フルトヴェングラー=ベルリンフィルのブラームス/交響曲第2番

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ブラームス/交響曲第2番ニ長調 作品73
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
Recording: 1952.5.7 Deutsches Museum ,München
Archive: Bayerischer Rundfunk
Henning Smidth Olsen No.301
Length: 41:04 (Mono Live)
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フルトヴェングラーのブラームス〈第2〉といえば、ロンドンフィルとのSP録音が早くから知られていたが、「極端に悪いデッカのレコーディングが、この演奏のうすぼけてにごったような効果をさらに助長している」(ピーター・ピリー)と言い表されるように、几帳面で穏やかな演奏であるものの音質面での難もあり、フルベンの真価を発揮した演奏とは言い難かった。

sv0089b.jpgデッカのプロデューサーであったカルショウによれば、神経質なフルトヴェングラーはセッションで複数のマイクが視界に入るのを嫌い、中央に1本のみを吊るしてレコーディングを行ったという。

そのためデッカ・サウンドの効果が十分に得られず、“散漫で泥のような音質”になってしまったと述懐している。
ジョン・カルショー著『レコードはまっすぐに』より、学習研究社、2005年

sv0089c.jpgその後、音楽ファンに長く待ち望まれていた〈ブラ2〉の実況録音が1975年になって相次いで登場した。

その中のベルリンフィルとの当盤はバイエルン放送局のアーカイブを音源とするが、放送のための録音は使用回数が決められているため、これをレコード化するには著作権の問題から所有者、演奏者、その遺族全員の許可を得なければならなかった。独エレクトローラ社は、その実現までに15年の歳月を要したという。

フルトヴェングラーの〈ブラ2〉はオールセンによれば、次の4種(うち1点は未発表音源)の演奏と第2楽章リハーサルがラインナップされている。

NoOrch.DateLocationFirst IssueOlsen
BPO1943.2.7-10Berlin, PhilharmoniePrivate arch.O_79.5
VPO1945.1.28Wien, MusikfereinsaalWF SocietyO_107
BPO1947.9.14Berlin, NWDR Studio-2mov.RHTahraO_119.9
LPO1948.3.22-25London, Kingsway HallDECCAO_129
BPO1952.5.7München, Deutsches MuseumEMIO_301

sv0039q.jpg未発表の①は私的保管。②は“脱出前夜のブラ2”とか“脳震盪のブラ2”と呼ばれる亡命前夜の演奏という曰く付きのもので、1975年に発売されたエンジェル盤(ユニコーン原盤)やワルター協会盤はモコモコと靄の掛かった音だったと記憶する。(写真はOB7289/92-BS)

しかし、②も③も凡百の演奏とは比較にならぬもので、音質が改善されれば従来の評価が変わってくる可能性もあるだろう。

sv0089e.jpg②と前後して真打的に登場したのが“ミュンヘンのブラ2”とか“博物館のブラ2”と呼ばれる前述の本家ベルリンフィルとの④(当盤)。

1952年という時期からしても②や③と比べて音質が格段にすぐれ、フルベン愛好家の喉の渇きを潤す“決定打”の登場に筆者は快哉を叫んだものである。ところが、今、CDで聴く貧相な音は何としたことだろう。

NoOrch.DateLevelSourceTotal
Wien po1945.1.28WSOB7289/92BS14:1010:085:458:2438:27
London po1948.3.22-25DeccaMZ501215:1310:516:118:5841:13
Berlin po1952.5.7EMIWF60017   15:2610:315:508:5540:42


sv0089f.jpg手持ちのEMI盤(TOCE3790)は骨と皮だけの痩せたギズギスした音で、LPのような肉の付いた迫力あるサウンドが味わえない。
Abbey Road Studioで原テープからリマスターしたと謳うSACD(WPCS12897)に到ってはさらにひどく、キンキンと高域の荒れた音に耳を塞ぎたくなってしまう。同じリマスターからCDに転用したEMI録音集(CZ9078782)は、逆にピントの甘いどんよりとした音になってしまった。

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sv0089g.jpg「音質改善の効果が著しい」とか「音楽の息づかいが鮮やかに伝わってくる」などと書かれた音楽雑誌の提灯記事を鵜呑みにして購入すると落胆させられることが多いが、元来音質が悪いものをSACD化したところで音が固くなったりノイズが強調されるだけのように思われる。

“音楽の息づかい”なぞ何をいわんやで、ハイブリッド盤のCD層の方が聴きやすくなかろうか。その点、仏協会盤(SWF062-4)はLPのような迫力はないにしても、市販盤よりみずみずしい音が聴けるのはありがたい。

sv0089h.jpgしかし筆者は、LP(WF60017)で聴いた音のイメージがつよく焼き付いているためか、CDでは迫力の点でどうしても物足りない。

今、あらためて比較して聴いてもズシリと腹に響くストロークの重みや、管弦の厚み、金管の切れなど、モノラル専用カートリッジで擦った音の違いは歴然。筆者はこれをCD-R化したものをお宝のように聴いている。

