フルトヴェングラーのブラームス/交響曲第1番(52.2.10)

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ブラームス/交響曲第1番ハ短調 作品68
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1952.2.10 Titania-Palast, Berlin
Source: Sender Freies Berlin
Henning Smidth Olsen No.288
Length: 47:46 (Mono Live)
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フルトヴェングラーの「ブラ1」といえば、筆者の学生時代はウィーンフィルによる1947年のEMI盤が知られる程度だった。これはSP録音のために音質が著しく劣ることや、最後は燃焼しきれないまま中途半端に終わったような印象が拭いきれず、期待したほど感銘を受けなかったと記憶する。

sv0039m.jpgその後、さまざまなオーケストラとのライヴ録音が雨後の筍のように続々と掘り起こされ、いまでは1ダース近くの巨匠の演奏がラインナップされている。その中でも筆者が強烈に印象付けられたのが、フルベン・ファンにとって“干天の慈雨”ともいえるグラモンフォンから1976年に発売されたベルリンフィルの実況盤だ。

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このグラモフォンのLP(MG6002)は、ベルリンフィル創立70周年記念コンサートのライヴ録音。オリジナル・デザインによるグレーの格調高いジャケットもさることながら、SP録音の不満を払拭する音質の良さと1本筋の通った力感漲る演奏は、巨匠の真打的な奥義と迫力を伝えてくれるもので、愛好家の喉の渇きを潤すに十分な手ごたえを感じさせてくれるレコードだった。そして「やはりフルベンはベルリンフィルの実況録音に限る!」と筆者は舌鼓を打ったものだ。

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「この演奏は優秀だ。オーケストラはすばらしく充実していて強い気迫に充ちているし、音楽の進行には指揮のたくましい牽引力が感じられ、やはり実況ならではの気分充分である。なによりの美点はめりはりが実にきちりと自然にきまっていることで、万事がいかにもそうあらねばならぬという形で盛り上がりもテンポの変化も行われている。このブラームスの第1番は至る所に絶妙の言い回しを含みながら、そのすべてが完全にひとつの有機体を築いていることで、私にはフルトヴェングラーの指揮の奥の手を最も見事に見せたものと言えそうに思われた。こういう奇跡的な芸当をしばしば現場でやってみせたから、彼は第一人者の座にいたわけである。」 大木正興氏の月評より、MG6002、『レコード芸術』通巻310号、音楽之友社、1976年)


フルトヴェングラーのブラームス《第1番》は、11種の演奏がリリースされている。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
VPO1942 or 1944Unknown (=③?),(=⑤)日ColumbiaO_ 77.5/432a
BPO1945.1.23Berlin, Admiralpalast (4th mov.) 仏フ協O_105
VPO1947.8.13Salzburg, FestspielhausPrivate ArchivO_114
LFO1947.8.27Lucern, Kunsthaus仏フ協O_118
VPO1947.11.17-20Wien, MusikverinsaalEMIO_127
ACO1950.7.13Amsterdam, Concertgebou日フ協O_212
NWD1951.10.27Hamburg, Musikhalle仏フ協O_265
VPO1952.1.27Wien, Musikvereinsaa東芝EMIO_283
BPO1952.2.10Berlin, Titania PalasDGO_288
TRO1952.3.7Torino, Italian Radio加RococoO_293
BPO1953.5.18Berlin, Titania Palast米DiscocorpO_337
VSO1954.3.20Caracas, Amfiteatro Jose Angel英フ協O_388


sv0039l.jpgこれらの中で演奏・音質ともに優れた演奏となると、⑥北西ドイツ放送響⑧ベルリンフィル(当盤)が双璧だろうが、アインザッツの切れ、ティンパニの打ち込みの鋭さ、崩れのなさ、演奏の集中度から言っても本家ベルリンフィルとの当盤がもっともツボにはまった演奏ではないだろうか。


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「謎のブラ1」と呼ばれるウィーンフィルの1942又は1944年実況録音は、かつて日本コロムビアからDXM163として発売されたLPで、どこか“ウラニアの英雄”を思わせ、オールセンでは別扱いとしていた。④以外は発掘されていなかった時代には大戦下の実況録音ということで注目を集めたが、すぐに廃盤になってしまったので筆者は入手出来なかった。実は④と同一演奏で、市販のSPからダビングして作られたという説が有力だ。

