フィストラーリの白鳥の湖/コンセルトヘボウ管

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チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」作品20(抜粋)
アナトール・フィストラーリ指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
Soloist: Steven Staryk (vn) , Tibor de Machula (vc)
Recording: 1961.2.22,23 Concertgebouw, Amsterdam
Producer: Ray Minshul (DECCA)
Engineer: Gordon Parry, Kenneth Wilkinson
Length: 45:37 (Stereo)
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バレエ音楽のスペシャリストとして名高いウクライナ出身の名指揮者、アナトール・フィストラーリの指揮した《白鳥の湖》といえば、ロンドン響、コンセルトヘボウ管、オランダ放送管による3種のレコードが知られているが、コンセルトヘボウ管との2度目のステレオ録音は、数ある「白鳥」の中でも“最高の演奏”として絶賛されている。

何よりもフィストラーリ特有の気品をたたえたロマンティックな演奏が最大の魅力だが、特筆すべきはコンセルトヘボウ管の強靱なアンサンブル。メンゲルベルク、ベイヌムとつづいた名指揮者による名門オケ最盛期の名残りが色濃く残る“鉄壁のアンサンブル”は、ベルリンフィルを凌ぐかと思わせるほどの強固な実力を見せている。(写真はGT9044, 1976年)

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ダイナミックで骨格のがっしりしたボディの高音質録音もこの盤の大きなウリで、これは「顕微鏡で覗いて見るような微細なピアニシモまで克明に録る」と言われたデッカ伝説の名録音技師、ケネス・ウィルキンソンの力に負うところが大きい。この時代の解像度の高いデッカのハイ・ファイ録音は、他社のステレオ録音をはるかに凌駕するものといえる。

「《白鳥の湖》は全曲盤、ハイライツ盤、組曲盤と数多くのレコードにめぐまれているが、その中でたった1種類選ぶとすれば、ぼくは問題なくこのフィストラーリ盤を採る。とにかく聴いていて気持ちが良いのだ。まず録音が最優秀、オーケストラも最優秀、音を聴いているだけで胸が弾む。自慢の装置を持っている人は1枚備えておいて損は無い。コンセルトヘボウはメンゲルベルク時代の緻密なアンサンブルの妙が濃厚に残されている。まったくほれぼれするほど巧く、かつ魅力的だ。」 宇野功芳氏による月評より、GT9044、『レコード芸術』通巻第304号、音楽之友社、1976年)


「フィストラーリは〈白鳥の湖〉を3回録音しているが、これはその2度目のもので、全曲の中から13曲を選び、バレエの進行順の曲を並べたハイライツ盤である。フィストラーリの演奏はいくぶん腰が重いが、バレエ音楽を得意としているだけあって、各場面の情景描写が実にうまく、練達した棒さばきで、このバレエ音楽の、幻想的でロマンティックな曲想をあますところなく再現している。」 志鳥栄八郎氏による月評より、K15C7018、『レコード芸術』通巻第418号、音楽之友社、1985年)



序奏 モデラート・アッサイ
sv0026e.jpgもの悲しいセピア色のオーボエの音色は古典バレエの雰囲気を湛え、しっとりと紡ぐ柔らかなクラリネット、コクのあるチェロ、艶やかに歌うヴァイオリンなど、エレガントな風情が満載である。アレグロ・ノン・トロッポでは、強烈なシンバルの衝撃音とともに剛毅なブラスが炸裂! 

激しい気迫でぐいぐい追い込んでゆく劇的な音楽運びに鳥肌が立ってくる。耳をつんざくようなトランペットの強奏、生々しい弦のトレモロ、圧力をかけて「ぐい」と弾きぬくチェロなど、デッカの音のご馳走に早くも満腹してしまう。  amazon


情景(No.1)アレグロ・ジュスト
sv0026f.jpg引き締まったリズムでシャッキリと弾む祝宴の行進曲は豪快で、シンバルとトライアングルの生々しい金属音、歯切れのよいトロンボーンの咆哮、アクセントの強いトランペットのファンファーレなど、バレエの幕開きにふさわしいシンフォニックな響きを堪能させてくれる。

中間部のミュゼット風ダンスは、弾むような弦のスピッカートによって生き生きと展開。エッジの効いた腰の強い“デッカ・サウンド”が威力を増す主題再現は間然とするところがなく、絢爛豪華な管弦楽に酔わせてくれる。  amazon (7曲ハイライト盤)


