ショルティ=ロンドン響の《プラハ》交響曲

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モーツァルト/交響曲第38番ニ長調 K504「プラハ」
ゲオルク・ショルティ指揮
ロンドン交響楽団
Recording: 1954.4.21,22 Kingsway Hall, London
Producer: James Walker (DECCA)
Engineer: Kenneth Wilkinson
Length: 24:57 (Mono)
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このディスクは、かつて1955年9月に発売されたLP(LLA10073) を復刻した珍しい音源で、血気盛んな若きショルティの“快(怪)演シリーズ”の一枚である。録音はショルティがフランクフルト市立歌劇場の音楽監督を務めていた時代にあたり、指揮者としてのキャリアをスタートした頃の貪欲な姿が刻み込まれている。レトロなオリジナル・ジャケットも魅力的で、ショルティ・ファンならずとも思わずジャケ買いしたくなるCDだ。

sv0043b.jpgショルティはキャリアのスタート時期から、モーツァルトの音楽と深い関わりがある。ザルツブルク音楽祭ではトスカニーニ指揮《魔笛のリハーサルでピアノを弾き、公演ではグロッケンシュピールの演奏を担当した。

トスカニーニから「ベ~ネ!」と褒められた時ほど嬉しいことはなかった、とショルティは述懐している。この時、作品の偉大さを理解したというショルティは、モーツァルトの音楽にこの上ない親近感を抱いたという。

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デッカ初期のショルティの録音を聴いてみると、どれもが粒ぞろいの名演奏で、確固とした主張に貫かれ、男性的でダイナミックな表現が大きな魅力。ここではスコアに俊敏に反応し、前へ前へと突進する若きショルティの気っ風の良い推進力が気持ちよく、エネルギッシュに弾き回す強靱なフレージングはもとより、バスの声部や打楽器の衝撃感を露骨に強調したデッカ・サウンドがモーツァルトのスコアを丸裸にしたような快感を誘っている。

sv0043c.jpg「えい」と鋭角的なスフォルツァンドを打ち込み、「これでもか」と力瘤を入れて突っ走るフィナーレの活力と、目を剥いたような強圧的で筋張ったアンサンブルも冠絶したもので、テンポはさほど変わらないものの、角が取れて音に丸みを帯びた後年のシカゴ盤の円熟したモーツァルトと聴き比べてみるのも一興だろう。

モーツァルト:交響曲第38番「プラハ」&第39番

OrchestraDateLevelSourceTotal
London so.1954.4DECCAUCCD378110:288:565:3324:57
Chicago so.1983.4DECCAUCCD374610:479:005:5125:38

「当ディスク所収の交響曲は、明快なバランス感覚を基本としながら、直裁なドラマが明滅するショルティのスタイルが、すでに鮮やかに刻印されているのが印象的である。第1楽章の序奏におけるしっとりとした色合いに加え、主部に入ってから、第1主題をきびきびと弾ませていく一方で、展開部や終楽章では、《ドン・ジョヴァンニ》を予告するかのように盛り込まれた緊迫感に富んだ響きや微妙な陰影を、ショルティが鮮やかに描き分けていく手腕が耳に残ることだろう。」 満津岡信育氏によるライナー・ノートより2007年)



第1楽章 アダージョ-アレグロ
sv0043d.jpg序奏の圧力の強い立ち上がりに仰天するが、ガッシリとしたアインザッツで克明に弾き出されるジュピター交響曲風の楽想は威勢がよく、バスの声部を「ズンズン」強調するシンフォニックな響きや木管の明瞭なフレージングは、モノラル録音とは思えぬ音ヌケの良さ。

力まかせに押し込むスフォルツァンドは、厳粛な気分よりも意欲と覇気が横溢する仕事師ショルティの面目躍如といえる。
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D音のシンコペーションから8分音符の連打で走り出す主部(第1主題)は活力が漲り、音楽は元気もりもりと躍動する。16分音符を力強く弾き回す副主題(55小節)は剛腕ショルティの独壇場で、線質のくっきりした強靱なフレージングによって目の醒めるようなゼクエンツを展開するところが聴きどころだ。
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拍節感のあるシンコペーション、「キュッ!キュッ!キュ!」とハネ上げる切れのある8分音符スタッカートバネを効かせたリズム感覚によってアグレッシヴに突進する音楽はすこぶるエネルギュッシュだ。
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sv0043e.jpg優美な弧を織りなす第2主題(97小節)は、オーケストラに歌うスキをあたえない。ファゴットで翳りを付ける転調をさっぱりと吹き流し、ドライな弓で第2句(112小節)やコデッタ主題(130小節)をキリッと弾き上げる潔さは、モーツァルトの柔肌にメスを入れる外科医を連想させる。