ベルリンフィルにはもう一つ、同じ演奏会場で1953年の実況盤⑩がある。演奏スタイルが似ているため「夢よもう一度のブラ1」と心を躍らせたが、ワルター協会盤(LP)の音が貧しく評判倒れだった。ターラ盤(FURT1019)で音質は改善されたが、筆圧の強さ、リズムの切れ、緊迫感、ロマンの密度、決めどころの高揚感といった点で⑧には到底及ばない。

sv0039n.jpg掘り出し物は、かつてプライヴェート盤(GCL5004~5)として出ていた②で、個人のエアチェック・ソースと思われるがベスト3に入れたい名演奏。独奏も抜群に美しい。グランドスラム盤(GS2086)はさらに音質もよく聴きやすいので、これは購入して損はない。音源はコレクターから提供されたエアチェックDATとのこと。

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嵐のように荒れ狂う'45年盤①(SWF8803)も捨てがたい魅力があり、音質も当時のものとしては破格の良さで、もし全楽章揃っていれば⑥⑧に並ぶ存在になったに違いない。

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sv0039h.jpg当録音はグラモフォンがオーソライズ盤のために選択枝は限られたが、柔らかなLPの音に比べてCD(独グラモフォン427 402-2)の不自然な響きがどうしても馴染めず(POCG2356、POCG3793も評判がよくない)、筆者はLP(MG6002)をCD-Rに起して聴いている。オープンリールをソースとするグランドスラム盤(GS2048)はLPに似た肉感のある音を提供してくれるので、CDの音を好まない人には推奨盤といえる。

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NoOrchestraDateLevelSourceⅠmovⅡmovⅢmovⅣmov=Total
Berlin po1945.1.23WF SocietySWF8803---16:43-
Wien po1947.8.13GlandSlamGS208615:0510:235:2216:4547:35
Lucern fes1947.8.27TahraFURT102914:5410:215:0816:5747:20
Wien po1947.11.17-20EMITOCE378814:4310:385:0216:2846:51
Concertgebou1950.7.13TahraFURT101214:3310:054:5816:3546:11
NWDR so1951.10.27TahraFURT107014:5610:075:1417:0947:26
Wien po1952.1.27AltusALT77/814:1710:115:0416:3346:05
Berlin po1952.2.10DGMG600214:3510:355:1617:0247:28
Torino-RAI1952.3.7TahraFURT108014:219:495:1817:0646:34
Berlin po1953.5.18TahraFURT101914:0610:335:1517:0747:01
Venezuela so1954.3.20WF SocietyFURT10114:169:475:1216:4846:03


第1楽章 ウン・ポコ・ソステヌート-アレグロ
sv0039d.jpgうねるような弦の分厚い半音階進行とティンパニの重みのあるストロークはまぎれもなくフルベンのブラームスで、強固な意志を楽想に塗り込むように密度の濃い音楽が支配する。

奔流を阻止するティンパニの激震をともなう固い一撃がすさまじく、身をよじるようにうねり回す弦の意味深げな分散和音、わが身を嘆くようなオーボエ、悲痛に歌うチェロなど、巨匠は悲劇的な気分を序奏にこってりと盛り付けている。

ティンパニの強打で宣言する主題提示は、筆圧の強いフレージングによって音楽は力強く邁進する。堅固なリズムは一分の隙もなく、シャッキリと頂点(97小節)に駆け上がるフレージングの切れも抜群! 大きなリタルダンドを配する第2主題部は濃厚なロマンが匂い立ち、木管の牧歌的な問答によって、巨匠は神秘の森の奥深くへ足を踏み入れてゆく。〈運命動機〉の律動でアインザッツにずれが生じるが(159小節)、シンコペーションで力を蓄えて展開部へ突き進むところはぴんと張り詰めた雄渾な雰囲気が漂っている。

