ジュリーニ=シカゴ響のドヴォルザーク《新世界から》

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ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界から」
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 シカゴ交響楽団
Recording: 1977.4.2,6 Chicago Orchestra Hall
Recording Producer: Günther Breest
Director: Cord Garben
Recording Engineer: Hans-Peter Schweikman
Length: 45:48 (Stereo)
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イタリアの名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニは、1970年代に首席客演指揮者の任にあったシカゴ交響楽団を指揮してすばらしい録音の数々を遺している。

sv0080d.jpgとくに〈第9シリーズ〉は究極の名演として知られ、マーラー、ブルックナー、シューベルトと並んで賞賛されているのがドヴォルザークの《新世界》だ。

この《新世界》は、DGのシカゴ響シリーズ第4弾として1978年6月にLPが発売されて推薦盤になったもので、前年にはマーラーの第9番がレコードアカデミー賞(交響曲部門)を受賞してジュリーニが巨匠として急速に飛躍し、クローズアップされた時期のもの。
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sv0036i.jpgレコード・ジャケットも発売当時は大評判になったもので、シルク・ハットをかぶって渋くきめたジュリーニのいでたちはイタリアン・マフィアの親分を彷彿させる。

映画俳優のようなジュリーニのダンディぶりは、じつは実業家の令嬢で、やり手で知られた奥さんのマルチェッラの演出によるものとされる。
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「ジュリーニーは実際面では“本当にどうしようもない人”で、ルックスがいいのは、マルチェッラが彼の求めに応じて、テイラーにすばらしいカットの服を注文してくれるからである。」 ヘレナ・マテオプーロス著『マエストロ』より、石原俊訳、アルファベータ、2006年)


sv0090a.jpgジュリーニはドヴォルザークの交響曲を若い頃より得意のレパートリーとしていたが、トスカニーニ流の颯爽とした早いテンポのフィルハーモニア管との演奏(1961年)から大きな変貌を遂げている。  amazon

ここにはある種の取っつきにくさがあるものの、シカゴ響の重厚なサウンドによるシンフォニックなスケール感厳粛な味わい深さを合わせもった硬派の演奏といえる。


sv0090b.jpgオーケストラを厳しく統制した気骨のある第1楽章、しみじみと歌わせる第2楽章中間部、歌心あふれる第3楽章トリオ、オーケストラがパワフルに炸裂するフィナーレのパンチ力など聴きどころは満載。

なかんずく名物奏者を揃えたシカゴ響の強力なブラス・セクションの“鳴りっぷり” を堪能されてくれるのもこの盤の魅力といえる。今回、オリジナルジャケットで発売されたSHM-CDは貴重なもので、廃盤になる前に是非とも入手しておきたい。
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Orch.DateLocationLevelⅠ.Ⅱ.Ⅲ.Ⅳ.Total
PO1961.1Kingsway HallEMI9:1612:337:5011:1740:56
CSO1977.4Orchestra HallDG12:1213:408:1311:4345:48
RCO1992.5ConcertgebouwSONY10:1015:298:2112:5446:54

「ジュリーニがこの演奏で示した音楽洞察力の個性的な深さと厳粛なばかりのきびしさとは、全く驚くべきものである。好んでドヴォルザークを踏み台に自分を飾り棚に立てようなどというのではなく、強い気管に支えられ、どこまでも厳しく監視された、締まった美しさを生命としている。それは磨き上げれた細工もののつぎはぎではなく、一貫して滔々と流れてゆく純粋な抒情の上に立っている。ただその抒情の質が世俗の舌触りの良さから遠のいてゆくのを感じないわけにはいかないが、この〈新世界〉もいわば辛口の名品というおもむきのもので、女子学生がコンパでおしゃべりしながらたしなめることのできる通俗酒的な一般性とは遠い世界のものである。この名品はまちがっても一部の通人の趣味に甘んずる性格のものではありえない。」 大木正興氏による月評より、MG1112、『レコード芸術』通巻第329号より、音楽之友社、1978年)


