ウラジーミル・フェドセーエフ指揮
チャイコフスキー記念モスクワ放送交響楽団
2007年1月30日 モスクワ音楽院大ホール、ライブ収録(デジタル録音)
Lontano (Warner Classics) 2564 69662-6 (EU盤、2008年3月発売)
Johannes Brahms Symphonie n°1 en Ut mineur Op.68 [43:27]
1.Un poco sostenuto - Allegro
2.Andante sostenuto
3.Un poco allegretto e grazioso
4.Adagio - Piu andante -Allegro non troppo, ma con brio
Vladimir Fedoseyev ,direction
Tchaikovsky Symphony Orchestra of Moscow Radio
Enregistre: le 30 janvier 2007
Grand salle du Conservatoire Tchaikovski,Moscou (Digital)
Directeur du son: Vadim Ivanov
Ingenieur du son: Vitaly Ivanov
Montage: Farida Uzbekova
演奏★★★★☆ 録音★★★ [評価★が2点、☆が1点の10点満点]
お気に入りのCDや海外のライブ録音を気ままに紹介する Musikfreund(ムジークフロイント)。本日は、フェドセーエフ指揮のモスクワ放送交響楽団による新譜で、ブラームスの交響曲全集の中から交響曲第1番を聴く。



昨年新譜として発売されたこの演奏は2007年1〜3月に収録されたブラームスの交響曲全集の中の1つで、モスクワ音楽院での会場録音のため、指揮者の唸り声が聞こえてくる。録音は重厚な弦楽器を主体にしたウォームトーンで包み込むようなソフトフォーカスの音場で、木管楽器の音はやや遠く、ロシア特有の金管を強調したギラギラとしたものではない。
フェドセーエフとモスクワ放送交響楽団とのコンビはもう34年も続いているが、来日公演が多く日本ではすっかりお馴染みになった。筆者も1991年、1999年、2006年の公演に足を運んで聴いた。プログラムはいつもチャイコフスキーかショスタコーヴィチであったので、このコンビによるブラームスを聴くのはこれが初めてである。

フェドセーエフは民族楽器オーケストラの音楽監督の出身で、ロジェストヴェンスキーの後任として、モスクワ放送響の音楽監督に抜擢されたのが1974年。ロシア5人組の民族色の濃い作品には定評があり、こってりとした芝居気のあるチャイコフスキーの演奏は大阪ではたいへん人気がある。また近年はショスタコーヴィチのドラマチックな解釈も絶賛され、音楽を面白く聴かせることには卓越した手腕を発揮する。
モククワ放送交響楽団は放送局のオーケストラであることから「ラジオ・シンフォニー」と呼ばれているが、現在は「チャイコフスキー記念」の称号が与えられ、チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラと記載されている。混同を避けるために日本では従来の「モククワ放送交響楽団」の呼称が現在も使用されている。

