スタインバーグ=ボストン響のホルスト/組曲「惑星」

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ホルスト/組曲「惑星」作品32
ウィリアム・スタインバーグ指揮
ボストン交響楽団&ニュー・イングランド音楽院合唱団
Recording: 1970.9,10 Boston Symphony Hall (DG)
Recordig Producer: Reiner Brock
Balance Engineer: Günter Hermanns
Recording Engineer: Joachim Niss
Length: 45:58 (Stereo)
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このDG盤は、スタインバーグが1969年から72年まで音楽監督を兼任していたボストン交響楽団(BSO)との初レコーディングにあたる。ドイツ生まれのスタインバーグはオーソドックスな手堅いスタイルの指揮者で知られるが、ライナー、ミュンシュ、セル、オーマンディ、バーンスタインといった米国の指揮者の中では地味な存在で、セールス的にはぱっとしなかった。

sv0086c.jpg久しぶりに再発売されたCDを聴いてみると、これが恐ろしや、気魄のこもったすさまじい演奏で、筆者は腰をぬかして驚いた。《惑星》はファンタジーや神秘性を求めるあまり、とかく生ぬるい演奏に終始してしまいがちだが、これを物足りなく感じている者にとっては大変聴き応えのある演奏で、“隠れ名盤”といえるのではないか。

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特筆すべきは、バンバンと張りのある音で突進するスタインバーグの力強いスタイルで、〈火星〉〈木星〉〈天王星〉ではハッタリのないドイツ風の重厚なサウンドで押し切る思い切りの良さは、数ある《惑星》の中で冠絶している。
〈金星〉〈水星〉の緻密なアンサンブルも秀逸で練り絹のようなストリングスの美感はもとより、ボストン響の持つカラフルな管楽器のサウンドを堪能させてくれる。

sv0086b.jpg録音の素晴らしさも見逃せない。いかにもグラモフォンらしいエッジの効いた音場は、聴き手に肉体的体験と興奮すらあたえてくれるリアリティに富んだもので、今聴いても古さを感じさせない。

この録音を手掛けたのは1959年以来、30年間にわたり一貫してカラヤンのレコーディングを行ってきたギュンター・ヘルマンスで、音楽の骨格とボディをしっかりとバランス良くとらえている。名録音として定評のある小澤盤(PHILIPS)と聴き比べてみるのも一興だろう。
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ConductorRecdateLevelMarVenMerJupSatUraNepTotal
Steinberg1970.9DG6:377:253:598:017:455:246:4745:58
Ozawa1979.12Philips6:457:554:088:028:455:418:1249:28

「大編成のオーケストラを巧みにコントロールし、曲の効果を最大限に引き出している。全体的にはやや一本調子ではあるが、原色豊かな胸のすくような豪快な演奏である。」 草野次郎氏による月評、UCCG5240、『レコード芸術』通巻第742号、音楽之友社、2012年)



火星「戦争をもたらすもの」 アレグロ
sv0086d.jpg弦のコル・レーニョ、ティンパニのオスティナート・リズム、ゴングのトレモロが抜群の躍動感と分離感で迫ってくるところに、のっけから度肝を抜かされる。

戦争の予感どころか、指揮官が甲冑に身を包んだ楽員をけしかけ、殴り込みをかけるように敵陣のただ中に突進させる気魄に圧倒されてしまう。「これでもか」とがっつりと吹き上げるブラスの第1主題と、きっぱりと歯切れ良く打ち込むトランペットの合いの手も気合い十分。
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sv0086e.jpgfffで立ち上がるパンチの効いた総奏(40小節)は圧巻で、胸底に響くように吹き抜く〈神の激怒の主題〉(第2主題)は敵陣を正面突破する堂々たるアプローチ