ワルツ(No.2)テンポ・ディ・ヴァルス
王子と村娘たちの踊るワルツは、フィストラーリ特有の少し溜めを入れた3拍子の歌わせ方がノーブルな気分を伝えている。トリオのコルネット独奏も雅やかな気分満載で、佳境に入る第3部のクライマックスではトロンボーンを「バリバリ」と打ち込み、テンポを早めて追い込んでゆく巧みな楽想の変転など、舞台の情景を髣髴させるフィストラーリの手練れた音楽運びに快哉を叫びたくなる。


乾杯の踊り(No.8)テンポ・ディ・ポラッカ
sv0026g.jpgポロネーズ風の祝典的な舞曲は、いかにもフィストラーリらしい、きびきびとした歯切れの良いリズム感覚が痛快で、ピッコロとトライアングルを加えて華やぎのある音楽が展開する。ここでも耳にしっかりと響く強靱なオーケストラ・サウンドが魅力的で、音楽は鍛え抜かれた鋼のように力強く、一分の隙もない。名門オーケストラを自在に操り、手際よく追い込むフィストラーリの確信に充ちた棒さばきは、あたかもシンフォニーを聴いているようで、思わずCDを指揮をしたい衝動にかられてしまうのは筆者だけではないだろう。    amazon (SACD)


第2幕 「静かな湖のほとり」 情景(No.10)モデラート
〈白鳥の主題〉はクラシック・バレエのシンボルともいうべき哀愁を湛えた名旋律。メルヘン調のオーボエ、粒建ちのよいハープのアルペジオは言わずもがな、刻み目がひとつひとつが見えるように聴こえる弦のトレモロは、あたかも白鳥の心の震えとなって漸増漸弱してゆくところが感動的だ。ツボを押さえたように切々と歌い返す〈応答のモチーフ〉“フィストラーリ節”の独壇場で、すすり泣くような弦の歌わせぶりは涙モノ。トランペットの強奏とトロンボーンの痛烈な下降動機は、慟哭の表情が極まった感があろう。


情景(No.11)アレグロ・モデラート
sv0026b.jpg月光に照らされた湖の畔で王子と白鳥が出会う。ここでは白鳥に纏わる4つのエピソードが、細やかな表情付けによって巧みに描かれてゆく。白鳥の身の上を語るオーボエのもの哀しげな独奏、しっとりと歌い返すチェロの温もりのある調べから、エレガントな風情がそこはかとなく漂ってくる。力強い低音弦から王子への信頼が芽生えるが、それを嘲笑うかのように悪魔ロッドバルトのブラスの急襲によって一縷の望みが打ち消されてしまう。

TOWER RECORDS  HMVicon


4羽の白鳥の踊り(No.13d)アレグロ・モデラート
sv0026l.jpgファゴットの戯けた伴奏と、バネをたっぷり効かせたピッツィカートにのって、オーボエが哀愁たっぷりとよく歌う。この楽団特有のくすみがかったエレガントな木管の音色が個性的で、細やかなアーティキュレーションによって繊細な味わいを紡ぎ出す名門楽団のアンサンブルに聴き惚れてしまう。音を短く切った終止和音の清々しさといったら!



オデットと王子のパ・ダクシオン(No.13e)アンダンテ
ここで独奏を受けもつ首席奏者は、世界に名だたるヴィルトゥオーゾに引けを取らぬ名技で聴きを魅了する。何よりもすばらしいのは音色の美しさ。スタリークの独奏ヴァイオリン甘い香りの柔らかなヴィブラートがたまらない魅力で、古典的な名旋律を濡れたような触感によって綿々と奏でてゆくのが聴きどころ。主題を変奏するピウ・モッソでは、少し鼻にかかった上質のシルクのような肌触りと、ぬめるような弓さばきで装飾楽句を衒いなくさばいてゆく。

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独奏チェロも聴き逃せない。ベルリンフィルの第1ソリストをつとめた伝説の名手マヒュラの繰り出す滑らかなボウイングから、とろけるような甘さが香り立ち、詩的な情緒をロマンティックに醸し出す。これに寄り添うヴァイオリンのオブリガートの肉の付いた柔らかな音は、上質のトロに舌鼓を打つような味わいがあり、あまりの美しさにため息が出るほどだ。コーダは「ドリゴの終止」を採用。組曲版では聴けぬ木管リズムの再現ハープのアルペジオ終止がロマン的な味わいを深めている。