このモスクワ放送響は実に上手いオーケストラで、各セクションにずば抜けた腕を持つ名手を揃え、特に近年は最高水準にある。管楽器はもちろんのこと、とくに弦楽器の美しさと重厚さは欧米のオーケストラの水準を遙かに超えている。 『レコード芸術』(音楽之友社)の2008年オーケストラ・ランキングに入ってこないのが腑に落ちないが、少なくともサンクトペテルブルクフィルの13位、マリインスキー劇場管の17位よりは実力ははるかに上であると筆者は思う。
ブラームスの交響曲第1番、通称「ブラいち」はベートーヴェンの第9交響曲に続く第10番といわしめる名曲中の名曲であるが、ベイヌム、フルトヴェングラー、ミュンシュ、朝比奈をはじめとする巨匠たちの伝説的な名演奏と比べると、現代の指揮者には到底勝ち目がない。巨匠不在の現在、クラシック業界は深刻な不況の最中にあり、レコード会社は賃金のかさむセッション録音を止めてコンサートライブの一発録りによって制作することが当たり前のようになってしまった。このCDも例外ではない。
第1楽章ウン・ポコ・ソステヌート
ティンパニの強打とともに第1と第2ヴァイオリンがオクターブを重ねて半音階を上昇して開始する序奏はきわめて重厚だ。中低弦を厚くしてどっしりと構えたテンポで突き進む。全体としてくすんだ音色でゲヴァントハウスかドレスデンと間違えそうな燻し銀の響きである。管楽器はこの中に溶け込んでほとんど浮き立つことがない。付点はかなり甘く処理されたマイルドな筆致でアゴーギクも緩やかだ。音楽には大きなメリハリはつけず、展開部でもさほど大きなドラマは感じられないが、美しくしなやかな演奏には心惹かれるものがある。
第2楽章アンダンテ・ソステヌート
〈練習番号A〉に歌われるファースト・ヴァイオリンのしらべに思いを込め、ゆったりと濃厚な味わいを醸し出す。セカンド・ヴァイオリンとヴィオラの内声部は響きがとても厚い。 〈練習番号B〉に始まるオーボエやクラリネットの主奏はかなり地味な音色で精彩を欠くが、67小節目からチェロのピッツィカートに乗って、旋律が太いタッチで大きく揺れるとたちまち音楽に色香が漂ってくる。
90小節から歌われる艶やかなソロ・ヴァイオリンは格別の美しさがあり、ヴィブラートをたっぷり効かせて聴き手を夢心地の気分に浸らせてくれる。このヴァイオリン・ソロに100小節目からホルンが絡む。北国のこだまが幻想的な雰囲気をさらに盛り上げている。ルバートをかけて纏綿と歌われるロマン溢れる演奏は、ヴィルトゥオーゾ・オーケストラならではの巧さとコクのある表現を堪能させてくれる。
第3楽章ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラチオーソ
この楽章はスケルツォでもなくメヌエットでもなく、優しさと気品に満ち溢れた間奏楽章だ。クラリネットを中心とした木管楽器の聴かせどころがやや地味なものに聞こえてくるのが不満といえば不満だが、拍子の変わる中間部でも切迫感は微塵もなく、ゆったりとまろやかに精妙な味わいをたたえ、とくに暖かみのある弦楽器の響きが心地よい。トランペットとホルンの音も角が立たぬようにかなり抑制されている。
第4楽章アダージオ−ピウ・アンダンテ−アレグロ・ノン・トロッポ、マ・コン・ブリオ
序奏は極めて遅いテンポで開始する。28小節目のティンパニが突如もの凄い勢いで突っ込んでくるのには驚かされるが、さあ、これは「フェドセーエフ劇場」の始まりの合図なのだ!
まず〈練習番号B〉(30小節目)からアルペンホルンが朗々と鳴りわたる。これぞまさしくロシアの音だ! つづく38小節目のフルートのソロも並はずれた輝きをはなつ。61小節目から入る弦楽の「歓喜の第1主題」は颯爽と早いテンポをとるが、このテーマはなんとなくロシア民謡に聞こえてこないでもない。118小節目アニマートの第2主題は大きな流れをつくり、トレモロの上昇後の148小節はぶ厚い弦楽の響きが聴き手を魅了する。これに対抗する木管が録音のせいか、ちょっと弱い。

267小節でいよいよ大きな見せ場がやってくる。ホルンのシグナルが勢いよく飛び出すと、テンポを「ガクン」と大きく落として聴き手を驚かせる。279小節からさらにテンポを落とし、ねばりにねばって〈練習番号N〉へと突入する。フェドセーエフが1拍目の休符で大きな唸り声を発するや、289小節で「ロシアン・ホルン」が思いきったヴィブラートを効かせて雄叫びをあげるのだ。
〈アニマート〉でア・テンポにもどるが、腕利きの弦楽器奏者たちの奏でる音楽は冴えわたり、 〈練習番号O〉ではきめ細やかな表情を湛えて恍惚たる歌がかなでられる。そしてこの交響曲の頂点とも言うべきコーダは圧巻で、じつに堂々たる音楽運びだ。ゆったりとしたシンコペーションから390小節で4分音符をおっさん(朝比奈)流にどっしりと落としてピウ・アレグロへ突入する。
金管のコラールは決して強奏させないが、427小節の3連符にアッチェレランドをかけて走らせると弦楽器の重量感をもって一気呵成に決めるのである。最後のティンパニのトレモロの強打は出血大サービスのオマケであるかのようにホールいっぱいに轟いている。このCDには最後に拍手が入っている。
ドラマテックな音楽づくりには定評のあるフェドセーエフであるが、ここでも実に聴き応えのあるユニークなブラームスを味わいたっぷりに演出し、聴き手を存分に酔わせてくれるのである。
◆ブラームス交響曲第1番 過去のエントリー
ベイヌム/アムステルダムコンセルトヘボウ管(DECCA 1951年)
フルトヴェングラー/ベルリンフィル(DG 1952年 O_288)
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チャイコフスキー記念モスクワ放送交響楽団
2007年1月30日 モスクワ音楽院大ホール、ライブ収録(デジタル録音)
Lontano (Warner Classics) 2564 69662-6 (EU盤、2008年3月発売) Johannes Brahms Symphonie n°1 en Ut mineur Op.68 [43:27]
1.Un poco sostenuto - Allegro
2.Andante sostenuto
3.Un poco allegretto e grazioso
4.Adagio - Piu andante -Allegro non troppo, ma con brio
Vladimir Fedoseyev ,direction
Tchaikovsky Symphony Orchestra of Moscow Radio
Enregistre: le 30 janvier 2007
Grand salle du Conservatoire Tchaikovski,Moscou (Digital)
Directeur du son: Vadim Ivanov
Ingenieur du son: Vitaly Ivanov
Montage: Farida Uzbekova
演奏★★★★☆ 録音★★★ [評価★が2点、☆が1点の10点満点]
お気に入りのCDや海外のライブ録音を気ままに紹介する Musikfreund(ムジークフロイント)。本日は、フェドセーエフ指揮のモスクワ放送交響楽団による新譜で、ブラームスの交響曲全集の中から交響曲第1番を聴く。