「1952年にベルリン・フィルを指揮した実況録音で、音質もかなり優秀である。きわめて集中力の強い、劇的な起伏と明快さをもった演奏で、一般のこの作品に対する通念を超えたところで、情熱にみちあふれた音楽がつくられているのもフルトヴェングラーらしい。」 小石忠男氏による月評より、WF60017、『レコード芸術』通巻第362号、音楽之友社、1980年)


「それにしてもなんと凄い演奏なのだろう。(略)第1楽章は淡々と始まるが、推移の途中から突然アッチェレランドしてハイになる。第2主題の濃厚な表情、展開部の高揚、再現部の付点リズムの切れ味も凄い。第2楽章のデリケートな表現もいいが、なんといっても終曲の波のうねりのように高まってゆくところがすばらしい。再現部は完全にノッいて、第2主題でもテンポを落とさず、終結まで一分の弛みもない。」 横原千史氏による月評より~TOCE9086/9、『レコード芸術』通巻第551号、音楽之友社、1996年)



第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
sv0089i.jpg神秘の泉から湧き出ずる謎めいた開始はいかにもフルベン流。清流のような間奏主題(44小節クララ・モチーフ)からシンフォニックに立ち上がる総奏や、野太い音でゆたかに歌う第2主題、見得を切るように堅固なリズムでさばくコデッタの付点フレーズもフルベンの個性がつよく刻印されている。(写真は仏協会 SWF062-4)

ティンパニの強打とトランペットの強奏でメリハリをつける前進駆動もフルベンの自家薬籠中のものといえる。

展開部(180小節)は田園情緒にドラマ性を移入するフルベンの独壇場。低音を強調して対位法を明確に提示するリズミックな躍動感と、抉りの効いたフレージングは無類のものだ。

sv0089j.jpg驚くべきは、トロンボーンを打ち込む闘争的なヤマ場で楽譜にないティンパニを弦のトレモロに重ねているところ(227と233小節)で、落雷のような打ち込みが②や③に比べて強烈なインパクトを与えている。

主題の冒頭を威嚇的に吹奏するクライマックスの骨の太い響き(282小節)や、ティンパニの最強打で展開部を締める力ワザ(298小節)に「これぞフルベン!」と膝を打ちたくなる。  amazon

sv0089k.jpg再現部(302小節)も聴きどころが満載だ。絶妙のリタルダンドを配して第2主題部へ移行するところは巨匠の奥義を開陳した“名場面”といってよく、もってりと揺動するヴィオラとチェロのコクのある響きに酔ってしまいそうになる。

リズムが切り立つクワジ・リテネントのティンパニの強打(386小節)や総奏のトランペットの強奏(402小節)は聴き手の度肝を抜くが、コーダ身をよじるように旋律をふくらませる濃厚な歌い口(478小節)もフルベンを聴く醍醐味といえるだろう。  amazon

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「演奏スタイルは4年前のロンドン盤と同じであるが、ずっと表情的であり、密度が濃く、燃え立っており、オーケストラの厚みやコクがまるで違う。たとえば第1楽章の44小節から始まる間奏主題の美しいこと! 全曲どの部分をとっても意味があり、曲想変化に伴うテンポの動きもえぐりが効いている。それでいて造型はまさに完璧、一箇所としてもたれる部分はない。ベルリン・フィルの響きにはいっぱいの精神が羽ばたいており、フルトヴェングラーの気魄もものすごく、とくにティンパニの迫力はその比を見ない。展開部では楽譜に書かれていないのに強打しているが、ロンドン盤よりはるかに徹底しており、雄弁である。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの名盤』より、芸術現代社、1977年)



第2楽章 アダージオ・ノン・トロッポ
sv0089l.jpgチェロの物憂い主題は歌い過ぎず、思案しながら、追想にふけるように奏するのがフルベンらしい。

リステッソ・テンポ(中間部)は速いテンポで駆け抜けるが、長いパウゼのあとの思いためらうようなエスプレッシーヴォ主題(コデッタ主題 45小節)が個性的で、うねるような16分音符の分厚い弦の対位を交錯させながら、巨匠は悲劇の気分を盛りつける。  TOWER RECORDS

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暗く閉ざされた森の中から聞こえるトロンボーンと木管の対話。あたかも死出の旅立ちであるかのような暗澹たる響きの深さはいかばかりだろう。

