レヴァイン=シカゴ響のホルスト《惑星》

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ホルスト/組曲「惑星」作品32
ジェイムズ・レヴァイン指揮 シカゴ交響楽団&合唱団
Recording: 1989.6 Orchestra Hall, Chicago (DG)
Executive Producer: Dr. Steven Paul
Director: Christopher Alder
Balance Engineer: Gregor Zielinsky
Length: 49:10 (Digital)
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ジェイムズ・レヴァインが、シカゴ交響楽団を指揮した《惑星》は、楽団にとって百年の歴史の中で初レコーディング・レパートリーとなった記念碑的な録音だ。待望のシカゴ響による《惑星》を手掛けたのは、“音の魔術師”グレゴール・ツィーリンスキー。打楽器を学んだ経験を生かしたダイミックな音づくりには定評があり、大胆さと細心さを両立させた名録音は、その後のDGサウンドにあたえた影響が少なくないという。

ここで聴くレヴァイン盤は、英国風のノーブルで品格を重んずる演奏とは一線を画し、シカゴ響のダイナミックなサウンドを武器に鳴らすべきところはしっかりと鳴らし、なおかつ宇宙の神秘を壮大かつ緻密に織り上げたスケール感溢れる演奏だ。とくに〈木星〉の民謡主題のツボを押さえた雄大な歌わせぶりはオペラ指揮者レヴァイの真骨頂で、決めどころで爆音を轟かせるシカゴ響のスペクタクル・サウンドを心ゆくまで堪能させてくれる。

「〈火星〉や〈木星〉など、醍醐味はブラス・セクションにあり、とでも言わんばかりに派手な鳴らし方をする。しかしそれが誇大な表現に聴こえてこないのは、曲が本来持つ“容量”や特質にかなっているからだろう。まことに壮大な宇宙を想起させる演奏である。このブラスに見劣りしない弦も強靱で、〈土星〉の勇壮で深遠な低弦や〈木星〉の中間部の旋律の豊潤な歌いまわしなど各所に妙技ぶりが聴かれる。各曲のキャラクターが鮮烈に描き出された演奏である。」 斎藤弘美氏による月評より、UCCG3573、『レコード芸術』通巻第639号、音楽之友社、2003年)



火星「戦争をもたらす者」、アレグロ
sv0017f.jpg弦のコル・レーニョ、木のバチで叩くティンパニ、ゴングのトレモロにのった爆発的な総奏はすさまじく、レヴァインは開始からオーケストラを全開させてその威力をまざまざと見せつける。〈神の激怒〉をあらわす第2主題を剛毅なブラスが胸底に響くように打ち込み、分厚い弦がぐいぐいとメロディー・ラインを駆け上るところは、爆撃機が大編隊を組んで怒涛のごとく押し寄せるのような、威圧感にみちたサウンドが眼の前に展開する。

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テューバの勇壮なイヴォケーション(第3主題)と伝家の宝刀を抜くようなトランペットの決戦を喚起するファンファーレの緊迫感や、大蛇がのたうつような〈死の舞踏〉(96小節)のえぐ味も無類のもので、力をたくわえて大総奏へとアタックをかけて乱入するところは音楽が攻撃的だ。主要音型が全管弦楽の打ち砕かんばかりのユニゾンで爆発する総奏(110小節)は、パンチの効いたシカゴ・サウンドが「ここぞ」とぱかりに炸裂する。

トロンボーンの重い響きの中から、トランペットが第3主題を鮮やかに打ちぬき、ホルン編隊が第2主題を肉付きのある音で朗々と響かせてくるあたりは、「さあて、オレたちの出番だぜ」と言わんばかりに役者をそろえたこの楽団が、その持ち味を存分に発揮する。

怒涛のごとく押し寄せるフィナーレの爆発的な和音打撃は「これでも喰らえ!」と、レヴァイン司令官は各編隊長に的確な指令を出し、「ドカン」と爆撃して一気に戦闘にケリをつけてしまう。過剰ともいえる演出効果によって、音響的な悦楽が極限まで拡大された空前絶後のパフォーマンスといえる。


金星「平和をもたらす者」、アダージョ
sv0017b.jpg聴きどころは、のどかな民謡風の第2主題。甘い独奏ヴァイオリンが密やかに紡ぐ静謐なカンティレーナは、味はうすいがウェットな詩情が清流のごとく流れ、どこかテキサスの牧場の夜明けをしみじみと感じさせてくれるのがレヴァインらしい。弦のポルタメントやチェレスタの清らかなアルペジオのさざ波が、宝石のように繊細に浮かび上がってくる音場も見事というほかはない。

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水星「翼のある使者」、ヴィヴァーチェ
剽軽奇抜な音楽は、速いテンポ颯爽と駆け走る。聴き手がユーモアなぞ感じる間もなくスピーディに過ぎ去ってしまう第1主題、息つく間もなくりサラサラと流れるオスティナート主題など精密で、風をきって飛ぶような爽やかな手口は徹底しており、レヴァインは重装備の楽団から薄味の軽みを巧みに引き出している。