熾烈なアクセントを付けて叩き込むオスティナート・リズムはすさまじく、迷いなくぶち込むトランペットの切れ味も抜群! 分厚い弦をぐいくぐい押し込み、その頂点(66小節)で痛烈な一撃をくわえるあたりも音楽は気魄に充ち満ちている。
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PSOもBSOもスタインバーグが音楽監督に就任したときは楽団の士気が低下していたといわれる。指揮者が強権をふるっていた時代に、スタインバーグは楽員たちを礼節と尊敬を持って遇し、楽員と一蓮托生のポリシーによって楽団にヤル気と音楽をする喜びを与えてアンサンブルの質を一変させた、という話に「なるほど」と頷ける。

sv0086f.jpg中間部(68小節)は決戦を喚起するテューバの勇壮なイヴォケーション(第3主題)と、胸のすくようなトランペットのファンファーレが気分を大きく高めている。

前のめりにぐいぐい押し込むオーケストラ・ドライヴが痛快で、“向かうところ敵なし”の感があろう。低音弦が大河のごとくうねる〈死の舞踏〉(96小節)の緊迫感も無類のものだ。
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sv0086k.jpgクライマックスで立ち上がる爆発的な総奏(110小節)はこの世のものと思えぬすさまじさで、鋼のようなボストン・ブラスが「ここぞ」とばかりに炸裂する。

これをしっかり支える弦の底力も並々ならぬもので、リズミカルだがこざっぱりと腰の軽い小澤盤に比べるとオーケストラのボディが強固で、しっかりと鳴りきる“ジャーマン・サウンド”が痛快である。まさに〈戦争をもたらすもの〉にふさわしい力業といえる。  TOWER RECORDS


金星「平和をもたらす者」 アダージョ
sv0086j.jpg〈愛と美の女神〉はボストン響のソリストたちの独壇場。小澤盤は名手チャールス・カヴァロフスキー(1972~1997年在籍)の独奏ホルンが評判をよんだが、これはその上をいく美しさ。

チェロの分散和音はしっとりと潤いがあり、ロマンティックの極みといえる。最高の聴きどころがアンダンテの第2主題(30小節)。独奏ヴァイオリンの艶のあるカンティレーナや、光沢を帯びたようなアニマートのストリングスは息をのむ美しさ。
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sv0086m.jpg小澤のように繊細にやり過ぎると響きがうすくなってしまうが、その点、スタインバーグはコクのある響きを失わず、ウェットにたゆたうフレージングからメロウな味わいを巧まずして引き出している。

民謡調の第3主題を奏でる名人たちの独奏や、ハープとチェレスタのつぶ立ちが見えるように聴こえてくるのも美味しい耳のご馳走だろう。
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水星「翼のある使者」 ヴィヴァーチェ
sv0086h.jpg剽軽奇抜なスケルツォ楽想は、キメが整った楷書風の小澤に比べて流動感あふれる音の拡がりがあり、スコアが音にされた面白さがある。
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8分の6拍子に3拍子のハープ(10小節)を重ねたり、第1主題のモールス信号風のオスティナート・リズムや、2拍子のリズムを組み合わせた奇妙な感覚を生々しく表現。仕掛けや演出で聴かせるのではなく、オーケストラのために書かれた作品として実直に再現している。

3小節単位のオスティナート旋律を様々な楽器の組み合わせによって11回半繰り返す第2主題も聴きどころで、ソロ奏者たちが生き生きと歌い継ぐところはラヴェルの《ボレロ》を思わせるではないか。ここ一番で決めるトランペットとホルンも存在感を示しており、コントラ・ファゴットとコントラバスを噛み合わせた結尾の豊かな響きも特筆モノだ。


木星「快楽をもたらす者」 アレグロ・ジョコーソ
sv0086l.jpg〈快楽の音楽〉は骨の太い男の音楽だ。がっちりと立ち上がる総奏は力感が満点で、マイルドで力弱い小澤盤とはおよそ対照的。トランペットの強烈なファンファーレや64小節の痛烈な一撃もすさまじく、男気に充ちた勇壮な第2舞曲、どっしりと構えた重厚な第3舞曲がいかにもドイツのカペルマイスター風。

