ピエール・デルヴォーのメンデルスゾーン/交響曲第4番《イタリア》

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メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調 作品90「イタリア」
ピエール・デルヴォー指揮
ハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1960 ages (DENON)
Ariola-Eurodisc GbmH, Munich
Disc: COCQ-84626 (2009/6)
Length: 26:40 (Stereo)
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このディスクは、コロムビアのオイロディスク・ヴィンテージコレクション(第5回)の1枚として復刻されたもので、LP(OC7054)の発売から33年ぶりに日の目を見た懐かしい録音だ。

このメンデルスゾーンは、オイロディスクの前身であるオペラ・レーベルに1960年代初頭に収録されたものとされるが、オペラ=コミックやパリ・オペラ座の指揮者として活躍したフランスの名匠ピエール・デルヴォー (1917-1992)が、北ドイツの歌劇場オーケストラを使ってメンデルスゾーンの名曲を味わい深く描いている。

ここでは温厚な紳士デルヴォーが、南国の太陽がギラギラ照りつけるような快活さやオーケストラの名人芸には背を向けて、とくに両端楽章ではゆったりとしたテンポと落ち着きのあるフレージグによって、これまで聴き流していたメロディーや音の風景にあらためて耳を傾けさせてくれる新鮮な味わいがある。

ConductorOrch.LevelSourceTotal
ToscaniniNBC so.RCABVCC380277:335:476:255:4925:34
SzellClevelandSONNYSRCR25457:165:207:055:2125:02
SoltiIsrael po.DECCAUCCD37827:016:196:255:2825:13
DervauxHamburg po.EurodiscCOCQ846268:046:325:416:2326:40

オン・マイクで収録した木管楽器の翳りを帯びたオブリガートが主旋律を彩ってゆくのも聴きもので、さりげなく歌い回しながら背後に隠れたモチーフを明瞭に浮かび上がらせる透明度の高い演奏を実現している。何よりもフランス人シェフが北ドイツの歌劇場オーケストラを自在に操り、ロマンやファンタジーを細やかに織り込んでいるがこの盤の最大の魅力といえる。

「1992年に75歳で没したフランスの名指揮者ピエール・デルヴォー指揮によるメンデルスゾーンは、この指揮者の穏やかな人格を物語るように《イタリア》では両端楽章がゆったりとしたテンポで進められる。フランス人指揮者らしくオーケストラの各セクションの音色を最大に引き出すような工夫を随所で施している。また第2楽章の弦の旋律の豊かな抑揚感は、このオーケストラが本来所属しているのがハンブルク国立歌劇場であることを意識させる直截で朗々たるカンタービレを聴かせている。」 草野次郎氏による月評より、COCQ84626、『レコード芸術』通巻第707号、音楽之友社、2009年)



第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
sv0148b.jpg弦楽アンサンブルが、晴朗な主題を量感たっぷりと歌い出すのが心地よく、落ち着きのあるテンポと深みのあるのフレージングによって、しっとりとした感触を紡ぎ出すあたりは、なるほどドイツのオーケストラだ。

野太いホルンの呼びかけや、コクのあるクラリネットがオン・マイクで明瞭に浮かび上がるのにも驚かされるが、その甘口のトーンがたまらない魅力なのだ。
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主題再現に向かって駆けあがる決めどころ(41小節)も闇雲に高ぶらず、トランペットの打ち込みも過激にならない。管のアクセントは控えめに、経過のスタッカート主題のキメ細やかさや、第2ヴァイオリンとヴィオラが柔らかく第2主題を導き出す絶妙のフレージングも心憎く、オペラ劇場で場数を踏んできた指揮者ならではの味わいがあろう。

大きな聴きどころは、クラリネットとファゴットがホ長調で歌う歌謡的な第2主題(110小節)。とろけるような甘い音色で逍遙する歌い口はロマンの香りがしっとりと漂ってくる。これを歌い継ぐオーボエ、フルートも暈かしのきいたパステル画のようで、クレッシェンドによる高揚(136小節)や主題再現の総奏も荒技を仕掛けることなく、デルヴォーは自然体で歩を進めてゆく(提示部リピートなし)。
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展開部はスタッカートの第3主題で緻密なフガートを繰り広げる。ここでは“こまねずみ”のような小細工は封印し、聴き手にゆったりとした“くろつぎ感”を与えているのがデルヴォーの巧いところだ。管楽器が第1主題の対位をたっぷりと朗唱し、その頂点で「ここぞ」とばかりに舞曲調の第3主題の総奏(274小節)を鮮やかに打ち込むところはラテン的な開放感に溢んばかり。
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コーダは第2ヴァイオリンで弾き出される新たな主題(490小節)をもとに、感興ゆたかに高揚。力瘤を廃したみずみずしいフレージングによって、木管と弦がかけ合いながら大らかに歌うところがいかにもオペラ的で、“ゆったり楽派”ならではの味わいのある終止といえる。


