ポール・パレーのスッペ《美しきガラテア》序曲

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スッペ/喜歌劇「美しきガラテア」序曲
ポール・パレー指揮 デトロイト交響楽団
Recording: 1959.11.29 (Mercury)  
Location: Cass Technical High School, Detriot
Recording Director: Wilma Cozart
Musical Supervisor: Harold Lawrence
Chief Engineer & Technical Supervisor: C.Robert Fine
Length: 6:22 (Stereo)
3track half-inch tape/Telefunken 201 microphones
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フランツ・フォン・スッペはウィーンで活躍した喜歌劇や劇音楽の作曲家として知られているが、ダルマチア出身のベルギー系貴族の末裔で、イタリア風の本名をドイツ風に改めたという変わりダネ。

《美しきガラテア》序曲は、《軽騎兵》《詩人と農夫》に劣らぬ名曲で、〈酒の歌〉の総奏で始まる瀟洒な行進曲、甘美な独奏ヴァイオリンの調べ、定番のワルツといった多くの素材をポプリ調に盛り合わせ、次から次へと軽快な調子で曲想をめまぐるしく転換して聴き手をわくわくさせてくれる一曲だ。

sv0014b.jpgこのオペレッタはギリシア神話『ピュグマリオンとガラティア』が題材で、彫刻家ピグマリオンが自分の理想像として創った美しいガラテアの彫像に恋をするという話。ところが、女神に生命が与えられたガラテアは、物欲の強い多情な蓮っ葉女。宝飾品を身につけたまま石像に戻されると、これらをせっせと貢いだミノスが身の破滅を嘆いておひらきとなる。

スッペ:喜歌劇「美しきガラテア(全曲)」

ここで聴くポール・パレーがデトロイト響を指揮した『スッペ序曲集』は“高音質録音”で知られるマーキュリーの中でも極めつけの1枚で、これを初めて聴いた時の衝撃ったらない。テレフンケン201マイクロフォンとハーフインチ・3トラック・テープに収録したというマーキュリー録音のパワフルで、目の覚めるようなサウンドに度肝を抜かされた。

sv0014c.jpgまるで目の前で本物のオーケストラが鳴っているかのような音場のゆたかな広がりと、驚異的なダイナミックレンジはおよそデジタル録音の比ではなく、その迫力は時代を超越したものといえる。シャッキリと響く弦の歯切れの良さも冠絶しており、パレーの冴えたリズム感覚と、馬車馬のように突進する活力がこの上ない刺激となって、筆者はこれを聴く度に痺れるような快感と興奮をおぼえずにはいられない。

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「スッペのオペレッタには、パレーの洒落たセンスの良さも手伝って、いきいきとした躍動感が伝わってくる。この録音時、73歳の年齢にもかかわらず、これほどのシャープな指揮が出来るとはすごいものである。《美しきガラテア》での冒頭のギャロップ風のリズムの新鮮さや旋律線の明快さなどは、まさにこの指揮者の得意とする音楽のようだ。」 草野次郎氏による月評より、PHCP10244、『レコード芸術』通巻536号、音楽之友社、1995年)


「やはり50年代末は一味違う。いささか効率の悪い大排気量の車をフルパワーで引っ張りまわすがごとく、汗をかきかき速く大きく正確にと、とにかく一生懸命なスタイルなのである。そうした人間臭さとともに、時代を映すもの、つまりオーケストラの高度成長期の証みたいなものが感じられて実に面白い。」 石原立教氏による月評より、PHCP20403、『レコード芸術』通巻590号、音楽之友社、1999年)



アレグロ・スピリトーゾ・コン・ブリオ、ト長調、8分の6拍子
sv0014g.jpg〈酒の歌〉のモチーフを使ったリズミカルな行進曲は豪快とか言いようがなく、のっけから元気溌剌としたパレーの棒さばきに魅せられてしまう。豪華絢爛な大管弦楽は迷いのない明快そのものといった表現で、ぎらぎらした原色の輝きがある。鋼のようなリズム打ちと強烈な金管をぶちこむ思い切りの良さには胸がすく思いがする。

