オイストラフのシベリウス/ヴァイオリン協奏曲

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シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47
ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン)
ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
Recording: 1959.12.21&24 (SONY)
Location: Broadwood Hotel, Philadelphia
Length: 30:44 (Stereo)
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シベリウスの協奏曲は20世紀の作品にもかかわらずロマン的な抒情性にあふれ、北欧のファンタジーと劇的な重量感をもった不屈の名作だ。この難曲を1枚選べといわれれば、筆者は迷わずオイストラフ盤を採る。

sv0095b.jpgオイストラフのシベリウスは数種のレコードが残されているが、米国への演奏旅行を行った際にセッション録音したオーマンディ=フィラデルフィア管とのステレオ盤(CBS)が、最もバランスよく仕上げられた出色の一枚といえる。

筆者が学生のとき、焼き肉の臭いが立ち込める渋谷駅近くの名曲喫茶で、耳にタコができるほどリクエストして聴いたのがオイストラフ盤だった。
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肉厚の音でドラマチックに弾き上げる厳しいスタイルは、この作品のイメージを作り上げたともいわれ、懐の深い “大家の弓さばき” を存分に堪能させてくれる。

「オイストラフのいちばん脂の乗り切っていた時代の演奏である。それだけに彼はこの曲では音楽を完全に掌中に収め、余裕をもって全曲をひきあげている。おそらく、その質の高さからいったら、この演奏は、まずトップ・ランクにあげられよう。とくに劇的な変化をつけた第1楽章と、土俗的な感じをうまく表出した第3楽章がみごとなできばえを示している。オーマンディの棒も老巧で、北欧的叙情が全編にあふれた名演奏である。これはぜひコレクションに加えるべき1枚だ。」 志鳥栄八郎氏による月評より 13AC292、『レコード芸術』通巻第328号、音楽之友社、1978年)


「ヴァイオリンという楽器がもつ限りない表現力に圧倒される破格の名演である。オイストラフが最も充実していた時期の録音で、向かうところ敵なしの状況下の自信に満ちた演奏ではあるが、この恰幅のよい、男らしい表現は前人未踏の境地であり、ヴァイオリンの新たな可能性を切り開いた画期的録音として今なおレコード史上に君臨している。しかも、この演奏には、曲に込められた寂寥感や幻想味といったものも心憎い巧さで盛り込まれており、味わいの豊かさの点でも申し分ない。オーマンディの指揮も充実、平板に陥ることなく、演奏をドラマティックに盛り立てて聴き手を離さない。」 『クラシック不滅の名盤800』より諸石幸生氏による、25DC5222、音楽之友社、1997年)



第1楽章 アレグロ・モデラート
sv0095e.jpg分奏弦の靄の中から現れる独奏ヴァイオリンが北欧の冷たい空気を運んでくるようで、冴え冴えとしたダブルストッピングの上昇フレーズや、総奏の一撃につづくカデンツァ的な走句など、早くも炸裂するオイストラフの名人芸にゾクゾクしてしまう。

激しい気魄で分散和音を揺さぶりながら、第2主題部へ上り詰めるオクターヴの跳躍の頂点(75小節)の“決めどころ”は大家の貫禄充分で、その息をのむ緊迫感は圧巻である!
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sv0095f.jpg音量ゆたかな弦楽とメロウな木管を明滅させながら、第2主題を巧みに導くフィラデルフィア管のやわらかなサウンドも特筆モノで、これを受ける独奏がラルガメンテの第2主題(102小節)を情熱的に歌い上げてゆく。

凍てついた大地を踏みしめるように、雄大に、しかもフレーズを強靱な緊張感のうちに歌わせる芸風はオイストラフの自家薬籠中のものといってよく、引きしぼるような弓使い によって楽器が震えるように鳴りきっている。
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sv0095g.jpgアレグロ・モルトの総奏(第3主題)は、フィラデルフィア管が「ここぞ」とばかりに力強い管弦楽で高揚する「顔に自信なし、中味に自信あり」というオーマンディは、“合わせもの”では抜群の技量を発揮する。

しかも作曲者から 「最高の解釈者」 としてお墨付きをもらったシベリウスの作品となれば“鬼に金棒”。木管の副主題(147小節)からピタリと決まったテンポで走り出す絶妙の音楽運びに、思わずCDを指揮したい衝動にかられてしまうのは筆者だけではないだろう。
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いよいよ、オイストラフの超絶技を知らしめるのが、展開部のモデラート・アッサイ(223小節)。空気を切り裂くように、目の覚めるような3オクターブで跳躍するカデンツァ的なパッセージで、ロシアの巨匠は究極のワザを披露する。嵐のような総奏に対峙する独奏ヴァイオリンが、3オクターブの分散和音で華麗に動き出すところが最大の聴きどころだ。
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sv0095h.jpgオイストラフが持ち前のヴィルトゥオジティをいかんなく発揮する長大なカデンツテァ(234小節)もすさまじい。腹に響くようにG線を強く鳴らし、緩急自在のテンポによって決然と、しかも確信を持って弾き上げるところは巨匠の面目が躍如する。

