ジュリーニのシューマン/交響曲第3番「ライン」

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シューマン/交響曲第3番変ホ調調 作品97「ライン」
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1980.12.1 Shrine Auditorium, Los Angeles
Recording Producer: Günther Breest (DG)
Recording Engineer: Hans-Peter Schweikman
Length:34:02 (Digital)
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1978年、ジュリーニのロスフィル音楽監督就任は楽壇を震撼させた。1シーズンに8~9のプログラムに限定して指揮し、音楽以外のマネジメントや資金集め等の義務を追わないことを条件に合意に到ったとされるが、蓋をあけてみればジュリーニはロスでの仕事を精力的にこなし、リハーサルでは楽員の信頼も厚かった。

sv0048k.jpgかつてメータの時代に色彩感鮮やかなデッカの名録音で一世を風靡したロスフィルだが、この楽団が名実ともに世界的な名声を得たのはジュリーニの時代とされる。楽員はイタリアの巨匠のもとで音楽を深めていくことを知り、オーケストラにウーンフィルのような“まろやかな響き”深い表現力が備わった。

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静かな暮らしを好み、内省的で深い芸術性をそなえたジュリーニにとって、世間ではこの組み合わせは長くは続くまいとの憶測が乱れ飛んだが、大方の予想を覆して契約は延長され、ドイツ・グラモフォンに一連のレコーデングが始まった。ジュリーニの残したロスフィルとの録音(13点)の中でも出色の一枚が《ライン》である。

sv0048b.jpgシューマンの管弦楽書法は弦楽器と管楽器を重ねすぎることから、指揮者によってオーケストレーションに手を加えられる場合が少なくないが、その代表的なものがマーラー編曲版で、ジュリーニはEMI盤と同様にこれを採用。たとえば第2楽章では、管楽器を大幅にカットしているのが聴いてとれるだろう。  amazon

ここでは、一点の濁りもなく晴朗に鳴り響く質の高いオーケストラ・サウンドが展開する。中間楽章では、しっとりとした抒情性と敬虔な表情を入念に刷り込りこんでいくあたりはジュリーニの真骨頂で、ホルンの斉奏が朗々と鳴り響く第1楽章フィナーレのツボを押さえた名録音もこの盤の大きな魅力といえる。

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「この〈ライン〉交響曲は本当に美しい。オーケストラのすばらしい響きが滔々と溢れるように鳴り、流れているが、少しも饒舌の感がない。それはいつものジュリーニの指揮と同様、楽器間のバランスと各声部の音色が磨きぬかれた精度をもっているからである。リズムと旋律の歌い方の明快明澄なことも特筆に価する。それはまるで湧き出る生命感そのものの呼吸のようにいきいきとしている。音色も全体として明るく、すべてが人生肯定的な色調に彩られている。」 大木正興氏による月評より、『レコード芸術』通巻第381号、音楽之友社、1982年)


「ロサンゼルス・フィルのアンサンブルもすばらしい。あらゆるパートが有機的に結ばれ、弦群のやわらかさとあたたかさ、そして管弦の融合の自然さは、アメリカの楽団では滅多ときけない美感をつくっている。ジュリーニはすでにこのオーケストラを完全に手中に収めている。第1楽章の明快さ、第3楽章の洗練の極ともいえるデリカシーの表出とふくよかな表情、第5楽章の細密画を見るようなきめこまかさのなかに、なおも認められるゆとりと生気は、これこそジュリーニの芸術的資質を示したものといえる。」 小石忠男氏による月評より、『レコード芸術』通巻第381号、音楽之友社、1982年)



第1楽章 生き生きと、4分の3拍子
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力瘤のない澄明爽快な総奏が心地よく、付点音符を長めにとって、シューマン特有のシンコペート・リズムをレガートで歌わせる手口はなるほど、ジュリーニ流。

哀愁を帯びた木管による抒情味あふれる第2主題(95小節)は聴き手の心に染み入るようで、これが晴朗なフレージングの弦に受け継がれて、音楽は滔々と淀みなく流れてゆく。驚くべきはヌケの良いホルンの音で、カノン風に模倣する主題展開(改変)の肉感のある響きが聴き手の耳に快い。

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展開部は、たっぷりと謡う第1主題、清冽なカンタービレを聴かせる第2主題など、ジュリーニの長いアームスから繰り出される振幅運動によって、音楽が大きくしなやかに息づいている。主題を変奏しながら、翳りを付ける味わい深さも特筆モノで、繊細なフレージングによって響きが厚ぼったくならないところがジュニーニの上手いところだ。

sv0048d.jpg大きな聴きどころは展開部終わりにマルカートで奏するホルンの斉奏(367小節)。ラインの伝説的な英雄像をシンボル的に吹奏する名場面で、清澄なホルンが朗々とした響きで高揚し、弦楽のさざ波の中から小節をまたいで抜け出す切分音が抜群の臨場感で迫ってくる。

華やぎのあるファンファーレもくわわって、力強く再現部へ導くジュリーニの絶妙の棒さばきにゾクゾクしてしまう。

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弦のトレモロを歌うように弾かせ、楽想の変転を絶妙のレガートによって継ぎ目なく流れる再現部は、“歌の指揮者”ジュリーニの独壇場。切分音型の第1主題が舞曲風に変奏されると、いやがおうにも祝典的な気分が盛り上がってくる。コーダは活き活きとした躍動感に充ち溢れ、澄み渡った青空に一点の濁りもなく鳴り響くホルンと、柔らかに打ち放つファンファーレが感興を大きく高めている。