sv0039e.jpg展開部(189小節)は、コラール〈元気を出せ、わが弱い心〉を無用に高ぶらず、〈反抗の動機〉(294小節)をぶつけながら勢いを付けて“闘争の頂点”へ上り詰める緊迫感は無類のものだ。16分音符の弦の下降動機と管の基本動機を激しく競り合わせ、トランペットの強奏とティンパニの強打で再現部に突入する“力ワザ”は聴き手の興奮を掻き立てる名場面で、鼓舞するような気魄に「これぞ、フルベン!」と膝を打ちたくなる。
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このクライマックス(再現部)で巨匠がみせるトランペットの強奏が特徴的で、とりわけ⑥の北西ドイツ盤の突出感が際立っている。また驚くことに、②~⑪のすべての演奏で339~41小節のトランペット〈C-休符-D-G〉の休符を第1ヴァイオリンと同じCisで埋めており、当盤でもこの3小節は再現部を宣言するかのように、明確なフォルテでぶつけている。最大の聴きどころは、再現部のシンコペーションから付点リズムに変わるコーダ(459小節)。

sv0039f.jpgリズミックな連打で畳み掛けてゆくところは、巨匠の“必殺ワザ”が炸裂する。470小節から弦の裏打ちでクレッシェンドする“決めどころ”は、トランペットがわずかにズレる北西ドイツ盤や、一気呵成に駆け抜ける⑧ウィーンフィル盤など、一発勝負ならではのスリルと興奮を喚起するが、当盤ではトランペットとティンパニが煽るように加速を掛けて突進するも、崩壊寸前のところで決める綱渡り的な演奏に鳥肌が立ってくる。
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いかにも巨匠らしい息もつかせぬ緊迫感と、即興的な神に酔ってしまうのは筆者だけではないだろう。


第2楽章 アンダンテ・ソステヌート
sv0039g.jpg感傷に溺れることなく、孤独の影を宿した暗く、わびしい色調によって、深遠に奏でる音楽が聴き手の心を掴んで離さない。第1主題を発展させた付点音符と切分音で綴る半音階の上行モチーフのコクのある響きは冠絶しており、中間部でオーボエが物悲しげに奏でるコロラチュラ主題や、弦のユニゾン主題の厚みのあるゆたかな響きから、ロマン的な気分がおのずと薫り立つのがフルベン流。  amazon[SACD]

大きな聴きどころは、ティンパニのトレモロが背景に入る中間部の最後(66小節)で、1拍の休止が無限に止まったような神秘的な印象を与えている。“夢幻の陶酔境”に引き込むように奏でる主題再現の美しさも格別で、聴き手を恍惚とさせる巨匠の秘術を心ゆくまで堪能させてくれる。

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しっとりと流れに乗せる独奏ヴァイオリン(ジークフリート・ボリースだろうか)も格調高く、③シュヴァルベ、⑥レーン、⑦ボスコフスキーと比べても遜色なく、うねうねと太い縄を編むようにホルンの旋律に絡める崇高なオブリガートに耳をそば立てたい。

なお、主題再現(67小節アウフタクト)の直前でオリジナルでは大きなセキが入っているが、DG盤をはじめ後述するターラ盤(FURT2005)やスペクトラム盤(CDSM017WF)でもこれが編集されている。オリジナル音源のコピー(19cmオープンリール)から復刻されたグランドスラム盤(GS2127)のみ完全ノーカット版で、終演後の万雷の拍手が1分半も収められている。この鮮明で厚みのある音を聴けば、フルベン・ファンならずとも夢中になって最後までのめり込んでしまうに違いない。

「曲想転換の要所で、時間が止まったような長大な“間”を置くのもフルトヴェングラーの特徴だが、中間部の66小節で、それが起こる。“音楽が静的になって観念的な深淵へと吸い込まれてゆくように減速して行く際の神秘的な収斂”も確認できるが、その到達点でブリッジとして残るティンパニのトレモロをフェルマータ的に扱って、次のフレーズの前に単なるブレスを超えた“思念する間”を設定してしまうあたりが天才的だと思う。このフェルマータ処理は、主兵ベルリンフィルは7~8秒と最も長く、互いに周知の解釈を余裕をもって再現していることがわかる。」 「ブラームス交響曲第1番に見る“間”と移行の秘技」より金子建志氏による~『レコード芸術』通巻651号、音楽之友社、2004年)


