ジュリーニ=シカゴ響のベートーヴェン/交響曲第7番

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ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調 作品92
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
シカゴ交響楽団
Recording: 1971.3.29 Medinah Temple, Chicago
Producer: Christopher Bishop (EMI)
Balance Engineer: Carson Taylor
Length: 40:29 (Stereo)
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孤高の名指揮者ジュリーニとシカゴ交響楽団の蜜月関係は、ジュリーニが首席客演指揮者に迎えられた1969年に遡る。これは当時の音楽監督ショルティの強い要望によって実現したもので、RCA専属のシカゴ交響楽団が新たに契約したジュリーニ指揮によるEMIレコーディングがはじまった。

1969~77年にディナ寺院で組まれた一連のセッション(全8曲)は、その評価を不動のものにしたDGの“第9シリーズ”と並び、50代後半の心身共に充実した時期のジュリーニの姿が刻み込まれている。

「ジュリーニのレコードをきいてみて、彼がシカゴ交響楽団と入れたベートーヴェン、ブラームス、マーラーといった曲のレコードが、たとえばロンドンのフィルハーモニア・オーケストラと合わせたモーツァルトなどより、一段と迫力があり、音楽として力強いうえに、何というか、本当にしっかりとした手応えのあるものになっているのに気がついた。」 吉田秀和著 『世界の指揮者』より要約、筑摩書房、2008年)


sv0137i.jpg演奏はシカゴ響の力強い、マッシヴなオーケスラ・サウンドが魅力的で、ジュリーニはそれに寄りかかることなく真摯に、毅然と「リズムの神化」に立ち向かう。

特筆すべきは躍動感あふれるしなやかなリズムさばきで、歯切れ良く刻むティンパニとキメ細やかなフレージングによって音楽は大きくゆたかに息づいている。
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深い悲しみを纏綿と綴る〈不滅のアレグレット〉は、“歌の指揮者”ジュリーニらしい晴朗なカンティレーナが印象的で、オーケストラを煽ることなく、整然と進行する構成感とスケール感も絶大。ここ一番の決めどころでは「ガツン」と打ち込む金管セクションのパフォーマンスも冠絶しており、役者をそろえたヴィルトゥオーゾ楽団ならではの豪快なサウンドを堪能させてくれる。

「いかにもジュリーニらしく、作品の内部にあるパトスを抑制し、曲の古典的様式を端然と表わした秀演である。細部を徹底的にみがきあげ、リズミックななかにも歌の流動を感じさせることも大きな特色といえる。第2楽章など、そのため明確に歌を志向した主張が示され、終楽章ではイン・テンポを貫いた端正さがある。」 小石忠男氏による月評より、CD285056、『レコード芸術』通巻第450号、音楽之友社、1988年)



第1楽章 ポコ・ソステヌート-ヴィヴァーチェ
sv0137c.jpg序奏の上昇音階をみずみずしく駆け上がる精緻な高弦と、豪壮な低音弦が抜群の分離感で迫ってくる音場の素晴らしさはまぎれもなく“シカゴ・サウンド”

主部(ヴィヴァーチェ)は、木管のリズミカルな第1主題(農民の輪舞)にのって快活なテンポで進行する。フェルマータを「ぐい」と弾き切り、ホルンがたっぷりと湧き上がる豊麗なオーケストラ・サウンドが気持ちよく、ティンパニの明確な打点にのってジュリーニはシチリアーノのリズムを剛毅にさばいてゆく。
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聴きどころは南国の陽光が燦々と降り注ぐカンタービレを聴かせる第2主題(119小節)。力強いフレージングの中にも潤いと艶をしっとりと込め、ジュリーニならでは音の美感が散りばめられている。小結尾の弾むようなティンパニのリズム打ちが「ピタリ」と決まっているのも心地ちよく、これが聴き手の快感となっている。 [リピートあり]

sv0137d.jpg展開部はリズミックな楽想がレガートを主体に晴朗に進行。振り子のような“ジュリーニ・リズム”に張りのあるホルンがエネルギッシュに打ち込む合奏は一分の隙もなく、シチリアーノが鋼のリズムとなってクライマックス(262小節)の総奏へ上り詰める緊迫感も無類のものだ。

名物奏者たちがここ一番の決めどころで抜群の存在感を示しているあたりは“シカゴ響(教)信者”ならずとも、そのパフォーマンスの見事さに酔わされてしまうに違いない。
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コーダはカンタービレを聴かせるヴァイオリンの対声部に、豪壮なバソ・オスティナートを重ねる進行がユニークで、力強く頂点に駆け上がるホルン、トランペット、ティンパニといった凄腕の面々が「やったるぜ!」と言わんばかりに、ジュリーニの棒に力相撲で喰らいつくところも“シカゴ響(狂)ファン”にはたまらない魅力だろう。