「細部に至るまで驚くほど細心な表現である。しかし全体には劇性がゆたかに表されており、決して神経質いっぽうではない。そればかりか旋律線をゆとりをもって存分に歌わせており、それを古典的といえるほど端正な造形でまとめているので、洗練された音楽が生まれた。第1楽章の提示部を反復しているのも、ジュリーニの演奏様式に関係している。」 小石忠男氏による月評より、F28G22067、『レコード芸術』通巻第459号、音楽之友社、1988年)


「ジュリーニ最盛期の録音のひとつであり、以前のフィルハーモニア管との演奏に見られたオーケストラの掌握の甘さも、この後に見られる遅すぎるテンポによる牽強付会な晦渋さもなく、実にバランスの取れた、そして瞬発力にも優れた演奏である。細かいアーティキュレーションまで念入りに統一され、表現は練れて、丸みを帯びているかと思えば、トゥッティの切り込みは鋭く果敢で、若々しさと老巧さが束の間交差した、稀代の名演奏と言えるだろう。」 長木誠司氏による月評より、POCG3175、『レコード芸術』通巻第523号、音楽之友社、1994年)



第1楽章 アダージョ~アレグロ・モルト
sv0080f.jpg序奏は低音弦をたっぷり鳴らした重厚で構えの大きな音楽だ。トゥッティのスケール感も絶大で、頂点のティンパニの決めどころは打点の生々しさを堪能させてくれる。

提示部の音楽運びも重量感があり、武骨なまでに力強く突き進む。黒人霊歌〈薔薇売りモーゼス老人〉が出所とされる第2主題(91小節)は歌わせ過ぎないが、低音弦がゆたかにたゆたう対声部の心地よさや、黒人霊歌〈静かに揺れよ、優しの馬車〉コデッタ主題(149小節)の繊細でリリカルな味わいがジュリーニらしい(提示部の反復あり)。 
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sv0080a.jpg展開部パンチの効いたシカゴ・ブラスが立ち上がる。コデッタ主題を打ち込むトランペットにガッツリと喰らい付くトロンボーンの第1主題を強調して、押し出しの強い造形を決めているところは、グラモフォンらしいエッジの効いた録音がものをいう。

再現部も間然とするところがなく、ジュリーニの入念なアーティキュレーションによって、味わい深く歌い込まれてゆくのも聴きどころだろう。
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sv0080g.jpgコーダ(396小節)はガソリンを満タンにした大排気量のシカゴ響が爆発する。ここでは、同じシカゴ響で聴くクーベリック、ライナー、ショルティといった竹を割ったようにストレートで押し切る“強力派”の演奏とは一線を画し、ジュリーニは過剰に攻め込むことを戒める。

名技性を生かしながらも頑なにイン・テンポを守って“暴れ馬”の手綱を締め、冷静な棒さばきによって終止を決めるあたりは品格の高さを感じさせてくれよう。
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決めどころのトランペットのファンファーレ(412小節)は期待に違わぬ“神様のクレッシェンド”を聴かせてくれるが、なおも余力を残した金管奏者の打ちっぷりは、シカゴ響(教)信者にはたまらない魅力だろう。

ここで、第2主題(または第3主題)ともされるコデッタ主題の5小節目後半は、旧版のスコアでは提示部(149小節)が付点音符、再現部(370小節)が8分音符になっているが、譜面通りに演奏するクーベリック、ライナーに対し、ジュリーニとショルティは提示部・再現部とも木管は8分音符、弦は付点音符で演奏しているのをチェックしておきたい。
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Cond.DateLocationLevelⅠ.Ⅱ.Ⅲ.Ⅳ.Total
Kubelik1951.11Orchestra HallMercury8:4111:267:2610:3438:07
Reiner1957.11Orchestra HallRCA8:4212:247:3310:2839:07
Giulini1977.4Orchestra HallDG12:1213:408:1311:4345:48
Levine1981.6Medinah TempleRCA10:5012:147:1510:4741:06
Solti1983.1Orchestra HalDECCA11:5814:038:0611:0845:15


