ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ指揮
パリ管弦楽団
ルーベン・ヨルダノフ(ヴァイオリン独奏)
1974年7月パリ、サル・ワグラム(ステレオ録音)
EMI TOCE59172(2003年3月発売)
Rimsky-Korsakov:Symphonic Suite "Scheherazade" Op.35 [47:48]
1.The Sea and Sindbad's Ship [11:29]
2.The Story of the Kalender Prince [12:58]
3.The Young Prince and the Young Princess [10:29]
4.The Festival of Bagdad;The Sea;The Ship goes to pieces on a Rock
surmounted by a Bronze Warrior; [12:51]
Mstislav Rostropovich,conductor
Orchestre de Paris
Luben Yordanoff (Violin solo)
Recording:1974.7.3,6,11,16,18 Salle Wagram,Paris (Stereo)
Producer:Ronald Kinloch Anderson
Balance Engineer:Paul Vavasseur
Tape Editors:Greco Casadesus
Remastering Engineer:Allan Ramsay (Art Series)
演奏★★★★★ 録音★★★★☆ [評価★が2点、☆が1点の10点満点]
お気に入りのCDや海外のライブ録音を気ままに紹介する Musikfreund(ムジークフロイント)。今回は、ロシアの5人組の1人であるリムスキー・コルサコフが「千夜一夜物語」(アラビアン・ナイト)を題材にして作曲した交響組曲「シェヘラザード」をロストロポーヴッチがパリ管弦楽団を指揮した演奏で聴く。

このディスクはロシアのチェリストがフランスのオーケストラを指揮した異色の演奏である。表情付けの濃厚な演奏が評判を生み、1975年のレコード芸術推薦盤になった名盤である。1976年のレコードイヤーブックには当時の批評が次のように要約されている。
「指揮者ロストロポーヴッチはこの絵巻物を実に絢爛たる筆致で描く。特に、作曲者の管弦楽法の手練手管が最も発揮された第2楽章では、その面白さを誰よりもうまく表出し、生々しい名録音にも助けられて、すさまじいばかりのスプレッシーヴォを見せる。終曲も推進力満点でテンポの上げ方が鮮やか。パリ管をこれだけ見事に統制し、豪華豊麗な色彩の饗宴を展開し尽くした手腕には感嘆の他はない。」
第1楽章「海とシンドバッドの船」。シャリアール王の重厚なテーマとハープの伴奏による独奏ヴァイオリンのシェヘラザードのテーマが交錯し、艶めかしく絡み合う。サル・ワグラムにたっぷりと響くパリ管の音響はじつに爽やかである。とりわけ木管楽器とトランペットの洗練された輝かしい響きが実に魅力的だ。バスのゆったりとしたピィツィカートにのったヨルダノフのヴァイオリンソロはこの上なく美しい。ヨルダノフはパリ管のコンサートマスターでブルガリア出身の名手である。
第2楽章「カランダール王子の物語」。カランダールとは諸国を行脚する苦行僧のことである。シェヘラザードの主題がハープの合いの手を伴ってヴァイオリンソロで奏でられる。つづくファゴットのくすんだ音色は幻想的な世界を醸し出している。このファゴットはフランス式のバソンではなく、すでにカラヤンの時代にドイツ式の楽器に改められているとのことである。中間部ではシャーリアール王の怒りを表すトロンボーンが派手に鳴るが、ロシアのオーケストラほど極端なヴィブラートはかけていない。ここからクラリネット、ファゴットとをはじめとするパリ管の管楽器奏者の名人芸のオンパレードで実に上手い。
ここではロストロポーヴッチは非常に濃厚に表情付けを行っており、身振り手振りの代わりに木管楽器を使って物語を語っているかのように表現のキメが細かい。また、さすがにフランスのオーケストラならではの音色がキラキラとした色彩感に満ているのが大きな魅力である。幻想的に波打ち響く弦楽器のピィツィカートやハープのはじけるような音はオーディオ効果満点だ。この録音は驚くほど高域が研ぎ澄まされた鮮やかな音で、特に管楽器の名手を揃えたパリ管の色彩感を余すところなく見事にとらえている。最後のホルンのソロに呼応したヴァイオリンの切ない音色は絶品である。
第3楽章「若き王子と王女」。この曲全体の中でも特にロマンティックな美しい旋律を持った楽章である。宇野功芳氏(音楽評論家)はロストロポーヴッチの演奏を推薦するものの、「問題は第3楽章で、ロストロポーヴィチは全体のこってりした表現に比べると、いささかあっさりしすぎ、期待をはぐらかされてしまう」(『宇野功芳のクラシック名曲名盤総集版』、講談社、2007年)と批評しているが決してそんなことはない。ほかのどの演奏よりもはるかにコクがあり、味わいが深い。