「第1楽章の導入部での各パートによる音階の上昇の1つ1つの鮮明で、しかも音楽的にきちんときこえること。あるいはヴィヴァーチェの主部に入ってからの、第119小節以下の第2ヴァイオリンの動きを例にとってもよい。それはもう小気味がよいというよりも、むしろ晴れやかで誇らかなイタリア的ブリオの典型なもの、初夏の颯爽たる一陣の風の疾走のような趣がある。それでいて実に粋なのである。こんなに野暮ったらしいものの少ないベートーヴェンは、ほかにいつ、きいたことかあったかしら。」 吉田秀和著 『世界の指揮者』より要約、筑摩書房、2008年)



第2楽章 アレグレット
sv0137e.jpg〈不滅のアレグレット〉は、ドライな拍を刻むライナーやショルティとは趣を異にし、聖フランチェスコのアッシジを巡礼するような厳粛な気分に貫かれいる。

瞑想的なヴィオラのメロディとダクテュルスのリズムの重く深い響きはいかばかりだろう。変奏部は、“歌の指揮者”ジュリーニの面目が躍如する。
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深く沈んだ第2ヴァイオリンの主旋律とヴィオラとチェロの対旋律が滔々と流れ出す第1変奏と、ウェットな情感を秘めたヴァイオリンが纏綿とかけ合う第2変奏がすこぶる感動的で、木管が満面の悲しみをたたえて歌いあげる第3変奏のクライマックスは慟哭が極まった感があろう。

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sv0137b.jpg力強いバスの3連リズムとティンパニの強打が悲しみをさらに抉りの効いたものにしている。イ長調の中間部は木管奏者が腕によりをかけて民謡旋律を歌い継ぐ。

名人奏者が繰り出す管楽器の絶妙のパフォーマンスもさることながら、第1ヴァイオリンの3連音の対位までをも千変万化のニュアンスの彩りをつけてカンティレーナのように歌わせているところは、ジュリーニが見せる“奥の手”といえる。
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第3楽章 プレスト
sv0137f.jpgスケルツォはティンパニの踊るようなリズムにのって躍動感たっぷりと進行する。

木管のみずみずしい囀りとシャッキリと打ち込む和音打撃のかけ合いがじつに歯切れよく、サクサクと駆ける緻密な弦のスピッカートや、どんぴしゃのタイミングで叩き込むティンパニの気持ちのいい打点が耳の快感になっている。
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トリオは、オーストリアの古い巡礼歌を木管がよく歌う。ガソリンを満タンにした楽団がフル・パワーで爆発する総奏は、「これぞシカゴ!」と言わんばかりのド迫力! ティンパニを落雷のごとく叩き込み、強烈なトランペットを容赦なく打ち込むところは、「してやったり!」と奏者が互いに顔を見合わせて「ニヤリ」と笑むさまが目に浮かんでくる。

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第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ 「舞踏の聖化」
sv0137g.jpg長いアームスから繰り出す振幅運動によって、ジュリーニが大排気量のオーケストラを自在に操るさまが痛快で、格好の良い身のこなしで拳銃を撃ちぬく凄腕のガンマンを思わせる。

ふだんはスコアを読む以外は西部劇ばかり見ていたというジュリーニは、クリント・イーストウッドを知的にした感じに似てないか。
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雄叫びを上げて勇壮に鳴り響く〈喜悦のテーマ〉(25小節)のホルンの分厚いサウンドも痛快の極みで、弦のみずみずしい分散和音、舞曲フレーズの流れるような取り回し、きびきびと弾む付点リズムが颯爽と捌かれてゆく。第2主題から高揚していく局面でも指揮者は闇雲に熱くならず、裏拍のアクセントを厳正に打ちながら、確かなる足取りで突き進むところに快哉を叫びたくなる。 [リピートなし]
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sv0137h.jpg展開部は、第1主題を豪快に打ち返す低音弦のなみなみとしたパワーが全開。トランペットの華麗な打ち込みを皮切りに、コーダに向かって楽員が一丸となって生気あふれる音楽が展開する。

大きなサプライズはその頂点(405小節)で、ジュリーニは力瘤を排してバソ・オスティナートの流れに身を委ね、「狂乱の音楽」を美しく歌ぬくことで勝負する。
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腕のなる猛者たちのパワーを丸め込み、磨きぬかれた“シカゴ・サウンド”が光彩陸離たる輝きを放ちながら、ゆたかな歌が立ちのぼってくるところは、イタリア人指揮者ならではの味わいがあろう。まろやかに朗唱するホルン、皮の質感を感じさせてくれるティンパニの小気味の良いリズム、適度な残響をくわえたEMIのクリアなサウンドも心地よく、各パートの分離感(とくにティンパニの打点!)も抜群。

絶頂期のジュリーニの姿をあますところなく刻んだ出色の一枚だ。


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[ 2019/08/30 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)