フルトヴェングラー2つのモーツァルト/交響曲第39番

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モーツァルト/交響曲第39番変ホ長調 K.543
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1942 or 43, Berlin
Length: 26:25 (Mono)
Henning Smidth Olsen No.77
Level: DG
Disc: POCG-2348


演奏会記録によれば、フルトヴェングラーが演奏したモーツァルトの交響曲は最後の4曲に限られており、しかも録音が残されているのは第39番と第40番のみである。その中でも巨匠が好んで取り上げたのが第40番で、第39番が1939~45年の間に取り上げられた演奏会はただの一度しかない。

sv0129b.jpg第39番の録音はベルリンフィルによる2種が確認されている。ともに大戦中の演奏で、1942~43年の放送用録音と推定される音源によるグラモフォン盤(1961年初出)と、ソ連が接収した帝国放送局の実況録音盤(1944年2月7/8日ベルリン国立歌劇場)。

これらは同一の演奏でないかと疑われたこともあったが、 ①は1942/43年とクレジットされるだけで録音日が不明とされてきたもので(1944年10月7日 ベートーヴェン・ザールでの放送録音とする盤もある)聴衆ノイズがまったくない。
UCCG3682  POCG30083

これに対して②は開発されたばかりの磁気テープによる実況録音で、会場のセキやくしゃみなどの雑音が多く、①には見られない終楽章の呈示部を反復するという違いがある。

No.Orch.DateLocationOlsenSourceTotal
BPO1942-43BerlinO_77POCG23489:128:354:063:5525:48
BPO1944.12.7/8BerlinO_98.6F50G290899:149:273:455:2527:51


sv0129c.jpgこの2つの演奏を聴き比べてみると音の違いは一目瞭然。強音がつぶれて鑑賞には苦しい②に対して、やわらかくクリアな①の音質の良さに筆者は驚いた。

演奏は好みが分かれるだろうが、どこか重苦しい進行でティンパニが乱暴に叩き込まれる荒々しい②に比べると、①の演奏は落ち着きと風格があり、しかも浪漫的な気分と哀感を宿した巨匠ならではの格調高いモーツァルト演奏といえる。
GS2027

「フルトヴェングラーの古典への姿勢を端的に表した興味深い演奏である。フルトヴェングラーが根っからのロマンティストであったことをうかがわせるが、モーツァルトは第2次世界大戦中の録音であるためか、ほの暗い色調と独自のうねるような抑揚が、大きなスケールで音楽の意味深さを示している。どこをとってもフルトヴェングラーの面目が躍如した表現である。」大木正興氏による月評より、MG6018、『レコード芸術』通巻356号、音楽之友社、1980年)



第1楽章 アダージョ-アレグロ
sv0129d.jpg壮麗なファンファーレ風の序奏動機のやわらかでクリアな音が心地よく、低音がゆたかに響く伸びやかなフレージングに魅せられてしまう。

弦の入念な切分音で上昇し、フルートが美しくたなびくさまは、まさに神秘の泉から音楽が湧き出ずるかのようである。リズムは地の底から抉られ、腹に響くようなティンパニの豪打はまぎれもなくフルベン流。深い瞑想に入るかのような半音階進行のブリッジが、聴き手を無限の彼方へ誘ってゆく。
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深い沈黙の中から、憧憬に充ちた美しい上行アルペジオを紡ぎ出す絶妙のフレージング(主部アレグロ)は神業といってよく、得も言われぬ悲哀感をしっとりと込めたコクのあるカンタービレはドイツ・ロマンの神髄にほかならない。
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sv0129e.jpgゆたかな響きで整然としたアンサンブルを展開する全管弦楽の強奏(54小節)は、《エロイカ》のような男性的な力強さで押し切るフルベンの力ワザを堪能させてくれる。

16分音符の下降音階とめまぐるしいフィギュレーションを交錯し、ユニゾンの舞踏リズムを躍動感たっぷりにさばくあたりは巨匠の面目躍如といえる。
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木管のまろやかな合いの手を聴かせる第2主題やオペラ・アリアのように歌う第3主題(110小節)の味わい深さも格別で、トレモロで決然と突進する小結尾の緊迫感も無類のものだ。[呈示部反復なし]

sv0129f.jpg展開部は経過部の舞踏リズムを分厚いバスとかけ合わせながら力強く、整然とさばくあたりはいかにも巨匠風で、気分はすこぶる厳粛である。

再現部手前のリタルダンドも絶妙としか言いようがなく、憂いを帯びた第1主題のメロディーが麗しく回帰するところの神々しさといったら! 力強い弦のフィギュレーションを配するコーダの進行と堅固な造形は確信に充ちたもので、燻し銀の金管をがっつりと打ち込んで威風堂々と締め括っている。


