ヨッフムのハイドン/交響曲第88番 「V字」

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ハイドン/交響曲第88番ト長調 「V字」Hob.Ⅰ-88
オイゲン・ヨッフム指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1961.10
Level: Deutsche Grammophon
Location: Jesus-christus-Kirche, Berlin
Length: 20:39 (Stereo)
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このディスクは、ヨッフムが3つのオーケストラとグラモフォンに録音したハイドン交響曲集で、第88番(ベルリンフィル)、第91番(バイエルン放送響)、第93番(ロンドンフィル)を収録したアルバム。中でも《第88》が驚くほどの名演奏で、筆者の手がよく伸びる一曲だ。

sv0085k.jpgヨッフムは70年代にロンドンフィルとランドン校訂版による〈ロンドンセット〉(第93番~104番)の録音を完成させているが、ステレオ初期にバイエルン放送響と第91/103番を、ベルリンフィルと第88/98番を残している。

この第88番は 1963年6月にSLGM1139(138823)としてLPで発売されて以来、長らくオクラになっていた貴重な音源である。
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sv0085b.jpgベルリンフィルの第88番《V字》といえば、同じグラモフォンでフルトヴェングラー指揮のスタジオ録音“決定盤”として知られている。

しかし、ベルリンフィルはその後、カラヤンとはレコーディングを行っておらず、ヨッフムがステレオ初期に《V字》の録音をのこしてくれたのは音楽ファンへの大きな贈り物といえないか。


a.jpgここでは、グラモフォンらしい立体感のある録音の良さもさることながら、抜群の機動力と緊密なアンサンブルを繰り広げるベルリンフィルの冴え冴えとした技巧が最大の聴きもので、楽想はのびのびと豊かな生命力に満ち溢れ、力瘤を廃してひた走るスピード感がゾクゾクするような快感を誘っている。

端正で古典的な造形をバランス良くまとめながらも、ヨッフムらしい南ドイツ的な大らかさと快活さによって、生気に充ちた演奏を繰り広げているのが最大の魅力だろう。

ConductorDateLevelsourceTotal
Furtwängler1951.12DG427404-26:496:174:223:3621:04
Jochum1961.10DGUCCG39896:246:154:343:2620:39
Rattle2007.2EMITOCE55993/46:445:453:573:3620:02

「ヨッフムのハイドンに対する姿勢は、いささかのぶれもなく、実に明快そのもの。彼のハイドンの音楽に対する適性をまざまざと知らしめてくれる。ベルリン・フィルはこの曲をフルトヴェングラーとも録音しており、それもすばらしい名演だが、このヨッフムとの録音は、主情に走りすぎず、しかし実に含蓄豊かな音楽が均衡のとれた造形と透明感に満ちた爽快な響きのもとに展開される。ハイドンやモーツァルトの音楽を的確な様式感のもと過不足なく実現すれば、自ずと意味深さが立ち現れてくる見本のような演奏といってよい。」 中村孝義氏による月評より、UCCG3989、『レコード芸術』通巻第663号、音楽之友社、2005年)



第1楽章 アダージョ-アレグロ
sv0085e.jpg交響曲第88番は、名だたる大指揮者たちが競って録音を残していることで有名な作品で、《V字》という表題はロンドンのフォスター社が出版した際に、その第2集(23曲)にAからWのアルファベットを付し、第88番に「V」の字が与えられたことに由来する。

16小節の序奏は、ゆったりと柔らかな和音と第1ヴァイオリンの伸びやかで優美な呼び交わしが心地よく、響きのゆたかさのみならず、深く長い弓を入れるスフォルツァンドと慈愛に満ちた柔和な表情に心惹かれてしまう。
ヨッフムの息づかいが聴こえてくる録音はライヴのように生々しい

sv0085f.jpg主部はきびきびと歯切れ良く、音楽は爽やかだ。ヨッフムはいささかの衒いもなく、緊密なアンサンブルと抜群の機動力によって、明快な造形を展開する。驚くべきはベルリンフィル奏者たちの腕の見事さだ。

単に合奏のキメが整っているというより、闊達自在なフレージングで駆け巡る躍動感に魅せられてしまう。小結尾の跳ねるようなみずみずさも比類がなく、低音弦がゴリゴリと歯ごたえのある分散和音を打ち返す生々しさが耳の快感を誘ってやまない[提示部の反復あり]。
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sv0085g.jpg展開部(104小節)はベルリンフィルの巧緻な弦楽アンサンブルの独壇場。第1主題の断片と分散和音のゼクエンツを颯爽と弾き回し、第2主題を内声に織り込んでゆくところは音楽が実に明快で、見通しのよい対位法など器楽演奏の神髄を堪能させてくれる。

