カラヤンのバルトーク/管弦楽のための協奏曲

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バルトーク/管弦楽のための協奏曲 Sz116
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1974.5.30 Philharmonie, Berlin (EMI)
Producer: Michel Glotz
Balance Engineer: Wolfgang Gülich
Length: 38:27 (Stereo)
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1970年代のカラヤンは、ベルリンフィルの音楽監督として飛ぶ鳥を落とすがごとく勢いで楽界に君臨し、「帝王」の名を欲しいままにしていた。就任間もない1957年にシュヴァルベ(第1ヴァイオリン)、カッポーネ(ヴィオラ)という要のポジションをドイツ系以外の奏者にすげ替えたのを皮切りに、ブランディス、シュピーラー、コッホ、ライスター、ザイフェルト、フォーグラーといった名人を次々と麾下におさめ、“黄金の70年代”を謳歌していた。


sv0056b.jpgレコードにおいても70年代は“傑作の森”といわれ、心身共に充実した60代のカラヤンが、自分の“楽器”と化したオーケストラを意のままに操り、次々に名録音を生み出していった。
皮ジャン姿で逆光に照らし出された“虚栄にふける横顔”はカラヤンが得意とするアングルで、カラヤンにとってジャケット写真の撮影はセッション以上に重要な仕事だった。あたかも映画俳優のようにきめた写真は「さぞや名演」をイメージさせるに十分な魅力あり、商業的な戦略においてもぬかりはなかった。
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「EMI盤のかっこいいジャケットは70年代前半に多い。例えば〈英雄の生涯〉。カラヤンの伝記を書いたオズボーンも指摘しているが、74年盤のジャケットは白髪のカラヤンが革ジャン姿で立ち、スポットライトが光る構図で、だれが見てもカラヤンが英雄と思ってしまう。もっとも欧州では指揮者ならぬ指揮官のような姿が、プロイセンの軍隊やナチスを連想させるという見方もあったそうだ。こうしたジャケットのかっこよさがカラヤンファンの財布のひもを緩め、偶像崇拝はしないと一部の音楽ファンを遠ざけたのは間違いない。」小松潔著『カラヤンと日本人』より、日本経済新聞出版社、2008年)



sv0056c.jpgこの〈管弦楽のための協奏曲〉は、カラヤンの3度目の録音となったもので、たっぷりと残響を取り込んだサウンドは、エッジを強調したグラモフォンの“固いサウンド”とは音の指向が大きく異なっている。

マニアには“ボヤけた音”と揶揄されるEMI録音だが、リマスターによって蘇ったクオリティの高いサウンドは、むしろCDの時代になって本来の輝きが現れたように思われ、このコンビの全盛期の姿があますところなく刻まれている。     TOWER RECORDS  amazon

ここでは《オケコン》が、まるで自分たちのために書かれた曲のように、確信をもって名人芸を披露するあたりはこのコンビにうってつけの曲といえる。楽想を入念に練り上げてシンフォニックに盛り上げるツボにはまった解釈と、ベルリンフィルの高度なパフォーマンスが結びついた演奏は、その後デジタルで再録音しなかったことからしても、カラヤンの揺るぎのない自信が曲の隅々にまで漲っている。

「豊麗な響きが特徴的で、〈悲歌〉のこってりしたレガートをはじめ、〈中断された間奏曲〉の76小節から〈戦争の主題〉が出る際に、大仰な抑揚を付けてノリのよい歌い回しをみせるなど、カラヤンらしい計算高さがすみずみまで貫かれたユニークな名演奏である。」 満津岡信育氏による月評より、TOCE13152、『レコード芸術』通巻第661号、音楽之友社、2005年)



第1楽章 「序章」 アンダンテ・ノン・トロッポ
sv0056d.jpgゆたかな低音弦の思わせぶりな動きは、いかにもカラヤン流。ドラマの始まりを予感させるフルートのパルランド・ルバート、主題を厳粛に吹き出すトランペット、「ここぞ」と滑り込ませる美麗な弦(51小節)を先導に、オーケストラが整然と主部に向かって躍動するところは芝居気たっぷりだ。

主部(76小節)はベルリンフィルの華麗な管弦楽の独壇場で、高性能のスーパーカーで縦横無尽に駆けめぐる快感を聴き手に与えている。

入念に練られた弦の美感も抜群で、詠唱するようなトロンボーンのひと節からロマンティックな気分が漂ってくる。オーボエが紡ぎ出す情趣ゆたかな第2主題(155小節)もたまらない。ローター・コッホの奏でる深く透明な音色は、まるで湖の底から聞こえる“神秘の調べ”で、ハープや弦の繊美なハーモニーの綾が巧緻に織り込まれてゆく。

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sv0056e.jpg大きな聴きどころは、推移主題を展開する強大なカノン(316小節)。厳粛なトロンボーンと燦然と打ち込まれるトランペットのファンファーレのマイルドな響きが心地よく、勇壮に吹き上げるホルンが祝典的な気分を高めている。

統率されたブラス軍団が打ち込む〈6声のカノン〉の壮麗さや、大音響の渦の中に聴き手を引き込む“革ジャン指揮官”の演出の巧さに思わず膝を打ってしまう。

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真打ち的な迫力で聴き手をねじ伏せるコーダの強大なフィニッシュもすさまじい。頂点に向かう最強音の響きはベルリンフィルのパワーと底力を誇示したもので、カラヤンはバルトークのスコアから劇性と交響性をあますところなく引き出している。


