アンチェルのバルトーク/管弦楽のための協奏曲

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バルトーク/管弦楽のための協奏曲 Sz116
カレル・アンチェル指揮
チェコフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1963.3.25-27,29 (Spraphon)
Location: Rudolfinum, Praha
Disc: COCO84481 (2008/6)
Length: 37:37 (Stereo)
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このディスクは、スプラフォン・ヴィンテージコレクションの〈カレル・アンチェルの芸術〉(全10枚)と題したシリーズの一枚で、オリジナル・マスターから復刻された音盤である。これらは、いずれも全盛期の艶光りしたような“チェコフィル・サウンド”堪能させてくれる名盤ぞろいで、廃盤になってしまう前に是非とも入手しておきたい。

sv0112a.jpgカレル・アンチェル(1908-1973) はチェコフィル第2の黄金期を築いた名指揮者で、無類の“トレーニング魔”としても知られる。戦後の混乱期に楽団を立て直すために楽員を入れ替え、パート練習を強化してアンサンブルを鍛えあげ、チェコフィルをローカルな楽団から機能性をも兼ね備えた超一流のオーケストラへと育て上げた。

ここで聴く《オケコン》は、ストイックなまでに引き締まった辛口のスタイルによって、ヴィルトゥオーゾ・オーケストラに勝るとも劣らない緊密なアンサンブルが繰り広げられている。
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燻し銀のブラスや鄙びた木管楽器にみられる古色蒼然とした特有のサウンドも個性的で、皮肉っぽい〈対の遊び〉、収容所での辛い体験を物語る慟哭の〈エレジー〉、グロテスクな嘲笑や悲しみを歌いあげる〈中断された間奏曲〉など、アンチェルの厳しい眼差しと緊迫した気分で貫らぬかれた第一級の演奏だ。

「アンチェルのあの冷たい体質と合っているせいか、全体に寸分の隙もなく、よくまとまった演奏を行っている。ことに緊迫感に包まれた〈エレジー〉と終曲は光っていた。」 志鳥栄八郎氏による月評、OC7167、『レコード芸術』通巻第334号、音楽之友社、1978年)


「細部まで隙なくまとまった、スマートで澱みない音楽の流れの良い演奏で、なかなか怜悧な美しさをそなえている。〈対の遊び〉などには、もう少しユーモアや余裕があってもとは思うが、〈悲歌〉の深沈として澄みきった表現や、〈終曲〉の爽やかかつのびやかな躍動など、美しい聴きものである。」 歌崎和彦氏による月評、『レコード芸術』通巻第484号、音楽之友社、1993年)



第1楽章 「序章」 アンダンテ・ノン・トロッポ~アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0112b.jpg「ザラリ」とした低音弦の感触、フルートの明瞭なトレモロ、ヴィオラのかさかさとしたスルポンティチェロなど、キメ細やかな木質の肌触りが抜群の鮮度で迫ってくる。

楷書風のフルートのパルランド・ルバートや、鈍い響きを発するトランペットも個性的で、痛切な弦の調べがオクターヴ上がると、ティンパニを力強く叩き込み、主部に向かって急迫的に追い込むところはオーケストラを隅々までコントロールする指揮者の鋭気が漲っている。
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主部(76小節)は、チェコフィルが強固なアンサンブルを披露する。アンサンブルの切れの良さと鮮明なテクスチュアは抜群で、ティンパニの固い打ち込みによって音楽を毅然と引き締めている。鄙びたオーボエが悲しげに歌う第2主題(154小節)の侘びた風情も魅力的で、これを歌い継ぐ木管パートがラプソデックにたゆたうと気分が高まってくる。ハープや弦の緻密な伴奏にも録音のあざとさを微塵も感じさない手作りの味わいがある。


sv0112c.jpg厳然と立ち上がる展開部(231小節)は、ぴしりと整った弦楽アンサンブルの腕の見せどころで、乾いた音で「ガシッ!」と叩き込むフォルティシモの和音打撃は壮絶の極み。
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くすんだクラリネットや、葦笛のようなコール・アングレといった個性的な音を発する木管楽器にも酔わせてくれるが、聴きどころは推移主題を展開するブラスの強大なカノン

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sv0112d.jpg燻し銀の響きを発するトロンボーンに、トランペットの乾いた金属音がきっぱりと、明瞭に高音部で歌い継ぎ、4本の野太いホルンが反行形主題を「ほっこり」と吹きぬくローカル色ゆたかな音色は、まぎれもなく60年代のチェコフィル・サウンドだ。

6声のカノン(365小節から)ではトランペットにミスがあったり、パンチ力とっいた点では決め手を欠くが、胸のすくように打ち込むブラスのメタリックな触感は抜群で、第2主題の再現の精緻な合奏能力も特筆モノ。
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切れのあるアンサンブルで整然と決めるコーダもアンチェルの気魄が聴き手にじかに伝わってくる胸のすくフィニッシュといえる。


第2楽章「対の遊び」 アレグレット・スケルツァンド
sv0112e.jpgパントマイム風のスケルツォは、チェコフィルらしい鄙びた音色を発する個性ゆたかな木管楽器の独壇場。小太鼓の固いリズム打ちにのって、皮肉を込めたように嘲る各パートの妙味あふれる歌い口がすこぶる魅力的で、リズムは堅固で一分の隙もなく、実直なボヘミアの楽隊といった趣がある。