再現部で躍り出るようなオブリガート・フルート(179小節)は歓びに満ち溢れ、ほっこりと鄙びた味わいの木管と、柔らかく解きほぐされた弦楽アンサンブルが感興ゆたかに躍動する。 TOWER RECORDS  amazon  HMVicon

コーダに向かって、奏者たちが愉悦感たっぷりと自発的に音楽に興じているさまが録音から伝わってくるのも嬉しい不意打ちで、シャッキリと締める終止和音はみずみずしさの極みである。


第2楽章 ラルゴ
sv0085h.jpgゆったりと真摯に歌い上げるラルゴ主題は、賛美歌《すべての恵みを垂れ給ふ神を讃える》から採られたもので、しっとりとオーケストラに溶け込みながら聴き手にやさしく語りかけてくれる。

滋味深い弦の合いの手を絡める第1変奏、フルートと第1ヴァイオリンが重厚に織り上げる第2変奏、オーボエの旋律に弦が32音符のオブリガートを滑り込ませる第3変奏の高貴な味わいはどうだろう。
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sv0085i.jpg大きく転調を入れたチェロとヴァイオリンがなみなみと歌い上げる第4変奏もすこぶる感動的で、厳粛な気分に充ち満ちている。

「がっつり」と歯ごたえのある強音をぶち込む豪放さも“南ドイツの野人”ヨッフムの面目が躍如しており、この老人は指揮棒なぞ持たずとも、あの長いアゴだけでオーケストラを統率出来るのではないか。



第3楽章 メヌエット、アレグレット
sv0085j.jpgどっしりと構えたメヌエットはいかにもドイツのカペルマイスター風で、腰の重い低音と堅固なたたずまいは頑固親爺を思わせるものだ。

ここでは、こせこせしない威厳に満ちた音楽運びが痛快で、装飾音の付いた4分音符をスタッカートで切らず、レガートでほどよく伸ばすフレージングがじつに爽やかだ。

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トリオは素朴な田舎の音楽だ。ヨッフムの、あの長いアゴの動きに反応するかのように、内声部のドローンが、“のったり”とたゆたうところがユニークで、後半では強弱対比を克明に付けながらも、ゆたかなニュアンスを失なうことなく音楽が息づいているあたりは、壮健なヴェテランの棒さばきといえる。
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第4楽章 フィナーレ、アレグロ・コン・スピーリト
sv0085l.jpgリズミカルなスタッカートでさばく第1主題は愉悦感たっぷりで、緊密なリズム打ちからダイナミックさを増して豪快に突き進むのがヨッフム流。

第1主題が発展する走句(33小節)から、ベルリンフィルの名人たちが「ここぞ」とばかりに分散和音を弾き飛ばして走り出すところが大きな聴きどころだ。

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緻密なスタッカートから属調上の第2主題の走句が躍り出るところの目まぐるしいスピード感は圧巻で、脇目もふらずに猛烈な追い込みをかけてコデッタ(小結尾)へ直進するヨッフムの“荒武者ぶり”に快哉を叫びたくなってしまう。
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sv0085m.jpg展開部(84小節)はいささかの力瘤も感じさせぬ弦のみずみずしさが際立ってくる。ト短調に転調した〈フガート楽想〉(108小節)を落ち着いた棒さばきと分厚い弦楽サウンドによって主題を厳格に織り込むところは、かつて“オーデル河畔のフルトヴェングラー”として知られていた巨匠の貫禄充分。  TOWER RECORDS  amazon

弦を噛むように弓の引っ掻く生々しい音が聴き手の耳を刺激するあたりは、なるほど、音のリアリティを追求するグラモフォンらしい克明な音造りといえる。

sv0085n.jpg第1主題が朗らかに戻ってくる再現部(158小節)もコツコツとしたリズム打ちで実直にひた走るが、結尾では胸のすくような豪打によってヨッフムはドラマの終結を宣言する。

目の覚めるような第2主題の走句をゾクゾクするような疾走感で聴き手の興奮を誘い、怒濤の勢いでコーダへ突入するところが最大のクライマックスだ!

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シャッキリと歯切れよく畳み込む終結のきびきびとした躍動感は若々しいエネルギーに溢れんばかりで、一服の清涼剤のように名曲を澄明爽快に締め括っている。ヨッフムがステレオ初期に遺した隠れ名盤ともいうべき掘り出し物の一枚だ。


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[ 2017/02/18 ] 音楽 ハイドン | TB(-) | CM(-)