カラヤン=ベルリンフィルのチャイコフスキー/交響曲第4番(66年盤)

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チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調 作品36
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording:1966.10.7,8,15 Jusus-Christus-Kirche, Berlin
Executive Producer: Otto Gerdes (DG)
Recording Producer: Hans Weber
Tonemeister: Günter Hermanns
Length: 41:37 (Stereo)


カラヤンはチャイコフスキー《第4》のレコーディングを6回行っているが(ライヴ録音と映像作品を含めると9種)、ベルリンフィルとの組み合わせによるグラモフォン盤は66年と76年の2種がある。録音の新しい76年盤が再販が繰り返れて市場に流通しているが、71年録音(EMI盤)とならんで筆者の手が伸びるのは66年盤だ。LPのカッコいいジャケット写真のカラヤンの指揮姿に憧れて、よく真似をやったものである。

NoOrch.DateLevelⅠmovⅡmovⅢmovⅣmovTotal
Philharmonia1953.7EMI19.0210:075:538:5543:57
Wien so1954.11(L)Orfeo18:109:465:338:1841:47
Berlin po1960.2EMI19:119:025:398:5242:44
Berlin po1966.10DG17:549:575:428:0441:37
Berlin po1971.9EMI18:399:585:208:1842:15
Berlin po (DVD)1973.12Unitel18:109:265:308:0941:15
Berlin po1976.12DG18:409:015:468:17*41:44
Wien po1984.9DG18:349:595:408:3042:43
Wien po (DVD)1984.9SONY18:229:155:448:2541:46


カラヤンがベルリンフィルとベルリン近郊のダーレムにあるイエス・キリスト教会でレコーディングを開始したのは1959年3月のことで、《英雄の生涯》(R.Strauss)がレコーデング第1号とされる。ここをDGの録音会場に定めたのはカラヤンの友人で、音響技師でもあった初代レコーディング・センター所長ハインリヒ・カイルホルツ。カイルホルツはコンサート・プレゼンス重視のDGのサウンド・ポリシーの祖といわれる。

sv0087h.jpgLP時代からグラモフォン盤は「音が固い」というイメージがつよい。繊細だが音像がボヤけたEMI盤や腰の軽いフィリップス盤やCBSソニー盤に比べるとDGは輪郭の定まったガッシリとした音で、強奏時のエネルギー感は抜きん出た存在だった。

音楽マニアを自認する友人たちもこぞってグラモフォン盤を支持していたが、筆者にとっては再生が難しく、安物のステレオ装置で聴くと聴き疲れするのも事実だった。このイメージはCDになっても変わりはなく、とくにアンプは少し値の張るもので聴かなければ満足する音は得られなかった。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [DG_474 284-2]

sv0087k.jpgカラヤンのDG録音を手掛けたのが“カラヤンの耳”にたとえられるギュンター・ヘルマンスで、60年代から30年間に200点を超えるレコードを世に送り出した名エンジニア(トーン・マイスター)。その特徴は音楽の骨格をバランスよくしっかりと捉えることにあった。

このチャイコフスキーも後年の録音のような解像度や繊細さには欠けるものの、左右のスピーカーに音を凝縮したようなエネルギー感のある録音で、まだ磨きがかかる以前の、この時代のベルリンフィルらしい重厚で張りのあるサウンドを克明に刻んでいる。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [UCCG-90694]

「ヘルマンスの録音は、ひと言で書けば正攻法で、個々の楽器のソロが鮮やかに浮き上がるというよりも、全体の重厚な“響きのブレンドの旨み”を聴かせるタイプである。オーケストラの大人数の合奏の迫力を、サウンドの密度で描き出す。だから再生装置のクオリティが高くなり、調整の腕前が上がるにしたがって、どんどん妙味が増してくる。まさに玄人好みのエンジニアだ。ただメロディを次々と追いかけているにとどまっている聴き手には、ヘルマンスの凄さはわからないかもしれない。」 特集「音の魔術師」より楢大樹氏による~『レコード芸術』通巻671号、音楽之友社、2006年)


sv0087i.jpgあいにくと、この66年盤は録音が古くなったこともあり、LPはMG2029、MG4009、CDは20MG-0379(1982)、POCG-2097(1990)、POCG-5042(1996)、UCCG-5231(2012)と再販が少ない。

