フルトヴェングラーのベートーヴェン/交響曲第7番(1954年VPO盤)

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ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調 作品92
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1954.8.30 Salzburg, Festspielhaus
Archive: Österreichischen Rundfunks
Reocording Supervison: Gottfried Kraus
Length: 39:05 (Mono Live) /Olsen No: 424
Disc: SevenSeas K22C-137 (1981/10)


フルトヴェングラーのベートーヴェン第7番と言えば、ベルリンフィルの実況録音盤(1943年)ウィーンフィルのスタジオ録音盤(1950年)が双璧とされたが、当ザルツブルク盤は、1981年に巨匠5種目のベト7として発掘され、セブンシーズ・レーベル(伊ラウディス原盤)からリリースされた実況録音。

フルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲第7番には、次の5種の演奏と第2楽章のリハーサルがラインナップされている。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
BPO1943.10.30/31,11/3Berlin,Philharmoniesaal, RRGMelodiyaO_089
SPO1948.11.13Stockholm, Konserthuset,SRDiscpcorpO_142
VPO1950.1.18,19Wien, MusikfereinsaalHMV(EMI)O_188
LFO1948.11.13Luzern, Kunsthaus(2mov.Rehearsal)WF Society(F)O_256.4
BPO1953.4.14Berlin, Titania-Palast,SFBWF Society(G)O_333
VPO1954.8.30Salzburg, Festspielhaus,ÖRFSeven SeasO_424

巨匠のベト7は、すでに①ベルリン盤と③ウィーンのスタジオ盤が決定盤として知られていたが、②はアセテート盤で音質が悪く、④はライヴ録音にしては気魄や熱気の点で感銘度の低い期待外れの演奏だった。最後に登場したのが晩年のザルツブルク盤で、録音の良さと③の再現に期待が高まったが、評判はあまり芳しいものではなかった。

「新しいものにしてはたいそう劣悪な音どりで、もともとレコードになるべき記録とはいえない。音はあちこちでひっかかるし、壁土のかたまりのようなひびきだから音楽といっても一般の通念には当てはまらない。鰯の頭も信心からの心境が必要である。演奏もあまり感服するものが多くはなかった。ザルツブルクでのウィーン・フィルは夏休み気分のことが多く、うまくゆくときは結構な仕上りになるが、ここでもまたずいぶん合奏が乱れ、積極的にその方向に向く姿勢というのを欠いている気分がある。第2楽章だけが例外である。」 大木正興氏による月評より、K22C-137、『レコード芸術』通巻第373号、音楽之友社、1981年)


NoOrch.DateLevelSourceⅠmovⅡmovⅢmovⅣmov=Total
BPO1943.10.30,31,11.3DGF20G-2908812:459:498:246:3637:34
SPO1948.11.13WSOZ-7587-BS13:1110:088:237:1939:01
VPO1950.1.18,19EMITOCE-1404412:5810:178:426:5138:48
BPO1953.4.14DG415-662-213:1710:418:357:1639:49
VPO1954.8.30OrfeoC293 921 B13:359:338:217:3639:05

sv0142b.jpgこのザルツブルク盤は、巨匠の最後から2番目のコンサートにあたり、当日のプログラムはベートーヴェン交響曲第8番、大フーガ、交響曲第7番。

第8番(O_422)の方は、伊チェトラ盤やワルター協会盤で早くから耳にしていたが、第7番については国内LPがセヴンシーズ盤にとどまったために、筆者は耳にする機会がなかった。

CD時代になって、ようやく同じ日の第7番と第8番を組み合わせた音盤が入手できるようになったのは嬉しかったが、音質が期待したほどではなく、落胆の方が大きかった。第8番は音のよい復刻盤が出ているのに対し、第7番にはイチ押しの音盤が見当たらず、筆者はいまだその不満を解消しきれていない。