「第3部に入る部分(66~67小節)のフルトヴェングラーの妙味に触れないわけにはいかない。ティンパニのトレモロだけが残る部分をほんのわずかに長くのばし、その次に夢から覚めるように歌い出すのはまさにロマンの極みである。」 「究極のオーケストラ名曲解剖(10)」より平林直哉氏による~『レコード芸術』通巻658号、音楽之友社、2005年)



第3楽章 ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラッチオーソ
sv0039is.jpgインテルメッツォは緩急自在のフルベン節を堪能させてくれる。沈鬱な気分でクラリネットがたゆたう第1主題、一転してせわしく急き立てられるように疾走するへ短調の第2主題、ヒロイックな気分を刻印して高揚するトリオ主題といった楽想の急展開に心をつかまれてしまう。

中間部終わりの耳が痛くなるようなトランペットの強奏や、強いピッツィカートも個性的で、再現部144小節からおずおずとテンポを落とし、音楽が止まってしまいそうなトリオの回想によって、来るフィナーレへの期待がいやがおうにも高まってくる。

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sv0039j.jpgDGのLPもCDも開始のクラリネットの音が小さいのが気になって仕方がなかったが、グランドスラム盤(GS2048)のみ音量がしっかり入っている。

また、楽章間の休憩や拍手がそのまま収録されているターラ盤(FURT2005)、RBBアーカイブを音源とするスペクトラム盤(CDSM017WF)、前述のグランドスラム盤(GS2127)を聴くと、第3部終わりの弦のピッツィカートの部分(139小節の頭)で、ヴィオラの弦が切れたような音が確認できるので、DG盤はこの部分を修正しているのだろう。これらはDG盤に比べると生々しく、従来とは違った感動を伝えてくれる。

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第4楽章 アダージオ-ピウ・アンダンテ(序奏)
sv0039k.jpg聴き手の度肝をぬくティンパニの強打や、濃密なピッツィカート、よじるように引き伸ばす弦のパッセージなど、高カロリーのフルベン節が序奏から全開。混沌とした闘争の中からティンパニの凄まじい雷鳴が轟くと、雲がゆっくり晴れて〈アルペン動機〉が出現する。深い呼吸で奏でる動機は輝かしい未来を予示するように、荘厳なコラールをくわえて神々しさを増してくるあたりはフルベンの魔力といえる。

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パウゼのあとに立ち現れる〈歓喜の主題〉は、たっぷりとした弓でテヌートを効かせ、厚みのあるゆたかな響きで聴き手の心を揺さぶるように奏でてゆく。巨匠は歌に溺れることなく情念の炎を燃やして行進し、アニマートの総奏(94小節)で「ここぞ」とばかりに力ワザを開陳する。激しい律動で昂奮しながら爆発する総奏や、管の3連リズムが炸裂するところは、身を奮い立たせるような闘争の精神がみなぎっている。

sv0039q.jpg再現部(185小節)は雄々しく揺れながら、デュナーミクの振幅が激しくなるのが即興的で、転調によるギア・チェンジや、「これでもか」と嵐のように弾き飛ばす弦の下降パッセージなど霊感を得たフルベンの独壇場。

強圧的な裏打ちから全管弦楽のパワーを結集し、アルプスの最高峰で爆発するクライマックス(285小節)の高揚感も比類がなく、ティンパニの大連打が劇性を大きく高めている。カランドからリタルダンドをかけて神韻縹渺と奏でる〈慰めの動機〉(316小節)も聴きどころで、弦の美しさが際立つ名場面。

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コーダ(367小節)は、巨匠が真打的な迫力で聴き手を圧倒する。カノン風に織り込む主題に獅子吼するブラスを重ね、緩急をつけながら爆発的にクレッシェンドしていく場面はゾクソクするような興奮を誘う決めどころだ。

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うねるようなシンコペーションから強烈な7連打に収束する“ウルトラC”は神技を超越したもので、ティンパニをドカドカ叩き込んで突進するピウ・アレグロの軍楽的な行進にも快哉を叫びたくなる。力の限り吹き抜くコラール(407小節)、渾身の力を込めて叩き込む〈A-As-Fis-G動機〉、確信をもって打ち込む終止和音がシンフォニーを力強く締めている。巨匠の秘術と力業をあますところなく伝える納得の一枚だ。


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[ 2015/03/29 ] 音楽 ブラームス | TB(-) | CM(-)