要注意がUCCG-5231で、第1楽章の演奏時間(17:36)が20秒ほど短くなっており、第1楽章コーダ(381小節"Molt piu mosso")の反復がカットされているという。同じ音源のLPや輸入盤では反復を行っているので編集したと思われ、カットのないEU盤(474 284-2)を入手するのが賢明だろう。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [UCCG-5231]

「60年代の録音は真実味、迫真性、フルトヴェングラー時代の名残を感じさせるドイツの重厚さがプラスに働いた名演奏。《第4》は、冒頭の金管こそタイトな響きだが、徐々に熱を帯びてきて、第1楽章の展開部以降の迫力が凄まじい。第2楽章の哀切も見事で、後には失われた木管群の陰影が演奏をより深いものにしている。フィナーレはベルリン・フィルの重戦車のような底力を見せつける。もっとも硬派で男性的な迫力に満ちた録音と言うことができよう。」 福島章恭著『交響曲CD絶対の名盤』より、毎日新聞社、2005年)




第1楽章 アンダンテ・ソステヌート
sv0087e.jpg“運命ファンファーレ”のストレートな強奏が耳に突き刺さり、メリハリ感のあるDGサウンドが音場を支配する。

絶妙のアウフタクトで入る第1主題〈苦悩に満ちた現実〉(27小節)からしてカラヤンの術中にはまってしまう。テンポを上げたスピート感はもとより、ゴリゴリとした音量ゆたかな低音弦、果肉の詰まった濃密な木管、力強いホルンの咆哮、筆圧の強いトウッティの響きなど、ベルリンフィルの底力とカラヤンの迷いのない棒さばきが印象的である。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [OPK-7030]

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sv0087f.jpg幻想的な第2主題(モデラート・アッサイ)は優美な中にもメランコリックな表情を絶やさない。ぬめるようなワルツのフレージングもカラヤンの面目が躍如している。聴きどころはガッチリと立ち上がる〈幸福の絶頂〉(161小節)。

推移主題をなみなみと吹奏するホルンのパンチ力は何度聴いてもこの盤が最高で、グラモフォンらしいエッジの効いた音場の見事さにゾクゾクしてしまう。警告のように鳴り響く“運命ファンファーレ”(193小節)の切れのあるサウンドも絶品で、辛口のトランペットや肉感のあるホルンの吹奏はヘルマンスの“音のご馳走”といえる。
TOWER RECORDS  HMVicon [MR2258]
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sv0087g.jpgオスティナートで低回する息の長い弦のフレージング(237小節~)も特徴的だが、勢いが後退した76年盤に比べると、この66年盤は表現が直截的で推進力があり、運命主題の再現に向かって一気呵成に登り詰めるドラマティックな音楽運びが感動的である。

“運命ファンファーレ”を連呼するトランペットの切れの鋭い金属音も耳に刺激的で(3回目の11:50でトランペットのミスがある)、コーダの手前で爆風のごとく吹き荒れるファンファーレの凄まじさに腰を抜かしてしまう。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [WPCS-12813]

行進曲風のコーダ(381小節)はレガートをかけてフレーズを均しながら、巧妙に頂点に登り詰めるところの緊迫感は無類のもので、カラヤンは決めどころのクライマックスでストレートに突進する。ここはひと呼吸パウゼを入れて見得をきるやり方もあり、カラヤンも初期録音と晩年のウィーンフィル盤では音を切っている。

しかし、当盤では音を切らずに402小節の2拍目にアクセントをいれて一気に突っ切っるあたりは、なるほど、絶頂を極めた当時のカラヤンらしい生気の迸りが感じられるではないか。



