クライバーのJシュトラウスⅡ/ポルカ《雷鳴と電光》

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ヨハン・シュトラウス/ポルカ《雷鳴と電光》作品324
カルロス・クライバー指揮
バイエルン国立管弦楽団
Recording: 1986.5.19, Tokyo, Showa Woman's Univ.
Location: Hitomi Memorial hall
CD: Memories ME1005 (2005/2/11)
Length: 3:16 (Stereo)
TOWER RECORDS


海外演奏家の来日公演において、カルロス・クライバー&バイエルン国立管弦楽団の1986年公演ほど強い印象を残した演奏はなかった。クライバーは1970年代は専らオペラが中心、80年代に入ると指揮する機会は激減し、たまに客演でオーケストラ・コンサートを振る程度であったから、1つのオーケストラで11日間、計8回のコンサートをわが国で精力的に演奏したのは音楽ファンには夢のような出来だった。

sv0052k.jpgプログラムは2種。〈A〉は3公演で「魔弾の射手」序曲(ウェーバー)、交響曲第3番(シューベルト)、交響曲第2番(ブラームス)、〈B〉は5公演で交響曲第4番と第7番(ベートーヴェン)。ことに後者はクライバーのオハコ中のオハコで、公演を重ねるごとに音楽に磨きがかかってきたと関係者は語っている。

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チケットはすでに5ヶ月前に2時間で完売。指定されたホテルの部屋が取れなかったり、手配ミスでスタンド付きの指揮台を東京文化会館から非公式に持ち出したり、といった予期せぬトラブルにも見舞われたが、公演最終日の5月19日をむかえ、昭和女子大学人見記念講堂にはNHKのカメラが入り、“伝説の名演奏”の舞台が整えられていた。

sv0052l.jpg公演のさなか、クライバーは同じく来日中のポリーニの演奏会に足を運び、小澤征爾夫妻を交えての会食を楽しんだが、数日後にマゼールからも会食のオファーが来たという。
この時、ベルリンフィル次期音楽監督のポストを虎視眈々と狙うマゼールは、最大のライバルと目されたカルロスに近寄って、さぐりを入れたらしい。

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「貴殿はヤル気あるのですか?」「とんでもない!そんなことに縛られるのはまっぴらごめんだ!」 これをきいたマゼールは上機嫌でレストランを後にしたという。
「くくく・・・これでベルリンフィルの次の指揮者はコノ俺かも。」


【ムック】カルロス・クライバー: 孤高不滅の指揮者 文藝別冊
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sv0052i.jpgこのとき、8回すべてのコンサートでアンコールとして演奏されたのが《こうもり》序曲ポルカ《雷鳴と電光》。ともにニューイヤーコンサートでも演奏したカルロス極めつけの演目だが、あの気難し屋がアンコールを2曲続けて演奏したのもめずらしい。

カルロスの本領はポルカにあるといわれるように、《雷鳴と電光》で水を得た魚のように指揮台で繰り広げるパフォーマンスの数々と、ツボにはまった即興的な演奏は、空前絶後とよぶにふさわしい後世に語り継がれる名演奏となった。

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「今でもバイエルン国立管のメンバーが口をそろえて礼賛し、思い出を語り合うのが最終日、5月19日の昭和女子人見記念講堂の演奏会。短期間のうちに5回の同一プログラムをこなした結果、オーケストラにクライバーの解釈が徹底され、まるで楽員全てがクライバーの魔術にはまったような感覚にとらわれたという。それは客席にも伝わってきた。終演後の客席の沸き方も凄かった。それを受けて演奏されたアンコールのJ・シュトラウスの《こうもり》序曲、《雷鳴と電光》を含め、クライバーのもっとも素晴らしい演奏会のひとつだと断言できる。」 「衝撃の来日公演~その記録と記憶」より岡本稔氏による~『レコード芸術』通巻第663号、音楽之友社、2006年)



sv0052f.jpg筆者はクライバーの実演に接したことがないのでえらそうなことは書けないが、コンサートのもようはテレビでも放送(1986年8月30日)されたから、演奏会に行かずともクライバーの一挙手一投足が目に焼きついている音楽ファンは多いはずだ。FM音声とミックスしたビデオテープを後生大事にとっておき、リニアPCM音声でDVD-R化したものを筆者はお宝のように鑑賞し、クライバーの指揮を真似して暴れてきた。

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はからずも、教育テレビ 『ETV50クラシック・アーカイブ~和洋名演名舞台~』という番組の第2部 「世紀の名演奏」(2009年1月9日)で最新の技術で修復したベートーヴェンの交響曲第7番の映像が、また、BS放送の『カルロス・クライバー特集』(2011年4月2日)でコンサートの〈完全版〉が最新の映像でオンエアされ、あらためて“伝説の名演”を目の当たりにしたのが記憶にあたらしい。NHK-FMのステレオ音声と同期を取った映像の商品化が是非とも望まれるところだ。

sv0052b.jpgこのコンサートは、コレクターズ・レーベルとして隠れ人気のある伊メモリーズ(MEMORIES)の輸入CD(ME1005)でも聴くことが出来る。1986年5月の録音としかクレジットされていないために音源は詳らかではないが、日本公演のものに違いない。ライヴにしては厚みのある高音質であることから、NHK-FMのエアチェックをソースとしているのかしら。