LevelMediaDisc no.IssueRemark
SevenSeasLPK22C-1371981/10 伊ラウディス原盤
SuiteCDCDS1-60071987伊Laudis
Seven SeasCDKICC-22961993/7伊マイサウンド原盤
Seven SeasCDKICC-12662016/6キングレコード原盤
OrfeoCDIDC70081993/7国内盤仕様
独OrfeoCDC293 921 B2001/12
独ARCHIPELCDARPCD-02142004/35CD ベートーヴェン交響曲全集
DeltaCDDCCA-00332007/3テープ音源
伊MemoriesCDMR-2085~92008/115CD ベートーヴェン交響曲全集

sv0142c.jpg筆者が最初に入手したCDは伊ラウディス盤(Suite CDS1-6007)だったが、音がボヤけて期待外れだった。“既出のCDよりも生々しい音で迫る入魂のリマスタリング”と帯に書かれた伊メモリーズ盤(MR-2085/9)は、逆に高音がどぎつく、キンキンして聴くのが辛い。

テープ音源のデルタ盤(DCCA-0033)はどっしりと迫力があるが響きが曇り、終楽章冒頭のフェードインが気になる。

セブンシーズ盤(KICC-1266)は音に厚みはあるが冷凍漬けのようなリマスターに馴染めない。因って、筆者は最も音質がクリアなオルフェオ盤(C293921B)を採るが、出力レベルが低く音の力が弱いため、さらに音質が改善された復刻盤の登場を望みたい。

「フルトヴェングラーとウィーン・フィルとの最後の演奏会の記録で、史料的な価値も大きい。第7は造形がきわめて立派でスケール感も巨大。第2楽章の深いコクとスケルツォの圧倒的な力強さ、フィナーレの興奮は感動的。第1楽章だけはやや大味で、巨匠らしい内面的な燃焼度が低いのが惜しまれる。」 松沢憲氏による月評より、DCCA-O033、『レコード芸術』通巻第681号、音楽之友社、2007年)



第1楽章 ポコ・ソステヌート-ヴィヴァーチェ
sv0142d.jpg溜めを入れた開始のアタックはパンチ力はあるが音に丸みがあり、落ち着きのある序奏進行だ。木管の美しいイントネーションや、どっぷりと弾く生々しい低音弦など、ウィーンフィル特有のもってりとした響きが聴いて取れる。

主部は①③にみられる強圧的なオーケストラ・ドライヴは影を潜め、余韻たっぷりと引き延ばすフェルマータ、弾力感のある主題提示、艶をしっとりのせて弾き上げる第2主題など、力を抜いた安定感のあるレージングが印象的だ。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [KICC1266]

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sv0142e.jpg闘争の頂点たる展開部のクライマックス(254小節)はフルベンの代名詞といえるトランペットの強奏でシンフォニックに盛り上がるが、巨匠はやみくもに力瘤を入れず、自然体でゼクエンツの強奏をさばいているのが特徴だ。

再現部の息の長いフェルマータ(300小節)やオーボエの導入句の味わい深さにも惹かれるが、まったりとしたホルンが要所で「ぷかぷか」と浮かびあがるところは、ウィーンフィルらしい音の旨味があろう。
TOWER RECORDS  amazon [C293921B]

歯切れよく打ち込むトランペットのリズムや、野太いホルンがオーケストラの中から割って吼えるコーダのスケール感も絶大! 「もう少し気魄と推進力があれば・・・」と思わないでもないが、岩山のごとくガッシリとした造形は微動だにせず、巨匠晩年のゆとりと風格をあますところなく伝えている。


第2楽章 「不滅のアレグレット」
sv0142f.jpg開始の木管の和音が不揃いなのが気になるが、メロディー・オスティナートの第1変奏は、チェロとヴィオラの対旋律が織り重なる弦楽サウンドの密度の濃い歌が心地よい。