弦と木管がユニゾンでゆったりと歌う第1主題は非常に濃厚で音楽の恰幅が大きい。続く中間部では小太鼓のリズムに乗って、クラリネットが快活な舞曲風の王女のテーマを吹く。これを受けた弦楽器は大きく揺れて、たっぷりと表情付けされているのがたまらない。終結部はシンバル、ハープが加わると実に華麗なオーケストレーションが展開される。これほどの色彩感のある煌びやかな演奏はめったにお目にかかれるものではない。
第4楽章「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」。聴き所は主部のバグダッドの「祭り」の主題。6分の16の拍子でテンポは自在にめまぐるしく変化する。民族色を全面に出したフェドセーエフの演奏に対して、こちらはキラキラと輝かしいオーケストレーションの醍醐味を楽しむことが出来る。兎にも角にも豪華絢爛、あたかも壮大な絵巻物を見ているかのような演奏である。最後に独奏ヴァイオリンによるシェヘラザードの主題が消えゆく結末をしめくくるが、高弦の張りつめた美しい響きがいつまでも筆者の心に残った。
最後にパリ管弦楽団というオーケストラについて触れておきたい。このオーケストラはご存じの通り、1967年に文化省大臣アンドレ・マルローの提唱によって、パリ音楽院管弦楽団を発展的に解消して、シャルル・ミュンシュを指揮者に迎えて新たに組織したオーケストラである。ミュンシュの後は、カラヤン、ショルティ、バレンボイム、ビシュコフ、ドホナーニ、エッシェンバッハといった音楽監督が続いているが、この録音はバレンボイムがに着任する前年にあたる。
これを見ても分かるように旧ドイツ領アルザス地方出身のミュンシュを始め、ドイツ系の指揮者が占める結果、現在ではホルンをはじめとする管楽器はすべてドイツ式にあらためられてしまっている。特にバレンボイムがクリーヴランド管弦楽団のマイロン・ブルームをホルンの首席奏者に迎えた時に拍車がかかったとされるが、ちょうどこの録音を境目にして、パリ音楽院時代からの伝統的な色彩感は徐々に薄められ、次第にインターナショナルなサウンドに変質していったのが残念でならない。レコード芸術(音楽之友社)の2008年オーケストラ・ランキングは第10位である。
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パリ管弦楽団
ルーベン・ヨルダノフ(ヴァイオリン独奏)
1974年7月パリ、サル・ワグラム(ステレオ録音)
EMI TOCE59172(2003年3月発売)Rimsky-Korsakov:Symphonic Suite "Scheherazade" Op.35 [47:48]
1.The Sea and Sindbad's Ship [11:29]
2.The Story of the Kalender Prince [12:58]
3.The Young Prince and the Young Princess [10:29]
4.The Festival of Bagdad;The Sea;The Ship goes to pieces on a Rock
surmounted by a Bronze Warrior; [12:51]
Mstislav Rostropovich,conductor
Orchestre de Paris
Luben Yordanoff (Violin solo)
Recording:1974.7.3,6,11,16,18 Salle Wagram,Paris (Stereo)
Producer:Ronald Kinloch Anderson
Balance Engineer:Paul Vavasseur
Tape Editors:Greco Casadesus
Remastering Engineer:Allan Ramsay (Art Series)
演奏★★★★★ 録音★★★★☆ [評価★が2点、☆が1点の10点満点]
お気に入りのCDや海外のライブ録音を気ままに紹介する Musikfreund(ムジークフロイント)。今回は、ロシアの5人組の1人であるリムスキー・コルサコフが「千夜一夜物語」(アラビアン・ナイト)を題材にして作曲した交響組曲「シェヘラザード」をロストロポーヴッチがパリ管弦楽団を指揮した演奏で聴く。

このディスクはロシアのチェリストがフランスのオーケストラを指揮した異色の演奏である。表情付けの濃厚な演奏が評判を生み、1975年のレコード芸術推薦盤になった名盤である。1976年のレコードイヤーブックには当時の批評が次のように要約されている。