ストリンジェンドからみるみる加速をかけて突進する様は荒武者のようで、グロッケンシュピールの金属音も耳に刺激的である。
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sv0086n.jpg《惑星》のツボといえる中間部の〈わが祖国に誓って〉(193小節)は、安っぽいノスタルジーや民謡的な味わいとは一線を画し、気分はすこぶる厳粛である。

几帳面な歌わせぶりだがどこか高揚感に乏しい小澤盤に比べると、古典音楽のように造形を崩さぬ堅固な音楽運びから宗教的な崇高さが漂ってくるのが感動的で、分厚いサウンドによる高揚感も抜群である。
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再現部の総奏は、甲冑を身に纏ったような鋼のブラスは鮮烈で、パウゼから見得を切るように突進する第2舞曲やグロッケンシュピールとタンバリンを容赦なく叩き込む第3舞曲など、指揮者が小細工なしの強力ぶりを発揮するところに快哉を叫びたくなってしまう。放歌高吟するトランペットの目の醒めるようなハイトーンは肌が粟立つすさまじさ!


土星「老いをもたらす者」 アダージオ
sv0086r.jpg老いの疲れとわびしさを描くという意味では、さっぱりとした小澤盤も、たくましいスタインバーグ盤も健康的過ぎて場違いの感があるが、冒頭のコントラバスや中間部のシンコペートされた鐘の音の生々しい響きを楽しめる。

再現部は、弦楽セクションがイン・ストリングスでたっぷりと歌い上げたスケール感は絶大である。
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天王星「魔術師」 アレグロ
sv0086q.jpgここではスタインバーグが鮮やかな色彩効果を発揮しつつ、壮大な魔術を展開してゆくところが最大の聴きどころで、持ち前の武骨一辺倒で突進しながらもエグ味を効かせ、切れば血の出る熱っぽさで畳み込む。

シンバルやティンパニの骨力のある衝撃感も抜群で、ア・テンポの大総奏(193小節)ではパンチを効かせてグロテスクなまでに凄絶である。それに比して小澤盤はノリはよいがどこか上品すぎて生ぬるく、魔術というよりネタバレの手品を見ている感がある。
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sv0086i.jpg兎にも角にもオーケストラ全体が鳴りに鳴りきり、その威力は レヴァン=シカゴ響盤と双璧といえる。その頂点(221小節)で「ギュイ~ン!」と地響きを立てるように轟くオルガンのグリッサンドが強烈で、レントの深い呼吸のアインザッツと匂い立つような弦の音色にも耳をそばだてたい。

「バカスカ」と叩き込むティンパニの“とどめ打ち”も痛快きわまりなく、必殺仕掛人のような大芝居で聴き手の興奮を誘っている。  TOWER RECORDS  amazon  HMVicon


海王星「神秘主義者」 アンダンテ
sv0086o.jpg神秘の惑星のキモは中間部の〈天上の音楽〉で、ハープ、チェレスタ、弦が分散和音とアルペジオを重ね、その頂点で女声コーラスのヴォカリーズが遠くから聴こえてくる。

女声コーラスの上手い下手を論ずるのは野暮というものだが、スタインバーグ盤は模糊とした神秘感よりも、スコアに書かれた音をリアルに再現し、透明な響きを実現している。

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sv0086p.jpg音の純度からいえばDG盤のクリアな響きが魅力的だが、忘却の彼方に消えゆく神韻縹渺とした趣きは小澤盤も互角といえる。最後の小節は「響きがはるか遠くに消え失せるまで繰り返す」とスコアに指定されるが、ヴォカリーズの消え方がスタインバーグ盤の方が自然で、小澤盤はそっけなく途切れてしまう。
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ファンタジーや神秘的な気分よりも、オーケストラをガンガン鳴らして壮大な管弦楽の醍醐味を堪能させてくれる一枚だ。


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[ 2017/03/08 ] 音楽 ホルスト | TB(-) | CM(-)