木星「快楽をもたらす者」、アレグロ・ジョコーソ
sv0017d.jpg〈快楽の音楽〉はパンチの効いたシカゴ・ブラスの醍醐味を堪能させてくれる。ホルン軍団が朗々と歌う〈喜びの主題〉(第1主題)と行進曲風の第2主題(65小節)の豊饒な響きは大きなご馳走で、リズミカルに捌く3拍子の民族舞曲(第3主題)も感興に溢れんばかり。ここ一番で決めるトランペットの合いの手も余裕綽々のパフォーマンスが心憎い。

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大きな聴きどころは中間部の第4主題〈わが祖国に誓って〉。変ホ長調の名旋律をシカゴ響の肉付きのよいサウンドを思う存分に操って、たっぷりと歌い回すあたりはオペラ指揮者レヴァインの独壇場。その雄大な音楽は、あたかもテキサスの大地か、コロラドの大平原に想いを寄せるがごとく、アメリカ生まれの指揮者がべんべんと能天気に歌い上げるところがすこぶるユニークだ。ヴィブラートをかけたトランペットが加わると、グランド・キャニオンに夕陽が沈む情景が目の前にあらわれて、哀愁すら漂ってくるではないか。

sv0017e.jpg再現部は、トランペットのきっぱりとした打ち込みを皮切りに、いよいよシカゴ・ブラスの面々が顔を赤らめ、本腰をいれて吠え掛かってくる。ドスを効かせたバス・テューバが呻りをあげ、トランペットが見得を切るように放歌高吟する第4主題の再現は千両役者の登場に他ならない。

大きく絶叫して「ズドン」と“とどめの一撃”を決める筋肉質の和音打撃の凄まじさといったら! “ここ一番の決めどころ”でしっかりツボを押さえてくれる“快楽の音楽”は“快感”以外の何ものでもない。  amazon

「これが最高の《惑星》だなんて、口が裂けても申しません。しかし金管セクションの大技小技を純粋に楽しみたいときに、このCDの〈木星〉をかけることが個人的にはすごく多い。5分3秒~5分9秒にかけての爆裂的な鳴りっぷりは、ストレス解消にもってこい。」 木幡一誠著 『200CDオーケストラの秘密・改訂新版』より、学研パブリッシング、2010年)



土星「老いをもたらす者」、アダージオ
sv0017c2.jpg聴きどころはトロンボーンとテューバの奏でるポコ・アニマートの荘重な第2主題(28小節)。老境にはいった賢者の行進はゆったりとした歩調だが、歌謡性を重視して沈鬱な気分に陥らないのがレヴァインらしい。

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途轍もない和音の豪打がぶち込まれる中間部も元気いっぱい。ブラスがつんざく頂点は、シカゴ響の並はずれたパワーがダイナミックに炸裂。メタリックな鐘の音やザラリとした低音弦の感触はもとより、ハープと木管の装飾和音など、顕微鏡で覗き込んだような微細な音の宝石が音盤に散りばめられている。


天王星「魔術師」、アレグロ
sv0017g.jpg「ドカスカ」と鼓面を叩き込む打楽器のすさまじい音場に度肝を抜かされるが、これは打楽器のことを知悉した魔術師ツィーリンスキー(エンジニア)が腕によりを掛けて録ったもので、「くくく」とほくそ笑んでいる姿が目に浮かんでくる。レヴァインは楽器をめいっぱい鳴り響かせ、リズムの躍動感によって名人オーケストラを愉しげに引き回す。

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聴きどころは快活な行進曲となる第3部(129小節)。名物奏者の超絶的なバチ捌きから繰り出されるティンパニの骨力あるリズムにのって、ひたすら前へ前と進む音楽はきわめて健康的だ。魔術的な打楽器と金管群が豪快に交錯する音のドラマはまるで西部劇のようで、ティンパニのスカッと打ち込む4連打は、凄腕のマカロニ・ウエスタンが2丁拳銃で悪役をバッタバッタとなぎ倒すシーンを連想させ、痛快この上なし!

ア・テンポの大総奏(193小節)は、レヴァインがお祭り騒ぎの喧騒さで一気呵成に畳み込む。ブラス・セクションの面々は「やったるぜ」「ビビるんじゃねえぞ」とヤル気満々。オルガンの大グリッサンドのオマケのついた途方もない一撃は、オーケストラホールの大空間の共鳴が肉体で感じられるほどの開放感に満たされている。オーケストラ・パワーの誘発する爆発的な快感に聴き手を巻き込み、燦然たる娯楽ショーに仕立て上げてしまうレヴァインの楽天的な棒さばきに脱帽!


海王星「神秘主義者」、アンダンテ
sv0017h.jpg中間部にハープ、チェレスタ、弦が分散和音とアルペジオを重ねてゆく掴みどころのない〈天上の音楽〉は1音1音を録りこぼすことなく、精密に紡ぎ出してゆくのが驚きだ。遠くかすかに聴こえる女声のヴォカリーズが、妙なる無限の調べを唱いながら忘却の彼方へ消えていく。

この微弱な女声エコーがいつ果てるともなく続くシーンはじつに手の込んだエンディングで、エンジニアの人間離れした耳は魔術を通り越して悪魔的といえる。  amazon

オペラ指揮者レヴァインが爆発的なサウンドで聴き手の肝を潰す空前絶後の一枚だ。


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[ 2014/07/21 ] 音楽 ホルスト | TB(-) | CM(-)