーラーの友人でウィーンフィルのクラリネット奏者、父もウィーンフィルのヴァイオリン奏者という3代にわたって活躍する音楽家。

ウィーンフィルの奏者を語るとき、どのセクションも先祖伝来の奏法が受け継がれていることから、決まって「~家」という話になるあたりは、歌舞伎のような伝統芸能といえる。
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ここでは、室内楽奏者としても幅広い活動を行っているバルトロメイらしく、決して出しゃばることなく、ヴァイオリンのオブリガートに自然に溶け合うようにたゆたうところは、バレエ音楽を超越した味わい深さがあろう。ブラベッツ、クロチャクといった伝説的なウィーンフィルの名手直伝の、気品溢れる弓さばきと音色の美しさを心ゆくまで味わいたい。


ハンガリーの踊り(No.20)チャルダーシュ~モデラート・アッサイ
sv0125h.jpg颯爽とした導入につづくイ短調の〈ラッサン〉は、装飾音にグリッサンドをかけた独特の節回しがユニークで、指揮者の淡白な棒さばきに逆らうかのように、奏者がねばり腰で入念に揺れるジプシー調の旋律から、うらぶれた哀愁を発しているのがおもしろい。

ヴィヴァーチェに転ずる〈フリスカ〉は、レヴァインがサクサクと明朗闊達に走り出す。
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「ガシッ!」と歯ごたえのある音を叩き込む総奏の打撃は、グラモフォンらしいエッジの効いた衝撃感が抜群で、ツボにはまったように賑々しくオーケストラを鳴らして一気呵成に畳み込むあたりは、舞台で叩き上げた指揮者の職人的な力ワザを堪能させてくれる。軋むような音をたてて疾走する木管セクションの足並み揃えたフレージングにも大拍手!



情景・終曲(No.28,29)アレグロ・アジタート~アンダンテ
sv0125i.jpg左右に振り分けたヴァイオリンが抜群の分離感で交互に走り出すところは、オデットの身を切るような悲しみがひりひりと伝わってくる。

〈白鳥たちの調べ〉(40小節)でオデットを慰める木管の静謐な調べはポエジーな情緒に溢れ、これを反行形ですすり泣くように歌い返す“レヴァイン節”が聴き手の涙を誘っている。
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ティンパニの固いトレモロで突入するアレグロ・ヴィーヴォ(54小節)は、嵐の急襲を思わせるシンフォニックなサウンド堪能させてくれる。トロンボーンの咆哮にトランペットとホルンの3連打が鮮烈に喰らい付き、大太鼓とシンバルが入れ違いにガッシリと叩き込まれる迫力ある音場は“音の魔術師”ツィーリンスキーが手がけた名録音。打楽器を学んだエンジニアらしく、エッジの効いた固い衝撃音が圧倒的な迫力で目前に展開する。

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sv0125j.jpgティンパニの大連打とフォルティシモの強烈な一撃で立ち上がる壮大なアンダンテ(第29曲)の音場もすさまじい。分厚い弦をなみなみと鳴り響かせ、雄大に吹き上げるホルンの強奏がムジークフェラインに轟くゆたかな響きといったら! TOWER RECORDS  amazon  HMVicon

弦のシンコペーションを伴奏にオーボエがせきこむように〈白鳥の主題〉を歌い出すと、アレグロ・アジタート〈終曲〉だ

力の限り打ち込まれる打楽器と、主題を絶叫するブラスの骨力のあるサウンドを生かした劇的なクライマックスは、オペラ指揮者レヴァインの面目が躍如しており、「ここぞ」とばかりに纏綿と、引きずるように歌い回す弦の〈応答モチーフ〉は感涙極まった感があろう。

〈愛の勝利のモチーフ〉を高らかに歌い上げるラスト・シーンは、壮大な絵巻物を見るようなスケール感と開放感に充ちている。名門楽団の美麗なサウンドと壮大な劇音楽に酔わせてくれる必聴の一枚だ。


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[ 2018/10/31 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)