昨年新譜として発売されたこの演奏は2007年1〜3月に収録されたブラームスの交響曲全集の中の1つで、モスクワ音楽院での会場録音のため、指揮者の唸り声が聞こえてくる。録音は重厚な弦楽器を主体にしたウォームトーンで包み込むようなソフトフォーカスの音場で、木管楽器の音はやや遠く、ロシア特有の金管を強調したギラギラとしたものではない。
フェドセーエフとモスクワ放送交響楽団とのコンビはもう34年も続いているが、来日公演が多く日本ではすっかりお馴染みになった。筆者も1991年、1999年、2006年の公演に足を運んで聴いた。プログラムはいつもチャイコフスキーかショスタコーヴィチであったので、このコンビによるブラームスを聴くのはこれが初めてである。

フェドセーエフは民族楽器オーケストラの音楽監督の出身で、ロジェストヴェンスキーの後任として、モスクワ放送響の音楽監督に抜擢されたのが1974年。ロシア5人組の民族色の濃い作品には定評があり、こってりとした芝居気のあるチャイコフスキーの演奏は大阪ではたいへん人気がある。また近年はショスタコーヴィチのドラマチックな解釈も絶賛され、音楽を面白く聴かせることには卓越した手腕を発揮する。
モククワ放送交響楽団は放送局のオーケストラであることから「ラジオ・シンフォニー」と呼ばれているが、現在は「チャイコフスキー記念」の称号が与えられ、チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラと記載されている。混同を避けるために日本では従来の「モククワ放送交響楽団」の呼称が現在も使用されている。