聴きどころは第2変奏で、ウィーンフィルの弦が艶を乗せて「ここぞ」とばかりに歌い出す。重厚な響きでドラマチックに高揚する第3変奏(総奏)の悲痛さはいかばかりだろう。
TOWER RECORDS  amazon [ARPCD0214]
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大きくリダルダンドして入る中間部は、ウィーンフィルの木管の馥郁たる香りに酔わせてくれるが、巨匠はいつになくテンポを速めにとって訥々と歩を進めてゆく。緊迫感のある弦楽フガートから強烈なフォルティシモで立ち上がる悲劇のクライマックス(214小節)もすこぶる感動的で、慟哭の音楽が聴き手の心に惻惻と迫ってくる。


第3楽章 プレスト
sv0028o.jpgプレストはタイム上は43年盤を上回る速さだが、オーボエのテーマが走らないのでリズムが重たく感じられる。トリオのスロー・テンポは巨匠の常套手段だが、当盤ではオーケストラの牧歌風のまろやかな響きに耳をそば立てたい。

既出盤と同様に、トリオの総奏で爆発するオーケストラの重量級の響きは冠絶しており、イ音で炸裂するトランペットや音を割ったホルンの野太い吹奏も特筆される。
TOWER RECORDS  amazon  HMVicon [DCCA-0033]
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ティンパニのすさまじい強打(556小節)やスケルツォの三現でオーボエが走り出すところもフルベンの面目が躍如しており、どっしりと押し込むように決める終止の打撃が聴き手にインパクトを与えている。


第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ 「舞踏の聖化」
sv0065d.jpg開始音が途中から始まったり、フェードインして聴こえる音盤があるが、リズムの締まりが緩く、〈喜悦のテーマ〉(25小節)からリズミックな第2主題部へ至るテンポの変転が、平坦でのっぺりしているところに問題がないか? 

それでもティンパニの連打で荒れ狂うコデッタ(104小節)の熱狂や、低音弦を豪快に打ち返す主題展開の力感、展開部の強く踏み締めるようなリズムさばきは、まぎれもなくフルベンのものといえる。
TOWER RECORDS  HMVicon [MR2085/89]

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「ザルツブルク盤はリズムがいささか鈍く、最終楽章は歩みがおぼつかず、重苦しいとさえ感じるほどだ。」 ジョン・アードイン著『フルトヴェングラー・グレート・レコーディングス』より、藤井留美訳、音楽之友社、2000年)


「もっとも問題があるのは終楽章で、ひびきの重量感はあるものの、前半の壮大な表現を締めくくるには、さらに白熱する必要があったと思う。音楽が落ち着きはらっているのはよいが、そこにいささか衰えが感じられるのは、どうしたことか。アゴーギクもいくぶんとって付けたような印象がある。もちろん、それでも凡百の演奏とは比較にならない音楽であるが、フルトヴェングラーとしては、後半の2つの楽章にやはり不満を感じてしまうのである。録音は最強音の伸びがないが、この種のものとしては非常に明快である。 小石忠男氏による月評、K22C-137、『レコード芸術』通巻第373号、音楽之友社、1981年)


「最晩年の棒なのでテンポは遅めであり、そのぶんオーケストラが絶えず部厚く、立派に鳴り、特にホルンの隈取りが効いている。フイナーレは1953年盤よりもさらにテンポが遅く、加速で盛り上げるよりも、ひびきの充実感を失わないように努力している。死の直前の巨匠の記録として、53年盤よりもずっと価値が高いと思う。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの全名演名盤』より、KICC-2296、講談社、1998年)


決めどころの再現部の終止も既出盤にみられる気魄は感じられず、どこか乗りきれないままコーダへ突入してしまった感じだ。怒濤ようなアッチェレランドはここでは封印し、トランペットを突出させたり、ホルンのねばっこい音をなみなみと吹き上げて、手堅いテンポと分厚いサウンドで全曲をがっちりと締めている(デルタ盤は拍手付き)。

最晩年のフルベンの舞台姿を伝える貴重な一枚だ。

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[ 2020/01/30 ] 音楽 ベートーヴェン | TB(-) | CM(-)