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ヨハン・シュトラウスが生涯に作曲した479曲のうち、ポルカは約100曲とされるが、中でも異彩を放つのが《雷鳴と電光》。大空を一瞬のうちに走る不気味な稲妻と耳を聾する雷鳴をたくみに描写した2拍子の早いテンポのポルカ・シュネルで書かれている。「もう1曲やるよ~ん」と客席に合図をしてカルロスが腕を回すや序奏の太鼓の轟音が轟き、客席の照明が落ちていく。

ポルカ・シュネル
sv0052h.jpg主部は大太鼓と小太鼓が連動して遠雷を描き出し、激しく音階を上下するチェロが突風を、ピッコロの叫びが雷の来襲を告げる荒々しい音楽だ。指揮棒を前に差し出して左右に大きく舞うようなカルロスの取り回しがユニークで、軽く前方に差し出した指揮棒でシンバルの強打を導く姿もかっこいい。“ヤル気のない”演技とは裏腹に、切れのあるリズムを打ち込んでダイナミックな嵐の総奏に突進するところにのっけからゾクゾクしてしまう。

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強烈なパーカッションを2発打ち込んだあとに、管楽器に向かって大きく伸び上がって指揮棒を「ちょい」と差し出すパフォーマンスが千両役者のようで、対照的に、指揮台のバーに片手を置いて、力瘤を拒絶したアクションからアナーキズムが漂っているところもカルロスたるゆえんだろう。不健康そうなカルロスの顔をクローズアップするショットが、嵐の不気味な楽想にフィットしているのがおもしろい。


トリオ
第1トリオは稲妻と雷鳴がけたたましく交錯しながら音楽が迫力を増してくる。ジューシーでコクのあるチェロの歌のあとに、ダイナミックに打ち下ろされるシンバルと大太鼓の衝撃音に思わずのけぞってしまう。
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指でつまむようにして、軽やかにちょこちょこと動かすタクトによって、雷(いかずち)の一撃が振り下されるところは魔術としかいいようがなく、腰を落として急降下するようにオーケストラを静止させるところなど、まるでジェットコースターに乗っているようで酔ってしまいそうになる。

「カルロスが要所で何度もアクセルを踏み直すように加速してアドレナリンを刺激する」 金子健志氏による~『レコード芸術』通巻第702号より、音楽之友社、2009年)


sv0052g.jpg第2トリオもすさまじい。雷鳴をあらわす大太鼓のクレッシェンド・デクレッシェンドにシンバルのクラッシュと金管が呻りをあげるところは迫力満点。弦のフレーズは泳ぐようなタクトによって、ゆったりとした流れをつくりつつ、要所で左手をくるくる回してオーケストラを煽って畳み込むニューイヤーコンサートでお馴染みのパフォーマンスも飛び出して、スリリングな興奮を高めている。

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ポルカ・シュネル(繰り返し)、シュルス(終止)
sv0052j.jpgシュネルの再現は、左手を手刀のように、ジャンプして打撃を叩き込むカルロスのパフォーマンスが飛び出して、音楽が俄然、熱気を帯びてくる。

快刀乱麻を断つがごとく「スパスパ」と歯切れ良く料理するシュルスは、まるで活劇を観ているような痛快さがあり、ポルカにラテンの感覚を持ち込んで指揮台で跳梁跋扈するクライバーの姿は、別世界に迷い込んだいたずら小僧が悪さをして愉しんでいる趣がある。

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両手を大きく広げて快活に演ずる動(明)の部分と、指揮台後方のバーを掴んで半身の体勢で「真剣に指揮をすることを拒むようなヤル気のなさ」を示す静(暗)の部分が奇妙なコントラストをつくり、両者が矛盾するかたちで音楽がコーダに向かって収斂する。

sv0052c.jpg最後のフェルマータの和音が鳴りはじまるや、曲が終わりきらぬうちに万雷の拍手喝采の嵐が湧き起こってくるところもライヴならで、会場に居合わせた聴衆の興奮と熱狂がディスクからも伝わってくる。   TOWER RECORDS

「に~~」と笑むカルロスの気味の悪い笑顔も印象的で、空前絶後の「ポルカ」は、まるで地上に降りてきた悪魔の悪戯のように思えてしまう。是非ともコレクションにくわえておきたいお宝の1枚だ。


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[ 2015/09/12 ] 音楽 J.シュトラウスⅡ | TB(-) | CM(-)