第2楽章 アンダンテ
sv0115e.jpg真理を探求する果てしのない旅のような趣はまぎれもなく巨匠の音楽で、意味深げな副主題突然の転調による暗い響きで、来たる悲劇の到来を予感させるあたりは巨匠の手は込んでいる。

フォルテのヘ短調(第2主題)は人間の苦悩を刻印した“慟哭の調べ”で、音楽を自分の手元へ「ぐい」と引き寄せ、強い主情を盛り込んでゆくフルベンの奥義を堪能できよう。
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弦の刻みにのって、ホ長調で木管に第1主題が帰って歌い継ぐところ(38小節)もたまらない。こみ上げるような懐かしさとともに、明日への希望を気高く歌い上げる楽節(46小節)は涙モノで、木管のカノン(副主題)で優しく慰めながら(53小節)、弦の美しい響き(58小節)で浄化する崇高さはいかばかりであろう。寂しげにひっそりと歌い続けるコーダも郷愁をそそり、聴き手の心を掴んで離さない。


第3楽章「メヌエット」 アレグレット
sv0129g.jpg2種の演奏ではメヌエットが大きく異なっている。強いアクセントを入れて、大地を踏み鳴らすような足取りでさばくフレージングは、快活さよりも聴き手を鼓舞するような男臭い力感に充ちている。

メヌエットの後半では躍動感を増し、強固ともいえる緊密な合奏は一分の隙もない。これに対し44年盤では、速いテンポでザクザクとリズムを刻む荒武者ぶりが痛快で、後半冒頭の抉るようなアインザッツの凄まじさは、これぞフルベンを聴く醍醐味に尽きるといえる。
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「第3楽章のよく聞き慣れたメヌエットのところで、彼はコンサートマスターを相手にいろいろ試したあげく、ヴァイオリンの8分音符を、弓の根元に近い所で、力強く短く弾くことに決めた。そうすれば、足を踏みならし舞踏する感じがはっきり現れるからである。」 カルラ・ヘッカー著『フルトヴェングラーとの対話』より、薗田宗人訳、音楽之友社、1967年)


トリオはクラリネットの二重奏がよく歌う。低音アルペジオが聴き取れるのは録音条件の良い①であるが、主旋律の肉感とまろやかさでは44年盤を採ろう。

トリオ後半の美しい弦の歌も大きな聴きどころで、したたるようなレガートで麗しく歌い上げるところはじつに感動的である。鉄槌を打ち込むように決然とメヌエットに帰る豪放さは、流石フルべンとしか言いようがない。


第4楽章「フィナーレ」 アレグロ
sv0129h.jpgフィナーレは2種ともにすばらしい演奏だ。無窮動的な舞曲はベルリンフィルの弦楽セクションの独壇場で、緊密で華麗なフィギュレーションの舞いを心ゆくまで堪能させてくれる。

第1主題から導き出される第2主題の軽妙なニュアンスと対比させるように、62小節から力強く踏み込んで小結尾へと畳み掛ける強靱なリズムさばきは圧巻で、「これぞフルベン!」と快哉を叫びたくなる。 
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とくに44年盤では16小節の分散和音から馬車馬のように加速をかけるところが即興的で、熱い“フルベン・ビート”と、めくるめくテンポの変転がじつにスリリングである。44年盤には①には見られない呈示部の反復があり、ノりにノった“フルベン節”が全開! 音楽はいささか粗いが強引ともいえる不羈奔放な筆運びもフルベンの魅力だろう。

sv0129i.jpg凄まじい勢いで突進する展開部は、管弦の嵐が吹き荒れる。主題の断片を豪快に叩き込むゼクエンツ進行と筆圧の強いストレッタ・カノン(125小節)の緊迫感は無類のもので、フルベンの“荒ワザ”をとくと堪能させてくれる。

リズムのえぐりを効かせた44年盤はさらにすさまじく、楽員が「やったるぜ!」と言わんばかりの白熱ぶり。

不断の闘争の中から現れる主題再現(153小節)も気魄を込めた突進ぶりで、“らっきょう頭”がふらふらと揺れ動くシンフォニック・ダンスが躍動の頂点を極めるところが最高の聴きどころだ! 「これでもか」と強圧的な打撃で決める結尾(212~230小節)の猛々しさも自家薬籠中の必殺ワザといえる。

全管弦楽の強奏で一気呵成に駆け込むコーダの力強さは言わずもがな、巨匠が意志的な力によって豪毅に締め括った必殺の一枚だ。


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[ 2018/12/29 ] 音楽 モーツァルト | TB(-) | CM(-)