バレンボイム=シカゴ響のチャイコフスキー/イタリア奇想曲

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チャイコフスキー/イタリア奇想曲 作品45
ダニエル・バレンボイム指揮 シカゴ交響楽団
Recording: 1981.3.25,27 Orchestra Hall, Chicago
Recording Producer: Steven Paul (DG)
Recording Director: Werner Mayer
Recording Engineer: Klaus Scheibe
Length: 15:42 (Digital)
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バレンボイムはシカゴ交響楽団に1970年代から客演し、イエロー・レーベル(ドイツ・グラモフォン)に積極的なレコーディングを行っている。このチャイコフスキーの管弦楽曲を収めたアルバムは、バレンボイムがシカゴ交響楽団の音楽監督に就任する以前のもので、会場は録音の“メッカ”となったメディナ・テンプル(回教寺院)ではなく、シカゴ響の本拠地、オーケストラホールが使われている。

sv0077j.jpgこのホールを録音スタジオとして使う場合は、前方の座席をすべて取り払い、ステージを広くして布などを張り巡らしていたという。

その卵形をしたデッドな響きで知られたオーケストラホールこそがシカゴ響の強力なブラス・セクションを生み出したという伝説めいた話がおもしろく、名物奏者を揃えたブラスの桁外れのパワーは他のオーケストラの追随を許さない。


sv0077a.jpgここでは、南国情緒にとんだ民謡の名旋律がメドレーで登場する澄明爽快な“イタ奇”を、バレンボイムがワーグナーの楽劇ばりにドラマティックな劇音楽に仕立てる大芝居を演じている。
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ヴィルトゥオーゾ楽団の機能性を十全に生かしながら、「ここぞ」という局面で爆音を轟かせる迫力は冠絶しており、シカゴ響がフル・パワーで爆発するタランテラ舞曲やコーダの空前絶後の一撃など、次元を超えた超弩級のダイナミズムを心ゆくまで堪能させてくれる。

「思う存分シカゴ響を鳴らしきる! 序曲《1812年》などそれを実証してみせたような演奏である。全開した金管セクションの迫力、ズンと響くトゥッティのヴォリューム感、派手な打楽器など、バレンボイムはスケールの大きいテンポ設定で痛快にまとめてみせる。特に終結部など未曾有の高揚感をおぼえる。こうした演奏は概して大味で雑なものになりがちだが、解釈的にはむしろ緻密に設計されている印象がある。完全に同オケを乗りこなしている。」 斎藤弘美氏による月評より、UCCG8029、『レコード芸術』通巻第617号、音楽之友社、2002年)



第1部 アンダンテ・ウン・ポーコ・ルバート
sv0077b.jpg活力のある〈騎兵隊ファンファーレ〉で開始するブラスの響きは、これぞシカゴ響を聴く醍醐味に尽きるといってよく、エッジの効いた歯ごたえのある音は、グラモフォンらしいリアリティにとんだものだ。

〈舟歌主題〉をワーグナーの楽劇のように悲痛な表情と大きな身振りで揺さぶるところはいささか芝居じみているが、“ジャーマン・サウンド”とよぶに相応しい重い響きがバレンボイムの棒によって入念に弾き出されてゆく。

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「シカゴ交響楽団は、私がジャーマン・サウンド(ドイツ的な音)と呼んでいる、非常に特別な音を持っている。アメリカ的なヴィルトゥオジティと化合した重量感のあるジャーマン・サウンドだ。そのサウンドは他のアメリカの楽団の持っていない音だ。堅実なヨーロッパ的基盤とアメリカのヴィトゥオジティの結合、いわゆるドイツ製のIBMのような非常に幸運な結合といえる。」 ウィリアム・バリー・ファーロング著『ショルティとのシーズン』より、マクミラン社、1974年)


sv0077c.jpgポッキシモ・ピウ・モッソ(94小節)でオーボエが二重奏で歌うのは、イタリア民謡〈美しい娘さん〉。リズムが重たいが、やわらかなコルネットのメロディー、しっとりと奏でるヴァイオリンの第2楽句、コクのあるチェロの経過句など、名人芸が次々に飛び出すと感興が大きく高まってくる。

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グロッケンシュピールが彩る煌びやかなメロディーに、ブラスの3連符リズムがガッシリと喰らい付き、爆音のように打ち込まれる和音打撃や痛烈なシンバルの一撃(173小節)を皮切りに、3連打撃の連続パンチで「これでもか」と畳み掛けるさまは痛快で、シカゴ響の猛者たちを奮い立たせるバレンボイムの“荒ワザ”をとくと堪能させてくれる。