第2楽章 アンダンティーノ・イン・モード・ディ・カンツォーナ
sv0087d.jpgやるせない悲哀感を訥々と紡ぐローター・コッホのオーボエの素晴らしさに思わずため息が出てしまうが、独奏の見事さではイヴリン・ロスウェル(バルビローリ盤)に肩を並べるものといえる。

ここでは陰影を付けた彫りの深い表現が聴きモノで、後年の録音に見られる「とろり」とオーケストラを盛り付けた人工甘味料的なものはなく、ニュアンス豊かにたゆたうフレージングの妙味を心ゆくまで堪能させてくれる。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [WPCS-12813]

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中間部の農民舞曲はベルリンフィルの重厚なサウンドの独壇場で、「ここぞ」とばかりにユニゾンで歌う高揚感と磨き抜かれた高性能の弦の威力に驚嘆してしまう。テンポ・プリモの主題再現も間然とするところがなく、とろけるような木管の味わい深さは格別である。チェロやファゴットの哀愁のモノローグは涙モノ。



第3楽章 スケルツォ ピッツィカート・オスティナート
sv0087j.jpg「びょんびょん」とバネを効かせたピッツィカートの躍動感は抜群で、まるでスプリングの上で飛び跳ねているような錯覚すら抱かせるところは“リズムの祭典”といえる。

整然と足並み揃えて行進する中間部の〈軍隊行進曲〉木管のすごい名人芸もさることながら、オスティナート・リズムに中間主題を掛け合わせた主題再現で、バルトーク・ピッツィカートのように指板に弦をぶつける迫力ある展開は外連味たっぷりで、カラヤンの面目が躍如している。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [UCBG9175 ]



第4楽章 フィナーレ アレグロ・コン・フォーコ
sv0087l.jpg金管のすさまじい迫力を堪能させてくれるのがフィナーレ〈民衆の祭り〉の音楽だ。ここでは第2主題〈白樺は野に立てり〉を速いテンポで駆け走るのが特徴で、9種ある演奏の中では両端の楽章が当盤が最速である。

乱舞のような第3主題〈民衆の主題〉(38小節)のゴージャスな響きもこの盤の大きな魅力で、はったりをきかすような迫力のあるサウンドはヘルマンス好みのエネルギー感のあるものだ。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [UCCG-50027]

良いエコー・マシンがなかった録音当時、ヘルマンスはイエス・キリスト教会の響きを改善するために、鐘楼の階段にスピーカーを置いて残響成分がよりゆたかになるように工夫を凝らしたという。

sv0087m.jpg大きな聴きどころは〈白樺主題〉の強奏展開(60小節)。テューバが「バリバリ」と吹奏し、シンバルが「チョイン・チョイン」と掛け合うすさまじい音に筆者はかつて仰天した記憶がある。

〈白樺主題〉を金管がカノン風に強奏反復しながらクライマックスで〈運命ファンファーレ〉(199小節)を炸裂させる決めどころの音場も素晴らしく、和音打撃の衝撃感をとってみても、グラモフォンならではの“音のリアリティ”を体感させてくれる。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon

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快適なテンポで走り出すコーダはベルリンフィルのパワー全開だ。「1960年代のカラヤンはオーケストラ・プレイヤーの名技性に寄りかかった綱渡りのようなスリルに充ちた演奏に傾倒していた」(柴田南雄)というが、“超一流のニセモノは本物をも凌ぐ”といわんばかりにベルリンフィルの鋼のようなサウンドが炸裂!

〈白樺ファンファーレ〉を連呼する金属的な響きと強いアクセントを伴った威圧感のある音塊が疾風怒濤のように押し寄せてくるところは、ドイツの重戦車がロシアを制圧するさまを連想させる。カラヤン絶頂期の演奏を迫力あるサウンドで今に伝える必携の一枚だ。


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[ 2019/12/30 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)