オーマンディのブラームス/交響曲第1番

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ブラームス/交響曲第1番ハ短調 作品68
ユージン・オーマンディ指揮 
フィラデルフィア管弦楽団
Recording: 1959.2.8 (SONNY)
Location: Town Hall, Philadelphia
Disc: SICC1580 (2012/10/24)
Length: 44:51 (Stereo)
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この〈ブラ1〉は、ソニーとタワーレコードの共同企画によってオリジナル・ジャケットで復刻された〈Sony Classical スペシャル・セレクション第6期〉の1枚で、ブラームス交響曲全集(1966年~68年)に先立つ1959年に、単独でセッション収録されたというめずらしいアルバム(世界初CD化)である。

オーマンディ=フィラデルフィア管といえば、その“華麗なサウンド”で一世を風靡した名コンビとして名高く、筆者は1978年の来日公演を聴いている。プログラムにはブラームス第1番が含まれ、コンサート前後に購入した廉価盤LP(SOCT18 1976年3月再発売)は、懐かしい思い出になっている。

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フィラデルフィア管のブラームスといえば、どちらかといえばゴージャスで華美な演奏をイメージしがちだが、実演で聴いた“ブラ1”は、巷で喧伝された華麗な演奏とはほど遠い地味なもので、筆者は期待をはぐらかされたたような気持ちになった記憶がある。この時オーマンディは齢(よわい)79。よちよち歩きの頼りない好々爺といった風体で、実演は68年盤よりもさらに渋い、弦を主体にした落ち着きのあるヨーロッパ風のサウンドだったと記憶する。

今回、復刻された2種のCBS盤を聴いてみると、そこには他の楽団では耳にすることが出来ない独特の色合いを帯びたサウンドや磨きぬかれた名人芸が随所に聴かれ、当時、学生であった筆者の耳が実演に接したにもかかわらず、これらを聴き逃していたとすれば、まことに情けない話である。

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演奏は、フィラデルフィア管の精緻を極めたアンサンブルの妙技とメロウなサウンドに魅了させられるが、演奏スタイルは2者の間で大きく異なっている。この59年盤は、重厚で落ち着きのある68年の全集盤に比べて短めのフレージングによって、シャッキリと若々しいスタイルで仕上げられているのが特徴で、前のめりになって突進するテンポ感がすこぶる爽快である。

とりわけ管楽器セクションの名人芸が特筆モノで、アンソニー・ジグリオッティ(クラリネット)、ジョン・デ・ランシー(オーボエ)、ウィリアム・キンケイド(フルート)、メイソン・ジョーンズ(ホルン)といった腕利きの奏者たちのパフォーマンスが随所に散りばめられているのが大きなご馳走だ。終楽章のコーダで見せるスコアの改変が熱く畳み掛けるアッチェレランドと相俟って、すばらしい効果をあげているのも必聴といえる。

「50年代末から60年代前半にかけて、フィラデルフィア管はそのサウンドを大きく変革しており、ふたつの録音にもそのことが顕著にあらわれる。68年盤が弦楽合奏に深々とした音色を与えたうえで、相互によくブレンドする管楽器群を重ねていくのに対し当盤は弦がより直截に鳴り響き、かつ強奏では録音が古いせいもあるのか、輝かしくもいくぶん金属めいた艶を帯びる。管楽器も独奏陣を中心に個性が強く、合奏では響きがよく分離して透明度の高さを感じさせる。」 相場ひろ氏による月評より、『レコード芸術』通巻第747号、音楽之友社、2012年)



第1楽章 ウン・ポコ・ソステヌート

sv0008b.jpg厚みのある弦の半音階進行は、落ち着きのある中部ヨーロッパ風のサウンドで、弦を主体にしたバランスの取り方は、なるほど、ドイツの伝統に基づいたオーソドックスなスタイルだ。ティンパニの強打で決然と突入する主部の筆さばきは、60歳のオーマンディが見せる歯切れのよいスタッカートが印象的。

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昂奮の頂点(84小節)ではやみくもに力まず、颯爽としたフレージングで駆け抜けるあたりは、“粋”を感じさせるもので、牧歌主題(第2主題)を奏でるオーボエ、クラリネット、フルート、ホルンのメロウなサウンドにも耳をそば立てたい。

運命動機があらわれる小結尾(159小節)から展開部の闘争劇は、火花を散らすようなものではなく、美しい木管のハーモニーを明滅させながら、清澄で大らかな気分が支配する。コラール〈元気を出せ、わが弱い心〉(232小節)のシルクのような艶のあるストリングスによって、ゆったりとカノン風に高揚してゆくところは息を呑む美しさ!

