カイルベルトのモーツァルト/交響曲第38番《プラハ》

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モーツァルト/交響曲第38番ニ長調 K504「プラハ」
ヨーゼフ・カイルベルト指揮
バンベルク交響楽団
Recording: 1955.11.2,3
Level: TELDEC
Disc: WPCS12160 (2008/9)
Son: Stereo
Length: 23:32


ドイツの巨匠、ヨーゼフ・カイルベルト(1908-1968)は、1953~63年にドイツ音楽を中心とした一連の録音をテレフンケンに遺している。

sv0140b.jpgわが国ではこれまで10年おきに廉価盤が再発売されて愛好家に注目される一方で、その人気が長続きせず、いつの間にやら市場から消えてしまう地味な存在だった。

カラヤンと同年生まれで「帝王」と比較される巨匠だったが、ゴージャスな音楽で商業主義の最先端をいくカラヤンに対し、カイルベルトは無骨な芸風でドイツの歌劇場を中心に、どっしりと腰を据えて地盤を固めていった“叩き上げ”の指揮者の典型で、含蓄の深さではカイルベルトに軍配を上げる批評家も多い。
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「骨太で重厚なオーケストラは、実にモッサリしているし、カイルベルトの棒も不器用そのもの。しかし、強い腕っ節で音楽とオーケストラをぐいぐいひっぱり、多少アバウトだとしても頼りになる親方のように豪快で逞しく、そしてホットな演奏を創り上げる。カイルベルト、その風貌も音楽も、いかにもドイツのオヤジであり、マイスターだ。早逝が惜しまれる。」 『レコード芸術』通巻第698号、石原立教氏による月評より、音楽之友社、2008年)


ここで聴くモーツァルトは、まさに質実剛健。ドイツの巨匠にふさわしい男性的で力強いスタイルによって音楽が貫かれている。野太い低音弦による骨格のガッシリした土台にささえられた音楽は揺るぎがなく、拍節重視のため旋律はやや硬い表情で歌われるが、実直かつ手応えのあるものだ。

sv0140c.jpg驚くべきはバンベルク響のアンサンブルの質の高さで、戦後にチェコとの国境の町バンベルクで再結成された楽団はカイルベルトによって鍛えられ、重厚な響きを土台にしたローカル色ゆたかな味わいを醸し出している。

とくにきめの細かいフレージングの妙は見事としかいいようがなく、歌劇場で叩き上げた巨匠ならではの、鍛え抜かれた職人芸ともいうべき緻密な音楽づくりを堪能させてくれる。
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sv0140e.jpgとくに早いテンポできびきび弾むフィナーレの躍動感は比類がなく、曲のもつ性格がローカル色の強いこの楽団の特質にマッチする。

バンベルク響を「ドイツのローカルなB級オケ」と評する人もいるが、楽団に参加したメンバーの多くがプラハのオーケストラ出身で、「オラがふる里」への共感からか、《プラハ》では大いに自発性を発揮しているところも聴きどころのひとつだろう。
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「軽妙で、優雅なモーツァルトというのとは一線を画しており、線の太い音楽性をもち、活気に富んでいて、力強い。低弦のしっかりとした支えかたが目立っている。ウィーン風と言うより、ドイツ的なモーツァルトと言えるのかも知れない。おおむね、平均的か、いくぶん速めのテンポを基調として、自発的な勢いのよさに貫かれているのが注目される。」 吉井亜彦氏による月評、『レコード芸術』通巻第698号より、音楽之友社、2008年)



第1楽章 アダージョ~アレグロ ニ長調
sv0140d.jpgこれはドイツ風の幹の太いモーツァルトだ。ジュピター交響曲の冒頭の音型とよく似た、荘厳で威厳に満ちた序奏は、まるでベートーヴェンの音楽を聴いているかのよう。