「指揮者ロストロポーヴッチはこの絵巻物を実に絢爛たる筆致で描く。特に、作曲者の管弦楽法の手練手管が最も発揮された第2楽章では、その面白さを誰よりもうまく表出し、生々しい名録音にも助けられて、すさまじいばかりのスプレッシーヴォを見せる。終曲も推進力満点でテンポの上げ方が鮮やか。パリ管をこれだけ見事に統制し、豪華豊麗な色彩の饗宴を展開し尽くした手腕には感嘆の他はない。」
第1楽章「海とシンドバッドの船」。シャリアール王の重厚なテーマとハープの伴奏による独奏ヴァイオリンのシェヘラザードのテーマが交錯し、艶めかしく絡み合う。サル・ワグラムにたっぷりと響くパリ管の音響はじつに爽やかである。とりわけ木管楽器とトランペットの洗練された輝かしい響きが実に魅力的だ。バスのゆったりとしたピィツィカートにのったヨルダノフのヴァイオリンソロはこの上なく美しい。ヨルダノフはパリ管のコンサートマスターでブルガリア出身の名手である。
第2楽章「カランダール王子の物語」。カランダールとは諸国を行脚する苦行僧のことである。シェヘラザードの主題がハープの合いの手を伴ってヴァイオリンソロで奏でられる。つづくファゴットのくすんだ音色は幻想的な世界を醸し出している。このファゴットはフランス式のバソンではなく、すでにカラヤンの時代にドイツ式の楽器に改められているとのことである。中間部ではシャーリアール王の怒りを表すトロンボーンが派手に鳴るが、ロシアのオーケストラほど極端なヴィブラートはかけていない。ここからクラリネット、ファゴットとをはじめとするパリ管の管楽器奏者の名人芸のオンパレードで実に上手い。
ここではロストロポーヴッチは非常に濃厚に表情付けを行っており、身振り手振りの代わりに木管楽器を使って物語を語っているかのように表現のキメが細かい。また、さすがにフランスのオーケストラならではの音色がキラキラとした色彩感に満ているのが大きな魅力である。幻想的に波打ち響く弦楽器のピィツィカートやハープのはじけるような音はオーディオ効果満点だ。この録音は驚くほど高域が研ぎ澄まされた鮮やかな音で、特に管楽器の名手を揃えたパリ管の色彩感を余すところなく見事にとらえている。最後のホルンのソロに呼応したヴァイオリンの切ない音色は絶品である。
第3楽章「若き王子と王女」。この曲全体の中でも特にロマンティックな美しい旋律を持った楽章である。宇野功芳氏(音楽評論家)はロストロポーヴッチの演奏を推薦するものの、「問題は第3楽章で、ロストロポーヴィチは全体のこってりした表現に比べると、いささかあっさりしすぎ、期待をはぐらかされてしまう」(『宇野功芳のクラシック名曲名盤総集版』、講談社、2007年)と批評しているが決してそんなことはない。ほかのどの演奏よりもはるかにコクがあり、味わいが深い。
弦と木管がユニゾンでゆったりと歌う第1主題は非常に濃厚で音楽の恰幅が大きい。続く中間部では小太鼓のリズムに乗って、クラリネットが快活な舞曲風の王女のテーマを吹く。これを受けた弦楽器は大きく揺れて、たっぷりと表情付けされているのがたまらない。終結部はシンバル、ハープが加わると実に華麗なオーケストレーションが展開される。これほどの色彩感のある煌びやかな演奏はめったにお目にかかれるものではない。
第4楽章「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」。聴き所は主部のバグダッドの「祭り」の主題。6分の16の拍子でテンポは自在にめまぐるしく変化する。民族色を全面に出したフェドセーエフの演奏に対して、こちらはキラキラと輝かしいオーケストレーションの醍醐味を楽しむことが出来る。兎にも角にも豪華絢爛、あたかも壮大な絵巻物を見ているかのような演奏である。最後に独奏ヴァイオリンによるシェヘラザードの主題が消えゆく結末をしめくくるが、高弦の張りつめた美しい響きがいつまでも筆者の心に残った。
最後にパリ管弦楽団というオーケストラについて触れておきたい。このオーケストラはご存じの通り、1967年に文化省大臣アンドレ・マルローの提唱によって、パリ音楽院管弦楽団を発展的に解消して、シャルル・ミュンシュを指揮者に迎えて新たに組織したオーケストラである。ミュンシュの後は、カラヤン、ショルティ、バレンボイム、ビシュコフ、ドホナーニ、エッシェンバッハといった音楽監督が続いているが、この録音はバレンボイムがに着任する前年にあたる。
これを見ても分かるように旧ドイツ領アルザス地方出身のミュンシュを始め、ドイツ系の指揮者が占める結果、現在ではホルンをはじめとする管楽器はすべてドイツ式にあらためられてしまっている。特にバレンボイムがクリーヴランド管弦楽団のマイロン・ブルームをホルンの首席奏者に迎えた時に拍車がかかったとされるが、ちょうどこの録音を境目にして、パリ音楽院時代からの伝統的な色彩感は徐々に薄められ、次第にインターナショナルなサウンドに変質していったのが残念でならない。レコード芸術(音楽之友社)の2008年オーケストラ・ランキングは第10位である。
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