第2楽章 スケルツォ、きわめておだやかに、4分の3拍子
sv0048e.jpg「ラインの朝」と名付けられた旋律は、ドイツ民謡〈ラインヴァインラント〉に由来する。ヴィオラとチェロが奏でる名旋律は滔々と流れ、大河に身をゆだねるように淀みなく歌われるのが心地よい。中間部で3連符の新たな主題がホルンによって情感ゆたかに導かれると、木管のレガートが明滅しながら彩りを添える。

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第1主題の再現も雄大な流れに揺るぎは無く、リハリを効かせたホルンが音楽に深みをあたえている。コーダは厚ぼったくなりがちなオーケストレーションをジュリーニは巧みに操り、立体感をつけて奥行きに富んだ演奏を聴かせてくれる。ゆたかな響きのホルンの斉奏(115小節)は、中世のドイツ・ロマンが香り立つような気分に溢れんばかり。


第3楽章 速くなく、4分の4拍子
sv0048f.jpg弦と木管とホルンのみによる穏やかな緩除楽章は、まったりとしたクラリネットの調べから抒情的な表情を紡ぎ出し、しっとりと哀感をしのばせる手口がジュリーニ流。5小節目から16分音符ではじまる推移主題は弦が中心に歌われるが、木管と溶け合ったハーモニーの美しさにも耳をそば立てたい。

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聴きどころは中間部(18小節)でファゴットとヴィオラによって歌われる下降音型の副主題。くすみがかった内声の歌わせ方は、かつてヴィオラ奏者として腕を鳴らしたジュリーニの面目躍如たるところで、中音部の旋律に翳りを帯びた表情をレガートで謳い、手の込んだ味わいを見せている。再現部手前(35小節)のリタルダンドも印象的で、ラインで生活する人々の内面からこみ上げてくるような情感にあふれている。

ジュリーニの時代にヴィオラの首席奏者をつとめていたのは大山平一郎で、アメリカのトップメージャー・オーケストラ史上、東洋人として初めての首席奏者となり、その後アンドレ・プレヴィンの時代まで13年間にわたってロスフィルで活躍している。


第4楽章 荘厳に、4分の4拍子
sv0048g.jpg作曲者がケルンの壮麗な大寺院で見た大司教の枢機卿昇進の祝典の情景の主要主題は、厳粛な気分に貫かれている。6小節から登場する弦の荘重な主題が対位法的に重ね合わされるところの緊迫感に身がすくむ思いである。

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2つの主題が結び合わされる第2部(23小節)は、各パートがカノン風に織り重ねられてゆくところが感動的で、旋律を重畳的に奏でて敬虔な表情を深めているのが聴きどころ。重厚なトロンボーが加わると壮麗さがさらに増してくるが、フィナーレのテーマを予感させる骨の太いファンファーレや、結びの力強い和音も印象的だ。


第5楽章 フィナーレ、生き生きと、2分の2拍子
sv0048h.jpg民衆の祭りをあらわす舞曲調の第1主題はリズミカルだ。しなるような弦のフレージングやわらかなレガート奏法に支えられて、ホルンが朗々と発するところは気分爽快。

スタッカート・リズム(57小節)に変わってもしなやかな音楽に揺るぎはなく、ホルンが突き抜けるように立ち上がる総奏の鮮度の高さも抜群である! リズミカルな弦の装飾音やトランペットのファンファーレが加わると祝典的な気分が大きく盛り上がってくる。

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ここでは、弱拍にアクセントを置いたシューマン独特のリズムを難なく捌いて精密なアンサンブルを聴かせるロスフィルの腕の確かさに驚くばかり。ホルンが新たな主題を朗唱し(展開部130小節)全管が声を張りあげる場面は圧巻で、弦のトレモロをエネルギッシュに走らせて(再現部154小節)、総奏でホルンを強奏させる颯爽とした立ち振る舞いもジュリーニの絶好調ぶりを伝えている。
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sv0048i.jpgコーダ(245小節)の音楽は力強い。大きく朗唱するコラールは活力に充ち、ジュリーニが精気溌剌とオーケストラをドライヴする。極めつけは271小節(練習番号L)の総奏の一撃で、トロンボーンが4分音符の楔を「バリッ!」と一発ぶち込んでオーケストラに火をつける場面はジュリーニのアグレッシヴな即興に快哉を叫びたくなる。

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シュネッラー(299小節)はホルンが「ここぞ」とばかりに豪快な3連音で炸裂。振幅をともなう加速はジュリーニ・リズムの典型で、爆発的な躍動感が聴き手の興奮を喚起する。弦楽器を走らせながら管の打撃をビシビシ打ち込むところは生気に溢れんばかりで、管弦の突き抜けるような冴えた響きが聴き手を最後まで魅了してやまない。良い音楽を聴いたという充実感のつよい1枚だ。


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[ 2015/08/29 ] 音楽 シューマン | TB(-) | CM(-)