フルニエのブルッフ/コル・ニドライ

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ブルッフ/コル・ニドライ 作品47
ピエール・フルニエ(チェロ)
ジャン・マルティノン指揮 ラムルー管弦楽団
Enregistre:1960.5 Salle de la Mutualité, Paris
Exective Producer: Prof. Elsa Schiller
Recording Producer: Hans Ritter
Tonmeister: Harald Baudis (10:37 Stereo)
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《コル・ニドライ》(ヘブライの旋律によるチェロのためのアダージョ)は、ヘブライの古い聖歌の旋律を変奏した一種の幻想曲で、チェロの独奏とオーケストラの伴奏によるブルッフの名曲だ。コール・ニドレイとは「神の日」という意味で、ユダヤ教の潔斎の日である贖罪の夕べに歌われるヘブライの聖歌が引用されている。

sv0138b.jpgローマ帝国のテオドシウス帝がキリスト教を国教とした4世紀末以降、ユダヤ教徒への迫害がはじまり、キリスト教徒は改宗を迫られた。

とくに14~15世紀のスペインでは、改宗を拒むユダヤ人は追放されたり虐殺が行われたりしたという。それを逃れるためにユダヤ人たちはキリスト教の洗礼を受けて改宗者の誓いをたてざるを得なかった。
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sv0138d.jpg敬虔なユダヤ教徒にとって、生き延びるための偽りの誓いをたてたことは大きな心の重荷となった。ユダヤ教の贖罪日(ヨム キプール Yom Kippur)に彼等は改宗したことの罪を悔い、ひたすら神に許しを請う。

あの時の誓いはすべて偽りであり、これを破棄して本来の信仰に帰ることを誓うのである。この懺悔の朗唱にはいつしか旋律が付き、“聖なる歌”となった。それが Kol(おおすべての)Nidrei(私の誓い)である。
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「宗教的な気分にみちあふれており、とくに東洋ふうの悲哀感ただよったその旋律は、聞くものの胸を強く打つ。フルニエ盤は地味ながら独特の品格をもった演奏で、この曲のもつ祈りの気分をしみじみと表出している。」 志鳥栄八郎著 『世界の名曲とレコード 増補改訂版』 誠文堂新光社、1974年)



 第1部 アダージョ・マ・ノン・トロッポ ニ短調
sv0138c.jpg祈りの旋律にヴィブラートをたっぷりかけて、しっとりと歌い上げる冒頭から聴き手は心を鷲掴みされてしまう。

フルニエのフレージングは敬虔な気分とユダヤ民族の悲痛な叫びを心の底から絞り出すように歌い、慈愛に満ちた優しさも紡いでゆく。

まずはオーケストラの威厳に満ちた重厚な総奏(29小節)が聴きもので、ドイツ・グラモフォンらしいエッジの効いた腰のある音が音楽に風格を与えている。
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sv0138e.jpgそこに柔らかでうるおいのあるチェロの音色がくわわり、オーケストラとしみじみと語り合う。

前半のクライマックスはクレッシェンドして高潮するチェロとオーケストラの哀感に充ちた応答(35小節)で、コン・ブリオの上昇音階や14連音で感情を高め、流麗闊達に歌い上げるフルニエのテクニックと深い表現力に胸がいっぱいになってしまう。ア・テンポ(47小節)の魂を揺さぶるようなチェロのヴィブラートはいかばかりだろう。
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第2部 ウン・ポコ・ピウ・アニマート ニ長調
sv0138f.jpg音楽が大きく高揚する第2部がこの曲の白眉である。ハープのアルペジオと弦の分散和音が聞こえてくると、光明が差し込んでくるように、フランスのオーケストラらしい明るい音色で新たな主題がユニゾンで導入される。

フルニエのチェロは希望と慈愛を満面に湛えながら、名旋律をロマンティックに歌い上げる。
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これに応えるオーケストラの合いの手がたまらない。マルティノンは絶妙のタイミングでオーケストラの合いの手を絡めながらチェロと優しくかけ合うところに思わずCDを指揮したい衝動にかられてしまう。

sv0138g.jpgやわらかなタッチでオーケストラの波打ちを巧みに操るマルティノンの名人芸は、これでもかと聴き手の感性につよく訴えかけてくる。

付点をともなったチェロの愛の旋律(74小節)は気高くもみずみずしい音楽が際立ち、3連音の祈りの主題変奏のテヌートや、決めどころのトリルに思いを込めるところは涙もの。
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ア・テンポの明るいオーケストラの総奏の中から、肉付きのよい音でアドリブをたっぷり聴かせるところも大きな耳のご馳走で、息の長いフレージングと上質のシルクのような肌触りのチェロの音色を心ゆくまで味わいたい。
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sv0138h.jpgコーダは穏やかなヴィオラのシンコペーションで浄化されると、チェロは万感の思いを込めて音階を駆け上がる。

1音1音を噛みしめながら、音楽が永遠に続くかのように、いつまでも祈り続ける。これまでの長い旅の辛苦と罪責が洗い流されるかのように、聴き手の心をも清めてくれるのである。
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わずか10分ほどの小品の中に込められた深い「祈り」と「誓い」をフルニエが気高く歌い上げた名盤で、チェロの美しい音色と名人芸を堪能させてくれるお宝の1枚だ。


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[ 2019/09/30 ] 音楽 ブルッフ | TB(-) | CM(-)