第2楽章 アンダンテ・コン・モート(巡礼の行進)
sv0148c.jpg無言歌〈巡礼の行進〉は、フランス人指揮者が哀愁と祈りを込めてしっとりと歌いあげる。第2句(20小節)では弦楽器が色艶をたっぷりのせて、しなやかさの中にとめどもない憂いを秘めたカンタービレで聴き手を魅了する。

経過句のスタッカートで刻む行進リズム(35小節)もサクサクと心地よく、厳粛な刻みの一音一音から千変万化のニュアンスが迸るあたりはオペラ指揮者デルヴォーの独壇場!
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中間部はクラリネットがイ長調で奏でる第2主題がたまらない。肉感のあるまろやかな音で歌い出される歌謡風のメロディーは、翳りを帯びた密度の濃い“オイロディスク・サウンドにぐっと心を掴まれてしまう。主題再現の後ろ髪を引かれるような寂寥感も抜群で、弦の刻みから作曲者が宗教儀式からインスピレーションを得たという敬虔な気分が幽(かそ)けく心に響いているではないか。


第3楽章 コン・モート・モデラート
sv0148d.jpgデルヴォーは、スケルツォ風のドイツ民舞を流れるような弦のフレージングで“優美なメヌエットとしてエレガントに歌い上げる。

転調した後半は哀調を帯びながらもヴァイオリンは滴るような光沢を放ち、木管がカノン風にたっぷりと歌い継ぐところが聴きとごろ。
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トリオは、朝顔(ベル)の中にマイクを突っ込んで録ったようなデッカのあざとい音に比べると、「ほっこり」と響くローカルなホルン信号が微笑ましく、まさしく“ドイツの森”。重みのある総奏で弾むパラフレーズの楽段も重厚なジャーマン・サウンドを轟かせ、フルートのトリルやホルン信号のクレッシェンドなど、聴かせどころ満載である。


第4楽章 サルタレッロ、プレスト
sv0148e.jpgゆるやかなサルタレッロ・リズムから繰り出す〈タランテラ主題〉のユルフン的な音楽運びに仰天する。

デルヴォーは、天下御免の向こう傷で突っ走るヴィルトゥオジティとは一線を画し、お洒落なえんじ色のタキシードを羽ばたかせ、周りの風景に目を配りながら洒落っ気たっぷりに歩むさまがフランス人指揮者らしい。
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決めどころの金管のファンファーレ(85小節)は、突撃ラッパのように過度に燃え上がることもないが、タランテラのリズムを遮る中間部の破調(122小節)で巨匠は奥の手を見せている。弱音で開始するゆるやかな音型を気持ちのよいリズムで支えつつ、突如、管が音量を増してサルタレッロ・リズムを刻みだす場面(156小節)が最大のクライマックス!

タランテラ主題の総奏(179小節)をシャッキリと捌いて躍動する音楽は感興に満ち溢れ、金管のリズムを加えてフランス音楽のようなカラフルな色彩感を織りなすところは指揮者デルヴォーの面目が躍如している。

2度目の破調をフーガ風に立ち上がるタランテラ舞曲の総奏(210小節)は、ティンパニのトレモロをサルタレッロのリズムで叩かせているのは打楽器奏者(パドゥルー管弦楽団)だったデルヴォーらしい。

「“楽譜に忠実”という定評があったトスカニーニであるが、214小節から、楽譜の指定ではトレモロになっているティンパニを、低弦のサルタレロのリズムに合わせて改編して、電撃的な効果を挙げている。この改編は、セルの新旧両盤をはじめ、デルヴォー指揮ハンブルク国立フイル盤[オイロディスク]やフェドセーエフ[カーリヒ]なども採用している。」 満津岡信育氏による「究極のオーケストラ超名曲徹底解剖6」より、『レコード芸術』通巻第708号、音楽之友社、2009年)


リズムを生き生きとさばくコーダの足どりもすこぶる快適で、はじめは物足りなく感じていた舞曲が吹っ切れたように歯切れ良さと力感を増し、気がつけばラテン的な熱狂の渦の中へ聴き手を巧みに引き込む“デルヴォーの術”に快哉を叫びたくなる。地味な存在ながら、情感ゆたかに描き上げた知る人ぞ知るユニークな一枚だ。


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[ 2020/07/30 ] 音楽 メンデルスゾーン | TB(-) | CM(-)