第2部 アレグロ・モデラート
sv0077d.jpgイタリアのカーニバルを思わせる陽気な〈導入旋律〉(180小節)は、天才バレンボイムのキレのあるリズム感覚とアグレッシヴな突進力の独壇場。

第1ヴァイオリンとフルートの躍動の中からオブリガート・ホルンが突如浮かび上がってくる音場は気味が悪いほどで、クラウス・シャイベ(エンジニア)の腕が冴える。

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《イタリア奇想曲》のメインテーマ〈第2部主題〉(練習番号D)は、指揮者が少しねばり腰で歌うところがユニークで、通俗的なメロディーを安直に流さず、ドイツ流儀の拍節をまもったフレージングで捌くあたりは格調の高さを感じさせてくれる。
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〈舟歌主題〉の再現など、まるでブラームスを弾くような深い呼吸のアウフタクトが印象的で、コクのあるフレージングと弓の根元でぐいと弾ききる重心の低い音はバレンボイムの面目が躍如している。


第3部 プレスト
sv0077e.jpgサルタレッロのリズムにのった〈タランテラ舞曲〉(291小節)で、いよいよシカゴ響の猛者たちが「そろそろ行くぜよ」と仕掛けてくる。

「ドカン!」と一発、派手にぶち込む大砲のような一撃が凄まじく、これには仰天する。シンバル、大太鼓、ハープ、タンブリンの打楽器群もくわわって、これを一斉に鳴らしたときの途轍もない衝撃音は、シカゴ響(教)信者ならずとも思わず快哉を叫びたくなること請け合いだ。

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sv0077f.jpg3連打撃で畳み込むキレのあるリズム感と底力のあるパンチ力は、あたかも牛刀で鶏肉を裂くような快感があり、“弦付きブラバン”ならではの曖昧さの介在する余地のない鮮烈な響きが聴き手を圧倒する。

精緻で、しかも筆圧の強い響きは、高精度のデジタル録音によって一段とキレが増し、じつに聴き映えがする。タランテラの連続打撃から勢いよく弦を駆け込ませ、トロンボーンがリテヌートをかけるところの手に汗握る緊迫感は、スリリングの極みといえる。

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「どんな人でも、初めてコンサートでシカゴ交響楽団を聴いたときの衝撃は大きいだろう。車に例えれば、日本や欧州のRVに慣れていたところ、ハンヴィー(6000ccの重力3トンの4輪駆動車)が現れたという感じか。とにかく聴こえてくる音に目ならぬ耳を漲ることになる。それぞれのパートの音が極めて鮮明に聴こえ、しかも力強い。それがベートーヴェンであっても、ブルックナーであっても、これほど様々な楽器が鳴っていたのかと思うほど、多くの楽器の音が聴こえてくる。まさに史上最強のアンサンブルである。」 山田真一著「躍進し続けるキング・オブ・オーケストラ」より、2003年来日公演プログラム)



第4部 アレグロ・モデラート
sv0077g.jpgイタリア民謡〈美しい娘さん〉が総奏となるアレグロ・モデラート(455小節)は、ヴィルトゥオーゾ・オーケストラが持てるパワーをフルに発揮する。

トランペットとタンブリンが鋼のようなリズムを打ち込む迫力は次元を超えたもので、弦楽器、ホルン、木管が朗々と歌う民謡主題は、筋肉の付いたプロレスラーのようなイタリア娘を連想させ、骨格のガッシリした、スケールの大きな音楽だ。
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「南国情緒なんぞ糞食らえ、バレンボイム様のお通りだ!」といわんばかりに、天下のスーパー・オーケストラを不羈奔放に操り、パンチを効かせて爆進するところはやり過ぎの感はあるが、その大言壮語ぶりがゾクゾクするような興奮を煽っている。


第5部 プレスト
sv0077h.jpg〈タランテラ主題〉から突入するピウ・プレスト(549小節)は全管弦楽の総力をあげたシカゴ響の怒号とパワーが全開だ。

急迫的に追い込む2拍子のキレのあるリズム打ち(573小節)はもとより、プレスティシモ(597小節)から一気呵成に突進する仮借のないコーダは、ガソリンを満タンにした重戦車を馬車馬のように駆り立て、圧倒的なエネルギーと究極のダイナミズムをフル稼働する。
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「これでも喰らえ!と言わんばかりの爆発的なとどめの一撃は、シカゴ響が本気で鳴りきった時の威力をまざまざと伝えている。
これはバレンボイムが、巨大な管弦楽による重量級のサウンドで描いた壮大なイタリアの痛快活劇で、ヴィルトゥオーゾ・オーケストラの究極のパワーを知らしめる“爆演マニア”垂涎の一枚だ。


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[ 2016/10/08 ] 音楽 チャイコフスキー | TB(-) | CM(-)