このモスクワ放送響は実に上手いオーケストラで、各セクションにずば抜けた腕を持つ名手を揃え、特に近年は最高水準にある。管楽器はもちろんのこと、とくに弦楽器の美しさと重厚さは欧米のオーケストラの水準を遙かに超えている。 『レコード芸術』(音楽之友社)の2008年オーケストラ・ランキングに入ってこないのが腑に落ちないが、少なくともサンクトペテルブルクフィルの13位、マリインスキー劇場管の17位よりは実力ははるかに上であると筆者は思う。
ブラームスの交響曲第1番、通称「ブラいち」はベートーヴェンの第9交響曲に続く第10番といわしめる名曲中の名曲であるが、ベイヌム、フルトヴェングラー、ミュンシュ、朝比奈をはじめとする巨匠たちの伝説的な名演奏と比べると、現代の指揮者には到底勝ち目がない。巨匠不在の現在、クラシック業界は深刻な不況の最中にあり、レコード会社は賃金のかさむセッション録音を止めてコンサートライブの一発録りによって制作することが当たり前のようになってしまった。このCDも例外ではない。
第1楽章ウン・ポコ・ソステヌートティンパニの強打とともに第1と第2ヴァイオリンがオクターブを重ねて半音階を上昇して開始する序奏はきわめて重厚だ。中低弦を厚くしてどっしりと構えたテンポで突き進む。全体としてくすんだ音色でゲヴァントハウスかドレスデンと間違えそうな燻し銀の響きである。管楽器はこの中に溶け込んでほとんど浮き立つことがない。付点はかなり甘く処理されたマイルドな筆致でアゴーギクも緩やかだ。音楽には大きなメリハリはつけず、展開部でもさほど大きなドラマは感じられないが、美しくしなやかな演奏には心惹かれるものがある。
第2楽章アンダンテ・ソステヌート〈練習番号A〉に歌われるファースト・ヴァイオリンのしらべに思いを込め、ゆったりと濃厚な味わいを醸し出す。セカンド・ヴァイオリンとヴィオラの内声部は響きがとても厚い。 〈練習番号B〉に始まるオーボエやクラリネットの主奏はかなり地味な音色で精彩を欠くが、67小節目からチェロのピッツィカートに乗って、旋律が太いタッチで大きく揺れるとたちまち音楽に色香が漂ってくる。
90小節から歌われる艶やかなソロ・ヴァイオリンは格別の美しさがあり、ヴィブラートをたっぷり効かせて聴き手を夢心地の気分に浸らせてくれる。このヴァイオリン・ソロに100小節目からホルンが絡む。北国のこだまが幻想的な雰囲気をさらに盛り上げている。ルバートをかけて纏綿と歌われるロマン溢れる演奏は、ヴィルトゥオーゾ・オーケストラならではの巧さとコクのある表現を堪能させてくれる。
第3楽章ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラチオーソこの楽章はスケルツォでもなくメヌエットでもなく、優しさと気品に満ち溢れた間奏楽章だ。クラリネットを中心とした木管楽器の聴かせどころがやや地味なものに聞こえてくるのが不満といえば不満だが、拍子の変わる中間部でも切迫感は微塵もなく、ゆったりとまろやかに精妙な味わいをたたえ、とくに暖かみのある弦楽器の響きが心地よい。トランペットとホルンの音も角が立たぬようにかなり抑制されている。
第4楽章アダージオ−ピウ・アンダンテ−アレグロ・ノン・トロッポ、マ・コン・ブリオ序奏は極めて遅いテンポで開始する。28小節目のティンパニが突如もの凄い勢いで突っ込んでくるのには驚かされるが、さあ、これは「フェドセーエフ劇場」の始まりの合図なのだ!
まず〈練習番号B〉(30小節目)からアルペンホルンが朗々と鳴りわたる。これぞまさしくロシアの音だ! つづく38小節目のフルートのソロも並はずれた輝きをはなつ。61小節目から入る弦楽の「歓喜の第1主題」は颯爽と早いテンポをとるが、このテーマはなんとなくロシア民謡に聞こえてこないでもない。118小節目アニマートの第2主題は大きな流れをつくり、トレモロの上昇後の148小節はぶ厚い弦楽の響きが聴き手を魅了する。これに対抗する木管が録音のせいか、ちょっと弱い。

267小節でいよいよ大きな見せ場がやってくる。ホルンのシグナルが勢いよく飛び出すと、テンポを「ガクン」と大きく落として聴き手を驚かせる。279小節からさらにテンポを落とし、ねばりにねばって〈練習番号N〉へと突入する。フェドセーエフが1拍目の休符で大きな唸り声を発するや、289小節で「ロシアン・ホルン」が思いきったヴィブラートを効かせて雄叫びをあげるのだ。
〈アニマート〉でア・テンポにもどるが、腕利きの弦楽器奏者たちの奏でる音楽は冴えわたり、 〈練習番号O〉ではきめ細やかな表情を湛えて恍惚たる歌がかなでられる。そしてこの交響曲の頂点とも言うべきコーダは圧巻で、じつに堂々たる音楽運びだ。ゆったりとしたシンコペーションから390小節で4分音符をおっさん(朝比奈)流にどっしりと落としてピウ・アレグロへ突入する。
金管のコラールは決して強奏させないが、427小節の3連符にアッチェレランドをかけて走らせると弦楽器の重量感をもって一気呵成に決めるのである。最後のティンパニのトレモロの強打は出血大サービスのオマケであるかのようにホールいっぱいに轟いている。このCDには最後に拍手が入っている。
ドラマテックな音楽づくりには定評のあるフェドセーエフであるが、ここでも実に聴き応えのあるユニークなブラームスを味わいたっぷりに演出し、聴き手を存分に酔わせてくれるのである。
◆ブラームス交響曲第1番 過去のエントリー
ベイヌム/アムステルダムコンセルトヘボウ管(DECCA 1951年)
フルトヴェングラー/ベルリンフィル(DG 1952年 O_288)
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