トリオは、まったりとしたブラスの奏でるロシア風コラール。情感ゆたかな調べは耳にやさしく響くが、指揮者の心のこもった痛切さが次第に聴き手の心に重くのし掛かってくる。  TOWER RECORDS  amazon  HMVicon


第3楽章「悲歌(エレジー)」 アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
sv0112g.jpgアンチェルは〈痛ましい死の歌〉を、強制収容所での自己の辛い体験を重ねるかのように、悲劇のドラマを痛切に描き出す。不気味な低音弦とオーボエの独白は悲しみを通り越して狂おしいほどに嘆き、人間の苦悩や苦痛さがひりひりと伝わってくる。

圧巻は鉄槌のように打ち落とす管弦の豪打! 固い鋼のようなブラスの塊を容赦なく振り下ろす凄絶さは、ナチスに家族を抹殺されたアンチェルのつよい怒りが込められている。
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sv0112j.jpg身悶えするように、のたうち回る弦、中間部の深い瞑想的なヴィオラのパルランド・ルバート、哀しみを満面に湛えた木管のコラール、わが身を呪うかのようなコール・アングレの呟き、その頂点でトランペットが阿鼻叫喚の地獄を打ち叫んで悲劇のクライマックスをむかえるのだ!

 しみじみとした情感の中で激情は慰められるが、いくらぬぐい去ろうとしても指揮者の心の悲しみは永遠に癒されることはない。  TOWER RECORDS


 第4楽章「中断された間奏曲」アレグレット
sv0019f.jpg開始の長いフェルマータに仰天するが、哀しげに揺れながらペーソスを込めて歌うオーボエの民謡主題は味わいがあり、皮肉っぽいニュアンスをたっぷりと伝えている。

ヴィオラの歌うハ短調の〈望郷のエレジー〉がアンチェルの聴かせどころで、祖国への深い想いと慰撫の念を込めて綴る音楽がすこぶる感動的だ。コール・アングレのやるせない気分や、狂おしげなオーボエの吐息も聴き手の胸を打つ。
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中間部は「戦争の主題」(ショスタコーヴィチの〈レニングラード〉)のパロディー。レハールのワルツから引用した一節を嘲笑する場面では、あたかもナチスに抗議するかのようなブラスと木管の抉りの効いた嘲りがグロテスクで仰々しく、トロンボーンの2度のブーイングなどは、奏者が憎々しげに尻を突き出して、屁をかましているような感じである。

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「90小節と91小節に出現するトロンボーンのグリッサンドの終点の音が、記譜音よりもピッチが高く、これが実に底意地の悪さを感じさせるのだ。この盤は、第4楽章以外でも、記譜上のイントネーションとは微妙に異なったアプローチを行いながら、ラプソディックな感興を豊かに湛えているのが、まことに興味深い。」 「究極のオーケストラ超名曲徹底解剖[2]より満津岡信育氏による、~『レコード芸術』通巻658号、音楽之友社、2005年)



 第5楽章「終曲」ペザンテ~プレスト
sv0112h.jpgチェコフィルの鉄壁のアンサンブルを知らしめるのがフィナーレだ。艶を消したような鈍いブラスのファンファーレを合図に、無窮動のパーセージをひた走る緻密な弦楽アンサンブルが持ち前の腕を発揮する。

鍛え抜かれた筋金入りのフレージングによって、目の覚めるような精密な走句がクレッシェンドするところ(132小節)は鳥肌モノで、切れ味の良いリズムと管弦のバランスの取れた音楽運びは一分の隙もない。
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第2主題(148小節)をカノン風に奏でる木管パートの古風な響きから諧謔味や皮肉な表情がおのずと浮かびあがってくるではないか。この曲最大の見せ場は中間部のトランペットに尽きるといってよく、弦の伴奏音型の上に元気よく躍り出る主題を連呼するファンファーレ(201小節)が最大の聴きどころ。力感は今ひとつだが、歯切れ良く打ち込む冴えた金属音が心地よく、1番トランペットが3連音(229小節)を抜群のリレーで打ち繋ぐパフォーマンスが見事に決まっている。
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sv0019h.jpg弦楽フガート(265小節)やストレッタ楽段(344小節)の精緻なアンサンブルも玄人集団の技といってよく、とくに木管パートのくすんだ音色が楽曲にローカルな色合いと詩情味を添えている。

ティンパニの冴えた一打から走り出す再現部(384小節)の精緻なアンサンブルは間然するところがなく、決めどころの総奏(418小節)でトロンボーンをバリバリと打ち込む力ワザにも大拍手!  amazon

フィナーレの仕上げは、第3主題をラプディックに変奏した勝利のファンファーレ。エネルギッシュな躍動はアンチェルの棒によって禁欲的なまでに厳しく統制され、直線的な正確さと贅肉を削ぎ落とした“辛口のサウンド”によって厳然と締め括られる。

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アンチェル=チェコフィル全盛期のサウンドを堪能させてくれるお宝の一枚だ。


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[ 2019/01/26 ] 音楽 バルトーク | TB(-) | CM(-)