反抗動機を繰り返しながら闘争の頂点(321小節)に駆け上がる場面のアタックの力強さや合奏の質の高さも充分に満足出来るもので、とくに再現部(339小節)からアンサンブルに切れが増してくるところも聴きどころだろう。


第2楽章 アンダンテ・ソステヌート

sv0008e.jpg緩除楽章は長閑でエレガントな風情に満ち溢れている。オーマンディといえば、とかくポップス指揮者”とか“何でも屋”と揶揄されて享楽的なイメージで捉えてしまいがちだが、「鳴らすべきは鳴らし、歌うべきは歌い、ヨタるべきはヨタる。曲自体が持つ起伏や曲折がどこもひっかかることなくすんなり伝わってきて、期待通りの感興が得られるので、カジュアル・リスニングに適している。」( 俵孝太郎氏による)

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大きな聴きどころは変奏風の主題再現(67小節)。夢から目覚めるようなフルベンの陶酔感とは違い、天国的でロマンティックな気分が横溢するのがオーマンディの真骨頂。村夫子然とした野暮ったい風貌でストコフスキーに見劣りするといわれたオーマンディだが、うら若き御夫人に蜜のような甘さで愛をささやくあたりは、この爺さん、ヤるではないか。

楽章の仕上げはデイヴィッド・マディソンの独奏ヴァイオリンが彩りを添える。ヴィヴラートをたっぷりかけた艶やかな美音と、適切なテンポ・ルバートによってメイソン・ジョーンズのホルンと絡み合うメルヘン的な気分はいかばかりであろう。第2楽章に関していえば、68年盤の独奏はこの上をいく空前絶後の美しさで、数ある名盤を凌駕する。


第3楽章 ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラチオーソ

インテルメッツォは名手ジグリオッティ(クラリネット)の独壇場だ。まったりと逍遙する主題呈示と肉感のある3連音のオブリガード、ヘ短調で翳りを付ける第2主題などは名人芸を極めたものだ。中間部(トリオ)のキビキビとした進行や、主部へ回帰するところ(109小節)のフルベンを思わせる強奏などは気っ風が良く、トリオを回想するコーダの精妙な味わいも格別である。


第4楽章 アダージオ-アレグロ・ノン・トロッポ・マ・コン・ブリオ

sv0008f.jpgブラ1の“キモ”というべき序奏部の〈アルペン動機〉は、雄大にクレッシェンドを重ねるホルンの名技と、突き抜けた高音を発するキンケイドの息の長いフルートに腰を抜かしてしまう。荘重なコラールからスケール感を増していくゆたかなサウンドもフィラ管ならではのものだ。

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主部の音楽運びはシャッキリと歯切れがよい。“歓喜の主題”を早めのテンポで木管が唱和するところは歌心に溢れんばかりで、第2主題の弦の柔和なニュアンスや、第2句〈慰めの主題〉(132小節)を奏でる甘美なオーボエ独奏などは絶品といえる。

再現部後半の踏ん張りどころ(257小節)から、いよいよオーマンディの気合いが入ってくる。音を割ったホルンの強奏を重ね、その頂点(279小節)で「これでもか」と金管を打ち込んでいく荒ワザは手に汗握る展開で、〈アルペン動機〉を高らかに奏するクライマックス(285小節)の一撃もすさまじい。第2主題部の〈慰めの主題〉を奏する弦楽セクションの妖艶ともいえるフレージングは、聴き手を夢幻の陶酔境へと誘っている。

コーダは、バスと木管が第1主題をカノン風に出して金管のアタックをワイルドにぶちかます。“必殺のシンコペーション”で「ぐいぐい」アクセルを踏み込んでゆくところは聴き手をゾクゾクさせる名場面といってよく、ティンパニをどかどか叩き込んで韋駄天のごとく駆け走るストレッタの進軍(ピウ・アレグロ)に快哉を叫びたくなる!

力を込めて回想する〈コラール句〉の総奏(407小節)で、聴こえるはずのないティンパニの連打を追加しているのに仰天するが、このスコアの改変はトスカニーニもやっている常套手段。A-AS-Fis-G動機のあとにティンパニを強打する力ワザを開陳した後に、弦のストレッタ主題にティンパニを重ねて叩かせる(447小節)というオマケ付き。固いティンパニと明るいブラスの響きをゴージャスに響かせて全曲を力強く締めている。これは買って損のない1枚だ。


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[ 2014/04/16 ] 音楽 ブラームス | TB(-) | CM(-)