シカゴ響のムソルグスキー(ラヴェル編曲)《展覧会の絵》を聴く

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ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
ゲオルク・ショルティ指揮
シカゴ交響楽団
Recording: 1990.4.1 (Live)
Location: Suntory Hall, Tokyo
Rocording Director: Juro Yokoyama
Recording Engineers: Tetsuo Baba, Akira Fukuda
Source: DVD 88691975489 (Sonny)
Length: 32:43 (PCM Stereo)
Solti Conducts the Chicago Symphony Orchestra [DVD] [Import]


ゲオルク・ショルティの生誕100周年を記念して発売された当DVDのボックスセットには、かつてLDで発売されたことのあるシカゴ響の3度目の日本公演(1990年)で演奏したムソルグスキー(ラヴェル編曲)《展覧会の絵》が収められている。

sv0027l.jpgシカゴ響による《展覧会》といえば、商業録音だけで6種にもおよぶことから、“弦付きブラバン”の異名をとる名人オケの実力を発揮するのにうってつけの“看板曲”といえる。驚くことに、〈プロムナード〉のソロを楽団の首席奏者アドルフ・ハーセス(1948-2001在籍)がすべて受け持っているという。

アドルフ・ハーセスは、ボストンのニューイングランド音楽院を卒業と同時に1948年、ロジンスキーが音楽監督をしていたシカゴ交響楽団に入団し、以来、首席トランペット奏者としてシカゴ交響楽団の屋台骨をささえてきた名物奏者で“トランペットの神様”の異名をもつ。
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「安定した大きな音で吹く」「絶対に外さない」「バテない」という三原則を体現した名物奏者で、顔を赤らめて楽器を吹くさまは“赤鬼”を連想させ、入団以来半世紀以上にわたって同楽団に君臨した“神様”のみがが成し得た快挙といえるだろう。

シカゴ響ではハーセスを称え、首席トランペット奏者には“The Adolph Herseth Principal Trumpet Chair”の称号が与えれている(2013年4月、91歳で死去)。

ConductorDateLocationLevelSourceTime
クーベリック1951.4.23,24Orchestra HallMercuryPHCP1039028:31
ライナー1957.12.7Orchestra HallRCA8287661394233:05
小澤 征爾1967.7.18Medinah TempleRCA8869769100230:22
ジュリーニ1977.4.6Medinah TempleDGUCCG360834:29
ショルティ1980.5Medinah TempleDECCAUCCD375433:26
N.ヤルヴィ1989.11.27,28Orchestra HallChandosCHAN884932:52
ショルティ1990.4.1Suntory HallSONNY8869197548932:43


ラファエル・クーベリック指揮(マーキュリー盤)
sv0060b.jpgかつてオリンピア・シリーズ第1弾 (MG50000)として発売された初期ハイファイ録音の伝説の1枚。フルトヴェングラーの推薦で音楽監督に就任した36歳のクーベリックが、猛者ぞろいのシカゴ響を相手にひるむことなく、「剃刀のような鋭さと重器のような怒濤の力で押し切った凄演」(福島章恭氏)。
ここでは若きハーセスの活力のあるトランペットが魅力的で、もの凄いブィヴラートをかけて揺らせる〈古城〉のサックスは聴く者の心が震えそうだ。  

終曲の仕上げが1本調子でキメが粗いが、スピード感溢れるダイナミックな演奏は、トリビューン紙キャシディ女史の酷評なぞ吹き飛ばしてしまうことだろう。指揮台の上に吊るしたテレフンケンのコンデンサー・マイク1本によるマーキュリー録音は驚異的なダイナミックレンジを誇り、その鮮明な音はとてもモノラルとは思えない。すぐに廃盤になってしまうため、再発売の機会には是非とも入手しておきたい一枚だ。[PHCP10390]   [UCCP9464]


フリッツ・ライナー指揮(RCA盤)
sv0060c.jpg初のステレオ録音となったリビング・ステレオシリーズのSACDで、5本のマイクで収録した名録音(オリジナルは3チャンネル)。
《オケコン》とならぶライナーの決定盤で、元気溌剌とした演奏がいかにもこの時代を象徴している。〈ヴィドロ〉のたっぷりと太い音で歌うテューバと機銃掃射のような小太鼓に仰天するが、聴きモノは〈リモージュ〉から。

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ぶっきら棒でいささか乱暴だが、指揮者の熱き血を注ぎ込んだパワフルなシカゴ・サウンド〈大門〉に向かって爆音を轟かせるさまは恐怖すら感じさせる。苛烈な大太鼓の叩き込みと鮮烈なブラスは比類がなく、〈バーバ・ヤーガ〉はまるで血に飢え、キバを剥いた凶暴な鬼婆のようで、ここまでやると爆演に近い。 [82876613942]


小澤征爾 指揮(RCA盤)
sv0060d.jpgDSDリマスターでソニーから復刻された一枚。タワレコ企画盤(TWCL4018)もあった。ショルティが音楽監督になる前のマルティノン時代のシカゴ響に、32歳の若武者オザワが殴り込み、颯爽とデビュー。シカゴ響との縁はマルティノンの急病で、急遽ラヴィニア音楽祭の指揮を任されたことにはじまる。