2群のヴァイオリンがシャッキリと交互に駆け合うゼクエンツの分離感と明瞭度も抜群で、とてもモノラル録音と思えぬ鮮度の高さがある。 [提示部の繰り返しは行わない]

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展開部(143小節)は、くっきりと眼前にスコアが浮かび上がるように、対位法を明確に解き明かすショルティの職人技が冴えわたる。ぴたりと決まるテンポ感にアクセントを際立たせ、精確かつストレートに直進ところは痛快の極みといえる。驚くべきはロンドン響の弦楽アンサンブルの性能の良さと運動能力の高さで、副主題のゼクエンツを「これでもか」と力瘤を入れて弾き回す強圧的なフレージングには驚くばかり。

sv0043f.jpg切れのある弓さばきを見せる再現部(208小節)は先鋭すぎる感があるが、指揮者はオーケストラを締め上げ、牛刀を振り回すようにモーツァルトの肉を容赦なく切り裂いてゆく。
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優美な歌はどこ吹く風で、「ぎゅんぎゅん」呻りを上げる凄まじいゼクエンツ進行が一網打尽に余情を吹き飛ばしてしまう。リズムをガンガン叩き込み、ぐいぐい押し切る強靱でメリハリのある終結部は、俊英ショルティの若々しい覇気と力業をあますところなく刻印した筋金入りの演奏といえる。


第2楽章 アンダンテ
sv0043g.jpgショルティは楽想の変転を緻密な棒さばきによって、克明に音化する。直角に肘を曲げる指揮者の動きに俊敏に反応するスタッカート処理がユニークで、キリリと引き締めて歌われる接続句や、パストラール風コデッタ主題の「ぴん」と張りつめたクリスタルのような響きも明快である。ここでは翳りを帯びた音の移ろいが、健康的に示されるのがいかにも当時のショルティらしい。

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展開部(59小節)はスタッカート・フォルテに即座に反応するところが即物的で、一体何事がはじまったのかと聴き手を仰天させる不意打ちといえる。右顧左眄することのない雄弁で肯定的な語り口も類例がなく、筆路明快に歌い込んでいく再現部(94小節)は緊密なフレージングと意志の力によって堂々と押し出し、音楽の骨格は揺るぎがない。


第3楽章 「フィナーレ」 プレスト
sv0043h.jpgアウフタクトに素早く反応するプレスト主題は、メカニックな拍節感と踏み込むような力強いリズムが支えとなって、剛腕指揮者が一気呵勢に畳み込む。幸福感に満ちた第2主題や木管のバーレスクはせかせかと歩を進めるが、わき目もふらず、ひたむきに音楽に正面からぶつかっていく職人気質がショルティたるゆえんだろう。[提示部を繰り返す]
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大きな聴きどころは、迷い無く突進する展開部(152小節)。瞬間湯沸かし器のように燃え上がるフォルテの総奏は、ショルティが得意の“エルボー・スマッシュ”を精力的に繰り出して、強力ぶりを発揮する。

sv0043i.jpg「がっつり」と喰らいつく弦のアタック、裏拍から空気を切り裂くように直進する切分奏法(184小節)、再現部の力瘤を入れたフォルテの和音(228小節)など、なよやかな身体を筋力トレーニングによって改造し、肉体の限界に挑戦するスポーツ刈りにした“鉄人モーツァルト”の姿がここにある!

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竹を割ったように明快でストレートに押し切る終結部はショルティが過度に熱くなることなく、統制されたアンサンブルによって引き締まった構成感を打ち出し、全曲をかっちりと締めている。モノラル録音ながら、血気盛んな壮年期ショルティの豪快な気風と、ロンドン響の強靱なアンサンブルを楽しめるユニークな一枚だ。

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歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」     :歌劇「ドン・ジョヴァンニ」


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[ 2015/05/18 ] 音楽 モーツァルト | TB(-) | CM(-)