第2楽章「対の遊び」 アレグレット・スケルツァンド
sv0056f.jpgパントマイム風のスケルツォをカラヤンは諧謔味よりも歌謡性を重視して、よく弾み、よく歌う。オーボエやクラリネットのノリの良さ、びょんびょん弾むピッツィカート、目の覚めるようなフルートの装飾楽句によって、メロディアスな楽想の中に「これでもか」と美感をまき散らすところは“カラヤン美学”の極地といえる。

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弱音器を付けたトランペットの歌に弦の伴奏を精妙に絡め、美麗な弱音で魅せる一方で、ねばっこく歌わせて、こってりとロシア風に料理する中間部の〈コラール〉や、241小節でハープの和音グリッサンドを華美に強調しているところなど、カロリーの高い味付けで聴き手を酔わせるのがカラヤンらしい。


第3楽章「悲歌」 アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
sv0056g.jpgカラヤンは〈痛ましい死の歌〉をきわめて抒情的に、美麗の限りを尽くして歌いぬく。

オーボエの独白をかき消すほどに各パートの装飾を煌びやかに絡め、管弦の豪打を派手に加えてゆく手法はカラヤンの真骨頂で、ゴージャスな音響によって管弦楽作品としての醍醐味を堪能させてくれる。「待ってました」とばかりに弦楽が弓に圧力をかけて大きく揺さぶり、楽曲をドラマチックに盛り上げてゆくところ(45小節)はじつに感動的だ。

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中間部は、ヴィオラのパルランド・ルバート〈民謡旋律〉をコクのある太い響きによって聴き手を魅了する。ハープと弦の装飾音にペンキを厚塗りするように弦をなみなみと注ぎ込み、その頂点でトランペットを強奏する豊麗なサウンドと劇的な表現も類例がない。帝王カラヤンの卓越した手腕とベルリンフィルの底力を十全に発揮した名場面といえる。


第4楽章「中断された間奏曲」 アレグレット
sv0056h.jpg颯爽としたトリルで突入する弦、ブルガリア風の民謡主題を耽美的に歌い継ぐ木管がユニークで、気分は幻夢的でさえある。
ヴィオラの歌うハ短調の〈望郷のエレジー〉はしっとりとレガートをかけて“カラヤン節”によって美麗にたゆたうところはロマンティックな気分が横溢する。

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大きな聴きどころは中間部の「戦争の主題」=ショスタコーヴィチの〈レニングラード〉のパロディー。大きな間合いをとって、まるでウィンナ・ワルツ(原曲はレハールのメリー・ウィドウのワルツから引用)風のステップで歌うクラリネットは芝居気たっぷり。
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sv0056i.jpgわざとらしいリダルダンドでこれを嘲笑する場面は、ベル・エポック的な風情が音楽に快いポエジーをあたえている。

トロンボーンの思わせぶりなグリッサンド(90小節)、徹底した弱音で再現するエレジーのリリカルな味わい、コーダでみせる官能的ともいえる木管の妙技などの名人芸は枚挙に暇が無く、あの手この手の秘術によって聴き手を酔わせるカラヤンのしたたかぶりが浮かび上がってくる。

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「76小節からクラリネットが吹奏する〈戦争の主題〉がマキシムに対する賛美の歌詞であることを反映するかのように、大仰に抑揚を付けながらノリのよい歌い回しで演奏されている。115小節からのトロンボーンが巧言令色を労するかのように、ソット・ヴォーチェで鳴るあたりも特徴的。」 「究極のオーケストラ超名曲徹底解剖[2]より満津岡信育氏による、~『レコード芸術』通巻658号、音楽之友社、2005年)



第5楽章「終曲」 ペザンテ~プレスト
sv0056j.jpgカラヤン=ベルリンフィルの超絶的なアンサンブルを知らしめるのがフィナーレの舞曲だ。

ペルペトゥム・モビレ風の走句を颯爽と駆け抜ける高性能の弦楽合奏は絶妙で、嵐のように駆け抜けるフガート楽句(52小節)の速業に腰をぬかしてしまう。目の覚めるような弦の走句が精密にクレッシェンドする場面(132小節)など、あたかも自分たちの実力を誇示しているかのようである。    amazon  HMVicon

大きな見せ場は、田園風の中間部に躍り出るトランペットの第3主題(201小節)。遅めのテンポによって主題を手堅く打ち込むスタイルはいかにもドイツ風。整然と足並み揃えたブラス軍団を統率する指揮官の手綱さばきが格調高く決まっている。一糸乱れぬ弦楽フガートや、ストレッタ楽段の木管アンサンブルなど、いささかの狂いも生じぬ精巧な管弦楽を自在に操るところは“カラヤン・マジック”にほかならない。
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sv0056l.jpg再現部は、スピード感溢れる鮮やかな棒さばきや、妖艶ともいえる弦の表現力が特筆モノで、「どうだ!」といわんばかりに疾風怒濤の勢いでゴーシャスな管弦の嵐が吹き荒れる。

フィナーレの仕上げは第3主題をラプディックに変奏して吹奏するファンファーレ。大きな呼吸でフレーズの抑揚をつくり、壮麗壮大に歌い上げる凱歌は、無敵を誇る楽団を率いる“常勝将軍”ならではの確信に充ちたものだ。

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急迫的にたたみ掛けるコーダは、複雑な歯車の目をピタリと噛み合わせるように、カラヤンは精密かつダイナミックにオーケストラを駆動する。「ここぞ」とばかりにシンバルを叩き込み、滑り込むような総奏によって一気呵成に幕を引くところは、あたかもジェットコースターに乗っているような、スリリングな刺激と興奮を喚起して俗耳を楽しませてくれる。全盛期のカラヤン=ベルリンフィルの名人芸をあますところなく刻んだ一枚だ。


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[ 2015/11/14 ] 音楽 バルトーク | TB(-) | CM(-)