第2楽章 ラルゴ
sv0090g.jpgピアノで歌うイングリッシュ・ホルンの〈家路〉主題は美感の限りを尽くしたもので、独奏楽器がスピーカーから仄かに浮かび上がってくるような奥行き感や、ホルンの2重奏が次第に遠のいてゆく遠近感を特筆したい。

朝比奈はラルゴを2倍遅いテンポで吹かせたために、大フィルの弦楽器奏者は「もう弓が足りまへん」とぼやいた逸話が残されているが、ジュリーニはさらに上をいく遅いテンポで演奏しているのが驚きだ。
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sv0004c.jpgしっとりと哀しみを綴る中間部も美しい。ここでは副主題を伴奏するコントラバスのピッツィカートを強めに奏するのが効果的で、啜り泣くような弦の嘆き、纏綿とレガートで歌い込む息の長いメノ、木管がさえずる瑞々しい森のダンス、「ここぞ」とばかりブラスが豪快に吼える第1楽章の主題回想など、聴きどころが満載。

心に染み入るように奏でる潤いのある弦楽のエンディングは、あまりの切なさで胸がいっぱいになってしまう。
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第3楽章 スケルツォ、モルト・ヴィヴァーチェ
sv0090c.jpgスケルツォは強靱かつしなやかなジュリーニ・リズムの独壇場。ガッシリとした重厚なサウンドが聴き手の耳を惹きつけ、堅固な造形に揺るぎがない。

柔らかに打ち込むティンパニの打点と肉感のあるホルンの吹奏が気持ちよく、ジュリーニの長いアームスから繰り出される振幅のあるリズム感覚と、柔軟なフレージングによる上質のサウンドに魅せられてしまうのは筆者だけではないだろう。  amazon

第1トリオは〈カールおじさん〉の伸びやかな歌を、第2トリオは付点を伴ったワルツの歌謡旋律を木管パートがよく歌う。ここで伴奏を受けもつ弦楽の分散和音までを踊るように歌わせているのが驚きで、ドイツ系指揮者にはおよそ考えもつかない芸当をジュリーニはやってのけている。第1楽章の主題をホルンが冴えた音で再現するコーダも嬉しいご馳走だ。

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第4楽章 アレグロ・コン・フォーコ
sv0090d.jpgフィナーレはマッシヴなシカゴ・ブラスが冴えわたる。ホルン、トランペットがパンチを効かせて勇壮に突き進むのが痛快で、とくにトランペットのメタリックな響きが際立っている。
これを歌い継ぐシルキーな弦の音色や、3連音リズムで躍動する筋肉質のオーケストラ・サウンドに酔わされてしまう。トランペットを突出させて歌い上げる喜悦の主題や、解像度の高いリズム処理で躍動する農民舞踊のマルカート主題も聴きのがせない。 
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sv0090e.jpg展開部は〈家路〉のテーマ(第2楽章)を対抗させながら再現部に向かって突き進んでゆくが、既出の素材の綾を丹念に、精緻に絡めてゆくのがジュリーニの巧いところだ。

その頂点たる再現部(198小節)で満を持して爆発する行進テーマの強音の威力は絶大である! チェロが滔々と歌い返す第2主題のカンタービレ(231小節)の美しさも冠絶しており、 “歌の指揮者”ジュリーニの面目が躍如している。

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sv0090f.jpgトロンボーンが吹奏する第1楽章の主題を迎え撃つように大きく見得を切る290小節や、 “伝家の宝刀”を抜くかのように放歌高吟するウン・ポコ・メノ・モッソ(333小節)のトランペットは名物奏者を擁したこの楽団の“お約束事”で、 “弦付きブラバン” と揶揄されるオーケストラならではの必殺の終止といえる。

名指揮者ジュリーニの格調高い音楽と名人オケのヴィルトゥオジティを堪能されてくれる玄人好みの1枚だ。

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[ 2017/05/19 ] 音楽 ドヴォルザーク | TB(-) | CM(-)