ことに、バッハの無伴奏ソナタを思わせるポリフォニックな重音パッセージの劇的高揚感とスケール感は冠絶しており、強靭かつ瑞々しい巨匠の弓さばきを心ゆくまで堪能させてくれる。
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ファゴットの仄暗い第1主題に独奏が分散和音で絡みつくアレグロ・モデラート(271小節)も聴き逃せない。粘着力のあるフレージングによって、高いG音に上り詰める張り詰める緊迫感や、「これでもか」と弓に圧力をかけてG線上で思いの丈をぶちまける第1主題(再現)など、音楽を自分の元へ「ぐい」と引き寄せ、強い主情を盛り込んでゆくオイストラフの濃厚な表現力と感情移入のすさまじさに圧倒されてしまう。


第2楽章 アダージョ・ディ・モルト
sv0095c.jpg独奏のロマンツァは、深い瞑想的な気分の中で、巨匠がフレーズに深い意味を持たせて北国の詩情を綴ってゆく。

ヴィブラートをたっぷりかけた肉厚の音は脂の乗った“大トロ” のようで、息の長いフレーズに切々たる情念を宿し、しかも意志的な力で崇高に歌い込んでゆくところはオイストラフの真骨頂。

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sv0095d.jpg分厚い管弦楽が立ち上がる中間部(25小節)は、ぴんと張り詰めたアルペジオ、ぐいぐい弾き切る分散和音、打ち震えるようなモノローグなど、巨匠が全身全霊を傾けて凛烈な情景を綿々と織り込んでゆくところがじつに感動的で、音楽は厳しい思念で貫れている。  TOWER RECORDS

木管が主題回帰する頂点(42小節)で、独奏が対位的なトリルで彩りながら高揚してゆくところは感涙極まる名場面といってよく、弓で抉るように情念を込めて3連音の対位フレーズを弾きぬくところは、まさに “一弓入魂”
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第3楽章 アレグロ・マ・ノン・タント
sv0095i.jpgティンパニと低音弦がリズミカルなリズムを刻むポロネーズ風のロンド主題は、快適なテンポにのった歯切れの良いフレージングが絶妙で、弾き飛ばしたような粗さを感じさせず、技巧的な跳躍パッセージをいとも鮮やかにさばくオイストラフの名人芸が冴え渡る。

聴きどころは民族舞曲風の第2主題(44小節)。溌剌と躍動する管弦楽に応えるように突入するダブルストッピングの独奏部(64小節)は、巨匠が 「ガッ」と弦を噛むような歯ごたえのあるフレージングによって、ラプソディックな名旋律をツボにはまったように歌い出す。  TOWER RECORDS  HMVicon

深い間合いと呼吸を感じさせる絶妙のアインザッツと、情感をたっぷり込めた土臭いフレージングは、広大なウクライナの大地を思わせるものだ。
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sv0095j.jpg第2主題部の再現(168小節)も聴き逃せない。ここでは木管がオクターブで主題を先導するが、その裏で独奏楽器が装飾的なトリルで彩ったあとにフラジョレットの対位旋律を紡いでゆく(181小節)。

まるで口笛を吹くような軽いメロディーにもかかわらず、何かに急き立てられるようなピンと張り詰めた雰囲気を漂わせているところは、巨匠の奥義を開陳した名場面。

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重音奏法で「がっつり」とラプソディを弾き上げる主題展開(196小節)もスケール感と力感を前面に押して、楽器が鳴りきっているのが凄い。

sv0095k.jpgオイストラフは体の大きな逞しい人で、ヴァイオリン(1702年製コンテ・デ・フォンターナ)をおもちゃのように扱ったといわれるが、弓が弦に喰らい付くような感触は聴き手に確かな手応えを感じさせてくれるもので、オイストラフらしい豪放な力感と激しい情熱が込められている。

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第1主題のポロネーズ風リズムが管弦楽に帰るといよいよ音楽は最後の山場(229小節)がやってくる。独奏が3連重音で弾きぬく力ワザと、急迫場面の劇的緊張感は無類のもので、コーダ(237小節)で巨匠が見せる“オクターブの重音跳躍”の大技は、闊歩するようなスケール感と激しい気迫が前面に立ちはだかり、有無を言わせぬ説得力で全曲を締め括っている。

逞しい表現力と根太い音で聴き手の心を鷲掴みにする聴きごたえのある一枚だ。


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[ 2017/07/29 ] 音楽 シベリウス | TB(-) | CM(-)