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〈ヴィドロ〉はもっとエグりがほしい気がするが、〈プロムナード〉〈古城〉のマイルドな歌、〈テュイルリー〉のメルヘン的な上品さ、〈バーバ・ヤーガ〉のエネルギッシュな躍動感、〈大門〉の大砲のような大太鼓など、類い希な才能で名人オーケストラ相手にひるむことなく、思う存分に暴れるパフォーマンスは痛快で、若きオザワのフレッシュな覇気とセンスの良さが伝わってくる出色の一枚だ。 [88697691002]


カルロ・マリア・ジュリーニ指揮(グラモフォン盤)
sv0060e.jpgフランス的な色彩感や洒落っ気、こけおどし的な誇張を排除し、暗色系の重味のあるサウンドによって、スケール大きく真摯に歌いあげた秀演。エレジーのような詩情味あふれる〈古城〉、引きずるようなテンポで劇的に盛り上げる〈ヴィドロ〉はジュリーニの独壇場といえる。「演出めいたことを一切しない、いわば重心の低い、絶対音楽的な重厚路線の一枚」(野本由起夫氏)。

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〈サミュエル・ゴールデンベルク〉〈バーバ・ヤーガ〉は、シカゴ響ならではの強大で豪壮な管弦楽に酔わせてくれるが、〈大門〉の威風堂々とした歌いっぷりも聴き手に媚びぬ巨木のようなたたずまいがある。輪郭の明瞭な金管と、これを受けとめる重量感のある弦を克明にとらえたシャイベ技師の名録音にも大拍手。[UCCG3608]  《ブログ記事へ》



ゲオルク・ショルティ指揮(デッカ盤)
sv0060l.jpg初のデジタル録音となった特選盤。強弱指定を忠実に、ラヴェルのスコアを完璧に音化した文句の付けようのない超弩級の演奏で、名人たちがショルティの統率下で、管弦のバランスのとれたプロフェッショナルなパフォーマンスを最高度に発揮している。「豪速球による怪演。“胸のすく”とはこういう演奏を指すのだろう」(石原立教氏)。

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〈古城〉〈ヴィドロ〉はドライな印象があるが、〈テュイルリー〉〈雛の踊り〉〈リモージュ〉はリズムが明確で、切れば血の出るような鮮明な音に驚くばかり。〈バーバ・ヤーガ〉から〈大門〉にかけてのパンチの効いたダイナミックな表現は冠絶しており、史上最強と謳われたブラス・セクションのヴィルトゥオジティをいかんなく発揮した《展覧会》の決定盤といえる。[UCCD3754] [PROC1781]


ネーメ・ヤルヴィ指揮(シャンドス盤)
sv0060g.jpg1991年にNSC211(輸入盤)として発売されたものと同じジャケットで、英シャンドス原盤が未だカタログに生きているのは驚き。ゆたかな表情で、歌謡性を大きく打ち出した〈古城〉〈ヴィドロ〉が聴きもの。
〈テュイルリー〉〈雛の踊り〉〈リモージュ〉はやや味気ないが、〈バーバ・ヤーガ〉からオケにエンジンがかかり、〈大門〉のプロムナード主題再現からめっぽう速いテンポで突き進むところがユニーク。

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大きくねばるコーダでは期待に違わぬシカゴ・ブラスの大爆発を満喫させてくれるが仕上がりは粗い。トランペットのハーセス、サックスのレーン、ユーフォニアムのポコーニがクレジットされている。ショルティ盤のあとでは聴き劣りするのはやむを得まいが、名人ハーセスも〈シュミュイレ〉の後半では切れが甘くなり、全盛期に比べるとやや生彩を欠くようにも感じられる。 [CHAN8849]


ゲオルク・ショルティ指揮(ソニー盤DVD)
sv0060h.jpg1990年4月1日サントリーホールでのコンサートをNHKが収録した日本公演の貴重な映像。同ホールでのリハーサル風景と、ショルティ自身のピアノ演奏と語りを組み合わせた楽曲解説が付属するのもありがたい。

楽団員が高齢化した杞憂など吹き飛ばすようなダイナミックな演奏で、演奏後の興奮が覚めやらぬ観客の熱気が映像からも伝わってくる。

〈プロムナード〉ではノーラッカーのモネット、〈シュミュイレ〉ではピッコロ・トランペットを吹く赤ら顔のハーセスや、ホルンのクレヴェンジャーの安定感のある独奏を堪能できる。〈ヴィドロ〉では、トロンボーンのフリードマンがユーフォニアムに持ち替えて演奏。

〈ゴールデンベルク〉〈バーバ・ヤーガ〉の管弦のド迫力はもとより、細部の緻密な仕上げも冠絶しており、肘を直角に曲げて奇妙な動作で暴れるショルティ(77歳)の健在ぶりをあますところなく伝える空前絶後の《展覧会》である。 [88691975489]


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[ 2016/01/16 ] 音楽 ムソルグスキー | TB(-) | CM(-)