「なにやら差し迫った危機を警告するように、隣接音に向かってゆっくりと、しかし剛胆に音量を膨らませ、また萎む。(略)これは恣意的なデフォルメではない。宗教的な含意の濃いトロンボーンを汎用するこの交響曲は、ブラームスが〈楽譜に黒枠を付けたい〉などと言い残しているだけに、なにかしら弔いの感情と結びついているようにも察せられる。フルトヴェングラーが聴かせる音色は、そうした感情にも、どこかふさわしい。」 船木篤也著「フルトヴェングラーのブラームス」より~文藝別冊『フルトヴェングラー』、河出書房新社、2011年)


sv0089m.jpgスローモーションのようにねっとりと奏でる主題再現悲劇の気分が引きずられてゆく。

なかでも瞑想にふけるように取り回す3連音の主題変奏(68小節)が大きな聴きどころで、ホルンと対話を重ねながら纏綿とたゆたうコクのあるフレージングと、そこから発展する詠嘆的な弦の歌(73小節)がじつに感動的だ。

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警告を発するようなクライマックスの総奏もすさまじい。雷鳴のようなティンパニの連打で劇的に高揚するコーダの筆圧の強さは圧巻で、のたうつような弦のうねりの渦の中に身も心も引き込まれてしまいそうになる。


第3楽章 アレグレット・グラチオーソ(クワジ・アンダンティーノ)
sv0089n.jpg間奏風の素朴な旋律は鄙びたオボーエがレトロな気分を高めている。しかし、長閑な田園風物詩で終わらないのがフルベンたる所以で、どこか厳粛な気分が漂っているのが神業といえる。
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プレストでは木管のミスでアンサンブルが乱れるのがご愛敬だが、どっしりと構えた堅固な構築物を思わせる重厚な総奏が聴きどころ。主題再現(テンポ・プリモ)の温もりのある歌や、ピアニシモのフレージングの妙味も聴き逃せない。

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一抹の寂しさを漂わせながらリタルダンドする終止も巨匠の手の内を見せたもので、来るフィナーレへの期待を自ずと聴き手にいだかせているのが心憎い。

「第3楽章は木管による主題の最初の4分音符からして惹かれるが、頻出する大きなリタルダンドがいかにもフルトヴェングラーらしい。終わりのポコ・ソステヌートにおける名残惜しげな奏し方などその最たるものだが、決して大げさな感じにはならないのである。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの名盤』より、芸術現代社、1977年)



第4楽章 アレグロ・コン・スピリト
sv0089o.jpgフィナーレは巨匠が烈火のごとく燃え上がる。第2主題でもテンポを落とさず、一気呵成に展開部まで突っ走るところに思わず指揮をしたい衝動に駆られてしまう。

ここではビートの効いた熱いフルベン節による“鉄血サウンド”が全開で、「ガツンガツン」と鉄槌を打ち込むようなティンパニの重みのあるストロークが演奏に凄みをあたえている。
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sv0089p.jpg弦が3連音符で刻みながら音階を降りるパッセージを猛烈なアッチェレランドで追い込むところ(98小節)も冠絶しており、シンコペーション(112小節)の乱れを物ともせず強引に弾き抜くところや、弦が8分音符のスラーで音階を駆け上がる荒ワザ(135小節)に背筋がゾクゾクしてしまう。
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展開部の終わり(234小節)のリタルダンドは巨匠の常套手段といえるが、爆発的な総奏から激しい気魄で荒れ狂う再現部(244小節)はフルベンの面目が躍如しており、重厚な第2主題から畳みかけるようにコデッタ主題(317小節)へ爆進するノリの良さもこの盤の魅力のひとつだろう。

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「フィナーレは第1楽章ほど完璧ではないが、実演の彼ならではの荒れ狂った演奏で、緩急の度合いがまことに大きく、わけても情熱のかたまりのようなアッチェレランドと、"ものすごい"の一語に尽きるティンパニの最強打は、フルトヴェングラーを聴く醍醐味といえよう。」 宇野功芳著『フルトヴェングラーの名盤』より、芸術現代社、1977年)


sv0018i.jpg第2主題が〈歓喜のコラール〉となってたぎり立つコーダ(353小節)は、3連音動機からテンポを速め、コデッタ主題の金管が炸裂するところ(386小節)が最大のクライマックスだ! 
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火のついた勢いで疾走する弦楽器の分散和音にトロンボーンとトランペットがカノンでぶつける頂点は無我夢中になって猛り狂うフルベンのパッションが噴出する。

進軍ラッパのようなファンファーレを轟かせ、トランペットの最強音で止め打つのも巨匠の“必殺ワザ”で、爆発的なダイナミズムで聴き手を圧倒する。
デッカ盤の不満を払拭する納得の一枚だ。


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[ 2017/04/29 ] 音楽 ブラームス | TB(-) | CM(-)