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アンダンテ、イ長調、12分の8拍子
静寂の中からホルンがライト・モチーフの断片を呼びかけ、木管がこれにやさしく応えるところのポエジーな情景の美しさはいかばかりであろう。フルートがホルンに絡みつくように舞う装飾的な合いの手が繊美な彩りを添えている。ソロ・ヴァイオリンの甘く、切ない愛の調べは胸がしめつけられそうで、弱音で奏でる弦の精妙な歌い口に哀しくなってしまう。

アレグロ・アニマート、ト短調、8分の6拍子
sv0014d.jpgファゴット、ホルンの呼び交わしのあとに「ビシッ!」とくる鮮烈な打ち込みに仰天させられると、ピッツィカートのリズムにのった木管のスタッカート旋律が小気味よいテンポで走り出す。たっぷり流れるような弦の旋律があらわれて、フルートとクラリネットによるひとくさりの名人芸を楽しませてくれるが、圧巻は満を持して立ち上がる総奏だ!

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工業都市のオーケストラらしいパワフルなブラスの咆哮、これをガッチリ受け止めるダイナミックな弦の躍動感は比類がなく、思い込んだら馬車馬のように一直線に突っ走り、ビシバシ決めるパレー=デトロイト響の力ワザには驚くばかり。リズム打ちは苛烈を極め、畳みかけるように追い込むパレーの棒さばきが聴き手の興奮を誘っている。生々しいまでのマーキュリー・サウンドは今聴いても一級品の歯ごたえと輝きがある。

ピウ・モデラート、ト長調、4分の3拍子
sv0014e.jpg大きな聴きどころは嵐のような総奏が終息したあとにやってくるピウ・モデラートのワルツ。いかにもコミック・オペラにふさわしい逸楽的で瀟洒なメロディーをフランス人指揮者のパレーが「サラサラ」と粋なセンスでこざっぱりと歌わせる。ウィーン風のワルツのようなねばりを入れず、優雅さの中にも一本筋の通った力強さを秘め、前へ前へとぐいぐい突き進むところがいかにもパレー風だ。

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アレグロ、ト長調、4分の2拍子
すかさずアウフタクトから切り返す小刻みの走句が小気味よく、これがとどまることなくひた走る疾走感がゾクゾクするような興奮を誘っている。切分音リズムを鮮やかにさばくデトロイト響の華麗にして超絶的な弦のワザに鳥肌が立ってくる。飛び跳ねるような躍動感をともなってクレッシェンドしてゆく場面は、思わず指揮をして暴れたい衝動に駆られてしまうのは筆者だけではないだろう。

テンポ・プリモ、ト長調、4分の3拍子
sv0014f.jpgフォルティシモの3拍子に切り替わるテンポ・プリモの総奏の豪放さは、もはや次元を超えたものといってよく、鋼のようなリズム打ちはさらに厳しく鍛えられ一分の隙もない。

トロンボーンを「バリッ」と打ち込み、ほとんど体育会系のノリで、パンチの効いた骨張ったワルツに仕上げてしまうところには唖然とするしかない。

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ポコ・ピウ・モッソ、ト長調、4分の3拍子
sv0014h.jpgポコ・ピウ・モッソの畳みかけるように追い込む手口はいかにもこの時代の巨匠風で、「これでもか」と熱いビートを打ち込みながら怒涛の勢いで突き進むさまは、まさしく突撃隊。とどめのの2発の打撃を間断なくぶち込むところは、あまりの激烈ぶりにため息が出てしまう。

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パレー=デトロイト響の実力とマーキュリー録音の凄さを克明に刻み込んだ途轍もないディスクである。


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[ 2014/06/19 ] 音楽 スッペ | TB(-) | CM(-)