7小節の晴朗な弦のテーマのオペラティックな歌いぶりに思わず耳をそば立ててしまう。ズシリと重く打ち込むティンパニと弦のぶ厚いシンコペーションも気合い充分。
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D音のシンコペーションから8分音符の連打で小気味よく走る第1主題は、実直かつ手応えのある音楽だ。インテンポで拍節をしっかり刻みつつ、弾みをつけた8分音符のスタッカート、フォルテの16分音符(副主題)を執拗にくり返しす弦の闊達な弾っぷり(55小節)は見事なもので、管楽器のファンファーレがくわわる総奏も豪快この上ない。シャッキリ弾むヴァイオリンに対峙する力強い低音弦といったら!
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sv0140f.jpg第2主題(97小節)はロココ調の柔和な曲線が、弧を織りなすように情緒豊かに描かれてゆく。優美な旋律をさりげなく歌い廻してゆくところの格調の高さは、オペラ指揮者カイルベルトの独壇場。

バンベルク響のくすみのある独特の音色と中部ドイツのコクのある響きも音楽に味わいを深めている。(提示部のリピートなし)
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展開部(143小節)はトリル、スタッカート、装飾音符によってモーツァルトの音楽が華麗に展開するところが大きな聴きどころで、第1主題のフォルテ楽句を変弦自在に絡めながらも、中低音弦をぶ厚く響かせて骨太で安定感のある音楽を創り出しているところは職人気質の巨匠ならではの感があろう。キメの細かなトレモロで追い込んでゆくところの手際のよさと感興の高まりは、歌劇場で叩き上げた練達の巨匠の本領発揮といえる。


第2楽章 アンダンテ ト長調
sv0140g.jpg何気なく歌いはじめるアンダンテの第1主題の包み込むような温かい雰囲気に心を掴まれる。スタッカートの断片的な楽想でみせるキメ細やかな弦のスピッカートと、緻密なヴィオラの刻みから安定感のある音楽が導き出されている。

ここでも、さりげない歌に絶妙の味わいをたたえているところが聴きどころで、重量感のある音楽は決してもたれない。
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sv0140h.jpg14小節の楽句で見せる微笑むような弦の表情や、19小節ではふと翳りを帯びた情景があらわれ、21小節で雲間から束の間の陽光をかいま見せるが、ふたたび翳りに覆われてしまう幽玄微妙な味わいの深さがたまらない魅力で、巨匠の懐の深い音楽感が演奏の隅々にまで浸透している。

[この交響曲には第2楽章の次に、メヌエットにあたる楽章は無い]
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第3楽章 フィナーレ、プレスト ニ長調
sv0140i.jpg身を切るようなきびきびとしたテンポで歯切れよく弾き飛ばすプレストの音楽は圧巻だ。

裏拍から出る3連音にシンコペーションをはさんだ独特の音型が、一糸乱れぬアンサンブルでひた走る。決して弾きとばしたような力瘤を感じさせず、爽やかな風のように走駆するのが印象的だ。
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第2主題(66小節)も聴き逃せない。阿吽の呼吸で木管と弦が掛け合うアンサンブルの見事さはもとより、8分音符の刻みから3連音の動きに変化するところ(120小節)の流麗闊達な弦のフレージングにも大拍手!(提示部リピート)

sv0140j.jpg豪快なフォルテの総奏で突入する展開部(152小節)は「黙ってオレについてこい!」といわんばかりに巨匠は豪傑ぶりを発揮する。

圧巻は高弦と中低弦が交互に第1主題を掛け合う場面(184小節)で、猛烈な勢いとスピートをつけてシンコペーションを弾きぬくところのスピード感はこの曲最高の見せ場といえる。
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「そこから透けて見えるのがカイルベルトのしたたかな職人性。何をどうすればという現場のノウハウがぎっちりと詰まっており、いわば百戦錬磨の叩き上げの仕事である。こうした知恵のある腕力がなんとも頼もしい。」 石原立教氏による月評、『レコード芸術』通巻第698号より、音楽之友社、2008年)


再現部の総奏(229小節)も音楽が熱い。ズシリと腹に響くティンパニの打ち込みと切れのあるアインザッツによって、指揮者も楽員も次第に熱を帯びてくるところはまるで実演のように気魄がこもっている。きひきびと弾む第1主題と歌心溢れる第2主題の巨匠の巧みな棒ざはきが深い感動を呼んでいる。

ローカルな味わいと緻密なアンサンブルを堪能させてくれる《プラハ》の隠れ名盤だ。


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[ 2019/11/30 ] 音楽 モーツァルト | TB(-) | CM(-)