「何よりもフィストラーリの指揮が絶品。どの曲もすばらしい生命力と迫力を持ち、しかも決して刺激的な粗さが無く、その上、心のこもったロマンティシズムや、香るようなエレガンスが随所に立ちのぼる。ちょっとしたルバートや強弱の波が豊かなニュアンスを生み、メルヘン的な色彩もまことに見事である。第1幕の〈ワルツ〉僅かなウィンナ・リズムを踏んだり、第2幕の〈4羽の白鳥たちの踊り〉における何気ないエコー効果も名人芸の極だ。特筆すべきは独奏ヴァイオリン、独奏チェロのおどろくべき美しさで、ことに前者の心のこもったヴィブラートと音色は悲しくなるほどである。」 宇野功芳氏による月評より、GT9044、『レコード芸術』通巻第304号、音楽之友社、1976年)



ハンガリーの踊り(No.20)チャルダーシュ、モデラート・アッサイ
sv0026h.jpgディヴェルティスマンの中で最も華やぎのある音楽がチャルダーシュだ。哀愁をたっぷり撒き散らすイ短調の〈ラッサン〉は濃厚な表情付けが印象的で、引きずるようなフレージングと、強いアクセントで打ち込むトランペットの合いの手が感興を高めている。ヴィヴァーチに転ずるイ長調の〈フリスカ〉は息もつかせぬ早ワザで、総奏リズムを「すぱすぱ」と打ち込む快刀乱麻の立ち振る舞いと、煽るように畳み掛ける展開は、舞台で叩き上げた職人フィストラーリの面目躍如といえる。


パ・ドゥ・ドゥ(黒鳥の踊り)ヴァリアシオン1(No.5b)
ここでも独奏ヴァイオリンが聴き手を魅了する。ロ短調のチャルダーシュ風の甘く切ない旋律をスタリークが稟と引き締まった気品溢れる弓さばきで酔わせる一方で、不気味なスルGの調べにファゴットの和音が重ねあわされると、オディールの正体が見え隠れする。「これでもか」と色気をまき散らすように奏でる艶美な調べを聴けば、王子がヤバいことを知りつつも悪魔の誘惑に負けて、心が崩れ落ちてしまうのも無理からぬところだ。

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情景(No.24)アレグロ、ワルツ、アレグロ・ヴィーヴォ
sv0026m.jpg王子が永遠の愛を誓うと、シンバルの衝撃とともに悪魔とその娘が正体をあらわす。一同を嘲笑うクラリネットの変奏、凄まじいブラスがつんざき、身を切るような悲哀と切迫した情景が白鳥の変奏テーマによって伝えられる。

怒涛のごとく押し寄せる管弦の嵐、突き刺すように射るトランペットの強奏、バリバリと打ち抜くトロンボーンの衝撃音といった耳が痛くなるような究極の“デッカ・マジック”に、筆者が初めて聴いたときは腰を抜かしたものである。舞台の隅から隅まで知悉した巨匠ならではの劇的な幕切れといえる。


小さな白鳥たちの踊り(No.27)モデラート
オデットの帰りを待ちわびる不安げな白鳥たち。これを慰める民謡調のメロディーがクラリネットによって滋味深く奏でられる。中間部オーボエの長閑な歌謡調の調べは平穏な気分に満ち溢れ、キメ細やかなトライアングルの伴奏にのって、弦が艶をのせてしっとりと歌うところはウェットな詩情がそこかしこに流れている。


情景・終曲(No.29)アンダンテ~アレグロ・アジタート
sv0026i.jpgティンパニのトレモロから壮大に立ち上がる情景は、シンバルの途轍もない衝撃音、スケール感あふれる弦の歌わせぶり、胸のすくような4本のホルンが雄大にホールに鳴りわたる。アレグロ・アジタートの終曲は、弦のシンコペーションを伴奏にオーボエがせきこむように〈白鳥の主題〉を歌い出す。いよいよ悪魔ロッドバルトとの対決の時がやってきた。

力の限りぶち込むシンバル、絶叫するブラス群、骨力のある音で叩き込むティンパニの衝撃音はデッカ録音の真骨頂! 愛の力が悪魔に打ち勝つフィナーレの音楽は力強い。〈応答のモチーフ〉を纏綿と引きずるように歌わせるところは“フィストラーリ節”が全開で、テンポを揺らせながら急きこむ絶妙の棒さばきが最大の聴きどころだ。

確信に充ちた勝利のトランペット、高弦とハープのトレモロの中から気持ちよく抜け出すホルン、交互に打ち込むティンパニの豪打が圧倒的な迫力で全曲をむすんでいる。ロマンティック・バレエの真髄を堪能させてくれる必聴の一枚だ。


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[ 2014/10/29 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)